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エルトン・ジョンも魅了したTikTok発の新星、サーフェシズが世界中から愛される理由

Rolling Stone Japan / 2020年11月16日 18時0分

サーフェシズ(Courtesy of ユニバーサルミュージックジャパン)

全米で100万枚以上のセールスを記録した大ヒットシングル「Sunday Best」や、エルトン・ジョンとのコラボ曲「ラーン・トゥ・フライ」などで人気沸騰中のデュオ、サーフェシズが日本オリジナル・アルバム『Sunday Best』をリリース。TikTokからブレイクを果たし、世界総ストリーム数18億回を突破したライジングスターの魅力に迫る。

TikTok。たった3〜15秒の動画を投稿してシェアするサービスがほんの1、2年でこれほどまでに音楽シーンのありかたをすっかり変えてしまうなんて、思ってもいなかった。

19週連続でBillboard Hot 100の1位を独占するという記録を打ち立てたリル・ナズ・Xの「Old Town Road」は言わずもがな、ドージャ・キャットの「Say So」、ミーガン・ジー・スタリオンの「Savage」、ロディ・リッチの「The Box」などなど、TikTok発のヒットソングは枚挙にいとまがない。



最近では、フリートウッド・マックの「Dreams」(1977年)が43年ぶりにBillboard Hot 100のトップ10にチャートインして大きな話題になった。これは、アイダホ州のおっちゃん、ネイサン・アポダカがTikTokに投稿したゆる〜い動画がバズを生んだことによる再ヒットだ。

GOOD VIBES ALWAYS@doggface208 @fleetwoodmac @tiktok_us @oceanspray pic.twitter.com/aTSrb8ecqo — Mick Fleetwood (@MickFleetwood) October 9, 2020

もっと重要なのは、新進のアーティストたちがTikTokで成功をつかんで、次々に羽ばたいていっていること。「Supalonely」で一躍スターになったニュージーランドのベニー、全米23位までチャートを駆け上がったローファイヒップホップ「death bed (coffee for your head)」で知られるポウフなどはその典型。最近も、女性たちからの共感を呼んだ「Mad at Disney」のセイレム・イリース、”2020年って最低”と歌った「F2020」で話題のアヴェニュー・ビートといった才能がTikTokをきっかけに知られるようになっている。いまや新人たちにとって、TikTokは成功への滑走路やカタパルトのようなものなのだ。

とはいえ、TikTokと音楽の関係は、全体像を把握することがとても難しい。ダンスチャレンジなどが自然発生的に起こってバズる場合もあれば、有名TikTokerの動画が火付け役になるパターンもあり、あるいはアーティスト本人の発信から広がっていくこともある。音楽がシェアされていく過程は毎回異なっていて、だからこそアーティストもリスナーも予想していなかった形で楽曲が偶然にひとびとの心をつかむことが起こりうる。

本稿の主役であるテキサス出身のライジングスター、サーフェシズの「Sunday Best」という曲も、まさにそんなTikTokでの予期せぬヒットによって広がっていった。パステルカラーのファッションに身を包んだ若き2人はどうやって成功をつかんだのか? 彼らの個性とは? そして、日本独自企画アルバム『Sunday Best』から聴こえてくる「サーフェシズ・サウンド」のおもしろさとは? ひとつずつ見ていこう。

「Sunday Best」の成功とポジティブな光

2017年、当時大学生だったコリン・パダレッキはSoundCloudで自作曲を発表しており、それを聴いたフォレスト・フランクが彼に声をかけて意気投合した、というのがサーフェシズのオリジンストーリーだ。同年に早速リリースしたデビューアルバム『Surf』から「24 / 7 / 365」がSpotifyでヒットしたことで、バンドの名はすぐに知られるようになった。



「24 / 7 / 365」には、サーフェシズらしさがすでに凝縮されている。ボサノバのクラシック「イパネマの娘」を大胆にサンプリングしているところがまずキャッチーだし(「イパネマの娘」風のメロディは、『Sunday Best』の収録曲「Good Day」にも登場する)、フォレストのゆったりとしたボーカルにコリンのいとこであるアレクサの歌声が優しく重なり合っていくのも心地いい。そして、楽曲を律しているローファイヒップホップ風のビートと、ざらっとした質感のサウンドプロダクションは、聴き手に寄り添うようなチルなムードだ。

