syudouが語る「ボーカロイドとヒップホップ」
Rolling Stone Japan / 2020年11月26日 18時0分
一度聴いたら耳から離れなくなるようなクセのあるメロディと、ダークで不穏な歌詞世界によって「中毒者」を増やし続けているボカロP、syudouによる前作『最悪』からおよそ1年半ぶりの2ndアルバム『必死』がリリースされた。
本作は、すでにYouTubeでも再生回数360万超えの「孤独の宗教」や、SEGAのゲーム『プロジェクトセカイ』への提供楽曲「ジャックポットサッドガール」、6人組エンタメユニットすとろべりーぷりんすのリーダーななもり。への提供曲「悪い人」のボーカロイドver.など、すでにインターネットを中心に話題を集めている楽曲を多数収録。またアルバム後半では、過去曲「邪魔」や「馬鹿」を自身のボーカルでカヴァーするなど、前作の路線を引き継ぎつつも新たな試みに果敢に挑んだ意欲作となっている。
高校時代、ボーカロイド・シーンにハマり、紆余曲折を経て現在ボカロPとして独自の地位を築きつつあるsyudou。その類稀なる音楽性はどのようにして培われてきたのか。自身のルーツやアルバム制作に関するエピソードはもちろん、「ボーカロイドとヒップホップ」の共通点についてなど興味深い話をたっぷりとしてくれた。
―syudouさんがボーカロイドの魅力に気づいたのはいつ頃ですか?
syudou:確かニコニコ動画を見始めたのが2007年なので、かなり初期からボーカロイドも聴いていました。最初のうちはそんなにハマっていなかったんですけど、2009〜2010年あたりから米津玄師さんが「ハチ」名義で登場したり、WOWAKAさんやDECO*27さんが音源を上げたり、一気にシーンが活性化していって。「あれ? 普通にかっこいいじゃん」と思うようになった。むしろフォーマット化されたバンドよりも、よほど好き勝手やっているなと。そこからどんどんボーカロイドを聴くようになっていきました。
例えばクワガタPさんの「フラッシュバックサウンド」という曲が僕は大好きなんですけど、あれとか「ロキノン系」の耳で聴いて「かっこいい」と思えるバックトラックにボーカロイドを乗せているんです。「こんなことまでボーカロイドはできるのか!」と思った大きなきっかけですね。当時のニコ動は、掘れば掘るほどボーカロイドでしかできない表現を追求していて本当に面白かったんですよ。いろんなものを呑み込んで肥大化していくところはヒップホップに近い気がするし。
ボカロPの感性は、サウンドクラウド・ラッパーに近いものがある
―ボーカロイドとヒップホップの比較は興味深いです。
syudou:ヒップホップも最初はトラックをサンプリングするブーム・バップから始まって、異ジャンルをどんどん取り込むことで広がっていったじゃないですか。ボーカロイドも最初は「初音ミク」というキャラ優先のオタクジャンルだったのが、そこに、言い方は悪いですがバンドで上手くいかなかった人たちが流れ込んできて……自分もその一人なんですけど(笑)、そういう人たちがいろんな要素を詰め込んでいった結果、今みたいに広がって面白いことになっていると思うんですよね。
―確かにボカロ含むオタク・カルチャーのマインドというのは、ある意味ではヒップホップ的な要素と共振するものがある気がします。KOHHもボーカロイド発ヴァーチャルアーティストIAとコラボしていましたよね。
syudou:「働かずに食う」ですよね、最高でした。音が悪かろうが、どんどんネットに作品を上げていくボカロPの感性は、サウンドクラウド・ラッパーのそれに近いですよね。そういう意味では、実はオタクカルチャーの流れは海外の流れとも繋がっているんですよ。それを理解せず、ただの「オタク文化」だと思っている人が多過ぎてほんともったいない。でも、それを言うとみんな賢くなっちゃうので言わないですけどね(笑)。
―(笑)。ちなみにヒップホップはどの辺が好きなんですか?
syudou:ベタですがやっぱりトラヴィス・スコットは外せないですよね。コロナになって、いち早く『フォートナイト』で仮想空間イベント「Astronomical」を開催して。しかもあれだけクオリティの高いものを作ってしまう。最近もNIKEやマクドナルドとコラボしたり、そこから「FRANCHISE」という曲をリリースしたり。目が離せないですよね。あとインターネット・マネーもものすごく戦略的だし、本人たちの成長ストーリーも含めて大好きです。もちろんケンドリック・ラマーも最高。歌詞を自分で訳してみてビビりましたもん。こんな、俺ごときの拙い英語力でもこんなに響いてくるのか!って(笑)。各トラックも素晴らしいのですが、「このアルバムのその位置に、その曲持ってくる??」みたいな。アルバム全体の見せ方もユニークなんですよね。
syudouが音楽に目覚めたきっかけ
―もともとsyudouさんは、どんなきっかけで音楽に目覚めたんですか?
