NYの救急救命士「私が生活費のためにヌード写真を公開した理由」
Rolling Stone Japan / 2020年12月24日 6時45分
12月12日、米ニューヨーク・タイムズ紙はニューヨーク市でCOVID-19のパンデミックと闘う23歳の救急救命士、ローレン・クウェイさんの記事を掲載した。
救命士の給料だけでは食べていくことができないので、日々の生計を立てるためにクウェイさんはセックスワーカーの間で人気のサブスクリプション型プラットフォーム「OnlyFans」にアカウントを立ち上げて、家計の足しにした。ニューヨーク・ポスト紙のディーン・バルサミニ記者とスーザン・エデルマン記者が書いた記事は、救命士としてフルタイムで働きながら裸の写真をSNSにアップするとはプロ精神に欠けるのではないか、という主旨だった。この記事のせいで自分の評判に傷がつき、解雇されるのではないかとクウェイさんは考えた。「穴があったら入りたい気分でした」と彼女はローリングストーン誌に語った。
だが実際はそうはならなかった。人気Podcastのファン専用Facebookページが彼女の弁護に回ると、ソーシャルメディア上では大勢がクウェイさんを支援し、ただ生活費を稼ごうとしている人を槍玉にあげたポスト紙を厳しく非難した(現在、彼女は勤め先のSeniorCareと面談を終え、仕事を続けられることになったそうだ)。アレクサンドリア・オカジオ=コルテス下院議員までもがTwitterでクウェイさんを支持し、その後直接電話までかけて団結の意を表明した。単にクウェイさんを辱めるために書かれたポスト紙の記事は期せずして、セックスワークと労働問題に関する現在進行形の議論の的となった。
「(2人の記者は)私の面目をつぶすためにあの記事を書きました」。5年前、18歳の時にウェストバージニア州からニューヨークに引っ越してきたクウェイさんはこう語る。「でも代わりに、ニューヨーク市の救急医療サービスのスタッフの給料が不十分で、大半の人が仕事を2つ3つ掛け持ちしたり副業したりして、世界一物価が高い街でなんとか暮らしている姿が明るみになりました。彼らは記事を書いたとき、私が売られた喧嘩を買うとは思っていなかったんでしょうね。私にも言い分があるとは思わなかったんでしょう。自分たちが相手にしているのか誰ないのか、わかっていなかったんです」
渦中のローレン・クウェイにインタビュー
ーまず、救命士になったいきさつを教えてください。
昔からずっとブロードウェイの舞台に立つのが夢でした。ずっとチーターガールズになりたいと思っていました。歌って踊って演技して、というのが夢だったんです。それでニューヨークシティに行って、アメリカン・ミュージカル&ドラマ・アカデミーに2年間通いました。ミュージカル舞台のプログラムを修了して、2017年からオーディションを受け始めたんですが、自分には向いてないと思いました。求められることが高いわりには、見返りが少ないんです。早朝4時に起きて、見た目も声も自分そっくりの600人の子たちと一緒にオーディションを受けるんですよ。出番はたった20秒。後日連絡します、と言われるけれど、絶対連絡は来ません。そのくせ、オーディションにかかった時間の分のお給料は出ないし、運よく役をもらえたとしてもせいぜい1週間の夕食代ぐらいしかもらえない。コネがすべて、愛想よくふるまうことがすべてなんです。私はそういうのには向いてないなと実感しました。でも何より大事なのは、自分が社会に十分還元できてないと思ったこと。父も母も医療従事者です。医療関係の家に育ったので、私にとっても自然の流れでした。2017年に救急医療技師の学校に入って、2018年には救急医療技師として実習を始めました。1年間はすごく楽しかったです。でも救命士のほうが給料もいいし、もっとすごい仕事ができるという話をを聞いて、救命士の学校に行くことにしました。
ー2020年2月に卒業して、いきなり救命士の仕事に就きましたね。パンデミック真っ只中のニューヨーク市で救命士としての仕事内容について、意外と知られていないことはどんな点ですか?
そうですね、救急医療の現場ではメンタルヘルスのことはあまり話題に上りませんね。蔑ろにされているわけではなく、なんとなく話題にしないという感じです。今年は3人、少なくとも3人、ニューヨーク市の救急医療スタッフが自殺していて、おそらくパンデミックの影響だと考えられています。1人は救急技師になりたての24歳の人で、消防署に勤務していましたが、働いて2~3カ月後には銃で自殺してしまいました。彼はいわゆる手も足も出ないと感じるところまで行ってしまって、必要な助けが得られず、結局死んでしまった。私たちも知らないだけで、そういう話はたくさんあります。救命士は常に死や悲しみを目にしていますから。私たちに求められているのは、次の現場に向かって仕事をして、週に30〜40時間働くことだけ。毎日同じことを繰り返し、1日に数人の患者が目の前で亡くなることもあります。とにかく気持ちを切り替えて、仕事を続けることが求められていました。
パンデミック中にキャリアをスタート
ー勤務中に亡くなった最初の患者さんのことを覚えていますか?
