新型コロナウイルスによって「ライブ音楽」は死んでしまうのか?
Rolling Stone Japan / 2020年12月29日 8時0分
新型コロナウイルス感染症が、ライブ音楽を壊滅させる可能性があるとエド・シーランのライブエージェントが警鐘を鳴らす。「全世界が規制のない移動を再開するまでは、どのような方法であれ、我々がよく知る”ツアー”というものはまったくもって実現不可能だ」と、長きに渡ってエド・シーラン、ラウヴ、アン・マリーのライブエージェントを務めているジョン・オリアーは語る。
近々新型コロナウイルス感染症のワクチンが出回るという朗報が伝えられる中、ライブ音楽業界とそこで働くプロフェッショナルたちが直面している問題への解決策は一向に出てこない。
正直なところ、暗いトンネルの先に見える一筋の光明に私たちは心躍っているが、このトンネルは想像以上に長いもので、世界中がまばゆい光に目を細めるようなるまでには、まだ相当の時間が必要なことも事実だ。ついにワクチン投与が実現するとはいえ、世界が直面する問題がすぐに解決すると考えるのは早計だし、考えが甘いと言える。
地球規模のコミュニティで今後どのように生きていくのかという点で、このワクチンが持つ事実上の意義を理解した上での全世界共通のコンセンサスが必要だと、私は強く思う。
ワクチンがもたらす有益性は国によって捉え方が異なるのは明白だが、全世界のすべての人々がすぐにワクチン接種を受けることはあり得ないというのが一般的な考え方だ。その代わりに、必要レベルに適したスライド制で最も脆弱な人々に優先的に投与されることになるだろう。つまり、私たちが「普通に」生活できるレベルの予防接種が実現するまでは、今後相当の時間を必要とするということだ。そこで、国境を超える側面だけに注目せずに、このワクチン戦略を踏まえて私たち自身が今後どのような生き方をするのかという点で、皆が納得できる国際的コンセンサスを形成するときに、この事実がどのような意味を持つのかを考えてみたい。そして、世界的コンセンサスを見つけられた場合、私たちは再び世界中を旅して歩けるようになるのだろうかについても考えてみよう。
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各国とも自国の新型コロナウイルス感染症問題の解決を最優先にして、長い戦いを強いられている状況だろうが、その一方で国境を開放することでこの問題の新たな火種を輸入する懸念があり、国境開放への警戒感が高まっていることも事実だ。国によって大きなイベントを解禁している所もあるが、国外のアーティストはその国に入国できないでいる。またその逆で、アーティストに他国への渡航を禁じている国もあり、いわゆるツアーがまったく実行できない状況なのだ。
私がいる業界の関係者の多くは、どこの国の政府もパンデミックへの対応策が非常に短絡的で内向的だと見ている。公衆衛生に対する未曾有の脅威であり、問題自体が巨大で複雑であるため、これは至極当然なことなのだが、多くの国々で採用された孤立主義的スタンスのせいで、世界的な視点が無視されてきた。しかし、地球規模のコンセンサスと協力こそがライブ業界の生命線なのだ。
ドメスティックで排他的な考え方、政治的なご都合主義、世界で最も影響力のある国々のリーダーシップの欠如が、目の前にあるチャレンジへの解決策を見つけるために建設的な考え方で異なる意見を一つにまとめようとする人々の意欲を削いでいる気がしてならない。
世界が協力して驚異的な早さで開発されたワクチンは当然讃えられるべきものだが、世界中の至る所で施行されている自国を最優先に考えた一貫性のない渡航禁止令は、国境をまたいだビジネスに頼っている業界に大混乱を引き起こした。
これはライブ音楽に限った問題ではない。世界経済にとって非常に重要な存在であるツーリズム、航空、教育、健康、その他多くの分野が、同じ理由から大きな被害を受けている。
アメリカ合衆国を例にあげると、新型コロナウイルス感染症の影響が甚大で、感染率と死亡率が世界最悪の数値になっている。さらに、この国は世界でも有数のツアー開催地だ。そんなアメリカだからこそ、手遅れにならないうちに新型コロナウイルスを制御しないと、アメリカ国民の旅行も海外渡航も制限され続けるわけで、少なくともライブ音楽業界にとってこの状況は破滅をもたらす危険性を孕む。
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アメリカ合衆国というのは、一国のリーダーの個人的なアジェンダが国全体を支配し、パンデミックに対する効果的な対応策から国民の目を逸らした好例だ。世界保健機関(WHO)がパンデミックの最中にいかなるガイダンスを提示しようと、件のリーダーは年間を通して意図的にそのガイダンスを著しく害し続けた。現在の私は1月からホワイトハウスの新たな住人となる前任者よりもポジティヴな存在に希望を託している。これによってアメリカ合衆国は世界のリーダーとしての地位を取り戻して、世界共通のコンセンサスを作り上げることだろう。これは、国境を超えて移動することが要のビジネスを再開するために、私たちみんなにとって必要だと考えている。
進展の指標として観察すべきマーケットはオーストラリアだ。アメリカと比べれば規模は小さいがツアー市場としては重要な国である。彼の国はパンデミックへの対策として市民にかなり厳しい制限を強要したが、その結果、現在の国内の状況は非常に好転しており、当然ながら現状を維持するためにアメリカ、イギリス、ヨーロッパへの国境開放には非常に慎重になっている。
そういった国々を移動してのツアーの実現や、規制や隔離を緩和して、ツアーを行う地域で現地クルーを雇用できるようになるまで、この問題が解決したと断言できない。
これを念頭に置いて考えた場合、会場のキャンペーン、自宅待機、ファンドレイジング、フリーランスのためのキャンペーンなど、これまで私たちが行ってきた数々のハードワークが、この苦しい時期を生き延びるために本当に正しかったと納得するにはどうしたらいいのだろう。
現実的には、全世界が規制のない移動を再開するまで、どのような方法であれ、我々がよく知る”ツアー”というものはまったくもって実現不可能だ。その結果、多数のフリーランス、会場、その他の関連インフラが、ツアーという商業エコシステムからの恩恵に与れない。
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現在、何よりも私たちに必要なのは、世界規模の明敏なリーダーシップだ。これに到達するには、業界として、さらに世界的コミュニティとして、私たち全員が協力体制を強化しなくてはいけない。この問題が我々全員に悪影響を与える由々しき問題だと、私たちは強制的にでも自国のリーダーに理解させなくてはならないし、安全を保ちつつも国境を開放する実利的な方法を探り出させなくてはならない。
感染症という既存の問題が解決しないままで、新たに問題を増やしたい人などいない。しかし、ワクチン接種が現実となった今、頭上を覆っていた暗雲を蹴散らす準備ができたのだから、勇気を奮い起こして、相互依存関係にある世界経済の再スタートの方法を前向きに模索すべきだ。
それも世界経済の中で生きている私たち全員が手を携え合って。
この論説の初出はMusic Business Worldwide。ライブ音楽ビジネス界でのオリアーの実績には、史上最高額の収益(チケット販売だけで7億7600万ドル)で記録を更新したエド・シーランのDivideツアーのブッキングが含まれる。近頃オリアーは自分の顧客アーティストを引き連れてCAAから独立し、ロンドン拠点のOne Flinix Liveを設立した。
From Rolling Stone US.
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