東京・渋谷発の多国籍音楽集団ALIが描く、血の通った音楽と哲学
Rolling Stone Japan / 2020年11月25日 21時0分
ファンク、ソウル、ジャズ、ラテンといったルーツ・ミュージックに、ヒップホップをクロス・オーヴァーしロックンロールさせた、東京・渋谷発のバンド、ALI。
リーダーでボーカルのLeoを中心に、メンバー全員が日本とヨーロッパ、アメリカ、アジア、アフリカなどをルーツにもつ多国籍音楽集団で、洗練されたモダンな音楽を奏でる。バンド名は、モハメド アリの亡くなった日にバンドを結成したことが由来となっている。
そんなALIがメジャー1stシングル『LOST IN PARADISE feat. AKLO』をリリースした。収録されている4曲はすべてフィーチャリングで、AKLO、K.A.N.T.A、J-REXXX、なみちえ、GOMESSと、周りに媚びない時代性と芯を持ったアーティストが参加。表題曲は、今話題のTVアニメ『呪術廻戦』のエンディング・テーマとしてアニメファンからも絶大な支持を集めており、まさにジャンルレスに活動の場を広げている。
本作のリリースをきっかけに、ALIのフロントマンであるLeoに話を訊いた。
──Leoさんは、生まれも育ちも渋谷なんですよね? 青山のTSUTAYAに通っていたという記事を読んだので、渋谷でも青山方面なのかなと思いまして。
Leo:育った場所は表参道・神宮前のあたりでしたね。ただ、24歳頃から5、6年間は円山町でも働いていたので、神泉とかのあたりもよく知っています。
──実は渋谷って結構広いですけど、本当に庭という感じなんですね。渋谷で生まれ育ったからといって、別に都会にいるという感じでもない?
Leo : 都会にいる感じはしないですね。僕が小さい時はビルがたくさん建つ前だったので、空き地も多かったし、普通に野球をしたり駆け回ったりしていました。まだ渋谷にいっぱい団地があったし、小学校時代、僕の学年は8人しかいなかったし。そういう時代の変わり目で独特な時期でしたね。
──とはいえ、渋谷で暮らしていれば、音楽からファッションなど様々なカルチャーが自然と目や耳に入ってくるわけですよね。
Leo:映画に出てくるような、八百屋さんをやっているサッカー部の先輩がいて、最初はゲームをしに遊びに行っていたんですけど、僕も音楽をやりはじめて一緒にセッションしたり、悪いこともいろいろ教えてもらいました(笑)。そういう先輩後輩関係も街全体で村っぽく根づいている感じがありましたね。
──「LOST IN PARADISE」の歌詞に「Tokyo prison」という単語が出てきます。ここ数年、再開発で、渋谷の街自体が大きく変わってしまいました。それも踏まえで、どういうスタンスでこの単語を使ったのかなと思いまして。
Leo :「LOST IN PARADISE」のテーマを考えていた時は、まだコロナ前だったんですけど、世の中の抑圧を感じていたんです。スマホで買い物をしていても、まるでエスカレーターを上がるように「こういうふうに楽しんでください」とオススメが出てくるじゃないですか。渋谷で言うと、パーティのイベント会場がめちゃくちゃ増えたんですけど、音響がめちゃくちゃ悪かったり、音がめちゃくちゃ小さかったりすることが多くなった。僕の育った環境や憧れていたのは、まず音があって人が集まってくるという順番だったのに、そのあたりもシステムが先立つというか、大きく変わってしまった。
──中身より先にハコなどのシステムができてしまうことへの苛立ちのようなものを感じていた、と。
Leo : 音楽がBGMみたいになっていることがすごくつまらなかったんです。街に憧れがあった分の悲しみというか全体に対する憤りがある。そういった意味で監獄みたいな東京にもう1回火をつけてやるみたいな想いはありました。
──prisonが意味するところを、もうちょっとだけ詳しく教えてほしいです。