syudou:家族はみんな音楽好きだったんですけど、特に5つ上の姉がASIAN KUNG-FU GENERATIONやBUMP OF CHICKENをよく聴いていて、そこから自分でも掘っていくようになりました。中学で吹奏楽部に入って打楽器から練習し始めたんですけど、家にはピアノやギターが普通にあったので「ドラム以外の楽器もやってみるか」と思って触るようになって。それからインターネットでネットカルチャーに目覚めつつ、宅録にハマって今に至る感じですね。
―吹奏楽部に入ろうと思ったのはどうしてですか?
syudou:中学は部活に入るのが必須だったんですよ。運動系というノリじゃないし、思いっきり文化系というかパソコン部みたいなのもオタクキャラのまんまでヒネリがないなと(笑)。仲良い友人は卓球部にたくさんいたけど「モテないしなあ」って。それでバランスを鑑みたら、女の子がたくさんいる吹奏楽部かなと。
―はははは。吹奏楽部に入ったことで、楽曲の構造的な部分が学べたところもありました?
syudou:今思うと、かなり勉強になっていました。最終的に部長になったので、全体のスコアを見る機会も多くて。そうするとどの楽器がどう動くのかも把握できるようになり、それが今のアレンジにも活かされていると思います。
―リズム楽器をやっていたのも、楽曲を俯瞰する上で大きかったのでは?
syudou:めちゃめちゃデカかったです。ドラムは「レイヤー」の概念なんですよ。キック、スネア、ハイハット……と重なっていくのはDTMと同じ。だからDTMにもすんなり入っていけたんでしょうね。
―本格的に音楽制作を始めたのはいつ頃?
syudou:高校二年生くらいからですね。僕はだらだらやっていた時期が結構長いんですよ。ネットに上げては消してを繰り返していたから正確に把握はしていないんですけど、今やっているような音楽性とは全然違うこともやっていました。それこそ初期は、技術こそないけど人気は欲しくてネタ曲なんかも上げていましたね。
とにかく「音楽」が作れればバンドでもボーカロイドでもなんでも良かったんです。大学生の頃は職業作曲家を目指していましたし。ただ、いかんせん自分の性格上、デモテープを送って「こうしたらいいよ?」みたいなことを言われると「お前に俺の何がわかるんだよ?」なんて思っていたんですよね、自分から応募しておいて(笑)。「ああ、俺はきっと人に合わせるのは無理だな」と思いながら、どうにか続けているうちに今のポジションに落ち着いた感じです。
オリジナリティが確立した「邪魔」
―最初に注目されたのは「邪魔」ですよね。
syudou:リリースが2018年の1月で、その年の3月に卒業したのでまだ大学生の頃でしたね。「邪魔」ができたことで自分の中の音楽性がかなり確立されました。その要素は大きく分けて2つあります。一つは「絵」。今、一緒にやっているヤスタツさんと出会えたのは大きかったです。ヤスタツさんは以前から僕の上げていた音源を気に入って下さっていたみたいで、彼がTwitterをフォローしてくれた時に僕も作品をチェックしたらすごく好きな感じだったので、「一緒にやりたいな」と思って「邪魔」が出来たタイミングで声をかけたんです。
もう一つは「歌詞」。「邪魔」が出来るまでは「自分を偽る」というと大袈裟だけど、「自分はどういう曲を求められているのか?」ばかり考えて曲を作っていたんです。それだと全然パッとしないんですよ。なのでもうヤケクソになって、「自分の好きなように曲を作ろう。それでもし『こいつ性格悪いな』と思われても仕方ない、やるだけやってみよう」と思ったら「邪魔」が出来て、それで今までやってこられた。
―ちょっとエグ味のあるメロディも特徴的ですが、それはどんなところから影響を受けていると思いますか?
