YOASOBIが語る、影響を受けた10冊の本
Rolling Stone Japan / 2020年12月31日 19時30分
アーティストの世界観を構成する「本と音楽」の関係にフォーカスをあてるこのコーナー。今回登場するのは、「小説を音楽にする」をコンセプトに昨年結成された2人組ユニットYOASOBI。
もともとはボカロPとして、洋楽のエッセンスも散りばめた楽曲を作っていたAyaseと、現在も「幾田りら」名義でソロのシンガー・ソングライターとしても活動中のikura、それぞれの個性が融合したユニークな音楽性が今、日本の音楽シーンを騒がせている。今回2人には、「好きな本」「影響を受けた本」としてそれぞれ5冊ずつ挙げてもらい、自身のクリエイティブとの繋がりについて熱く語ってもらった。
※この記事は2020年7月28日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.11』に掲載されたものです。
【画像】Ayaseとikuraが選んだ本の書影
『ボールのようなことば。』
著:糸井重里
ーお二人には「好きな本」「影響を受けた本」をテーマに5冊ずつ選んでいただきました。ikuraさんが最初に紹介してくださるのは?
ikura 糸井重里さんのエッセイ集『ボールのようなことば。』です。表紙に惹かれて手に取り、「どんなことが書かれているのだろう?」と思って1ページ目の文章に目を落としたら、孤独について「ひとりぼっちは北極星の光」と表現されていたんです。人は一人で生きてはいけないけれど、すべての始まりは「一人」なんだなということを、こんなふうに表現されていることに胸を打たれました。読み進めていくと、他にもハッとさせられるような素敵な言葉が散りばめられていて。作詞をするときのインスピレーションにもなっている大切な本ですね。
『ふたつのしるし』
著:宮下奈都
ーその次に選んでいただいた宮下奈都さんの小説『ふたつのしるし』は、”ハル”という名の2人の男女が、子供から大人になるまでを描いた恋愛小説ですね。
ikura 遠く離れた場所で、別々の人生を歩んでいた2人が震災の日に初めて出会う物語です。彼らは学生時代、周囲との違和感や生きづらさを抱えながら生きていて、それでもその「違和感」を大切にしながら大人になっていく。自分も小中学生の頃に「いじめ」まではいかなくとも、何となく「違和感」のようなものを覚えていたんです。でも、そういう気持ちを「排除」するのではなく、自分の中にしっかり持って真っ直ぐ生きていくことが大事なのかなって、この本を読んだ時に思えたんですよね。
ー違和感を「大切にする」って素敵な言葉ですね。それが「自分らしく生きる」ことにもつながっていくような気がします。
ikura そうですよね。それがあったからこそ、曲を書いて活動している自分がいると思うので、大切にしてきてよかったなとも思えた作品でした。
ーAyaseさんは今回、漫画をたくさん選んでくださいましたね。
Ayase とにかく漫画が好きで、メジャーなものからマイナーなものまでかなりの数を読んできたのですが、ずば抜けて好きなのが『東京喰種 トーキョーグール』です。ストーリーはもちろん、石田スイ先生の描く絵が本当に素晴らしくて。グロテスクな中にも、美しさを感じずにはいられないような作品なんです。
『東京喰種 トーキョーグール』
著:石田スイ
『ソウルイーター』
著:大久保篤
ーそういえばYOASOBIの楽曲「夜に駆ける」も、「美しさや可愛らしさの中に内包されるグロテスクさを表現した」と、以前のインタビューでおっしゃっていましたよね。
Ayase はい。グロテスクなものをただグロテスクに描くよりも、その方がより深い感情を想起させると思っていて。そういう意味でも『東京喰種 トーキョーグール』には、すごく影響を受けているのかもしれないです。それから大久保篤先生の『ソウルイーター』も、主人公の着ている服や舞台となる街の建造物、シメトリックな構造などヴィジュアルが本当にオシャレでカッコいい。
ーそうした映像美には、漫画だからこそ出来る表現手段を感じますか?
