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ローリングストーン誌が選ぶ、2020年の年間ベスト・ムービー20選

Rolling Stone Japan / 2020年12月16日 20時15分

ローリングストーン誌が選ぶ、2020年の年間ベスト・ムービー20選(David Lee/HBO; Amazon Studios; Searchlight Films; Kerry Brown/HBO; Amazon Studios)

米ローリングストーン誌が2020年の年間ベスト・ムービーTOP20を発表。昔日のハリウッドを称えるモノクロ映画からレゲエ一色の作品、さらにはルーマニアのドキュメンタリーまで、2020年の最高傑作を紹介。

2020年は、私たちが思っていたような1年ではなかった。豊作のサンダンス映画祭、『パラサイト 半地下の家族』のアカデミー賞受賞という歴史的快挙、2019年に世界各国の映画祭で話題になった数々の良作の一般公開など、2020年はこうしたハイライトとともに幕を開けた。映画館はスマホでメールを送ったり、おしゃべりをしたりする迷惑な人たちであふれていたが、営業はしていた。ダニエル・クレイグのジェームズ・ボンド卒業作、クリストファー・ノーラン監督が放つ最新の難解IMAXスリラー、ウェス・アンダーソン監督による昔日のジャーナリストたちへのオマージュ、ビートルズの「Let it Be」のレコーディング模様を描いたピーター・ジャクソン監督によるドキュメンタリーなどを心待ちに、私たちはマーベルの新作、公開延期になった『トップガン』の続編、『ゴーストバスターズ』の続編3作目の公開を期待(と不安)とともに待っていたし、春のカンヌ国際映画祭の受賞作と、それに続くベネチア、テルライド、そして秋のトロント映画祭のラインナップは何かと予想を立てた。ケリー・ライヒャルト監督の『ファースト・カウ』に出演した牛のイヴは、最優秀助演女優賞候補と見なされるべきなのか? それとも、最優秀主演女優賞的な賞のほうがふさわしいのか? と私たちは議論を交わした。

そして2月末から3月初頭にかけて、まるでさまざまなノイズが入り混じったサウンドトラックに埋もれるかのように、ウイルス性感染症がアジア、ヨーロッパ、そしていまやアメリカでも危険なスピードで拡大していると報じるニュースキャスターのかすかな声が聞こえてきた……

この続きは、誰もが知るところだ。映画の公開は、終わらない椅子取りゲームのように次々と延期になり、シネコンのような公共空間は犯罪現場のように見なされ、映画とテレビ番組の製作は一時停止し、劇場の大きなスクリーンで公開を予定していた映画スタジオは、家庭のテレビへと公開の場を切り替えた。劇場体験の救世主と期待されたノーラン監督の『TENET テネット』は、結果的には大ヒットしたものの、アメリカ人たちがステイホームを続けるなか、テーラードスーツに身を包んだ男たちが爆発から逃れようとする姿を描いた、空間と時間がテーマの難解なスリラー作品が空っぽの劇場で上映されたからといって、これが本当の意味での”劇場公開”と言えるのだろうか? いくつかの映画は、公開が夏に延期され、それが夏の終わり、さらには初冬、そしてとうとう2021年まで延び、世界がロックダウンへと向かうにつれて、人々は”公開日未定”の映画のことなど気にかけなくなった。それでも、映画館での映画鑑賞を愛する人たちや、館内の照明が落ちはじめるときの気分を無性に恋しく感じる人たちにとっては、行きつけの映画館がずっと閉まったままであるという状態は、2020年がもたらしたもうひとつの犠牲でもある。