Leo : コロナになって言葉通りにロックダウン状態になったときは怖かったんですよね。ただ、今は一旦そういう感覚がリセットされて、音楽に対する飢えとか喜び、必要性みたいなものをみんな感じていると思うんです。なんとなく適当にやっていたり、薄っぺらくやっていたりするものが全部リセットされた。どの業界も本当に血の通っているものしか生き残っていかないんじゃないかと感じていて。血が通うってことは、そこにドラマと生き様が残っていることでもあるんですよ。ライヴハウス一つとっても、一生懸命情熱を持ってやっているところは、なんとか維持しようと頑張っているけど、システムが先行しているところには人もついてこないし潰れていっちゃう。これからは、中身に血が通ってないと持たないというか、伝わらない時代なんじゃないかなと思うんですよね。
──そういう背景があって、自分たちで「Alien Liberty International」という事務所を設立したわけですね。
Leo : 僕個人としては、10年間音楽をやってきた中でメジャー・デビューが3回目なんですよ。昔は誰々さんに気に入られないと世の中に出られないとか、そういうしがらみがすごく嫌だった。もちろん僕に実力がなかったから仕方ないんですけど、2018年にシンタロウくん(現A&R)と渋谷で偶然出会って。出会い方がめちゃくちゃおもしろかったんです。この人だったら信頼して一緒にできるかなと思えた。僕ももう33歳なので、ある程度のことは自分でやらないといけないし、これまで一生懸命やってきたから助けてくれる人がいたので、しっかりやろうということで、1年目はいろいろな事件とかメンバー間のトラブルとかをくぐり抜けて、今やっとメジャー・デビューをに到達できたなというところです。大変だったけど楽しいです(笑)。
──あくまでメジャーと契約するというスタンスなんですね。所属するという意識ではなく、ALIらしくできるんじゃないかと思います。
Leo : その分、メジャー・デビューには責任も持たないといけないんです。たくさんの人に届けなきゃいけないというか。自分の作品にプライドを持つために環境をメジャーが整えてくれるので、そこの期待に応えるっていうことと、自分を信じること、感謝、その3つのことを僕らはやるだけですね。
──ALIとして活動し始めて、手応え的にはいかがですか?
Leo : 活動し始めた時、あえてSNSもホームページもなにも作らなかったんです。ライヴに行くか、メンバーのInstagramとかTwitterでしか見ることのできない形で、あえて見つからないようにやっていた。でも、魔法のようにいろいろな人がみつけてくれたんです。今もその魔法に導かれている気がするんですよ。コロナ禍でライヴができない中、「THE FIRST TAKE FES」に出て思った以上の反響があったり、何万人も配信で観てくれるようになってきたり。まだ自分が目標としているものには程遠いですけど、世界中の人に届けたいと漠然としていたものがなんとなく叶っている不思議というか。嬉しいですね。
──Leoさんは、ボブ・マーリーをフェイバリットにあげています。どういう部分にシンパシーを感じるんでしょう。
Leo:ボブ・マーリーって、すごく失敗しているんですよ。世界的に売れる前にジャマイカで自分のレーベルも作って曲を出すんですけど、何回か潰れている。で、その時代に出していた楽曲をもう1回メジャー・アルバムで出していたり、全然諦めないんです。あと、ボブ・マーリーの作品の質感はレコードで聴くと特に生々しくて、むちゃくちゃでやばいわけですよ。聴いたとき、1発でぶっ飛ばされた。それに、自分で演奏してみればみるほど、メッセージと音の作り方がなかなか出せないんですよね。ロックンロールの集まりなので。そこもぶっ飛ばされたし、人間として30超えても諦めずにいた人間性がやっぱり最終的には憧れというか。あとハーフっていうのもあるじゃないですか。そういうのもシンパシーを感じましたよね。
──もう一人フェイバリットあげているニーナ・シモンは、どういうところに惹かれたんでしょう?
