制作費1億円規模のデュア・リパのオンラインライブにみる、ライブストリーミングの未来
Rolling Stone Japan / 2020年12月4日 13時15分
全世界に配信された、制作費150万ドル(約1億5700万円)超えのデュア・リパのオンラインライブを500万人が視聴するなか、リパのライブは、バーチャルコンサートという飽和状態の市場におけるニューノーマルの象徴となった。その成功の秘訣とは?
感謝祭の週末に開催されたデュア・リパのオンラインライブ、Studio 2045は大当たりとなった。リパのチームによれば、ライブストリーミング視聴者数の新記録となった、500万人がこのライブを視聴し、カイリー・ミノーグやエルトン・ジョンをはじめ、そうそうたるゲストたちが参加した。今後、リパがより多くのオンラインライブを開催することは間違いないとリパのマネジメントチームは本誌に語る。
だが、より大きなスケールで考えるとリパのオンラインライブは、音楽業界による、大成功に終わった実験的な試みでもあった。新型コロナウイルスの影響でイベントが中止に追い込まれるなか、音楽業界は9カ月にわたって利益につながる対面コンサートの代替品を必死に探し求めてきた。
リパのオンラインライブは、ささいな出来事などではなかった。最終的な数値は現時点では未確定だが、世界中に配信された今回のオンラインライブの制作費は150万ドル(約1億5700万円)を超えており、実現まで5カ月近くを要したとリパのマネジメント会社・TaP Musicの共同創設者・共同CEOのベン・モーソン氏は話す。モーソン氏は、オンラインライブの総収益に関する詳細は明かさなかったものの、利益になる事業だったと述べ、対面コンサートが最初に復活したとしても、リパがまた別のライブストリーミングを行うだろうと語った。さらにモーソン氏は、オンラインライブ配信後、リパの次のライブ、Future Nostalgiaのチケットセールスが70パーセント伸びたとも述べた。
「またツアーができるようになっても、オンラインライブは新しいモデルの一部であり続けるでしょう」とモーソン氏は話す。「オンラインライブは、独創的で新しいライブの形であり、デュア(・リパ)がやってくれたように、正しい方法でやれば、上手く機能するのです。間違いなく、またやりますよ——時期はまだ未定ですが。弊社の他のアーティストに関しても、より多くのオンラインライブを開催していくことは確かです」。
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リパのチームは、チケットの販売枚数は26万4000枚だったと報告していたものの、実際には、現時点でおよそ28万4000枚だ。オンラインライブの主催元である、ペイバービュー・プラットフォームを運営するLive-Nowは、ライブを見逃したファンのために、12月6日(現地時間)までライブ映像(録画)が視聴できるチケットを販売している。そのため、チケットの販売枚数は今後も伸びることが予測される。
より多くの人がオンラインライブを楽しめるようにと、リパのチームは、視聴者個人によるチケット購入が困難な地域においてDSP(訳注:広告主や広告会社が使用する広告在庫の買い付け、広告配信、掲載およびオーディエンスのターゲティングを一括管理するサービス)とタッグを組んだ。米国より貧困率が高いインドでは、リパのチームはインドでもっとも人気の音楽ストリーミングサービス、Gaanaと取引し、同プラットフォームでの無料配信を実現した。ストリーミングとチケットに関する政府の規則がより厳しく、複雑な中国では、テンセントを介して無料配信を行なった。両社とも、かなりの金額を支払ったとモーソン氏は語ったが、詳細は明かさなかった。インドの視聴者数が9万5000人だったのに対し、中国は200万人近かった。
それでも、一部の地域では、リパの配信は期待された成果を挙げられなかったとモーソン氏は述べ、チームがこうした地域への配信にもっと上手く対応できるようになれば、視聴者数とチケットセールスは増えると踏んでいる。
「1回限りのイベントとしては、莫大な制作費がかかっています。それに私たちは、世界中の人々に視聴してほしいと考えていました。私たちが行なったマーケティング、チケット販売、パートナーシップは、こうしたゴールを反映しています」とTaP Musicのウェンディ・オン社長は話す。
オンラインライブ開催にリパは即座に同意しなかった。彼女は当初、ライブ会場に復帰し、ファンの前でライブができるようになるまで待つことを望んでいたのだ。だが、オンラインライブを単なるストリーミングというよりは、テレビ特番的なものにしようというTap Musicの戦略がリパの考えを変えた。「私たちはロックダウン中、とりたてて面白くもないオンラインイベントをいくつも見てきました」とオン社長は言う。「セットを組み立て、スペシャルゲストを呼び、テレビや映画に近い方法で撮影するという今回のライブは、多次元的な試みでした。そこにリパは賛成してくれたのです」。
オンラインライブがもたらした数多の視聴者とチケットセールスは、音楽業界の新しい解釈の正当性を立証している。アーティストや音楽会社がもうかるバーチャルイベントを開催したいのであれば、そのイベントは唯一無二のものでなければならないし、それには莫大なキャッシュが必要かもしれない。例えば、KISSの制作費と比べると、150万ドル超えのリパのライブさえかすんでしまう。というのも、バンドが2020年の大晦日にインド・ドバイでの開催を企画している超豪華オンラインライブの制作費は、8桁(約10億円)になるとさえ言われているのだから。
とはいっても、ライブストリーミングは依然としてコケるか当たるかわからないし、優れたマーケティングとコストをかけることへの意欲なしには、上手くいかないかもしれないとブッキングエージェントは頑なに主張し続けてきた。新型コロナウイルスによるロックダウン初期には、低予算の気軽なライブストリーミングがあふれたものの、この市場はいまや飽和状態で、遅れながらもこのトレンドに身を投じようとするメジャーアーティストは、自ら予算を持ち込まなければならない。
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ラナ・デル・レイ、エリー・ゴールディング、ヘイリー・スタインフェルドなどのアーティストを抱えるTaP Musicは、リパのオンラインライブ以前からライブストリーミングを行ってきた。同社は、ロンドン自然博物館で開催されたシンガーソングライターのダーモット・ケネディのライブのみならず、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(V&A)でのゴールディングのライブも企画したのだ。
「私たちは、(オンラインライブが)本当に最高の体験をもたらしてくれるのだろうか? と深い不信感を抱いているファンを満足させるアプローチを取っています」とオン社長は言う。「プロダクションのバリュー、ゲスト、場所など、付加価値を与えてくれるものが何であれ、こうしたものに徹底してコストをかけなければ、ファンは納得してチケットを購入し、視聴してくれません。それができなければ、普通のミュージックビデオを自宅で鑑賞するのと変わりないのです」。
From Rolling Stone US.
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