>>関連記事:社会現象級の大ヒット、ノーラン監督の超大作『TENET テネット』に世界が熱狂する理由

だからといって、2020年には優れた映画はなかったというのはまったくの間違いだ。実際、幸運にも私たちが観ることができた映画の中には、良作がたくさんあった。結果として私たちは、こうした映画をバーチャル映画館やVOD(動画配信サービス)、そしてもちろん、遍在的なストリーミングサービスを介して視聴したのだ。映画は存在していた——作品の中には、昨年の公開からずれ込んだもの、ロックダウン前に製作を終えたもの、極めて困難な状況下でも完成にこぎつけたものなどさまざまだったが。前向きなライブ映画からダンスパーティによる魂の救済を描いた作品、ルーマニアのドキュメンタリーから南米グアテマラの幽霊物語、さらには昔日のハリウッドを振り返るモノクロ映画や、鮮明な色彩が特徴的な、植民地主義に対する扇動的な復讐劇にいたるまで、2020年のベスト・ムービー・トップ20を紹介する。

>>2020年ベスト・ムービーランキングリスト一覧を読む


20位『Mank/マンク』

Photo : Gisele Schmidt/NETFLIX

19位『The Assistant(原題)』

Photo : Bleecker Street Films

18位『ラ・ヨローナ〜彷徨う女〜』

Photo : Shudder Films

17位『ボーイズ・ステイト』

Photo: Apple+TV

16位『She Dies Tomorrow(原題)』
Photo: Jay Keitel

15位『ヴァスト・オブ・ナイト』

Photo : Amazon Films

14位『La Nuit des Rois(英題:Night of the Kings)』

Photo : Neon Films

13位『もう終わりにしよう。』

Photo : Mary Cybulski/NETFLIX

12位『Beanpole(英題)』

Photo : Liana Mukhamedzyanova

11位『タイガーテール -ある家族の記憶-』

Photo : Sarah Shatz/Netflix


10位『ノマドランド

Photo : Courtesy of Searchlight Pictures

21世紀の全米退職者協会(訳注:高齢者による世界最大の非営利団体、略称AARP)時代の移民を描いた米ジャーナリスト、ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション作品『ノマド 漂流する高齢労働者たち』を取材したクロエ・ジャオ監督の『ノマドランド』は、ファーン(フランシス・マクドーマンド)という女性に主に焦点を当てた、コミュニティの性格描写的作品だ。未亡人のファーンは、リーマンショックによる企業倒産の影響で住み慣れた町が閉鎖に追い込まれたため、”ノマド(遊牧民)”として車上生活を送ることになる。トレーラーハウスで暮らす旅の仲間たち——彼らのほとんどは本物のノマド——とともにファーンは、時おり車を止めてはそこで働き、また次の現場あるいはトレーラーハウスの駐車場がある場所を目指しながらアメリカを横断する。神聖に近い優しい眼差しを登場人物たちに向ける『ノマドランド』は、教訓主義とは一切無縁の旅行記であり、観察力の鋭いこのドラマは、『ザ・ライダー』(2017)の監督と脚本を手がけたジャオ監督のレベルアップの証であると同時に、伝説的女優マクドーマンドの才能を見事に見せつけ、劇中の人物が映画スターであることを終始忘れさせる。同作は、根無し草というライフスタイルと社会破綻という大々的な出来事がどういうわけか、特定の人たちにとっては個人の解放へとつながっていく様子を極めて豊かに描いた作品だ。だからといって、同作が改革の言い訳として景気後退を推奨するようなことは決してない。それは、現実世界の放浪者と観る人の知性に対してあまりに深い敬意を抱いているからだ。(日本公開:2021年3月26日)



