日常の不安から自分を守るために ストレス対処のための2つのコーピング
Rolling Stone Japan / 2020年11月28日 11時30分
音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦が、世界の音楽業界を中心にメンタルヘルスや世の中への捉え方を一考する連載「世界の方が狂っている 〜アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス〜」。第37回は、ストレスから生じる不調の過程とそれに対処する2つのコーピングのアプローチを、産業カウンセラーの視点から伝える。
Twenty One Pilotに『Stressed Out』という曲があります。ここでは、昔は良かったけれど、「今はストレスでいっぱいだ」と歌われています。COVID-19が私たちに与え続けている様々な影響は未だにおさまることがなく、まさに「ストレスがいっぱい」な状況で、現時点では過去と同じ状態にすぐに戻れる見込みがありません。こうした長期にわたるストレスは心身に不調をもたらしてしまうことがあり、ストレスに対処することが今とても大切になっています。
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ストレスの経過には「3つの段階」があります。
まず「警告反応期」という段階があります。 なんとなく体調が悪い、疲労を感じる、という時期、血圧が上がったり下がったり、イライラしたり、肩が凝ったりするというようなことも見られ、ストレスがかかっていることを知らせるサインが体から送られています。この段階でなんらかの対処を始められるのが望ましいです。
次に「抵抗期」という段階になります。ストレスに対して反発や抵抗をする時期で、疲労感が興奮に変わったり、逆に脱力感に陥ったりします。注意が必要なのは、ときにストレスと抵抗力のバランスが取れてしまい、表面的にはストレスがなくなって元気になったように見えることがあることです。この場合、実際はかなり無理をしてしまっている状態で、血圧の変調は本格化し、胃や心臓にも異常が現れることもあります。
そして「疲憊(ひはい)期」になります。抵抗期に頑張りすぎて疲れ切ってしまい、自分の力ではどうにもならない状態になってしまいます。 また、下記のような症状のいくつか(アメリカ精神医学会による『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』によれば1または2を含む5つ以上)が2週間以上続いている場合は「うつ病」が疑われますので、早目に精神科・心療内科等に相談することをおすすめします。
1. ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分
2. ほとんど1日中、ほとんど毎日の活動における興味または喜びの著しい減退
3. 食事療法をしていないのに、体重の減少または増加(1ヶ月で体重の5%以上の変化)または、ほとんど毎日の食欲の減退または増加
4. ほとんど毎日の不眠または過眠
5. ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止
6. ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退
7. ほとんど毎日の無価値観、または過剰か不適切な罪悪感
8. 思考力や集中力の減退
9. 死についての反復思考、自殺念慮、自殺企図
ストレスに対処してメンタルを守ることを「コーピング」「ストレスコーピング」と言います。そしてこのコーピングには2種類あります。
ひとつは「問題焦点型」です。これはストレスの原因を根本的に取り除くことで対処する方法です。例えば、環境に問題があるのならば環境を変えてみる、あるいはそこから遠ざかってみます。また、考え方や受け取り方に偏りがあるということが原因の場合に、違う視点や考え方を取り入れてみます。
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これは、根本的な問題を解決できるというメリットがありますが、一方でそれを行うこと自体が難しい場合があることや、人間関係の調整などでさらに疲れてしまう危険があるというデメリットがあります。
もうひとつは「情動焦点型」で、感情のコントロールを中心とするやり方です。いわゆる「気晴らし」がそれにあたります。親しい友人と話をしてガス抜きをする、自分の趣味に没頭する、難しい問題を考えないようにする、などです。シェイクスピアの「音楽が何のために存在するかさえご存知ないらしい。勉強や日々の仕事が終わった後、疲れた人の心を慰め元気づけるために音楽はあるのではないか?」という言葉がありますが、音楽を聴くという行為もこうした感情のコントロールにはとても有用です。
ただし、この方法は問題の根本解決には至りませんので、これだけでは常にストレスに晒され続けることになります。そこで、最初の「問題焦点型」とバランスをとりながら対処していくことが必要になります。
いずれにせよ自分で対応しきれないほどの大きな問題やストレスを抱えた時には、信頼できる人や専門家に相談することが必要です。身近な友人や上司はもちろんですが、カウンセラーや医療の専門家、法的問題であれは法律の専門家を積極的に活用しましょう。厚生労働省のサイト「こころの耳」では、メンタルに関する各種相談窓口の情報や、「ストレスセルフチェック」「疲労蓄積度セルフチェック」などのチェックツール、eラーニングでメンタルヘルスのセルフケアについて学べるページなどが充実していますので、これらもぜひ活用してみてください。
こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト:https://kokoro.mhlw.go.jp
<書籍情報>
手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』
発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029
本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。
手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。
Official HP
https://teshimamasahiko.com/
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