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Reiと考える、この時代にアイデンティティの窮屈さを乗り越える方法

Rolling Stone Japan / 2020年12月23日 19時0分

Rei(Photo by Masato Yokoyama)

性別、見た目、年齢、出身地、職業――人は自身の本当の姿とは異なる部分で判断される場面に、日々直面してしまう。逆に自分も悪気なくそういった行動や発言をしてしまうことが、誰しもにあるだろう。体型の大きい人に「よく食べるでしょ?」と言ったり、ある国籍の人を一括りにして「こういう性格だよね」と言ったり。ユーキャン「新語・流行語大賞」のノミネートワードにもなった「Black Lives Matter」のような社会問題から日常生活のそこら中に転がっている出来事まで、一人ひとりの本質的な個性に目を向けずに発された言葉や起こった行動によって誰かが苦しむという場面が、世の中には多々存在している。

Reiが11月25日にリリースした8枚目の作品『HONEY』には、「私をカテゴライズしないで」と歌う「Categorizing Me」の他、逃れられない自分のアイデンティティと自分らしく生きるとはなにかという意識と向き合い続けて生きるReiの姿がある。アルバムにはとても個人的なラブソングとも読めるような楽曲も含まれており、Reiというひとりの人間の姿がありありと目に浮かぶ作品であると同時に、アーティスト・Reiにとって新境地を拓いた作品だとも言える。数々のロックレジェンドたちが孤独を背負いながらステージ上では神々しく輝いて放っていた眩さを、Reiという存在からは感じることもできる。

自分のアイデンティティとどう付き合っていくか、そして、相手のアイデンティティをどう受け止めるか。そんな終わりなき人間の議論について、Reiの実体験と考えを聞いた。

【写真を見る】Rei撮り下ろし(全24点・記事未掲載カット有り)



Photo by Masato Yokoyama

―まず、アルバムの中からミュージックビデオも発表された「Categorizing Me」に関して話を聞かせてください。この曲では「女性」「日本人」など様々な肩書きや枠で判断されることへの抵抗を歌っていますが、Reiさんはこれまでどういった「カテゴリー」にはめられることに違和感を抱いてきましたか。

Rei:女性であること、20代であること、日本人であること、ギタリストであること……いろんなカテゴライズに私も当てはまると思うんです。もちろんそれは自分から取り外せるものではないし、それを踏まえたうえでコミュニケーションを取ることもあるんですけど、でもやっぱり私自身を本質的に奥の奥まで覗いて関係を築いてほしいという気持ちが年々強まってきて、それが溢れた瞬間に曲ができました。



―「最近の20代はこうだよね」「女性はこういうの好きだよね」とか、大きな枠に括ってなにかを知っているかのように話す行為を、人はどうしてもやりがちですよね。たとえそこに悪気があるわけではなくとも。

Rei:人がカテゴライズしたがる心理というのは、安心感を求めているのだとも思います。よくわからないものは「怖い」というイメージがありますよね。だから、「これは自分が知っているアレと同じグループだ」というふうに整理整頓するような形で引き出しに入れちゃうんだと思います。それが理解に繋がって、すなわち安心に繋がる。必ずしもそれが悪いことではないと思うけど、でもやっぱり一人の人間として見てもらえなくて傷つく場面もありますよね。

―Reiさんが他人と接するときは、相手をそういった形で傷つけないために、どういうことを心掛けられていますか?

Rei:先ほども言ったように、カテゴライズすることが必ずしも悪いわけではないですし、私は女性やギタリストであることを誇っているので、ポジティブなこともあると思うんです。なので、私は誰かと接するときに、その人がどういうカテゴリーにみなされたら嫌悪感を抱くかなっていうことをあらかじめ考えた上で話すようにしています。「こういう言葉は言われすぎて傷ついてるだろうな」とかって……想像できるじゃないですか。


Photo by Masato Yokoyama

―外見とかバックグラウンドだけで判断して発した言葉に、何気ない偏見や差別が混じっているようなことですよね。そういった「マイクロアグレッション」については、以前、ロンドン在住のリナ・サワヤマさんとのインタビューでもじっくり話をさせていただきました。Reiさんのそういった意識は、アメリカに住まれていた頃から持たれていたものですか?

