音楽業界の未来、実はストリーミングではなくSNSが重要
Rolling Stone Japan / 2020年12月10日 19時15分
定額制音楽配信、いわゆるサブスクは、音楽業界に年間85億ドル(約8880億円)の売上を生み出している。しかし、音楽業界の今後の最大の成長は、ソーシャルメディア、ゲーム、ライブストリーミング、フィットネスにかかっているかもしれない。
音楽業界でいちばん伸びているプロフィットセンターは何だろう?
何年もの間、この質問に対する明快な答えは、ストリーミングだった。しかしながら、いまは違うと業界に精通したある人物は言う。その人物とは、ワーナー・ミュージック・グループ(以下、WMG)のスティーヴ・クーパーCEOだ。
昨年、WMGの音楽事業は38億ドル(約3970億円)を超える売上を同社にもたらした。そのうちの63パーセントは、Spotify、Apple Music、YouTubeによるものだ。だが、11月23日に同社が最新の財務結果を発表した際、クーパー氏はあることをアナリストたちに明かしたものの、不可解にも彼の発言は見過ごされてしまった。「Facebook、TikTok、Snapchat(訳注:米スナップ社が運営するスマホ専用のSNS)をはじめとするソーシャルメディアとのますます拡大するパートナーシップとともに、はやくもソーシャルメディアは9桁(1億ドル)の収入をもたらしてくれる重要な収入源となっており、サブスク型ストリーミングより早い割合で成長しています」とクーパー氏は述べていた。
筆者がWMGの担当者と再確認したところ、当時クーパー氏が言及した「9桁の収入」は”年収”を指しており、それは2桁の割合で毎年急増している。
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表面的には、これは取り立てて驚くべきことではないように見える。巨大ソーシャルメディア会社は、巨大音楽会社の楽曲を使用するため、大金を支払っている。この手の話題に関しては、記憶力が悪いからといって気に病む必要はない。楽曲使用に対し、Facebook、TikTok、Snapchatはなんと2018年第1四半期になってもWMGにビタ一文も払っていなかった(Facebookは、実際、音楽著作権を自由気ままに侵害していた)。2018年3月、WMGはFacebookと子会社のInstagramと初の”総合的な”ライセンス契約を結んだのに対し、Snapchatは2020年8月まで同社と音楽ライセンス契約を結ばなかった。2020年8月に米国でサービスをスタートしたTikTokにいたっては、WMGの音楽事業部門との間に長期的なライセンス契約をいまだに結んでいない。
この2年の間に、ソーシャルメディアは音楽業界にとっての悩みの種から、正真正銘の金のなる木に変わった。
強い影響力を持つ音楽業界が次のトレンドを見出すにあたり、WMGは注目されてしかるべき存在だ。というのも、同社のSECファイリング(訳注:米国の証券取引委員会に提出する財務表あるいは公的文書)が謳うとおり、WMGは「他の大手音楽エンターテイメント会社よりも早くストリーミングに適応し、2016年には、ストリーミングが自社の音楽事業における最大の収入源であることを報告した最初の会社」なのだ。
サブスク型ストリーミングの成長の勢いが失速するいま、クーパー氏は、音楽業界を次の成長段階へと導いてくれるSNSプラットフォームのポテンシャルを声高らかに指摘している。彼が言う次の成長段階とは、アーティストのマーケティングおよびプロモーションのみならず、キャッシュという点での成長だ。「私たちは、音楽の黄金時代の入り口に立っており、チャンスはいたるところに転がっています」とクーパー氏は、11月にテレビ会議によって行われた業績発表で述べた。「サブスク型ストリーミングは、私たちにとっては始まりに過ぎません。私たちの長期的な成長を支える、数ある収入源のひとつでしかないのです」。
ソーシャルメディアが金のなる木であるというさらなる証拠として、先日ソニー・ミュージックエンタテインメントがTikTokと複数年にわたる初の大々的なライセンス契約を締結したことが挙げられる(それに加え、最低保証額という形でバイトダンスによる莫大な前金がソニーに入ったことも推測される)。欧米の音楽会社が今後も中国のライバル会社を模倣し続けるというなら——とりわけ、ソーシャルメディア、音楽ストリーミング、オンラインカラオケから成るテンセント・ミュージック・エンターテイメント(以下、テンセント)の牙城を目指すなら——その重大さはなおさらだ(2019年第4四半期にライブストリーミングやオンラインカラオケといった”ソーシャル・エンターテイメント・サービス”から7億7300万ドル[約806億円]を生み出したテンセントがユニバーサルミュージック・グループ、WMG、Spotify、さらにはアルゴリズムを使ったA&Rプラットフォームを運営するInstrumentalとインドのストリーミングプラットフォーム、Gaanaの株式を一部所有していることも忘れてはいけない)。
