三浦大知が今こそ語る愛の話、27作目のシングルで到達した新境地
Rolling Stone Japan / 2020年12月7日 19時0分
三浦大知にRolling Stone Japanがインタビュー。3曲入りの最新シングル「Antelope」とともに語ってくれた2020年の人生哲学とは?
表題曲は、米アリゾナ州に広がる渓谷アンテロープキャニオンから着想を得て、風や雨によって形成された自然の美しさを人生に置き換えた静謐なバラード。コロナ禍の昨今、不安や孤独感を抱えている人にこの曲が寄り添い、愛の力強さを感じさせてくれるだろう。「今、愛を感じてもらえる歌を歌わなければいけないと思った」という彼に、詞で紡いだ言葉の意味を尋ねる。また、雨降る森でのパフォーマンスが話題となった、オンラインライブの後日談も聞いた。
―「Antelope」は、今、苦境に立っていたりもがいていたりする、すべての人を優しく包み込むアンセムだと思いました。Instagramでは「UTAさんとずっとこんなやつ作りたいねって言ってた一曲が遂に形になりました」と書いていましたね。
UTAさんと結構前から、ここ最近ダンスものやミッド(ナンバー)が続いてるからがっつりバラードを作りたいねという話をしていて、そのタイミングが来たという感じですね。制作は7月から8月くらい、緊急事態宣言などを経ていろいろ思うことを詰め込みました。曲も詞も同時に書いていって1日で作りましたね。
―この曲のテーマについて教えてください。
愛の歌が歌いたいなと思ったんです。今年は特に、良い意味でも悪い意味でも自分と向き合う時間が多かったと思うんですね。自分と向き合いたくない人もせざるを得なくなってる時や、これからの人生どうしていけばいいんだろうと考えてる時に、しんどいこととか悲しいニュースもあって。俺自身はインスタライブして歌ったりしてみんなと繋がることや音楽を続けることで救われましたけど、マイナスなものに飲み込まれそうになる瞬間はみんなあったんじゃないかな。
―歌詞の「飲み込まれそうな今だからこそ」「離れ離れ触れる事叶わなくても」とは、やはり今の状況を指していますか。
はい。そんな時、なんで悲しいのかというとその人の心に愛があるからだと思うんですよ。でもその愛みたいなものは表に出るものではなくて。そして、その気持ちをSNSには書かなくとも、同じように心を痛めたり涙を流している人はこの世界に必ずいて。そんなふうに、この世界中に必ず存在している愛、でも今とても見えづらいもの、それを曲を通してみんなに伝えられたらいいなって。この曲を聴くことで、自分の周りにはちゃんと愛があって、この世界には小さい愛みたいなものがたくさん存在してるんだなって気づいてもらえたらいいなと思い作りました。
「笑われてもいいからちゃんと愛の話をしたかった」
―タイトルは、惹かれるとかねてからおっしゃっていた、米アリゾナ州に広がる渓谷アンテロープキャニオンのことなんですね。
行ったことはないんですけど景色としてすごく好きで。風や雨で岩が削られていって、それがきれいな模様になっていて、削られた様を見て感動するっていう。今年はみんなそれぞれの中にある愛や心が削れていく瞬間がとてもあったと思うけど、でもその削られた愛みたいなものはどっかに届くって俺は信じたいし、削られたからってその愛はなくなったわけではなくて、その削られた愛を見てまた愛を感じてくれる人がきっとこの世の中にはいる、と。あの景色とリンクするところがあったのでこのタイトルを付けました。
―先の見えない不安や孤独を1人で抱えている人も多く、ショッキングなニュースも相次いでいる昨今。そうした出来事に大知さんはどう感じましたか。
うーん、本当にいろんなことが重なった年だと思うんですよね。自分と向き合うってことがプラスに働くこともあればマイナスに働くこともある。人って生きてく上で、目の前にやるべきことがあるからなんとか保てるっていう部分はすごくあると思ってて。それがなくなった時に、自分はどう生きていくかっていう答えのない大きなものと向き合うことになった。それって本当にしんどいというかパワーが要るじゃないですか。その時に押しつぶされそうになる人って、自分もそうだしいっぱいいると思うんですよね。だからそういう人に、あなたはちゃんと愛されてるし愛は確かに周りにあるっていうことを感じてもらいたい。
曲の最後に「笑われても それでもただ信じて」と書いたんですけど、こういう時に理想論みたいなことを言うと、もっと現実見ろよという意見ももちろんある。でも、だからこそ、俺は笑われてもいいからちゃんと愛の話をしたかった。愛を届けたい人がいて、愛を感じてもらえるものを今歌わなければいけないと思ったんです。
―アーティストの場合は、自分と向き合う時間が普段から特に多いと思うんです。コロナ禍に自分自身を見つめる中で、大知さんはネガティブな方向には行かなかったということでしょうか?