Ayase 現実世界とはかけ離れたストーリーなのに、ディティールをリアルに描きこむことによって、日常と地続きの世界のように感じられるというか。フィクションとノンフィクションのバランスはすごく大事で、そこが物語に没入出来るかどうかの鍵になっている気がします。
「自分の曲を誰かに聴かせる行為は、自分の中の価値観をどれだけうまくプレゼンできるかだと思う」(Ayase)
ーikuraさんが選んだオスカー・ワイルドの『しあわせの王子』も、童話というフォーマットを用いて人間の本質を描き出していますよね。街に建つ王子さまの銅像が、渡り鳥のツバメの協力のもと困窮する住民たちに、少しずつ自分の体の一部であるサファイアやルビー、金箔などを分け与え、最終的にはボロボロになって打ち捨てられてしまう悲しいストーリーです。
ikura でも、その悲しみの中に学ぶことがたくさんあるような気がしていて。最終的には報われなくても、王子さまもツバメも貧しい人たちを救うことが出来た。自分たちの責務を全うして幸せだったのかなと。
『しあわせの王子』
著:オスカー・ワイルド 文絵:いもとようこ
ー「幸せのカタチ」って、見る角度によって違うこともありますよね。他人から見たら惨めなようでも本人たちにとっては幸せなこともあるし、自己犠牲の美しさみたいなものもこの作品は教えてくれる。
ikura そうなんです。タイトルの「しあわせの王子」の意味も、そこにある気がします。しあわせの本当の意味を考えさせてくれる素敵な作品ですし、そういう複雑な物語を幼い頃に読んだことは、自分の中にとても大きな影響を及ぼしていると思いますね。
『ギャグ漫画日和』
著:増田こうすけ
ー増田こうすけ先生の『ギャグ漫画日和』は、先の2作とは趣が全く違いますね。
Ayase 言わずと知れたギャグ漫画の名作です。いつどんなペースで読んでも得られるスピード感を、文字と絵だけで表現していることがまず信じられないし、ぶっ飛んでいる発想を「漫画」というフォーマットに落とし込んで、ちゃんと「面白い」と思わせるのは本当に凄いことだと思います。
ーちょっと曲作りにも似ていませんか。テンポや楽器の間合いでスピード感をコントロールしたり、ユーモアのセンスを散りばめながら、実験的な発想をポップに聴かせることが大事だったり。
Ayase まさにそうですね。自分の曲を誰かに聴かせる行為は、自分の中の価値観をどれだけうまくプレゼンできるかだと思うんですよ。例えば歌詞を書く時、自分の思いをいかに分かりやすく伝えるかは大事ですけど、分かりやすすぎる言葉を使って説明するのは詩的ではない。どんなフレーズや比喩を使うかが重要じゃないですか。以前の僕は、「分かる人にだけ分かればいい」なんて考えていたのですけど、本当にいいものは誰にでも分かってもらえるものだと思うし、分かってもらえないのなら、その理由を考えるべきだと気づいたんです。自分の感性をどれだけ分かりやすいフォーマットに乗せられるか、その努力はアーティストとして必要なことだなと。そういう意味では、この『ギャグ漫画日和』の発想には少なからず影響を受けていますね。
「俳句は祖父母や母がやっていて、小さい頃から身近に感じていた」(ikura)
ーikuraさんが選ぶ『俳句大歳時記 春』と『言の葉連想辞典』は、どちらも日本語の美しさに気付かせてくれる本ですね。
ikura 俳句は祖父母や母がやっていて、小さい頃から身近に感じていたんです。それで去年、大学で俳句の授業を取り『俳句大歳時記』を手にしました。家には春夏秋冬すべて揃っているのですが、季語がどれも綺麗な「春」が一番好きです。普段の生活では絶対に使わないような言葉がたくさん載っているんですよ。自分の知らない言葉がこんなにあることにも驚きましたし、それぞれ言葉にロマンを感じます。古文を学んだ時も「日本語って綺麗だな」と思ったんですけど、歳時記を使って俳句を作るようになってからは、より強く実感しました。
『角川俳句大歳時記「春」』
編:角川学芸出版
『言の葉連想辞典』
編:遊泳舎
ー『言の葉連想辞典』は、ユニークな「辞典」を多数出版している遊泳舎の本です。
ikura 遊泳舎さん、すごく好きなんです。恋愛に関する様々な言い回しを紹介した、『ロマンスの辞典』がとても良かったのでこの本も購入しました。「空」や「恋」など、テーマに沿った素敵な表現がイラストとともに紹介されているのですが、これもやはり普段使わない美しい日本語に、たくさん触れられるところが気に入っていますね。「イラストから想像を膨らませて、自由に言葉を見つけて下さい」とも書かれてあって。イマジネーションをいろいろ広げることもできる本なので、表現力を磨きたいクリエーターさんにお勧めしたいです。
ーAyaseさんが選んだ吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』はベストセラーになりました。
Ayase 僕がそもそも東京に出てきたのは、前にやっていたバンドで一旗上げようと思ったからなんです。メンバー全員で上京して7年くらい活動していたのですが、全然うまくいかなくて。だんだん自信もなくなってくるし、将来に対する不安も大きくなる一方でした。バイトに明け暮れ、音楽をやる時間も削られる「負の悪循環」の中でもがいていたんですよね。3年くらいはもう水道ガス電気、全部止まっているのもザラだという(笑)。そんな地獄のような日々を送っているときに、『君たちはどう生きるか』の漫画版が父から送られてきたんです。
『漫画 君たちはどう生きるか』
著:吉野源三郎 漫画:羽賀翔一
ーこの本は文字通り、主人公のコペルくんが、叔父さんとのやり取りの中で「自分はどう生きるべきか?」を見つけていく話です。
Ayase 父も母も、僕がやっていることを応援してくれてはいたんですけど、もちろん親心として心配もあったのだと思います。それで、何か言葉をかける代わりに本を1冊送ってくれた。「1度きりの人生なんだから、悔いのないように頑張れよ」というメッセージだったのだろうなと。それでもう一踏ん張りしようと思えた一冊でした。
ーそんな大変な状況の中、「もう音楽はやめようかな」と思ったことはなかったのですか?