私個人が経験した亡くなった患者さんの状況はぱっと思い出せませんが、ご自宅から搬送するときのことが頭に浮かびますね。家族は救急車に同乗することも、病院内に入ることも認められなかったんです。ご家族の皆さんが、顔を合わせられるのはこれが最後になるのだろうか、と互いに見つめあう様子を思い出します。患者さんに「見舞客には会えません」と伝えたり、患者さんのご家族に「申し訳ないですが、病院までついていくことはできません」と伝える役を引き受けるのは、かなり堪えます。患者さんがその後どうなるか、私にはわからない。病院でどんな治療を受けるのかもわかりません。私が言えることは、私の救急車で、私の担架に横たわり、私がケアをしている間は、最善を尽くして患者さんを落ち着かせ、できる限り手を差し伸べることだけです。
ーそうした経験は、ご自身の精神状態にどんな影響を及ぼしましたか?
実は昔からずっとうつ病に悩まされていて、最近は不安症も抱えています。自分が元気じゃないと患者さんの世話をすることなどできないのは分かっています。だからすごく苦労しました。もともとすごく人に共感しやすい質なので、自分の救急車で人が亡くなるのを見るのは本当につらかった。でも感染者数はひたすら急増するし、大勢が亡くなって、誰も手の施しようがなかった。当時はルームメイトと一緒に住んでいたんですが、ほとんど顔も知りませんでした。さんざん働いた後、誰もいないアパートに帰ってひたすら泣きました。すごく淋しくて。その日自分が目にしたことは誰にも話せない、という気分でした。自分が無力に感じました。人が死んでいくのを見守るしかできないんだ、と。
パンデミック中にキャリアをスタートできたのは、幸運とも言えるし、呪いとも言えます。でも個人的には、そのおかげで強くなれたと思います。どれだけつらかったか、自分でもよく分かります。孤独感や無力感のせいで、今年に入ってから何度も自殺願望に悩まされました。ふと気づくと、こんなに傷ついたり悲しい思いをしてまで、なぜこの世に生きてなくちゃいけないんだろう?と考えたり。ニューヨーク市は世間から忘れ去られてしまったんじゃないか、政府からも忘れ去られ、自分たちだけ取り残されたような気分でした。
OnlyFansを知ったきっかけ
ー2019年11月にOnlyFansのアカウントを立ち上げましたね。OnlyFansを知ったきっかけは?
たぶん女友達の誰かかしら? とにかくすごく流行ってて、副業として稼ぐにはいい方法だと思いました。最初は偽名とかを使って始めたんですが、ろくにフォロワーがいなかったのでコンテンツを買ってもらうのはとても苦労しました。その時はなんだか隠し事をしてるような気分になりました。もともと隠し事するのは好きじゃないんです。そしたら、もうどうにでもなれという感じになったんです。影響があるかもしれないという事実も受け止めました。そういう可能性があるのは常にわかっていましたが、まさかここまでとは思ってもみませんでしたね。でも、仕事のほうに影響が出るとは思っていませんでしたし、けっこうなお小遣い稼ぎになっていたんです。本当にお金が必要な時には、助けられたこともあります。
ーヌード写真を投稿することに関して、乗り越えなくてはならないハードルはありましたか? OnlyFansを始める以前は、セックスワークについてどう考えていましたか?
ほぼ全てのことに関して、他人や自分を気ずついけない限り、好きなことをすればいい、というのが私の考えです。他人がとやかくいうことじゃない。同意の上で売春したいという人がいるなら、私も全面的に応援しますよ。最初のうちは、私もすごく神経質だったと思います――つまり正直なところ、お金のために身の安全や自分の体を危険にさらすことになると思うと、やっぱり落ち着来ませんでした。それに私はいつも慎重というか、もしかしたら、ということを気にするタイプでしたから。でもお金が必要だったし、どのみちポルノに走るような男性からお金をいただくには、これが手っ取り早い方法でした。
ー収入の足しにするという点では役に立ちました? 実際どのぐらい稼いでいたんですか?