2019年1月には2ndアルバム『Where the Light Is』を発表、そこには運命の一曲「Sunday Best」が収録されている。



「Sunday Best」がどうやってTikTokで広がっていたのかについては、松島功氏によるマーケティングの観点からの解説にくわしい。簡単にまとめると、リリースから1年弱経った2019年12月、TikTokの「#2019rewind」という1年間の振り返り動画で使用されたことで「Sunday Best」は爆発的に広がっていった。2020年に入るとダンスチャレンジの定番曲になり、ジャスティン・ビーバーが参加(生き物のように変化していくヒットの過程も実にTikTok的)、「Sunday Best」はリリースから1年半を経て、今年7月にBillboard Hot 100で19位にまで上昇している。さらに「Sunday Best」にとどまらず、サーフェシズの楽曲が至る所で使用され、BTSのVやマリア・シャラポワといったセレブたちがTwitterやInstagramなど他のソーシャルメディアに楽曲を投稿している。

@justinbieber ♬ Sunday Best by Surfaces - rapidsongs

pic.twitter.com/9vNeJtA1vW — 방탄소년단 (@BTS_twt) April 18, 2020

「Sunday Best」がこれほどまでに大きな広がりを見せたのは、もちろんサーフェシズの音楽そのものに理由がある。メロディは滑らかだけれども一度聞いたら忘れられないフロウをもっているし、ピアノとギターとサブベースが絡まり合ったリズムは心地よく、音の抜き差しを効果的につかったメリハリのある構成やプロダクションはドラマティック。パーカッションやボイスサンプルの挿入は、サウンド全体に軽快さを与えている。

もっと重要なのはポジティブなリリックで、「Sunday Best」がひとびとの心をつかんだ理由も、この歌詞によるところが大きかったはず。”いい気分、こうでなくちゃ(Feeling good, like I should)”というこの曲のいちばん有名なラインは、コロナ禍に見舞われた世界で前向きな「feeling」を取り戻すきっかけを与えてくれるもの。外出や対面でのコミュニケーションが困難になった今、鬱屈とした生活の中で”近所をちょっと散歩してみた(Went and took a walk around the neighborhood)”ことがいかに大事なことか(ちなみに、「Sunday Best」を収録した2ndアルバムのタイトルは「光があるところ(Where the Light Is)」)。

古き良きポップの伝統に則った作曲術

その「Sunday Best」をタイトルに冠し、ユニバーサルミュージックジャパンが独自にコンパイルしたのが、今回のアルバム『Sunday Best』だ。エルトン・ジョンとコラボレーションした「Learn To Fly」や、9月にリリースされたばかりのシングル「Sail Away」が収録されており、サーフェシズの集大成にして現時点でのベストアルバムのような選曲、構成になっている。

『Sunday Best』をじっくり聞いていると、リラクシンな響きとはうらはらに、音楽家としての2人の視野の広さやどん欲さが見えてくる。ここまでに言及したローファイヒップホップ風のビートは「Heaven Falls / Fall on Me」で聞くことができるし、ボサノバのリズムは「Good Day」に取り入れられている。さらに「Sail Away」はレゲエで、「Bloom」はディスコ/ハウスだ。また、サーフェシズはスティールパンの音色を効果的に使っているのが特徴で、そのふわっとした響きは、彼らがアートワークで表現している淡いランドスケープ(海、砂浜、太陽……)のイメージを聴き手の頭の中に浮かび上がらせる。



音楽的な要素は様々だし、現代的な意匠が凝らされているものの、ポップソングとしての完成度の高さはサーフェシズの楽曲に一貫している。彼らの楽曲には、シンコペーションしたシンプルなピアノのリフで始まり、そこからメロディが紡がれて楽曲の根幹をなしているパターンが多い。そういったソングクラフトにはどこかランディ・ニューマンやハリー・二ルソン、キャロル・キングなどを思わせるところがあり、サーフェシズの音楽が多くのひとびとの心をつかんで離さないのは、古き良きアメリカンポップの伝統に連なっているから……というのは考えすぎだろうか(そういえば、ヴァン・ダイク・パークスは「アメリカ発見(Discover America)」と題したアルバムでカリプソに挑み、スティールパンを大々的に取り入れていた)。

だから、アメリカのソウル/R&Bやシンガーソングライターから強く影響を受けているエルトン・ジョンが「Sunday Best」に惚れこんで、「Learn To Fly」で共演した、というのはとても納得のいくストーリーだと思う。ゴスペル風の「Learn To Fly」という曲も、ビートは今様だが、セブンスの響きを活かしたとてもシンプルなコードワークで、切なくソウルフルなメロディが胸に迫る。


サーフェシズとエルトン・ジョン



Instagramを見ると、2月にリリースされた『Horizons』に続く4作目のアルバムの制作に着手しているようだし、2人からは早々に新しい音楽が届けられそうだ。快進撃を続けるサーフェシズがロックダウンを強いられているリスナーたちにどんな風景を見せてくれるのか、音楽でどんな場所へ連れていってくれるのか、次のアルバムが楽しみでならない。



サーフェシズ
『サンデイ・ベスト』
発売中/2,750円(税込)
試聴・購入:https://umj.lnk.to/SundayBest_ALMB

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