【水口予報士が解説】「松山でここまで降るとは想定外だった…」ベテラン予報官の葛藤と“記録的大雨”から得る教訓
南海放送NEWS / 2024年12月2日 19時47分
11月2日、台風21号から変わった低気圧や前線などの影響で各地で激しい雨となった愛媛県内。
松山市付近では午前11時30分までの1時間におよそ100ミリ。今治市付近で正午までの1時間におよそ120ミリの雨を観測し、稀にしか発生しない大雨であることを知らせる「記録的短時間大雨情報」が2000年以降初めて発表された。
「オオカミ少年になってはならない」経験積んだ予報官も葛藤
当時の雨を振り返る松山地方気象台の中塚統括予報官。
松山地方気象台が発表していた気象情報では、予想雨量は多い所で1時間に40ミリ。しかし実際に観測した1時間雨量は松山で78ミリ、今治で54ミリでともに1年を通じて観測史上最も多くなった。
中塚統括予報官によると、予報に使用するスーパーコンピュータは、予想の段階で東予で1時間80ミリ以上、中予や東予を中心に24時間雨量が200ミリという数値を出していたが、そのまま予報に盛り込むことはなかった。
「モデルが出していた1時間80ミリというのはとんでもない数字。瀬戸内側で1時間に50ミリという量でもこれまでほぼない。毎回最も悪い数字を出して予報しているとオオカミ少年になってしまう」
現在の天気予報はコンピュータの予報モデルをもとに作られているが、モデルは種類や初期値ごとに変わるため、実際は標準値に近いデータに補正し、最新の実況や地形の影響などを考慮して組み立てていく。
長年予報を続けてきた予報官の経験値、コンピュータが出したデータとの間で葛藤が生じる。
なぜこの時期に?
大雨の際、上空に流れ込む暖かく湿った空気を表す相当温位は通常345K(ケルビン)。しかし当時の実況では348Kと梅雨時期や真夏以上となった。さらに上空1500mには予想を超える50ノット以上の下層ジェット気流も観測され、季節は晩秋の11月なのに、梅雨時期の大雨災害を引き起こすような条件が揃っていた。
「この時期に同じような雨というのは再現性が低いが、何らかの作用で前線付近で雨雲の動きが遅くなったことで同じ場所で雨が降り続いた。発達した雨雲がピンポイントでどこにかかるかを予想するのは本当に難しく、コンピュータの技術もそこまで達していない」
2022年から線状降水帯の予測情報が始まったが、その的中率は1割。気象台ではこれから検証作業が進められる。
下水道の整備基準上回る雨
松山市の下水道整備課によると、松山市内の下水道の整備基準は10年に1度レベルの雨の1時間40.5ミリ。下水道が排水能力を超える大雨となると、排水が追い付かず下水管から水が溢れ出す「内水氾濫」が起こる。また川を流れる水が溢れると「外水氾濫」となる。
整備基準の2倍近い雨が降った松山では、床上浸水132棟、床下浸水389棟(16日時点)。冠水した道路をゆっくりと走る車や、通行止めを迂回して渋滞も発生した。
想定外の雨「いつもと違う」と感じたら
土木工学が専門でインフラに詳しい愛媛大学の森特定教授によると、想定外の雨に「ん?いつもと違う」と感じ、自分から情報(公的なもの)を取りに行くことが大切だという。
気象庁のHPをスマホに入れておけば、雨雲レーダーや、土砂災害や浸水、洪水などの危険度をあらわす「キキクル」をいつでも誰でも無料で見ることができる。
今回、幸いにも大規模な土砂災害は発生しなかったが、土砂災害の危険度を表すキキクルは、1時間ほどで松山市全域が黄色(注意)から紫(危険)に変わり、土砂災害警戒情報も発表された。
森特定教授によると、この日、土砂災害のおそれがある危険な崖の近くに住む人がどんな行動をとっていたかが重要になるという。
大切なのは振り返り反省すること
「今回誰しも災害にあう寸前までいっていたような雨だった。被害に遭わなかった人はたまたまで、そういう未災害の状況をリスクという」
森特定教授は、大雨のあとの周囲の状況や自らの行動を振り返ることでリスクを知ることが大切だという。例えば、普段はきれいな道に小石や泥、落ち葉が残っている所は大雨の際に水が集まってきた証拠。周囲より土地が低く、浸水や冠水に注意が必要となるため、予め普段から対策を取ることができる。
「自分の所にリスクがあるのかどうかを知る事がまずは大事。気象の激甚化というのは言われ始めて10年になるし、治まることはなくこれから激化の方向をたどっていくことを考えると、自分で守れるものは自分で守るのが大事になってくる」
想定外の大雨から1か月。改めて自助について考えておきたい。(気象予報士 水口佳美)
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