ものすごく。具体的にいくら稼いでいたかを明かすのは気が引けますが、間違いなく助かった、と言っておきましょう。食費や家賃でお金が必要な時とか、家賃や光熱費などを払って銀行口座にお金が一銭も残ってないときとか。食費が足りなくなっても、ネットでヌード写真を売って稼いだ分で食費が賄えるんです。
大勢の医療従事者が副業をしている
ーご家族はこのことをご存知ですか?
母にはちょっとだけ話したことがあります。母とはすごく仲がいいので、打ち明けました。他人の口から耳に入るという風にはなってほしくなかったので。
ーどう伝えたんです?
たしか携帯メールを送ったんだと思います。「ねえ、知っておいてほしいことがあるの。ネットでヌード写真を売ってるんだ」 母からは「OK」「がっかりさせちゃった?」と返したら、「いいえ、愛してるわ」 だいたいそんな感じで終わりました。安全には気をつけてね、とだけ念を押されました。相変わらず母は私を愛してくれています。
ー医療分野で他にOnlyFansをやっている人をご存知ですか?
ええ、もちろん。私たちの国や医療制度の実情を表していると思うんですが、ますます大勢の医療従事者がOnlyFansや他のセックスワーク、その他の何らかの方法で副業するはめになっています。それはひとえに、自分たちが一生を捧げた仕事では生活費が稼げないから。個々の医療従事者に限ったことではなく、アメリカ全体について言える事だと思います。
ーOnlyFansをやることに関して、複雑な思いを抱えているように聞こえますが。
ええ、当然ですよ。主体性については相当悩みました。どうせなら必要に迫られて投稿するんじゃなく、自分がやりたいと思ったときに投稿したいなとも思いました。他人が望むものではなく、自分の好きなように自由にコンテンツを作りたかった。でも最終的には、自分はOnlyFansに投稿しなくちゃいけない理由があるんだと考えるようになりました。いやでしたけれどね。こういうことが起きる以前は、ついていくのがやっとで、ページを閉鎖しようと思ったこともありました。主な収入源というわけでもないし、私がやりたいことでもありませんでしたから。私がなりたいのは救命士。全力を注いでやるようなものじゃない。だから、やむにやまれずという感じだったと思います。
ーどうしてポスト紙があなたの記事を掲載することがわかったんですか?
ディーン(ニューヨーク・ポスト紙のバルサミニ記者)がInstagramにメッセージを送ってきて、取材させてくれないかと言ってきたんです。どんな話題かと尋ねたら、電話で詳しくお話しします、と言われました。それで電話がかかってきて、いきなり私の過去とか経歴とか矢継ぎ早に質問してきました。それで、私も無知だったので、パンデミック中の救命士について記事を書きませんか、という依頼だと思ったんです。私が簡単に自己紹介を終えると、彼はその時初めて、ニューヨーク市の救命士がOnlyFansをやっているという情報がニューヨーク・ポスト紙にありましてね、と言いました。ものすごくビックリして、電話で反論し始めました。私の許可なくこの話を記事にするなどできませんよね、と言ったら、いやできますよ、と彼は答えました。あなたが取材に応じようと応じまいと、どのみち記事を掲載するつもりです、というようなことを言われました。なので、記事に出てくる私の言葉は彼に反論している時のもの。必ずしもインタビューを受けたわけじゃないんです。
会社との話し合いの結果、クビは回避
ー誰がポスト紙に情報を流したか、思い当たるふしはありますか?
さっぱりです。
ーどのみち記事を掲載すると言われたとき、頭ではどんなことを考えていましたか?
仕事をクビになるんじゃないかとすごく心配になりました。本名を表に出していたので、ニューヨーク市じゅうの救急医療の会社が私をブラックリストに載せて、二度と雇ってもらえないんじゃないか、と思いました。ここまで来るのにたくさん苦労したのに、この男にとって私はただのセックスワーカーの1人にすぎないんだ、私がこれまで何をしてきたか、何を成し遂げてきたかなんてどうでもいいんだ、という感じがしました。この記者にとって重要なのは、私がセックスワーカーだということだけだったんです。
ー電話を切った後、どうしましたか?
泣きました。一時期ウェストバージニアに戻って、母に事の次第を話しました。母はその間ずっとそばにいてくれました。それからソーシャルメディアのアカウントを全部非公開にしました。OnlyFansのアカウントは、電話を切ってすぐに削除しましたよ。私が言い出しっぺだとは思われたくなかったので、会社にも状況をメールで説明しました。会社に恥をかかせるつもりは全くなかったことを伝えたかったんです。とにかく被害を最小限にとどめようとしました。
ーメールしたとき、会社側は何と言いましたか?
