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米議会乱入、バッファロー男の正体と無視できない陰謀論の影響

Rolling Stone Japan / 2021年1月7日 19時7分

1月6日、ワシントンDCアメリカ国会議事堂に侵入するトランプ支持者たち。中央がジェイク・アンジェリ(Photo by Saul Loeb/AFP/Getty Images)

トランプ米大統領の支持者らが米連邦議会議事堂に乱入し、死傷者が出る事態に発展した事件。SNSで注目を集めた1枚の写真がある。議会に侵入したその男は、上半身裸でバッファローの帽子を被り、顔にはペイントを施している。

男の名前はアリゾナ州出身の俳優の卵、ジェイク・アンジェリ。「Qアノン・シャーマン」という呼び名でよく知られている。極右陰謀論Qアノンの熱烈な信奉者の1人で、トランプ支持者の集会ではフル装備で駆けつける常連だ。

Qアノンは、もともとは「Q」と名乗る投稿者が4chanで、自分はディープステートの陰謀の詳細をよく知る政府高官だ、と主張したのが始まり。

ヒラリー・クリントン氏やバラク・オバマ前大統領、ジョン・ポデスタ氏、(そしてなぜか)トム・ハンクスなど、民主党を代表する面々が実は児童売春組織の一味で、トランプ大統領を狙った「ディープステート」なる大規模な陰謀計画を企てている、というような数々の陰謀論を信じている。

Qの存在を信じる人々は、トランプ大統領がいつか売春組織の関係者を全員逮捕し、グアンタナモ収容所送りにしてくれるだろうと信じて疑わず、その日を「嵐」と呼んでいる。

今回、インターネットに台頭する過激思考を長年追ってきたQアノン信者たちは、ジェイク・アンジェリの写真の意味するところを見逃さなかった。

【画像ギャラリー】議事堂の外に置かれた「首つり縄」(写真19点)

「Qアノンの後押しと導きで、このような暗鬱な日を迎えた」とは、『QAnon Anonymous』というPodcastの共同司会者、トラヴィス・ヴュー氏のツイート。投稿には、誰もいない上院の議場に誇らしげに立ち、上半身裸で嬉々として勝ち誇ったように力こぶを作るアンジェリの写真が添えられている。ニューヨーク・タイムズ紙のケヴィン・ルース記者も同じようなコメントを発信し、議事堂を占拠した全員が必ずしも陰謀論支持者ではないものの、「Qアノンがいなければ今回のようなことは起きなかっただろう。冷笑的にQアノンを支持する政治家や党派に偏った著名人、長年Qアノンを拡散してきたプラットフォームの存在がなければ、こんなことにはならなかった」と指摘した。

The Senate pic.twitter.com/ooJZ6qNATe — Steven Nelson (@stevennelson10) January 6, 2021

TwitterやFacebookのようなプラットフォームは、陰謀論対策をおろそかにしてきたと何年も批判されてきた。そして大統領本人も、水曜の支持集会の演説であからさまに蜂起を扇動した。アンジェリは恐れおののく数百万人のアメリカ人に、彼の世界を見せつけた――我々はそうした世界に暮らしているのだと。


Qアノン関連のツイートをリツイートするトランプ大統領

2017年末に現れた極右過激派の陰謀「ピザゲート」の残滓から生まれたQアノンは、誕生以来驚くべき進化を遂げ、ついには陰謀論ではなく、新たな宗教の枠組みでとらえられるまでになった。その理由には、パンデミックで人々が在宅を余儀なくされたこと、ソーシャルメディア・プラットフォームがご都合主義を掲げて偽情報の削除を拒んでいること、先ごろ陰謀論者に早々に乗っ取られた反児童売春ハッシュタグ「#SaveTheChildren」運動という形でQアノンがメインストリーム化したことなどが挙げられる。それに加え、大統領自身にも原因があるといえよう。Qアノン派のインフルエンサーの投稿をSNSでリツイートして拡散したり、Qアノン支持を公言して憚らないマージョリー・テイラー・グリーン氏のような議員候補者を支援するなど、大統領は陰謀論の糾弾を幾度となく拒んできたのだ。

選挙から数日後、選挙結果が次第にトランプ劣勢に傾いてゆくにつれ、「トランプ大統領が再選して左派の悪を打ちのめす」と信じていたQアノン支持者らもようやく夢から覚めて陰謀論に背を向けるだろう、と多くの人々が予想した。だが見たところ、全く正反対のことが起きた。この選挙は違法だという真っ赤な嘘を大統領本人が再三にわたって、かたくなに推し進めてきた影響も少なくない。極右過激派は闇に閉ざされた社会の悪に光を照らすと自称するQアノン支持者らの言葉を借りて、現実のまばゆい光にさらされるや、光に向かっていくのではなくさらに闇の奥へと逃げて行った。トランプ大統領本人も少なからず、彼らを逃走に駆り立てた一端を担っている。

今日の出来事を受けて、複数の関係者に非難が向けられることになるだろう。月曜にリーダーが逮捕されたファシズム系の過激結社グループProud Boys。ソーシャルメディアで大勢が正しく論じているように、Black Lives Matterの抗議参加者に対しては速やかに群衆対策を講じたであろう国会議事堂の警察。そしてもちろん、暴動直後に生ぬるい反応を示すのが関の山だった大統領本人。「家に帰りたまえ。君たちのことは愛している。君たちは特別な存在だ。実際に何が起きるかわかっただろう、向こうがどんなに酷い、あくどい仕打ちをしてくるか。君たちの気持ちはよくわかる。だが家に帰りたまえ。平穏無事に家に帰るんだ」と大統領は暴徒に語りかけた。家にトイレットペーパーを投げ込むのはやめてくれ、と優しく諭す郊外の父親のように。


インターネットの「戯言」として片付けてはいけない

だが、本当に非難すべきは個々のグループや個人ではなく、思想だ。とりわけ、間違いだらけの思想を、インターネットの薄暗い一角で騒がれているつまらない戯言として片付けたからといって、戯言では片付けられない。Qアノンはそうした片隅でくすぶっている間、一部メディアでは、Qアノンを公然と論じればかえって信奉者に発言の場を与え、彼らの意見に信憑性を与えてしまう、と考えられてきた。インターネットの大半の良からぬ考えと同じように、自然に朽ち果てるままにしておくのが一番、と彼らは考えた。

だが、良からぬ考えが必ずしも闇にひっそり消えていくとは限らないし、そそのかされて子供を誘拐したり、フーバーダムを占拠したり、オフィスでおじけづく議員をよそに政府機関の建物の壇上に登ったりする者がいないとは言い切れない。Qアノンのような良からぬ考えは無視して結構かといえば、荒馬は厩舎を飛び出し、今回の場合はあまりにも長いこと野放しにされ、ついには上院の議場にまっしぐらに向かっていった。トランプ大統領の在任期間は残り14日間かもしれないが、当の本人は残されたあらゆる権限をフルに行使する、というぞっとするような警告を発している。アンジェリをはじめとする連中がこうした呼びかけに答えるのは、もはや時間の問題だったのだ。

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from Rolling Stone US

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