Ayase 胃潰瘍で入院した時はさすがにつらかったですね。退院してもバンドは止まったまま、9年付き合っていた彼女にもフラれてしまって。さすがにその時は「東京を離れ地元でゆっくりしてから、海外にでも行って心機一転しようかな」みたいなことは考えました。親にも「バンドを辞めてマレーシアに飛び立ちます」なんて宣言しましたね(笑)。それで、パスポートを取得する間だけ実家に戻っていたのですが、その時にYOASOBIの話が舞い込んできたんです。
ーなんですかその絶妙なタイミング(笑)。
Ayase 最後のチャンスじゃないけど、「じゃあその打ち合わせだけ行ってみよう」と思って。それで再び東京に行ったまま今に至ります。
「世界観を広げる”拡張器”の役割を担う」(Ayase)
ーところでYOASOBIのコンセプトは、「小説の世界観を音楽に落とし込む」というものじゃないですか。これまでの音楽制作とは全く違うものですか?
Ayase 「物語」を曲にするという意味では、YOASOBIも今までの音楽もそれほど変わらないと思います。ただ、誰かが作った物語がベースなので、自分だけでは絶対に出てこなかった言葉のチョイスや物語の展開、世界観を、自分の曲に落とし込んでいくのはとても刺激的ですね。
ーある意味では小説とコラボしているともいえそうですね。
Ayase 確かに。自分では想像し得なかった物語を受け取って、僕はその世界観を広げる「拡張器」の役割を担うというか。小説だけではたどり着かなかった景色を見せることが出来たらいいなと思っていますね。そうすればきっと、僕のように普段小説を読まなかった人が、僕らの楽曲をきっかけに小説を読むこともあるだろうし。それって音楽だけで完結するよりも、さらに多くの人たちに届けられる表現手段ということじゃないですか。とても理にかなっているし、意義のあることだと思っています。
『モンスターハンターポータブル 公式ガイドブック』
編:ファミ通書籍編集部
ー最後の1冊は、Ayaseさんがセレクトした『モンスターハンターポータブル公式ガイドブック』。いわゆる「攻略本」ですね。
Ayase ゲームの攻略本、めちゃくちゃ面白いんですよ。自分がプレイしているゲームの攻略本だけじゃなくて、やったことのないゲームの攻略本ですら面白くて(笑)。昔から仮面ライダーの怪人とか戦隊モノの敵キャラとか、クリーチャーに対する憧れがあるので、モンスターが紹介されているページのヴィジュアルだけでまずヤラレます。モンスターの生態とかも書いてあるから「図鑑」みたいな感じで楽しめるし。で、そのモンスターを倒すための武器に対する説明なんかも事細かく図解してあって。フィクションの世界なのに、実在することを前提としたような世界観の描き込みにグッとくるんですよね。
ー「架空の国の百科事典」のようでもあるし、博物館をめぐっているような感覚を味わえそうですよね。
Ayase そうかもしれない。あと、原宿のパンケーキくらい分厚いところも惹かれます(笑)。昔から『広辞苑』や、ハリーポッターの魔法の書みたいな「分厚い本」が大好きなんですよ。もうボロボロになるまで読み込みましたね。
ー今はコロナ禍でなかなか思うような活動がしにくい状況かと思いますが、YOASOBIのこれからの展望を最後に聞かせてもらえますか?
Ayase まずはライブをやりたいですね。まだ直接ファンの皆さんにも会えていないので。
ikura YOASOBIは結構、おうちで出来ることが多いグループでもあるので、この自粛期間を使ってたくさん準備をして、満を持してライブや音源リリースができるようにしていけたらいいなと思っています。
Ayase 「小説を音楽に落とし込む」というコンセプトを活かした演出も考えていますので、楽しみに待っていてください。
YOASOBI
コンポーザーのAyase、ボーカルのikuraからなる、「小説を音楽にするユニット」。2019年11月に公開された「夜に駆ける」は公開1カ月でYouTube100万回再生を突破。Billboard Japan Hot 100やオリコン週間合算シングルランキングをはじめ、各種配信チャートでも1位を獲得し話題となる。2020年5月にリリースされた最新曲「ハルジオン」は、LINE MUSICウィークリーチャートで1位を獲得。第2弾楽曲「あの夢をなぞって」の原作小説コミカライズが決定するなど注目を集めている。7月20日には第3弾となる新曲「たぶん」を発表。2021年1月6日にはEP『THE BOOK』をリリースする。
https://www.yoasobi-music.jp/
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