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先見の明がある投資家たちの資金、いわゆるスマートマネーが集まるオンラインでのカラオケや音楽制作が音楽業界、とりわけ世界中の音楽出版社にとってますます重要なビジネスへと成長している。音楽と一緒に独自コンテンツの制作をオーディエンスに促すTikTokやInstagram Reelをはじめとするアプリは、はやくもこうした動きのお膳立てをしていたのだ。そしてTikTokのライバルであるTriller(いくつかの大手レーベルが株式を所有)までもが今年の初めに音楽制作コンテスト、Step Up To The Micをスタートさせた。同コンテストの勝者には、レコード契約の他に、ラッパーのクエイヴォとテイクオフと一緒に楽曲を作成するチャンスが与えられる。それに加えて2週間前、SnapchatはVoiseyを買収した。Voiseyとは、プロのプロデューサーが手がけたビートやメロディーに合わせてアマチュアシンガーがハモりながら歌えるボーカル・コラボレーションが特徴の音楽制作プラットフォームだ。米カリフォルニア州ロサンゼルスを拠点とするシンガーソングライターのPoutyfaceはVoiseyで発掘されたアーティストで、現在はIsland Recordsと契約を結んでいる。
11月のテレビ会議でクーパー氏が語ったように、「クリエイターがオーディエンスに、オーディエンスがクリエイターになり、巨大な乗数効果を生み出す」時代を迎えようとしていることは明白だ。
一部の予測によれば、全世界のゲーム市場は2025年までに年間3000億ドル(約31兆円)を超える金額を生み出す見通しだ。音楽事業を一括りにした市場が現時点で生み出しているのは、この数のおよそ6パーセントである。
金儲けのチャンスは、SNSプラットフォームに限られたものではない。クーパー氏は、WMGが「『ゲーム、フィットネス、ライブストリーミング』など、初期ステージにある収入源にもますますフォーカスするようになっている」とも指摘した。
これらは、音楽業界にとっては無秩序に広がる多面的なチャンスである。そのポテンシャルを強調するためにも、ここで筆者にいくつかの統計データを深掘りさせていただきたい。ライブストリーミングの成長は、本誌やその他のメディアによって十分報じられてきた。先日デュア・リパが開催した有料オンラインライブStudio 2054は、ライブ開催前から28万4000枚のチケットを販売した。チケットの価格は、11.99ドル(米国での早割)から最高で100ドル(英国のアメリカン・エキスプレスの”Levitating Lounge Package”メンバー限定)で、後者には、サイン入りのアルバム、トレーナー、バックステージコンテンツへのアクセスと至れり尽くせりの特典が付いた。その結果、リパの1回限りのライブは200万ドル(約2億800万円)から2000万ドル(約20億7600万円)の総収入をもたらした。
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当然ながら、パンデミックのロックダウンによってフィットネス業界も爆発的に伸びている。高級感あふれる自宅用エクササイズバイクのサブスク型プラットフォームを運営する米ペロトンは、7〜9月末までの四半期の売上高が7億5800万ドル(約786億円)だったことを発表した。これは、対前年比232パーセント上昇という驚異的な数値だ。ペロトンは、先月投資家に送った文書のなかで、第3四半期に1億5650万ドル(約162億円)を達成した同社のサブスクによる売上は、継続的に「楽曲の著作権使用料(ロイヤリティ)をはじめとする変動費」の対象となると述べた。
それに加えてWMGとユニバーサルミュージック・グループ(以下、UMG)は先日、VRフィットネスゲーム「Supernatural」とのライセンス契約を締結したばかりだ。「Supernatural」とは、Facebookの子会社が開発したVRハードウェア「Oculus」を通じて「世界でもっとも美しい場所を全方向から捉えた映像」の中でフィットネスが楽しめるゲームだ。同ゲームのBGMには、リゾをはじめとする人気アーティストの楽曲が含まれているため、WMGとUMGには、同ゲームが掲げる毎月19ドルのサブスクから収入が入ることになる。たかがニッチ製品じゃないか、とあなどってはいけない。全世界のフィットネスサブスク市場は、はやくも230億ドル(約2兆3900億円)を超えているのだ。
ビデオゲームも忘れてはいけない。ビデオゲームは、もっぱら話題になったトラヴィス・スコットとフォートナイトのライブのみならず、1億5000万人を超える月間アクティブユーザーを抱えるオンラインゲーム「ROBLOX」でのリル・ナズ・Xの話題のオンラインライブ(330万人が視聴)などを通じて今年のイノベーションを加速させた。一部の予測によれば、全世界のゲーム市場は2025年までに年間3000億ドル(約31兆円)を超える金額を生み出す見通しだ。音楽事業を一括りにした市場が現時点で生み出しているのは、この数のおよそ6パーセントである。著作権使用料やアーティストとのパートナーシップという形でゲーム業界の収入の一部にありつけるだけでも、大金が棚ぼた式にWMGのような会社に転がり込むはずだ。
11月の電話会議でクーパー氏がこうしたことを念頭に置いていたことは間違いない。「コロナ禍においても希望が持てる何かがあったとしたら、それは私たちの長期的視点を再修正し、変化のペースを加速させ、私たちの地位を確立し、かつてないほど力強くパンデミックから立ち上がるチャンスが与えられたことです」。
著者のティム・インガムは、Music Business Worldwideの創業者兼発行人。2015年の創業以来、世界の音楽業界の最新ニュース、データ分析、雇用情報などを提供している。ローリングストーン誌に毎週コラムを連載中。
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