それは、リリースするという出口があるからだと思います。ただ人生について自問自答するというのは答えの出しようがないですよね。曲を作って、それを誰かが聴いてくれて、良いと言ってくれてる人がいたら、その時の悶々とした気持ちは救われるじゃないですか。だから、それもない状態で自分と向き合わなきゃいけないっていうのはキツいですよね。正直考えてもしょうがないじゃんということを考えなきゃいけなくなっちゃったんだと思う、今年は。本当はただ生きていることがめちゃくちゃすごいことで、でもそう言えない状況もあったと思います。例えば、この中でもやれることを探さなきゃいけない使命感に駆られるとか。
レコーディングはこれまでで一番時間がかかった
―表立って何かやっているほうが前向きそうに見えるんですよね。
そうなんですよね。なんとなく何かしてる人のほうが前向きに見えてしまう雰囲気があるけど、そういうマインドにならなければ動かなくてもいいんですよ。そんなふうに焦りそうな時、この曲を聴いて自分には愛があるんだと気づいて、少し心が楽になったらいいなと思いながら作ってました。
―そのリリックに添えたのは、自身のアカペラと最小限のピアノと打ち込み。三浦大知史上最も削ぎ落とされた曲ではないでしょうか。
確かに。これは、数年前にハーモナイザーが流行ってて、そこから派生して「声だけの曲ができたらいいね」とUTAさんと温めていたアイデアでした。制作の初めはピアノが入っていたんですけど、1番はピアノなしでコーラスを積み、声だけにして2番からピアノが入ってくるっていうのがとてもエモーショナルなんじゃないかとなって、アイデアがここに生きてきたという。
―何層もコーラスを録って重ねたレコーディングはどうでしたか?
今までで一番時間かかったんじゃないかな。声だけで聴かせるので細かい響きやラインがより重要で、そこの抜けがないかとか、ちょっと足そうかとか、上の成分はいらないねとかいうことを精査してやったので。
―「Im here」(2020年1月リリース)も今作もそうですが、相手や自分そのものを認め肯定し受け容れるシンプルなメッセージの曲が続いています。そこにはご自身の考え方が反映されていたりするのでしょうか?
もちろん自分が思ってることでもあるんですけど、時代の空気感はありますね。この時代において歌いたいことを言葉にするとこういうことなのかなあ。
―自分のスタイルはこうだ!とかっこよく提示する曲も過去にあったので、今のモードだったりするのかなあと。
自分の人生は自分のものだと思うんですよ。決して誰かに決められていいものではない。
―まさにカップリングの「Yours」でそんなことを言ってますね。
その通りです。例えば、倫理的におかしいものは別として、自分の価値観と全く違う人と意見がぶつかった時、相手に対して「それは違うよ」って決めつけて言うべきではないと思っていて。相手には相手の正義があって主張していて、自分と意見が違うだけ。それぞれの選択や価値観を尊重していくべきだと思うんですよ。例えば、コロナの対策1つとっても正解があるわけじゃないから、どう行動してどこまでOKだと思うかは人それぞれで、どれも間違いではない。それをお互いに押し付け合うんじゃなくて、違う考えを許容し合って尊重し合うことが今とても大切なのかなと。
目に見えないものを「ない」とは言いたくない
―「尊重する」って、どういうことだと思いますか?
うーん……自分から見えてる主観だけじゃなくて多面的に物事を捉えるっていうことかな。1つの情報だと限定的な見方になってしまうので。例えば、自分に嫌なことを言ってきた人がいたとします。でもその人は、いつもはそんなこと言わないけどたまたまその日朝から体調も悪くて、誰かに傷つけられてすごい嫌な気持ちでいて、僕に強い言葉で当たってしまった。そういうことって人間だからあると思うんですよ。自分が「それは違うと思うな」という意見を持つのはいいけど、だからってその人を攻撃していいことにはならない。その人もその人の正義からそういうことを言っているわけだから。そんなふうに新しい価値観を自分の中に許容する、っていうことが尊重し合う世界につながるのかなと思います。
―普遍的な言葉の解釈についてもう1つ聞かせてください。大知さんの表現する「愛」のスケールがどんどん大きく、優しくなっていってる印象を受けるんです。今の大知さんにとって愛とはどういうものですか?
