バイデン勝利により音楽業界の資産売却が活発になる理由
Rolling Stone Japan / 2020年11月24日 10時10分
大物スターや音楽エグゼクティブたちがバイデン氏・ハリス氏の勝利を祝う一方、彼らは両氏の税制案が現在の著作権取得フィーバーに与え得る影響にも注目している。
ジョー・バイデン氏が次期米大統領、カマラ・ハリス氏が次期副大統領になったことに対し、音楽業界はほぼ満場一致で喜んでいるようだ。
米現地時間11月8日、ビヨンセはアメリカの新たなリーダーたちに祝福のメッセージを送った。アリアナ・グランデはその数日前、11月3日は「ジョー・バイデンとカマラ・ハリスに投票するのに最高の日」とSNSに投稿した。テイラー・スウィフトは、かねてからバイデン支持を公言している。それに加え、スティーヴィー・ワンダーからビリー・アイリッシュといったありとあらゆる著名人が最終的にドナルド・トランプ大統領を破ったバイデン氏に対する支持を掲げ、大統領選挙に向けて活動した。
こうした舞台裏で、ロサンゼルスとニューヨークに拠点を置く商業音楽業界のリーダーたちも超メジャーなポップアイコンたち同様、大統領選の結果に概して満足していたようだ。ここ数週にわたって筆者が話したシニア・エグゼクティブたちの反応から、筆者はこう判断するにいたった。
その一方、バイデン氏が大統領に就任するにあたり、音楽業界にとってあまり喜ばしくないことがひとつある——それにより、今後およそ70日にわたって高額の取引が次々と行われるかもしれないのだ。
筆者が担当している本誌のコラムの読者は、カタログ音源権取得をめぐる昨今のブームに精通しているだろう。Hipgnosis Songs Fund、Round Hill Music、Concord、Primary Waveやその他の音楽会社は、過去2年にわたって数十億ドルの買収資金を調達し、音楽業界では前例のない金額を音楽の著作権の購入に費やしてきた。これはつまり、大勢のプロのソングライターとプロデューサーがカタログ音源を売却し、前払いとして高額の小切手を手に入れる代わり、未来のロイヤリティ(著作権使用料)を放棄したことを意味する。こうした一連の売却行為の要因として、あまり多く語られていないことがひとつある。大金と高額な小切手に加え、そこには税の優遇措置がある。
カタログ音源をファンドあるいは企業に売却する際、ソングライターは自らが所有する資産を金銭的価値に変換する。それにより、資産に対するキャピタルゲイン(訳注:保有している資産を売却することで得られる売買差益のことで、資本利得とも言う)税を1回支払わなければならない。トランプ政権下では、それは販売額のおよそ20%を(長期キャピタルゲイン・アセットとして)米政府に支払うことを意味していた。
>>関連記事:米投資会社がテイラー・スウィフトの原盤権を約312億円で買収した理由
年間ロイヤリティには、別の税金が課せられる。そこには、勝ち組アーティストあるいはソングライター個人のストラクチャーが考慮されるため、およそ20%という割合より高い課税率になる場合もある。これはとりわけ、高収入のスターの個人所得税債務としてロイヤリティ収入が計算された場合に当てはまる(現時点で米国の所得税の最高所得層の税率は37%)。
この話が興味深くなるのは、ここからだ。バイデン氏の公式サイトによると、次期大統領は「所得が100万ドルを超える世帯に賃金と同率の投資所得を支払うよう要請する」ことによって米国のキャピタルゲイン税を大きく変えようとしている。ロイターを介して行われた米非営利組織、責任ある連邦予算委員会(CRFB)の財政再建論者たちの研究を見る限り、バイデン氏の税制案が実現した場合、100万ドルを超える金額でカタログ音源を売却したソングライターのキャピタルゲイン税は20%から37%に増加する可能性がある。
筆者は先日、米国内で著作権を頻繁に取得している、潤沢な資金にバックアップされた業界関係者2名に問い合わせたところ、音楽出版カタログ保有者は当然、税制に起こりうる変化に十分精通しているようだった。筆者が聞いた話によれば、バイデン勝利がニュースで報じられてから24時間が経たないうちに買収を企てる企業からの問い合わせメールが殺到したそうだ。カタログ音源保有者は、トランプ大統領がホワイトハウスを去る前に(退去する気はあるのだろうか?)数百ドル万規模の取引を成立させようと躍起になっている。
メルク・メルキュリアディス氏はHipgnosis Songs Fundの創設者で、同社は著作権やストリーミング用に楽曲のロイヤリティを取得するのにここ2年で10億ドル以上を費やした。メルキュリアディス氏は、進歩的な社会派音楽エグゼクティブとして、頼もしい経歴を持つ人物でもある(アフリカ系アメリカ人のアマド・オーブリーさん射殺事件の犯人に対する正当な裁きをジョージア州に求めた2020年5月の活動にも注目)。
バイデン氏の勝利についてショートメッセージを送ってくれたメルキュリアディス氏が選挙の結果に満足していることは明らかだった。だが、氏はキャピタルゲインをめぐるバイデン氏の計画が秘める、カタログ音源を現金化しようというソングライターの今後の姿勢を左右しかねない恐ろしい影響も指摘した。
「民主党が勝利したことにクリエイティブ・コミュニティは歓喜していますが、キャピタルゲインに対する(優遇)措置の終了と資産を売却したソングライターに課されるより高額な税金に対する懸念は残っています」とメルキュリアディス氏は話す。「長い目で見て、バイデン政権がソングライター・コミュニティの重要な貢献に好意的な目を向け、不利になるような変化をもたらさないことを期待しています」。
バイデン氏の税制案が法律になるには、米国議会の上院と下院を通過しなければならない。これは、税法にいかなる変化が加えられるにせよ、それは数カ月も先になることを意味する。さらに、バイデン氏が掲げた計画は、育児、介護、健康保険、住宅所有に関する新たな税額控除を通じて働く家庭の支援を目標としている。バイデン氏が提案した100万ドルを超えるキャピタルゲインへの増税は、作曲したカタログ音源から数百万ドルの収入を得ている多くの人によって支持されている、より広範な課題の一部でもあるのだ。
その一方、バイデン氏の税制案が現実味を帯びるにつれて、カタログ音源を購入しようとする動きは短期的にスピードアップする。
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「新政権が上院の過半数を確保できるかどうかがわかるのはまだ数カ月先なので、いますぐ何かしらの変化が生じることはないでしょう」とメルキュリアディス氏は続けた。「その一方、私たちは年内に取引を成立できるよう、全力を注いでいます。というのも、私たちの素晴らしいソングライター・コミュニティの皆さんに安心してもらいたいからです」。
著者のティム・インガムは、Music Business Worldwideの創業者兼発行人。2015年の創業以来、世界の音楽業界の最新ニュース、データ分析、雇用情報などを提供している。ローリングストーン誌に毎週コラムを連載中。
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