Rei:いや、私は社会人になってからカテゴライズされることのしんどさを知りました。それまではアメリカに住んでいたりインターナショナルスクールに通っていたので、みんなが違うことがスタンダードだったんです。だから社会人になって、自分が音楽業界の中の一人という立場に変わったとき、すごく感じるようになりました。「差別」と言うと大げさな言葉に聞こえるけど、「Categorizing Me」は確かに差別について歌った曲ではあるんです。日常での配慮のなさとか些細なマナーの欠如で差別を感じて、それが積み重なっていくことでかすり傷が深い傷になっていく。それを女の子の繊細な心情を重ね合わせて描いた歌詞で。

―アーティスト「Rei」として活動する中で、ギタープレイばかりがフィーチャーされて「凄腕ギタリスト」「身体が小さい女の子なのにギターがめちゃくちゃ上手い」といったラベルを貼られたり……そういった面に窮屈さを感じることもありましたか。

Rei:もちろんそこは今でもコンプレックスに感じてるところがあります。でもそれは私の魅力でもあるので、それを魅力的だと思ってフォローしてくれる人には全力で感謝したいと思ってます。その上で……私は自分のことを、まずは「シンガー」、その次が「ソングライター」、そしてその次が「ギタリスト」だと思ってるんですね。その考え方は最初から変わってないです。より「シンガー」の部分に目を向けてもらえるためにはどういうふうにアプローチを工夫できるかなということを、日頃から考えてはいます。でも、世間が私のどこをピックアップして面白がってくれるかは世間が決めることなので、今は別にそこまでこだわってないですね。

―世間が決めることだって言いつつも、ちょっともどかしいですよね。

Rei:そうですね。アルバム『HONEY』には柔らかい曲調とかもたくさん入ってますけど、アティチュードとしてはその辺りを払拭したいというのがありました。

交換できないアイデンティティを受け入れるために

―他にReiさんが社会人になって感じる配慮のなさや差別ってどんなものですか。音楽業界は男尊女卑が濃くあるという意見を女性アーティストから聞くことも多いですが、そういったことも感じられますか?

Rei:うーん……女尊男卑だなと思う瞬間もよくあるんです。男の子が女の子に奢るとか、男の子は強くなきゃいけないとか。強くしなやかに生きてる女性は、女性であることを自分の弱みだけど武器だとも思ってると思うんです。価値のひとつになるときもある。これは捉え方が人それぞれで正解はないと思いますけど、私はフェミニズムというのは、「性別平等」という考え方のことだと思っていて。つまり「Gender-Equality」ですよね。そういったテーマを、エンターテイメントにして柔らかく爽やかなサウンドで包んであげることで、身近に感じて考えるきっかけになればいいなという気持ちもこの曲に込めました。


Photo by Masato Yokoyama

―女性であることが価値になるときもあるというのは、共感します。でもその一方で、女性だからと舐められる場面もあって。

Rei:私は女性でしかも顔もおぼこくて背も低くて……っていうところで、相手が偉そうな態度をとってきたときは、自分の技術で後ろから包丁を刺す(笑)。

―えっと、それは男性スタッフだったりミュージシャンだったり?

Rei:ミュージシャンももちろんそうですよ。あと、初めて観るお客さんも。ステージに上がって「誰だ、この小さい女の子は?」って感じで見られるけど、歌を歌ったりギターを弾いたりしたときに空気が変わる瞬間があって。みんなの見る目とか態度が変わるのがわかるんですよ。それは結構気持ちいい。エクスタシーを感じるというか(笑)。

―それを自分の技術でひっくり返すって……かっこいいな!(笑)

Rei:(笑)。


Photo by Masato Yokoyama

―「Categorizing Me」でいうと、2番の"You dont need anyone anyone 君がみせた一瞬のめつき”〜というラインはすごく印象深かったのですが、これはノンフィクションですか?

Rei:ノンフィクションです。覚えてませんか? 字面にすると大して失礼なことではないんだけど、「この人、すごく失礼な目つきとか声色で言ったぞ」ってことを、1週間ぐらい覚えてるみたいな。

―ありますね。1週間じゃない、1年くらい覚えてることもあります(笑)。

Rei:覚えてますよね。

―Reiさんのかっこよくてタフな一面だけを見て、「別に君は強いから一人で生きていけるっしょ?」って?

Rei:私を褒めてくれたような場面だったんですけど、その言い方がすごく馬鹿にしたように聞こえて。言ってることはポジティブだったから、そのときに面と向かって怒って言い返すようなことではなかったんですよね。でも、そのときの、ちょっと含んだ言い方がずっと引っかかってました。ただ、そういうのって、それこそこんなことに対して事を荒立てて怒ってるのも女っぽいし、気持ち悪いなと思って言えないわけですよね……そういうところが女じゃんって思われたら腹が立ってしょうがないから言わないんだけど、でもそういう場面っていっぱいあって。そういうかすり傷みたいなものが自分の心に穴を開けていくのかなって思ったりしました。

―ネチネチ昔のことを覚えている自分に対しても、嫌になりますしね。

Rei:そう。それはもう、誰しもあると思うので。だから、ちゃんと時間を設けて建設的に話せる場面を、もっと身近な人と持ちたいなという想いもありました。そういう場面のことを思い返して喧嘩するのではなく和解して、気持ちよくコミュニケーションをとっていくためにゆっくり話せたら、もっと人間関係がよくなるんじゃないかなって。そういう意味でもこの曲が誰かのきっかけになったらいいなと思っています。


