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THE ORAL CIGARETTES鈴木重伸が語る、バンドのリーダーとしての軌跡

Rolling Stone Japan / 2020年12月29日 17時0分

Rolling Stone Japan vol.10掲載/Coffee & Cigarettes 19| 鈴木重伸(THE ORAL CIGARETTES)(Photo = Mitsuru Nishimura)

音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。繊細なギターフレーズとストイックなプレイスタイルでTHE ORAL CIGARETTESの音楽にフックを与え続けるギタリスト・鈴木重伸。タバコによってもたらされた「人と人が語り合う時間」。そして、アリーナツアーを開催するまでに成長したバンドのリーダーとして、ひとりの人間として成長してきた軌跡を追った。

Coffee & Cigarettes 19 | 鈴木重伸(THE ORAL CIGARETTES)

※本記事は、Rolling Stone Japan vol.10(2020年3月25日発売号)に掲載された記事です。

すらりと細長い指でタバコに火を点ける。その指の美しさがそのまま、彼の生み出すギターフレーズの繊細さに重なる。THE ORAL CIGARETTESのギタリスト・鈴木重伸。豪胆なライブパフォーマンスの印象が強いTHE ORAL CIGARETTES(以下オーラル)だが、その実、彼らの楽曲の強烈なフックになっている歌心に満ちたギタープレイには、職人的な鍛錬とバンドの屋台骨としての自覚が感じられる。このストイックなスタイルを生み出した原点とはなんなのだろうか。

「ギターに本格的に触り始めたのは、高校の軽音楽部の頃。母親のアコギが昔から家にあって弾いたことがあったから、ギターをやってみただけで。最初は本当になんとなくでした。当時は音楽を深く掘るわけでも、ライブに通うわけでもなかった。オーラルを通して音楽にのめり込んできたし、自分の人間性すらオーラルに変えてもらったと思っているんです。昔の僕はずっと自分を卑下しているところがあったんですよ」

オーラルのリーダーでもある鈴木から、意外な言葉が漏れる。その人間性すら変えてくれたと語るメンバーとの出会いは彼自身にとっても驚きと困惑が入り混じるものだったという。

「ヴォーカルの(山中)拓也と幼馴染で、しかも同じマンションに住んでたんですよ。ただ、すごく親しいわけでもなかったし、属しているグループも違って。拓也はファッションにしても音楽にしても、僕らより数年先を行っている存在で、どんな場所でも前に立てる人だったんですね。それと自分を比べて、僕はああいう存在にはなれないと勝手に思い込んでいたんです。コンプレックス……と言ったら大げさかもしれないけど。だから、拓也が最初に組んでいたバンドが解散してオーラルを始めるタイミングで急に誘われた時にはびっくりしました。なんで俺?って。その疑問と、拓也やあきら(Ba)に追いつけない焦りと申し訳なさは、メジャーデビューするくらいまでずっと引きずっていましたね。だからこそ自分にできることはなんなのかを考えて、コードやスケールの理屈がないならメロディを強くしようと。それが偶然、人に特徴的だと言われるフレーズになっていったんです」


Photo = Mitsuru Nishimura

人と自分を比べて、自分の至らなさに俯く――そんな感覚を、バンドメンバーである以前に幼馴染である山中に対して抱いていた鈴木。そんな中でも必死に自分だけの武器を見つけようともがいた軌跡が、ストイックにメロディを弾き倒す彼のユニークネスに直結したのだ。そして今や、オーラルになくてはならない「もうひとつの歌」として確固たるポジションを築き上げている。「自分は未だに根暗なので」と半ば自嘲気味に笑いながら語る鈴木だが、その言葉とは裏腹に、直近の楽曲ではさらに堂々としたサウンドを聴かせるようになった。オーラルは昨年ベスト・アルバムをリリースし、第二章へのリスタートを切ったタイミングだ。直近の楽曲は以前よりさらに豊かなバリエーションを誇るようになったバンドの進化にあたって、鈴木の成長が大きな要素だったことは言うまでもない。


「それこそ当初はイントロのフックを任されている意識でしたけど、今は自分のフレーズを押し出すことだけが重要ではないと思うようになりました。逆に言えば、『このフレーズが俺の武器だ』って自覚すると、何も武器がないと思っていた時期が長かったからこそ意固地になったりもしてたんですよ。『いやいや、アドバイスなんか聞かないよ』って。でも今は、バンド4人で楽曲のベストの形にたどり着くことを考えるのが楽しいと思える。アドバイスもありがたいと思えるし、自分からいろんな音楽を聴いて素直に吸収できるんです。それが自分の変化だと思いますし、オーラルを続けてきたからこそお互いを理解できて、尊敬し合えるようになったことの表れだと思うんですよ」