9位『マーティン・エデン

Photo : Kino Lorber

1970年代のイタリアの幻の名画のようなタイトルの『マーティン・エデン』は、鍵がかかった地下室で何十年にわたって埃が積もるままになっていたところを見出され、3本立て上映としてイタリアの映画監督の故ヴィットリオ・デ・シーカと故フランチェスコ・ロージの作品に挟まれたような印象を与える。だが、米作家ジャック・ロンドンの1909年の小説をピエトロ・マルチェッロ監督が映画化した『マーティン・エデン』は芸術——あるいは極めて控えめに言えば、過ぎ去った時代を描いた本の段落を切迫したポストモダン映画に変えること——に対する信頼をふたたび持たせてくれるタイプの映画だ。主人公マーティン(俳優ルカ・マリネッリは同役をきっかけにブレイク)が労働者階級の船乗りから作家に転身し、やがては文学界屈指の浪費家となるにつれて、観る人は、マーティンの欲望の対象である上流階級の娘エレナ(ジェシカ・クレッシー)、名声、富、きらびやかな場での居場所、政治的主張、そしてやがてはひとりにされることに対するマーティンの渇望を明確に感じる。それだけでなく、マルチェッロ監督は淡い色彩のドキュメンタリー映像とイタリアのネオレアリズモ映画の全盛期を彷彿とさせるいくつかの描写を加えることで、同作にさらなるテクスチャーを加えている。(日本公開:9月18日より公開、現在も一部映画館で公開中)



8位『ディック・ジョンソンの死

Photo : NETFLIX

『ディック・ジョンソンの死』というよりは、ゆっくりと死にゆく認知症のディック・ジョンソンという表現のほうが正確かもしれない。そこでキルスティン・ジョンソン監督は、親孝行娘にふさわしく、父ディックを主人公にした映画をつくる。言い忘れていたかもしれないが、このドキュメンタリーは、エアコンの落下、当て逃げ事故、致命的な心停止といったヤラセの死亡シーンにあふれているのだ。『ディック・ジョンソンの死』は、死をテーマにした歴代映画の中でももっとも快活で高揚感に満ちた作品かもしれず、それと同時に、カメラを構えている人たちとオーディエンスの両方にとってのカタルシス的な行為でもある。ぞっとするニセの死亡シーンを撮影してジョンソン監督が来たる父の死に備えれば備えるほど、観る人は、本当は平凡な日常を称えるものである同作の背後にある愛と優しい感情を強く感じる。高齢のディックが頸動脈を”刺される”シーンやピエール・エ・ジル(訳注:フランスのアーティストデュオ)ばりの天国のようなセットで繰り広げられる有名なタップダンサー、紙吹雪、腹を立てたキリスト像のシーンは必見だ。(日本公開:なし、Netflixにて放映中)



7位『Minari(原題)』
Photo : Josh Ethan Johnson

映画のタイトルになっている”ミナリ(訳注:日本語ではセリ)”とは、数々の韓国料理で使われる多年草で、独特の強い香りと歯触りを失わずにどこでも栽培できる野菜だ。韓国系アメリカ人として1980年代に米南部アーカンソー州で成長したリー・アイザック・チョン監督(『Munyurangabo(原題)』で2007年に長編監督デビュー、『君の名は。』(2016)ハリウッド実写映画版の脚本・監督)自身のストーリーを題材とした『Minari(原題)』は、成長物語にはストーリーの語り方はもとより、そこにどのような出来事を盛り込むかがいかに重要であるかを改めて気づかせてくれる作品だ。大望を抱いてカリフォルニア州からアーカンソー州に一家で移り住む移民(「ウォーキング・デッド」スティーヴン・ユァンの名演が光る)は、小農場を立ち上げようと奮闘するが、その過程で家族の絆がほころび始める。移民の妻(ハン・イェリ)、高齢の義母、ふたりの子どもたちは、見知らぬ土地での経験に各自対処しなければならない。来たる勝利や悲劇に対する広い視点をもたらしてくれるのは、チョン監督自身でもあるデイヴィッド(アラン・キム)という7歳の少年だ。無数の装飾音が織りなす実話にもとづいた同作は、素晴らしいキャストと知恵という恩恵を通じて過去を振り返る優しい感覚により、やわらかな作品に仕上がっている。(日本公開:未定)