syudou:昔から暗いメロディが好きなんですよね。まず米津玄師さんの影響はメロディに限らずぶっちぎりでデカいんですけど、倉橋ヨエコさんや戸川純さんもずっと好きでした。あと岡村靖幸のクレイジーな感じとか(笑)。
メロディに関しては、高校生くらいまでに聴いてきたものがベースになっているんじゃないですかね。サウンドの好みはどんどん変わっていると思うんですけど、メロディは結構「言語学習」に近いというか。決まった年齢までに何を聴いていたかで、好みがかなり決まる気がしますね。もちろん、今も勉強はしていますが。
―noteには「投稿した動画が1000万再生したら人生が変わった話」という記事も投稿していましたよね。
syudou:「ビターチョコデコレーション」(以下「ビタチョコ」)が1000万再生を突破して、ちょっと前までは想像もできなかったことがたくさんおきました。さっき名前を挙げたような、自分がずっと会いたいと思っていたアーティストにも大体会えたし。
確かnoteには「会社員時代よりも収入が増えた」とか「時間が増えて好きなことに打ち込める」なんて書いていたけど、そんなことより「会いたい人に会えるようになってきた」ということが、自分にとっては何より大きいです。自分が憧れていたアーティストが、どういう考えで曲を作っているのかを直で聴けるわけですからね。もちろんレベルは全然違うけど、自分も同じ音楽の作り手という立場でその人たちと酒を酌み交わせる喜びは格別です。
―アーティストのどんな話が印象に残っていますか?
syudou:さっき名前を挙げた、尊敬する某アーティストと飲んでいたときに僕が、「曲を作っているときに『懐かしい』という感覚って大事じゃないですか?」と尋ねたら、「そうだよな。俺の田舎のじいちゃんは2つある山の一方に住んでてさ、じいちゃんの家が建つ山には陽の光がいつも当たっていて。そこから陽の当たらない、もう一つの山をよく見てたんだよね……わかるっしょ?」って言われたんですよ。「ええ? 分かる……かもしれないけど」みたいな。
―はははは!
syudou:結論に至るまでの説明が二つ三つ省かれてる。音楽をやっている人と話してると、結構それ「あるある」なんですよね。で、そういう人同士が話しているともう何が何だか分からない。「この人たち、本当に会話のキャッチボールできてんのか?」と思うんですけど、見ているとほんと面白くて。いずれ僕もその会話に混じりたいです(笑)。
ダークな曲調だからこそ「生きる勇気」が湧いてくれると嬉しい
―さて、今回1年半ぶりとなる待望の2ndアルバム『必死』がリリースされます。
syudou:ちょうど勤め人から音楽1本に絞り込んでいる最中に作ったアルバムなんですよ。それで確定申告に追われたり(笑)、提供曲をたくさんいただいたり、前作の時とは比べ物にならないくらい忙しい中で必死に作っていたからこのタイトルになりました。「必死だなあ」と思いながら聴いてほしい。
―それは「冷笑」的な意味で?
syudou:いや、ちょっと違いますね。「必死」って世間的にはダサいじゃないですか。「あいつ必死だよ」みたいな感じでからかわれることは多い。でも僕は「必死」な人の方が人間味があるし命を輝かせていると思うんですよ。何なら「必死だな」って言われたいですもん俺。実際のところ、めっちゃ必死だし(笑)。自分で言うのもなんですが、非常にいいタイトルを付けたと思っていますね。
―例えば「悪い人」(すとろべりーぷりんすのリーダー、ななもり。への提供曲のボーカロイドver.)とか、ものすごく暴力的かつダークな曲じゃないですか。聴いていてかなり食らうんですよ。
syudou:そうですよね(笑)。「うおお、この曲やべえ!」という気持ちになって欲しかったので、そう思ってもらえて良かったです。で、最終的にはこういうダークな曲調だからこそ「生きる勇気」が湧いてくれると嬉しいなと思っていますね。そのときにハッピーエンドかバッドエンドかはどうでもいいし、作品の中に「頑張れ」「生きろ」みたいな具体的なメッセージがなくてもいい。
―確かに。バッドエンドの映画の方が生きる力が湧いてくることもあるし、ハッピーエンドの映画で死にたくなることもありますよね。
syudou:そうなんですよ。『ウィッカーマン』みたいな、「こんなオチかよ」と思わせるバッドエンドの映画あるじゃないですか。そういう作品を観て映画館を出た時に、力が湧いてくるのが好きで。僕の曲も明るいとか暗いとかどうでもいい、「いいものが世の中には溢れているし、死なずに生きていればそういういいものに出会う機会はいくらでもあるんだよ?」ということが言いたかったんです。まあ、自分が好きなモノを作っているだけなんですけど。
―でも、とてもよくわかります。
syudou:ちょっと話は横道にそれますけど、「嫉妬」という感情もそうですよね。僕はめちゃくちゃ同業者に嫉妬するんですけど、嫉妬以外にも抱えていてもどうしようもない気持ちってあるじゃないですか。そういうドス黒くてネガティブな感情も、作品にしてしまえれば少しは報われると思っていて。もちろん、問題も悩みもそう簡単に解決はしないんですけど、それがお金や人気に繋げられるのも曲作りの楽しさだし、自分に向いていることなんだろうなと思いますね。
言いたいことはまだたくさんある
―今回、セルフカバーとしてご自身で歌っている曲もあるじゃないですか。ボーカロイドに「歌わせる」のと、自分で「歌う」のとではどう違います?