自分も答えが出てない、愛ってなんだろうっていう気持ちがあるから愛について書きたいんだと思う。ただ、今の意見を聞くと、自分が親になったということも大きいのか、人と人とを見ていて愛について考える瞬間は増えたかもしれないですね。
―作詞者として「愛」という言葉をどう捉えて使っていますか?
俺は、目に見えないものを「ない」とは言いたくないなと思ってて。目に見えないものって誰も確認できてないことだから、あるかないかわからないんですよ。これ、何年も昔に聞いた僕の好きな話なんですけど、アメリカのとあるラジオ局でパーソナリティーが子供からのメッセージを受けて答えるんです。そのメッセージは「僕はサンタを信じている。でも友達に『誰も見たことないじゃん。いないよ』と馬鹿にされます。僕はいると思ってるし、いると信じたい。それについてどう思いますか」という内容で。そしたら、DJの人が「誰も見たことないものは、いるのかいないのかわからないってこと。自分がいると思えばいるし、いないと思えばいないし、自分が信じた通りになる。目に見えないものを”ない”とするのは違うんじゃないか」と。その話を聞いた時に、すごく素敵な考え方だなと思ったんですね。ただ見てないだけだから、もしかしたらあるかもしれないじゃないですか。どちらも可能性はゼロじゃない。
愛もそれと同じで、目に見えないんで感じにくいし、言葉や態度で表されてそれを愛だと感じる時もあれば感じられない時もあって。愛が一体何なのかわかんないけど、でも僕は”ある”んだと思うんです。それは人を思いやる心だったり、この人を助けたいって気持ちだったり、自分のことを好きと思うことだったり、いろんな愛がきっとこの世の中には”ある”。そんなふうに信じていたい。目に見えないものに対してそんなには綺麗事だって笑われたとしても、この歌を歌って誰か1人にでも愛が届いたらいいなって思うこの気持ちは嘘じゃないから、何を言われても信じていたいなっていう気持ちが最後の歌詞になってるんです。
「Yours」の振付に込めたもの
―8月にコレオビデオを公開した「Yours」の映像コンセプトは?
この曲は自分の人生の話だから、ちゃんと向き合っている感じを出したいと思ったんです。だからコレオビデオの撮り方も、誰かに向けて踊っている感じではなく、自分が振付を作っている時の悩んで考えている過程をドキュメンタリーのような形で撮るのがいいと思って作りました。
―振付は、ポップ、モダン、コンテンポラリーなどがミックスされていますが、音ハメがとても多くて、トラックをそのまま体で体現しているようですね。
いわゆるリズムダンスでは全くなくて、みんなと踊ることを想定せずに自分の体に出てきたものを形にしました。
―こうしたダンスをかっこよく踊るコツってありますか?
曲をとにかくいっぱい聴くことです。その曲の世界観とかビートが理解できるはず。「Yours」の振付に関してはすごく細かいところまで踊っているので、曲をよく聴いてその音にリンクさせていく。それプラス、音と音の隙間、ヒットしてるところとヒットしてるところの間で、余韻とかメリハリをしっかりつけるのがいいのではないかなと思います。
【写真特集】三浦大知の「身体論」
―シングル3曲目の「Not Today」は、NHKのパラスポーツアニメ『アニ×パラ』の車いすバスケットボール編テーマソングとして、車いすバスケをテーマに作られた楽曲ですね。
はい。タイアップのお話があって、車いすバスケットボールの試合やアスリートの試合前の興奮と冷静入り混じる胸の内を曲にできたら面白そうという発想で作りました。車いすバスケなので金属がぶつかり合うようなノイジーなサウンドで表現できたらと。これはUTAさんとSUNNY BOYさんと3人で作ったんですけど、「ここでブレイクするのどう?」「アリなんですかその展開!?」「ヤバイですね!」なんてゲラゲラ爆笑しながらの作業でしたね。
―UTAさんとの作業はそんなふうに、自分たちの面白いと思う音要素をトークしたり試したりというセッション形式で作っていくんですよね。その手法は10年以上変わっていないと以前ご本人から伺いました。
遊びの延長というか、ただ音楽好きな友達同士でわちゃわちゃ言いながら作ってるのは確かにずっと変わらないですね。UTAさんは引き出しが本当にたくさんある人で、 どんな楽曲も柔軟に作れて、しかも全部オリジナルなものになっていてすごいんですよ。いろんなアーティストの作品を手がけられているから、たくさんの案件があるし、「今回はバラードを」みたいなオーダーに応えて作ることも多い。そんなプロのトラックメーカーとしての仕事がある一方で、俺とやる時ぐらいはそんなに決めたくないっていうか、UTAさんが伸び伸び好きなように作れる遊び場みたいなものに、三浦大知の現場がなったらいいなと勝手に思ってるんです。