6位『タイム

Photo : Amazon Studios

銀行強盗の罪で夫が刑務所に入れられた後、フォックス・リッチは、白黒のビデオ日記的なものを撮りはじめた。当時リッチの息子は4歳で、彼女は双子を妊娠していた。その後、20年にわたってリッチは子どもたちを立派な青年に育て、ベストセラー作家となり、回想録の書き方について多人数講義を行い、刑務所改革を掲げる活動家としての地位を確立した。さらに彼女は、夫を終身刑から解放するために献身的に働いた。ひとりの女性の意識の流れを辿るギャレット・ブラッドレイ監督のドキュメンタリー『Time(原題)』は、リッチがビデオカメラで自ら撮影した映像を取り入れることで、アメリカで横行していた大量投獄がすべての関係者に強いる犠牲を親密かつ唯一無二の方法で描いている。だが、同作は登場人物を一種のケーススタディとして扱ったり、リッチの家族の道のりを犯罪ストーリーに焦点を当てたテレビ番組のように扱ったりはせず、時間の経過、刑期、誰も待ってくれない時間など、”Time”というタイトルが持つ無数の意味の極めてパーソナルな解釈を提示することに留まる。これ以上エモーショナルにはならないだろうと思ったところで同作は、手品のようなトリックだったかもしれないものを失われたものを魔法のように取り戻す優れた方法に変えてみせる。ひとえに素晴らしい作品だ。(日本公開:Amazon Primeにて放映中)


5位『バクラウ 地図から消された村

Photo : Kino Larber

ブラジルのプロデューサー、ジュリアーノ・ドルネレスとクレベール・メンドンサ・フィリオ監督が放つ、はやくも現代のアートハウス系映画の名作と目されるウエスタン/ホラー/バイオレンス映画『バクラウ 地図から消された村』は、文字通り地図から抹消されたバクラウという田舎の村の善良な(そして善良とは言えない)住民たちを描いた作品だ。バクラウは、ほぼ一夜のうちにインターネットの地図上から姿を消した。どうやら、人間を獲物に見立ててスポーツハンティングを楽しもうと高いカネを払う観光客に地元の政治家が住民を売り渡したようだ。だがこの獲物は、反撃者としての長い歴史を持っている。富める者がますます富み、貧しき者が真実を知る様子を描いた米作家リチャード・コネルの短編小説『The Most Dangerous Game』にマイナーチェンジを加えたようなこの暴力的なネオ・エクスプロイテーション映画ほど、武器を取れ! と人々に呼びかけるカタルシス的な作品は存在しない。鋸歯状のエッジと血で血を洗う暴力を大量に投入した風刺の結果が『バクラウ 地図から消された村』なのだ。帝国主義、資本主義、醜いアメリカ人、主演者のひとりである俳優ウド・キアに対する人々の怒りが頂点に達し、これらすべてを拒絶する時の怒りが描かれている。おまけに同作には、カッとなりやすくもチェ・ゲバラのハートを持つ村のドクター役として名女優ソニア・ブラガも出演している。(日本公開:11月28日より公開中)



4位『ファースト・カウ』

Photo : Allyson Riggs/A24

アメリカに移植した白人が北米全土を開拓するのは天から与えられた宿命である、と説く自明の宿命説をDマイナー調で描いた、ケリー・ライヒャルト監督の物悲しく陰鬱なウエスタン映画『ファースト・カウ』は、”クッキー”という名の料理人(ジョン・マガロ)が中国系移民のキング・リュ(オリオン・リー)とタッグを組んでビジネスを始めるというストーリーだ。クッキーが作る”オイリーケーキ”は天下一品だと、その評判は何マイル先にも知れ渡っている一方、リュはふるさとの味が恋しくてたまらない、腹を空かした金探鉱者や毛皮商人たちに売り込む方法を心得ている。『ファースト・カウ』は、アメリカの辺境が舞台の資本主義のサクセスストーリーではあるが、クッキーとリュのビジネスは覇気のない英国人(トビー・ジョーンズ)が所有する牝牛から盗んだミルクのおかげで成り立っている。ライヒャルト監督が描くアメリカの過渡期は、うわべの極上の美しさ、控えめさ、繊細さゆえに、観る人は、ストーリーに潜む少年ダビデ対巨人ゴリアテというディスラプティブな構図を見逃してしまうかもしれない。企業国家アメリカがすでに噴き出そうとしているのだ。弱者にチャンスなんてない。「ここにはまだ歴史はないけれど、やがてはつくられる」とリュは言い張る。「その時は、僕らも準備ができているかもしれない」。もし歴史が何かを証明したとしたら、それは、たとえ水平線上にそれがちらりと見えたとしても、私たちは決して準備などできないということだ。(日本公開:未定)