Photo by Masato Yokoyama

―たとえば「What Do You Want?」のミュージックビデオを再生すると、表面的なところだけを見れば、Reiさんはまるで完璧でかっこよくて憧れの対象で、自身が何者であり何を求めているかを明確にわかっている人間であるように映るけれど、決してそういう部分だけではないわけですよね。

Rei:残念ながら、この皮膚だったり骨だったり血だったりを、他人のものと交換することはできないんですよね。それはすでにフィックスされてるアイデンティティで。でも、その他のことはいくら変わっても大丈夫なんじゃないのかっていうのが、今私が思っていることです。なので、もし自分の個性に悩んでる方がいたら、逆に考えると、あなたがどんなにあがいても逃れられない自分のアイデンティティがすでにあるわけで、それはすでにあなたには個性があるということだよって伝えたい。声とか、体つきとか、育ってきた環境とか、生まれた街とか、親の顔とか、そういうものは変えられないわけですよね。私自身もそれに気づいてからは、すごく自分が落ち込んで選択に迷ってるときでも、どこか安心感を持てるようになりました。一生懸命考えた結果であれば、自分の個性的な選択になるんだろうなって。



自分の弱さと向き合うことができた

―「MG」(東京ニュース通信社)に掲載されているReiさんのインタビューを拝見したんですけど、春頃のステイホーム期間中は、自分の鏡に布をかけて暮らしていたくらい、自分のことが嫌になっていたそうですね。

Rei:鏡に布をかけて生きるっていうのは、まさに自分というアイデンティティから逃げている状態ですよね(笑)。フィックスされている個性に嫌気がさしたのが、その頃の状態でした。

―そのときの思考回路から、どうやって抜け出せたんですか?

Rei:私はもともと自尊心がすごく低いタイプで。自分自身に対してもそうだし、世の中に対しても、嫌悪感や憤りがすごく大きい人なんですよね。そういう自分にとって音楽というのは、逃避なんです。音楽を聴くことも作ることも、そこから逃れるためのものという部分がずっとあって。なので、どういうふうに解決したかと言うと……解決はしないんだけど、今抱いてる負の感情とかも音楽にしたら、少し解消するところがありました。

―そういう負の感情って、Reiさんにとってずっと付き合って生きていくものだなって思いますか。

Rei:いつか自分のことがとっても好きだよって言える日が来たらいいなと思って、旅をずっと続けている感じです。その旅を続けていく中で、私が紡ぐ言葉やメロディーが、自信のないどこかの誰かに届いてその人が自分のことを認めてあげるきっかけになればいいなとも思います。


Photo by Masato Yokoyama

―今の世の中は、生まれ持ったアイデンティティで不平等な扱いを受ける場面もまだまだあるけれど、歴史を振り返って考えると個人が自由な選択をできる場面は確実に増えていて。その両面がある中で、「自分らしく生きていこう」という言葉はときに暴力的にもなるからこそ、表現者にとっては決して安易に扱えるものではないと思うけれど、このアルバムではそれがReiさんの実体験も含めてとても丁寧に紡がれていると感じました。

Rei:「あなたらしく」というテーマで歌われてる曲って、世の中にごまんとあると思うんです。その中で私が「あなたらしく」について歌うとなったときに、どういうアプローチでリスナーに問いかければいいだろうっていうのを考えて書いたのが1曲目の「B.U.」です。私が歌い手としてリスナーに対して優位に立ちたくないという気持ちは強くあって、目線を同じにして歌いたいとすごく思っていました。それで淡々と言葉を連ねるような歌詞の書き方をしたり、自分が気持ちよく幸せになれるきっかけになるのであれば「人を模倣することさえもあなたらしさなんじゃないか」ということも意識して書きました。そういうことも含めて「あなたらしく」を描けたらいいなって。今回のアルバムで、私自身も変われたなと思っています。

ーそれは、どういうところが?