オンラインライブの舞台裏
―10月に行われた単独オンラインライブ(「DAICHI MIURA Online LIVE The Choice is_____」、今年見た配信ライブの中で一番衝撃でした。
ありがとうございます、作ってよかったです。いろいろ紆余曲折がありましたね、あのオンラインライブは。
―降りしきる雨の音、木々の揺れる音、川のせせらぎ、虫の鳴き声といった森の自然音が静謐なムードを高める中、濡れながらのダイナミックなパフォーマンスは圧巻でした。何がどうなってあの場所でああいう見せ方になったんでしょうか。
俺が無茶を言って(笑)。”オフラインができない代わりとしてのオンラインライブ”よりも、”オンラインじゃないとできないライブ”がしたくて。オンラインライブはどうしても最新技術とかデジタルな演出に寄っていきやすいですけど、その真逆、自然の力を借りて森と川っていうマテリアルの中でやるのは面白そうだなと思いついて提案しました。
―チャット欄に「大知の色気が湯気となって表れてる」とコメントしていた方がいましたよ。
あはは! そんないいものじゃない(笑)。冬の野球部みたいなもので。
―雨は本当に想定外だったんですか? 大知さんやダンサーがターンして雨粒が飛び散るのも、素敵な演出の1つになっていたので。
もちろん! 直前まで本当に降らないでくれと思ってました。なんですけど結局映像が上がってみたら、降ってよかったというか、そうでないと撮れない、すごいものができたかもっていう感触がみんなありました。
―「淡水魚」で夜の川に入っていく演出、「Be Myself」で夜の光景から昼に突如切り替わったシーンが特に感動しました。木の枝越しに大知さんを映している場面もありましたが、カメラは何台使ったんですか?
5台くらい。意外とそんなに使ってないんです。というのは、収録だけどライブ感のあるものにしたくて、あまり編集したくなかったというか。台数より効果的にいるべきところにカメラマンさんがいるというのが大事でした。撮影クルーも天候やスケジュールが限られた中で満足いくリハーサルができていたわけではないので、枝越しの画は俺もチェックしてないんですよ。各クルーそれぞれの持ち場で良いものを作ろうっていう思いが混ざり合った結果あれになったんです。だから、いろんなところでいろんな奇跡が起きたんだと思います(笑)。
―世界観や技術的なクオリティだけでなく、肉体的なエネルギーも伝わってきて。いつものライブの感じも大切にされたんですね。
みんなが今見てくれているっていうのを自分も体感しながら、気持ちで繋がってパフォーマンスする。それを収録でもできたら、時空を超えるということになるだろうと思ったのでそこにチャレンジしました。ただ、画面の前の皆さんに届けるためには、よりエモーショナルになるというか、いつものオフラインのライブ以上に絶対届けるぞっていう熱量がないと難しいんだなと思いましたね。オフラインは会場のみんなで作り上げていく熱量があるけど、そうじゃなくて自分自身が届け!と思ってやる時にしか出ない熱。これはオンラインライブ特有だなとやりながら感じていました。
心を柔らかくしてくれるものを作っていきたい
―以前のRolling Stone Japanのインタビューでこんなことをおっしゃっていました。「自分の思いの根底にあるのは『オリジナルな存在になりたい』というのと、あとは『誰かにとっての気づきになるようなエンターテインメントを作りたい』ということ」。それを踏まえて現在の自分を見てみるとどうですか?
思いとしては変わらないですね。このシングルの曲も、聴いたことで自分になかった視点が1人でも生まれてくれたらいいなと常に思ってます。自分もそういう体験に救われてきたところがあるから。誰かの考え方に触れて自分になかった価値観を知ることで、それまでの自分の視点がちっぽけに見えて心が楽になる。その体験ってすごく人生を豊かにする気が俺はしていて。何かに気づいた時って自分の心を柔らかくしてくれる。そういうものを作っていけたらとても幸せです。
―実際にそれができているなという手ごたえはありますか?
「曲を聴いて心が楽になった」とか、逆に「三浦大知は歌でこう言っていたけど私の価値観ではこうだな」というのも1つの気づきだと思うのでいいんです。そういう言葉を少なからず言っていただけているので、この思いで作り続けて間違ってないんだなと感じていますね。
<INFORMATION>
「Antelope」
三浦大知
エイベックス
発売中
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