3位『American Utopia』

Photo : David Lee/HBO

デヴィッド・バーンの大ヒットミュージカル『American Utopia』は、2019年11月から2020年2月にかけてブロードウェイで上演された。生で舞台を観られなかった人も、心配しないでほしい。そんな人たちのために、スパイク・リー監督が同作を映画化したのだから。そしてトーキング・ヘッズのライブ映画『ストップ・メイキング・センス』(1984)を手がけたジョナサン・デミ監督同様、リー監督はトーキング・ヘッズの元フロントマンと一緒に仕事をするチャンスを”再生”ボタンだけを押すドキュメンタリーとしてではなく、アーティスティックなコラボレーションとして活用した。上下左右はもちろん、バックステージをはじめ、ハドソン・シアターのトイレを除くすべての場所に設置されたカメラの映像で映画の幕を開けるリー監督は、シンガーやステージ上のグレースーツ姿のパフォーマー、あるいは彼らを取り巻く視覚的なスライドショーといったこのプロダクションの一部でもある(バーン&Coによるジャネール・モネイの「Hell You Talmbout」のカバーを強調することでリー監督は、すでに見事な同作にさらなるパンチを効かせている)。リー監督の『American Utopia』がオリジナルのブロードウェイ作品の親密さを維持している点は、監督の手腕とクリエイターによる手堅いハイ・コンセプトなステージプレゼンテーションを証明している。バーンと多文化クルーが賑やかなマーチングバンド・バージョンの「Burning Down the House」を披露する姿は——彼らが見せた目がくらむような連帯感は、まさにいまの時代に必要とされているものだ——観る人を号泣させるのに十分だ。今年、映画館で2番目に楽しい時間を筆者に与えてくれた『American Utopia』は、正典と呼ぶにふさわしい作品である。(日本公開:未定)



2位『Lovers Rock(原題)』

Photo : Parisa Taghizedeh/Amazon Studios

今年、映画館でもっとも楽しい時間を筆者に与えてくれた作品を紹介しよう。その作品とは、1960年代後半から80年代初頭のロンドンの黒人たちの生活と西インド系移民コミュニティを描いた5作品から成るスティーブ・マックイーン監督の野心的な「Small Axe(原題)」だ(これはアンソロジーシリーズ? それとも長編作品が織りなす組曲? あるいはデザートのトッピング的なものなのだろうか? この点については、ぜひ延々と議論していただきたい)。同シリーズを構成している各章は、レストランのオーナーと顧客に対する警官の暴力(『Mangrove(原題)』)からサッチャー政権下のパブリック・スクール制度に対する激しい批判(『Education(原題)』)にいたるまで、さまざまなテーマを取り扱っている。だが、その中でも傑出しているのが”ブルース”パーティを描いた2番目の作品『Lovers Rock(原題)』だ。劇中では、ウエスト・ロンドンのアパートの室内でブースを設置するDJやジャマイカ料理を作る女たちが映し出される。そこでは、マーサ(アマラ・ジェセント・オービン)が窓から抜け出して女友達と落ち合ってパーティの準備をしたり、フランクリン(マイケル・ワード)という青年がパーティに来たマーサとちょっとしたおしゃべりをしていちゃついたりし、労働者や未来のカサノヴァたちがレゲエの調べに合わせて踊りだす。そこにジャネット・ケイの「Silly Games」がかかると、マーサとフランクリンは他の十数組のカップル同様、ゆったりと踊りながら一緒に歌う(ここでオーディエンスの脳内にエンドルフィンが大量に放出される)。マックイーン監督が贈る、喜びと感動に満ちたこの傑作は、ムードを演出したり、過ぎ去った瞬間を思い出させたりする点では右に出るものはなく、ひとえに卓越した方法で音と視覚を使っている。混み合ったダンスフロアに自分もいて、そこにいる人たちと一緒に汗を描きながら体を揺らしたり、飛び跳ねたり、すべてのことを忘れてコミュニティのグルーヴを体感しているかのような感覚にしてくれるのだ。