Rei:自分の弱さを少し認めてあげることができました。それによってリスナーとの距離が縮まればいいなと思ってます。


Photo by Masato Yokoyama

―1stミニアルバム「BLU」からの約6年を振り返ると、自分が完璧であるように見せたり、背伸びして振る舞ってたりしたところがあったなと思いますか。

Rei:強いのも自分の側面のひとつだと思うんです。英語と日本語の歌詞を混ぜていることとか、日本語の歌詞の上でも強い人物像を描いていたのは、聴いてる人に元気を出してほしいっていうのもあるし、英語で歌うことで日本語がネイティブなリスナーにとっては想像力を掻き立てるという意図もありました。でも今回は、先ほども言ったように距離を縮めたいし、よりリアリティを持たせたいというのがあったので、私の強い姿を見せて元気を出してもらうというよりは、私が弱っていたり傷ついていたりしてる場面を見てもらうことで逆に元気を出してもらえたらなって。辿り着きたいのは「リスナーに笑ってほしい」というところなんですけど、表現方法を変えてみたのが今作です。

ー今作がまるで日記のようにパーソナルな内容で、自分の弱さも見せた作り方になっているのは、たとえばアデルやアリアナ・グランデなど世界的なポップスターたちが自身のパーソナルな出来事や心情をアルバムにして、それを世界中の人が聴いてる状況がある中で、そういった作品や表現こそが受け手に響くんじゃないかというマインドあったからか、それともReiさん自身の心情や人生の変化でこういった音楽を作らざるを得ない状況になっていたのか、どちらが要因だと言えますか。

Rei:両方です。私がすごく感動した作品で、そういうものが多かったというのもあります。ジェフ・バックリィの『Grace』 、ジャコ・パストリアスのセルフタイトル作、最近だとブリタニー・ハワードの『Jaime』やレディ・ガガの『Joanne』もそうですし。心の内を開いてくれることによって、こちらも耳や心を開きたくなるということはリスナーとして思っていたので、そういう作品を作ってみたいという気持ちもありました。

もうひとつは、自分の作品で表現している感情の色数をより増やしたいなという思いがありました。仮にこれまでは喜怒哀楽の4色で作っていたとしたら、それをぐんと増やして30色ぐらいの感情を描けたらいいなっていうふうに思っていて。それらの細かい感情は自分の中で存在していたけど、十分な解像度で表現しきれていなかったのかなというふうに思ったので、自分の中にある幾千もの感情をちゃんと言葉やサウンドに落とし込んでリスナーに伝えられるように、という願いがあったのも理由のひとつだと思います。

―でも、ミュージシャンとして音楽を作る上での意識を変えただけでなく、Reiというひとりの人間としても変化があったからだとも言える?

Rei:そうですね。制作スタッフが、私のフラジャイルで繊細で敏感で傷つきやすくて、コンプレックスも多い部分を受け入れてくれて、しかも完璧主義者すぎてレコーディングが進まない場面もたくさんあったんですけど、ちゃんと大きい器で受け止めてくれたんです。それはすごくありがたかったし、もしかしたらそういった経験も含めて作品性に表れたのかなと思います。そういった経験を自分がすると、逆に親しい人に対して両手を広げて受け止めてあげたいなっていう気持ちにもなりますし。受け止めてもらったから、私も受け止めてあげたい、というふうに思いながら書きました。


Photo by Masato Yokoyama

ー最後に、アルバムに入ってる唯一歌詞がない曲「Broken Compass」について、セルフライナーノーツでは「新しい世界の中で進むべき方角を見失い、迷ったり、震えたりする針の様子を音に落とし込みました。途中で拍子が変わることは、世界の仕組みが変わる瞬間をあらわしていて、必ずしも変化は悪いことではないことを物語っています」と書かれています。Reiさんとしては、この2020年という年の出来事を境に、どういう変化があればいいなと思いますか。

Rei:……私が行くコンビニには必ず男梅グミを置いてほしい(笑)。

―今日ここまですごく真面目な話をしてもらったのに……もう、原稿の締めとして最高じゃないですか(笑)。

Rei:男梅グミ、好きなんです。レコーディングで男梅グミとコカ・コーラ ゼロを持って入らないと、歌録りのクオリティが低いんですよ。ぜひ食べてみてください(笑)。


Photo by Masato Yokoyama



Rei
『HONEY』
発売中
https://jazz.lnk.to/Rei_HONEYPR


Rei Release Tour 2021 ”SOUNDS of HONEY”
※名古屋・大阪公演はミニマムセットでの「the Lonely Set」、東京公演はスペシャルバンド編成による「the Band Set」での出演
※東京公演のみオンライン配信あり・詳細後日

2021年1月30日(土)
愛知県・THE BOTTOM LINE
1st 公演 14:15 open / 15:00 start
2nd 公演 17:45 open / 18:30 start
1st:https://bit.ly/3l4H7cA
2nd:https://bit.ly/2JexlHF

2021年2月7日(日)
大阪府・BIGCAT
1st 公演 13:15 open / 14:00 start
2nd 公演 16:45 open / 17:30 start
https://www.sound-c.co.jp/schedule/detail/5447/

2021年2月14日(日)
東京都・EX THEATER ROPPONGI
開場 17:00
開演 18:00
https://www.red-hot.ne.jp/play/detail.php?pid=py20763

Rei公式サイト:https://guitarei.com/

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