会社は、直接会って話し合いたい、と言ってきました。メールではそれだけです。父が病気なのでいつ戻るかわからない、と伝えたら、会社側も食い下がらず、直接会いたいと言ってきました。私も反論して、いつ戻るかわからないと言いました。どうして電話では話せないのか、理由がわかりません。ですが今日、会社側と話をしたところなんです。初めて会社に今回のことを全部話しました。幸運にも、ほうぼうからいろんな人たちが応援して励ましてくれたおかげで、SeniorCareをクビにならずに済みました。でもこれだけは言わせてください、私はSeniorCareの代表者ではありませんし、会社の意見を代弁しているわけでもありません。
ーディーン記者から電話があって記事が掲載されるまで、実際は何日ぐらいでしたか?
彼から連絡があったのが感謝祭の翌日の金曜日で、記事になったのがこの間の土曜日。だから約2週間です。その2週間の間に、父が(COVID-19に感染した後)突然心停止を起こしたんです。父がそういう事態になったら、途端に記事のことは気にならなくなりました。私にとって大事なのは、父が生き延びて回復することでしたから。
最大の問題は賃金
ー最終的に掲載された記事を見たときの気持ちは? 2週間、基本的にもやもやして過ごしていたでしょう?
InstagramとTwitterに600件のフォロー申請がくるまで、記事のことは全然知らなかったんです。記事を読んで、他の人たちの意見も読みながら、どうしようもない気分になりました。電話に釘付けになったみたいでした。岩の陰にもぐりこんで、一生隠れていたかったです。そしたら友達が記事のリンクをあちこちに張り付けて、なんてひどいんだ、と言ってくれて。その時初めて、状況が変わっていることに気付きました。前から『My Favorite Murder』というPodcastのファンが集まるFacebookグループや、第一応答者のファンが集まるFirst Responderinosというサブページとつながってたので、そこに書き込みをしました。「助けてください、どうすればいいかわからない。法的に問題になりますか? 仕事がなくなるんじゃないか心配です」。そのコミュニティが本当に支えてくれました。実際には一度も会ったことのない人たちが、GoFundMeで私のために募金ページを立ち上げてくれたんです。寄付までしてくれる人がいるなんて、本当にびっくりでした。しかも瞬きしてる間に、1万ドル、1万5000ドル、2万ドルとあっという間に増えていくんです。あんなにたくさんの人たちが私を応援してくれて、私の代わりに声を上げてくれたなんて信じられません。でも心底驚いたのは、AOC(アレキサンドラ・オカジオ=コルテス)がツイートしてくれたときですね。実は彼女がDMを送ってきて、今日電話で話をしたんです。彼女の方から電話をくれて、励ましの言葉と声援を送ってくれました。私の仕事と勇気に感謝を述べてくれました。私も、アパートの壁に彼女の写真を飾っています、尊敬しています、と伝えました。彼女がわざわざ連絡して励ましてくれたなんて、ものすごく感激でしたね。
ーなぜあなたが槍玉にあげられたのだと思いますか?
あちらは私が泣きごとを言うと思ったんでしょうね。でもあいにく私はそういう育て方をされていません。差別されたら言い返すよう育てられたし、不公平なことがあったら声を上げます。今回のことはフェアじゃありませんでした。今じゃ私もちょっと名前が知られるようになったので、仲間の救命士の代表として、自分たちが抱えている問題について声を上げる責任があると思っています。何カ月もPPEが足りなかったこと、連邦政府からろくに援助が得られなかったこと。私にとって最大の問題は賃金です。私たちは自分の命を賭けています。自らの命を危険にさらしています。なのに、ニューヨーク市の第一応答者の中でも給料が一番低いんですよ。救急医療技師の場合、最初は時給15ドルからスタートです。救命士になってからは、時給25ドルもらっています。でもバスの運転手の中には、もちろん彼らには感謝していますが、私たちよりも給料がいい人もいるんです。彼らがもらいすぎだと言うつもりはありません。でも、私たちはもっと評価されてしかるべきだと思います。
昼間の仕事を辞めて、OnlyFans一本で稼いだほうがいい、そっちの方がずっと楽だ、と言う人も大勢います。好き好んでセックスワークをやっている人がいるのは分かりますし、自分の好きなことをやるべきだと私も思います。でも個人的には、私のやりたいことじゃない。私にとっては副業として稼ぐもの。やらなくて済むならやりたくない。もうこれ以上やりたくありません。私にはニューヨーク市民に対して果たすべき責任があります。市民に奉仕すると誓いました。それが私のやりたいことです。早く仕事に戻りたいですね。私がなりたいのは救命士。人々のケアをしたいんです。
【画像】コロナの影響で収入が激減したと語るセックスワーカー
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