1位『Colectiv(英題:Collective)』
Photo : Magnolia/Participant

2015年3月15日、ルーマニアの首都ブカレストのColectivというナイトクラブで火災が発生し、27人が死亡、180人が負傷した。この火災をきっかけに国民の怒りが噴出してデモが実施され、政権交代が行われた。その後、病院で怪我から徐々に回復していたナイトクラブのパトロンの数人が死亡したという知らせがスポーツ紙のジャーナリストの耳に届く。ジャーナリストと彼の調査報道記者のチームが事件をもう少し掘り下げようと決意するや否や、権力、腐敗、嘘、さらにはマフィアをめぐる巨大なスキャンダルの存在が浮き彫りになる。2000年代後半から注目されるようになったルーマニア映画のニューウェーブを追ってきた映画ファンにとって、アレクサンダー・ナナウ監督のドキュメンタリー『Colectiv(英題:Collective)』は、フィクションを題材とした人間ドラマや希望のないブラックコメディに事欠かないルーマニア映画のお供にうってつけのノンフィクション作品だ。そうでない人たちには、政権腐敗が暴かれていくプロセスを描いた同作は、会議室のテーブルを囲んでの緊張感に満ちた会話、パソコン画面にかじりつく記者たち、もっと説得力のある記事にしろ! とデスクの向こうから命令する編集者といった光景が繰り広げられる『大統領の陰謀』(1976)や『スポットライト 世紀のスクープ』(2015)などの作品のドキュメンタリー版と言えるだろう。

『Colectiv』は、あなたが同作をいつ観たかにかかわらず、素晴らしい作品である(昨年、映画祭で上映されたことを機に早い段階から口コミで話題になり、最終的に配給が決まった)。だが、2020年のこの時期に同作を観るのは、もっとも深遠な方法で世界を振り返ることでもある。同作は、危機的状況下で国民に手を差し伸べられない国のストーリーであり、懐を豊かにすることと権力にしがみつくことを優先する政府の寓話である。人々の敵と見なされるのではなく、賞賛されたジャーナリズムのストーリーでもある。さらに同作は、エンディングで”Collective(集団)”というタイトルがまったく別の意味を持つ作品でもある。何かを成し遂げるには、人々が団結しないといけないということを同作は思い出させてくれる。まさに数は力なのだ。

>>関連記事:ローリングストーン誌が選ぶ「2019年ベスト・ムービー」トップ10



20位『Mank/マンク』
19位『The Assistant(原題)』
18位『ラ・ヨローナ〜彷徨う女〜』
17位『ボーイズ・ステイト』
16位『She Dies Tomorrow(原題)』
15位『ヴァスト・オブ・ナイト』
14位『La Nuit des Rois(英題:Night of the Kings)』
13位『もう終わりにしよう。』
12位『Beanpole(英題)』
11位『タイガーテール -ある家族の記憶-』
10位『ノマドランド』
9位『マーティン・エデン』
8位『ディック・ジョンソンの死』
7位『Minari(原題)』
6位『タイム』
5位『バクラウ 地図から消された村』
4位『ファースト・カウ』
3位『American Utopia』
2位『Lovers Rock(原題)』
1位『Colectiv(英題:Collective)』

>>2020年ベスト・ムービーランキング 20位からもう一度読む

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