バンドとは、ただ複数人が音楽を共に鳴らす型のことではない。人と人がお互いを信頼し、時には頼り合い、自分自身の至らなさを埋めてくれたり時には叱ってくれたりする人間同士の絆の名前が「バンド」なのだとあらためて実感する。何より自分自身を信じられていなかった過去を告白してくれた鈴木にとって、「追いつくべき存在」だったメンバーが「仲間」だと実感できた瞬間は何にも代え難い喜びと幸せだっただろう。落ち着いた口調を崩さないまま、しかし心底今が一番楽しいという実感が表情から感じ取れる。タバコを美味そうに吸いながら、彼はさらにこう続ける。

「自分を縛っているのは自分だったと気づいてきた道のりだった気もするんです。メンバーそれぞれと時間を共にしてきたことで、誰も僕を下になんて見ていなかったと気づいた。ちゃんと信頼してくれていたんだなって……誰かに比べて自分はダメだって言い訳をして、そのくせ周りに文句ばっかり言ってるヤツだったんですよ、僕は。だけど今は堂々とライブができているし、『こいつらと一緒にライブができることが楽しい』って素直に思える。その楽しみを守り続けることが、唯一のこだわりなんです。今僕が持っているものはすべてオーラルがもたらしてくれたから。他のメンバーにとっても、このバンドが『いつでも帰ってこられる場所』になるように。その環境を守り続けることがリーダーとしての役割だと思ってるんですよね。何があってもこのバンドだけは続けて行きたいんです。4月にリリースするアルバムも、純粋に『この曲をライブでやるのが楽しみだ』っていう気持ちで作れたので。楽しみにしていてほしいですね」

メジャーデビュー5周年を飾る野外主催イベント『PARASITE DEJAVU』を同年代のバンドたちに囲まれて成功させられたこと。過去最大規模のアリーナツアーを重圧としてではなく「この4人で鳴らせることが楽しい」という感覚で素直に楽しめたこと。それらも、自分で自分自身を信じ、仲間を疑うことなく真正面からぶつかっていくための自信に繋がったのだという。「人に合わせるんじゃなく、自分の価値観に胸を張れば楽しいことがたくさん見えてくる。それを伝えたいんです」とまっすぐな目で伝えてくれた鈴木。その「信頼」の地平に立った今だからこそ思うオーラルの面白さとは、彼にとってどういうものなのか。


「今のオーラルの面白さ……何をしでかすかわからないってところじゃないですかね(笑)。ビジネス的なセンスを持っている人間もいれば、流行に敏感な人間もいる。コアな世界を知っている人間もいる。良くも悪くもバラバラな個性が集まったバンドでしたけど、『悪くも』の部分を抜いてポジティブな気持ちだけで動けてるのが今なんですよ。………本当に、今が一番楽しい。人見知りは変わらないんですけど(笑)、だけど確実に人に対しての接し方も真っ直ぐに変わってこられた気がするので」


Photo = Mitsuru Nishimura

その言葉通り、真っ直ぐな視線を逸らすことなく語ってくれた鈴木。途切れることなくタバコを吸い続けている姿も印象的だったが、彼が人と共に過ごす時間において、タバコの存在はこちらが思う以上に大きかったという。

「よく言う『喫煙所でのコミュニケーション』って、本当にあるじゃないですか。ライブハウスのスタッフさんたちとも、喫煙所でくだけた会話をすることで仲良くなれたことが多いんです。だから面白いのはね、家でひとりの時は全然タバコを吸わないんですよ(笑)。……やっぱり人見知りの自分が人と繋がるための緩衝材がこれ(タバコ)だった。元々は暗かった自分が人となんとか会話するために手に取ったものがタバコだし、音楽だったんでしょうね。これからも頼ることになるやろうなあ(笑)」

人と人を繋ぐものを探し求め、闘い続けた鈴木の軌跡。それはそのまま、人と人の繋がりの難しさと愛しさ、両方を表している。

鈴木重伸
2010年に奈良にて結成されたロックバンド、THE ORAL CIGARETTESのギタリスト。歌心溢れるギターフレーズを武器に持ち、バンドのリーダーも務める。2018年末から初のアリーナツアーを開催し、2019年にメジャーデビュー5周年を迎え、大規模野外イベント『PARASITE DEJAVU』を開催。2020年4月には5thアルバム『SUCK MY WORLD』のリリースと二度目となるアリーナツアーを控える。


『SUCK MY WORLD』
A-Sketch 発売中


"Interactive Movie「ORALIUM」"の映画館上映&配信が決定

<映画館上映>
2021年1月16日(土)13:00 / 19:00・17日(日)13:00 / 16:00 *本編のみ
2021年1月18日(月)19:00 *舞台挨拶+本編

<配信>
2021年1月17日(日)13:00 / 16:00 *本編のみ
2021年1月18日(月)19:00 *舞台挨拶中継+本編
※配信の詳細は後日発表。
※映像は、映画館・配信メディアともに同一。

<特設サイト>
https://theoralcigarettes.com/feature/oralium

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