Leo: ニーナ・シモンの「Sinnerman」って曲があって、ボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズもカバーしているんですけど、この音になりたい! と感じる曲なんですよ。完璧なんです。あまりにも生々しいし、音としても超かっこいい。よくよく調べると、彼女自身戦っていた人で、黒人公民権運動の先端に立ったり、人間としてもエネルギッシュだった。その中でも歌に対する誠実さがあるというか。ボブ・マーリーもニーナ・シモンも、カート・コバーンとかもそうなんですけど、音楽に対する誠実さは憧れであり、そうなるべき姿なんですよね。その後の人生が幸福か関係なく、それはやっぱり心打つというか。
──ALIの他メンバーのルーツを読むと、バラバラですけど、質感とか身体性のある音楽を好まれているなと感じるんです。それに対して、ALIの音楽はかなり洗練されていて、質感もハイファイな感じもするなと思っていて。
Leo : 質感はすごく大事で。70s80sだったらThe LoftとかParadise Garageとか数々のパーティー会場とかあった。90年代だったらレゲエクラブがいっぱいあったり、日本にも芝浦GOLDがあった。そういう場所に対する憧れがある。クラブで流れているうちに楽曲も洗練されるんですよね。ある程度の削ぎ落とされている感じというか。けど、僕らはむき出しで肉体的な感情もすごく意識していますね。僕が今1番気をつけているのは、今の時代がものに溢れているので、なるべく下手にやろうということで。絵で例えると、すごく上手にデッサンを描きたくはない。子どもって、全く似ていないけど空や鳥の絵を描くじゃないですか。なるべく、ああいう感じで音楽をやりたいんですよね。
──様々な音楽ジャンルのエッセンスを内包しつつ、ALIらしさもある。それが質感なのか、BPMなのか、何回聴いてもまだ分からないんですよね。
Leo: ロックンロールのロールの部分は大事にしたくて。ロックンロールのロールの部分がなにかと言うと、キース・リチャーズとかボブ・ディランとか言うように、人それぞれのエナジーというか独特なんですよね。
──そこのバックグラウンドには、メンバー全員が体験してきた音楽性とか時代性も反映されていると思います。その点でいくと、ALIのメンバー間では結構年齢差があるんですよね。
Leo: 僕と1番下で10個違うんですけど、1番下のやつがレコ屋で働いているぐらいレコードが好きで。そういう部分でALI全体にシンパシー感じてくれて一緒にやってくれていると思うんです。ラテンが好きなやつがパーカッションにいたり、ドラムはマイケル・ジャクソン命みたいなやつだし、ピアノのJINとサックスのYUはジャズとかが好きだったり。好きなものは枝分かれしているけど、お互いが繋がり合っているというか。
──メジャー1stシングル『LOST IN PARADISE』は、4曲全部がフィーチャリング楽曲となっています。これはどういう意図があったんでしょう。
Leo : 僕らは海外の人からすごく支持されているんですけど、同時に、東京を世界の中心にしたいっていう気持ちもあって。なので今回ジャンルレスで、ボーダーレスで、しかもその組み合わせがオリジナルで、何年後に聴いても残る、いつ聴いてもフレッシュに聴こえるものを作りたくて、日本のアーティストに声をかけました。そういった意味で、素晴らしいメンツが揃ったので。
──媚びないアーティストばかりという印象を受けました。
Leo : みんなそうですね。パイオニアというか、象徴的な人たちばかりですよね。時代も含め、境遇も。
──ALIのプロフィールには多国籍音楽集団という言葉があります。音楽ジャンルも国籍もカルチャーもいい意味で混ぜこぜなところがよいですよね。
Leo : 人数が多くて楽しい海賊みたいな気持ちでいるというか、出会うべき人と出会って、やっと出発にふさわしい状況にいまいると思うんです。「LOST IN PARADISE」も『呪術廻戦』のエンディングテーマに使ってもらっているので、いろいろなテーマを含めて作っているんですけど、いつ聴かれてもALIの全部が含まれている4曲になっていると思います。
──「LOST IN PARADISE」のMVは、全員の演奏しているシーンがはっきり映っていたり、色もカラフルで、いままでとは一味違います。
Leo : 僕らが好きなMV監督の山田健人くんと素晴らしいチームで作ったんです。ダッチ(※山田の通称)くんって、静かに燃えている炎みたいな人じゃないですか。青い炎というか、笑顔で怒っているみたいな。ダッチくんの作品はどれも、死の匂いをすごく大切にしているように感じる。だから今作にぴったりというか、それしかないっていう作品になっていると思います。
──今までのMVはモノクロが多かったですけど、これからは映像も変化していきそうですか。
Leo : いや、モノクロは常に使っていきます。次のシングルの構想も考えているんですけど、それは道中楽しみながら作っていきたいなと。モノクロって、肌の色とか性別とか関係なく、1つの世界にしてくれるので好きなんです。
──アニメの『呪術廻戦』もすごい盛り上がっています。YouTubeのコメントでは、アニメのシーズンが変わってもエンディングテーマは変えないでくれみたいな声もあって、すでにすごく愛されている曲になっていますね。
Leo : ね。めちゃくちゃ命をかけて作ったので嬉しいです。お客さんがずっと聴いても興奮できるよう、ミックスもマスタリングも全部にこだわったので。ずっと聴いているっていうコメントは、本当に嬉しいですよね。
──前作では、歌入れでLAに行ったとも訊いたんですけど、それはどういう意図があったんでしょう。
Leo : 自分たちと外国との距離を測りたかったんです。それでミックスとラップと歌を録ってきました。エンジニアの人も本当に素晴らしかったんですけど、素晴らしいものは国内国外関係なく届くということを最近実感していて。僕らはニューパターンみたいなバンドなので。なるべく結果を出して海外の好きだったアーティストとフィーチャリングすることが今から楽しみなんです。
──具体的にコラボレーションしたいアーティストはいるんですか?