syudou:自分にとって一番自然な表現方法を選ぼうと思っているんですよ。今の自分にとって、どれが嘘なく自然なのかを考えています。ただ歌はムズいっすねえ(笑)。というのは、ボーカロイドとしてのメロの良さと、人が歌うメロの良さって全然違うんですよ。もっというと、「歌ってみた」はそこが混ざるから気持ち悪くて面白いのだと思う。めちゃくちゃ歌が上手い人が普通に美メロを歌うのとは次元が違うんですよね。
例えば「ビタチョコ」は思いっきりボーカロイド曲というか、初音ミクの声に合うメロディを書いたつもりなので、人が歌わなくてもいい。でも、その次に出した「コールボーイ」という曲は、「歌ってみた」にたくさん上がるといいなと思って「ビタチョコ」よりは歌いやすくしているんです。
―個人的に、ボーナストラック的な扱いの「必死」という曲がものすごく好きなんですよ。
syudou :ありがとうございます(笑)。アルバムの最後の曲なんて、いい意味で世間的に話題にならないし、ちゃんと僕のことを知ってくれて、興味がある人が聴き進んでくれると思うので、そういう人に驚いてもらいたくて入れた曲です。
―リリックもぶっ飛んでいて最高でした。
syudou:そのときに思っていたことを、出来るだけ忠実に「話し言葉」で書こうと思いました。理想の歌詞って、喋り言葉がそのまま使われていることだと思うんですよ。今こうやって喋っていることがそのまま歌詞になるのが本当は理想。例えばKOHHさんとか、それを目指していらっしゃると思う。「ありのままの表現」と言いながら、めちゃくちゃ推敲しまくってウソになってる歌詞が世の中に溢れているじゃないですか。最初の話に戻りますが、ヒップホップから学ぶことは本当に多いんですよね。こんな音楽をやってますけど、自分はヒップホップだと思っていますし。
―他にアルバムで思い入れのある曲は?
Syudou:「”砂の惑星”(ハチ)のアンサーソングではないか?」と巷で話題の(笑)、「ジャックポットサッドガール」ですかね。そもそもは「プロジェクトセカイ」という初音ミクのスマホゲームに提供した楽曲なんですけど、自分の作家性と自分がこれまで歩んできたストーリー、ゲームの中のストーリーと、さらにボーカロイド・シーンの文脈、すべてを作品に落とし込むことができたと思っていて。最近では一番達成感を覚えた楽曲ですね。
―すでに次のアルバムに向けての構想はあるんですか?
syudou:すでにガンガン作ってます。というか『必死』には1年くらい前に作った曲も入っているので、今聴くと「甘いなあ」と思うところもあるし。もちろん、それを直そうとは思わないんですけどね、その曲にはその時のバイブスがちゃんと乗っているので。そういった反省点も含め、『必死』を作りながら学んだことを次の作品で生かしていきたいです。言いたいことはまだまだたくさんあるので!
<INFORMATION>
『必死』
syudou
発売中
1. アカシア
2. 悪い人(すとぷり/ななもり。提供曲)
3. 孤独の宗教(ゆきむら提供曲)
4. ボニータ
5. キモい
6. ワードワードワード(SEGA/maimai提供曲)
7. ゆらゆら
8. いい国夢気分
9. ジャックポットサッドガール
10. 着火(いゔどっと提供曲)
11. 邪魔 (self cover)
12. 馬鹿 (self cover)
13. 必死
Youtube
https://www.youtube.com/channel/UCraC7460yGQF4GDmSjCecpQ
Twitter
https://twitter.com/tikandame
Official HP
https://www.syudou.com
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