Leo : いますよ。スヌープ・ドッグです。今は外国と日本の差って実はあまりないし、ジャンルの差もなくて、本当にに1か0だと思っていて。だからこそ、何語で歌ってもいいし、どんな下手くそにやってもいいし、好きなことをしていいと思うんですよね。情熱を持ってやれば人の心を打つんじゃないかなって信じている。
──一方で、映画のトップ10チャートに洋画がランクインする数が少なくなるなど、ドメスティックな傾向が強くなっているようにも感じます。
Leo : 今は戦後カルチャー的というか。僕のおばあちゃんは戦争の時6、7歳だったんですけど、戦争が終わったあとにジャズがやってきて、「私はそれを聴いた時に目が覚めたのよね」って話してくれたんです。その言葉が僕はずっと好きで。しがらみとか勝った負けたとか、そういうもの関係なく、ジャズが僕のおばあちゃんの目を輝かせた。常識を越えて心を打った。僕もそれを信じながら音楽の素晴らしさをピュアに伝えたいんですよね。
──コロナの状況がどうなるか予想がつかない部分はあるりますが、2021年のALIは、どんな展望を描いていらっしゃるんでしょう?
Leo : 2020年1年詰めていた全てを込めたミニ・アルバムを、来年1月末にリリースしようと思っていて。それがファンク=団結をテーマにしたアルバムで、時代を象徴してくれるだろうなと思っています。2月には渋谷クアトロで人を入れてリリースパーティーをして、ビルボードに行ったりとか、大阪でやりたいなって。夏にもシングルを切ろうかなと思っていて、年末には初1stアルバムを2枚組で出したいと勝手に考えています(笑)。去年までに作った曲をもう1回フィーチャリングラッパーと作り直したリミックスっぽいものと新しいものを作りたい。今は、そのことばっかりで死にそうです(笑)。
──リスナーとしては、それだけたくさん控えているのは楽しみです。建前抜きで言うと、みんな耐えてばかりの現状に飽きていると思うんです。
Leo : 相当飢えていると思いますよね。僕らは幸い、音楽を作ることに1年を費やせたのが相当大きくて。こうやって新人バンドがサブスクのチャート上位に入ったり、すごい数の人が聴いてくれることは本当にラッキーで。あとはたくさんの人に直接素晴らしい曲を届けて、たたみかけようと思っています。
──2021年は飛躍の年になりそうですね。
Leo : そうなんです。同時に、スヌープと絶対にやるという自分とのプレッシャーと戦っているので。ゆくゆくはドクター・ドレーとやりたいとか、ファレルとやりたいっていう野望もあるので、それを叶えていくだけです。
──聞いていてロマンを感じます。今は1人でPCやスマホで楽曲が作れる時代ですが、ALIのように大人数でジャンルも国籍もカルチャーも混ぜこぜで音楽を鳴らすというのはとても素敵なことだなと思います。
Leo : ALIはいろいろな人が集まって音楽奏でているので、奇跡の集まりだと思うんです。今はまだコロナでライヴに来られない状況だけど、お客さんも来られる日が来たらやばいと思うんですよ。本当に楽しみです。とにかく無事にタフに生きていってほしい。来年はたくさんの人に会えるといいな。
<商品情報>
ALI
『LOST IN PARADISE feat. AKLO』
発売中
■初回盤(CD+DVD)
SRCL-11588~11589
2,500円(+tax)
DISC 1 / CD
1. LOST IN PARADISE feat. AKLO
2. MOONBEAMS SATELLITE feat. K.A.N.T.A
3. DESPERADO feat. J-REXXX
4. FAITH feat. なみちえ, GOMESS
DISC 2 / DVD
ALI presents -JUNGLE LOVE-(part.1)
2020.8.23 LIVE STREAM
■通常盤(CD)
SRCL-11590
1,200円(+tax)
CD
1. LOST IN PARADISE feat. AKLO
2. MOONBEAMS SATELLITE feat. K.A.N.T.A
3. DESPERADO feat. J-REXXX
4. FAITH feat. なみちえ, GOMESS
■期間生産限定盤(CD)
SRCL-11591
1,700円(+tax)
<封入特典>
アニメ描き下ろし差し替えJKT(2デザイン)
公式HP https://alienlibertyinternational.com/
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