1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

性労働者のコミュニティから「物語」を盗むな 米女優に批判殺到

Rolling Stone Japan / 2021年1月10日 6時45分

2020年11月22日、カリフォルニア州ロサンゼルスのマイクロソフト・シアターで、2020年アメリカン・ミュージック・アウォードに出席したラヴァーン・コックス(Photo by Emma McIntyre /AMA2020/Getty Images)

女性の性的搾取をテーマにした戯曲家サラ・ジョーンズの1人芝居『Sell/Buy/Date』が映画化されることが発表された。

プロデューサーに名を連ねるのはメリル・ストリープやラシダ・ジョーンズ、ラヴァーン・コックスといった大物俳優。しかしソーシャルメディア上では、「ジョーンズが自分たちの物語を食い物にした」「ジョーンズとストリープはかつてセックスワーカー反対運動を支持していた」とセックスワーカーたちの怒りが爆発。これを受けてコックスが急遽降板し、「私はもう『Sell/Buy/Date』には一切関わっていません」とTwitterに投稿した。

2016年に上演された『Sell/Buy/Date』は、ジョーンズが3年間にわたってセックスワーカーや顧客に取材した内容をもとに登場人物を練り上げたと言われている。たとえば、子供の学費を払うためにしぶしぶセックスワークをしている西インドの女性。大学でセックスワークを専攻しつつ、ポールダンスをたしなむ白人の女子大生。全体的にこの芝居は、セックスワークが女性の地位向上の手段になりうるという考えに懐疑的だ。「解放された気がするとは言わないわ。でも稼いでいるという気はするわね」とは、ある登場人物の台詞だ。

2016年、ジョーンズはヴォーグ誌とのインタビューで、「かたや”セックスワーク”、かたや”売春”と呼ばれるものについての話題」が『Sell/Buy/Date』のきっかけになったと語っている。「両者の線引きはどこにあるのか? その理由は? 私たち女性、そして女性を愛する男性は、こうした女性の地位向上やフェミニズムについてどう考えているのか? セックスについて語るとはどんな感じなのか?」と本人。

『Sell/Buy/Date』が初上演されると、ニューヨーク・タイムズ紙をはじめとする各媒体は、女性搾取にまつわる諸問題を掘り下げたトランプ時代にふさわしい作品として絶賛した。だが、ロサンゼルスを拠点に活動する批評家ケイト・ヤング氏など一部のコメンテーターは「セックスワークを人身売買や未成年者に対する性搾取と混同するという重大な間違いを犯している――こうした扇動的な話題は、極端に走ってごくありふれた話題をセンセーショナルに騒ぎたて、議論を無意味にしてしまう」と考え、ジョーンズの戯曲は「セックスワーカーを安売りしている」と主張した。


メリル・ストリープはかつてセックスワーク反対運動を支持していた

「登場人物はみな薄っぺらく、誇張されて描かれています」 セックスワーカー兼活動家のアリー・オウサムさんは、ジョーンズがTEDで『Sell/Buy/Date』から一部抜粋して語る映像を見てこう言った。「セックスワーカーや私の仲間がネタにされて、TEDの観客から笑い者にされているのを見て、腹立たしい限りです」



映画化が発表されたことで、さらに怒りが激化した。「誰もが風俗業で金もうけをしようとしている、その繰り返しです――セックスワーカーをスケープゴートやカタリスト、ネタや標的に利用する輩が大勢いるんです――風俗関係者を除いてね。こうした話題になんの影響も受けず、ゴールデングローブ賞にノミネートされるために旬の話題に便乗しようとする人たちが、またやってくれました」 。長年セックスワーカーの権利を訴えてきた活動家、ケイト・ダダモさんもこう語る。

セックスワーカーの権利を支持する人々が『Sell/Buy/Date』に怒りを募らせたのは、映画化の関係者のせいでもある。とりわけプロデューサー陣に名前を連ねているメリル・ストリープとラシダ・ジョーンズだ。当初は、かねてよりセックスワークの非犯罪化とセックスワーカーの権利を声高に訴えていた女優兼活動家のラヴァーン・コックスもプロデューサーの1人として名前が挙がっていたが、この騒動を受けて降板し、Twitterにこう投稿した。「私のプロジェクト参加に対して一部の人々から上がっている怒りの声に、今は対処できる精神状態ではありません」

pic.twitter.com/JuXCYEggZP — Laverne Cox (@Lavernecox) January 7, 2021

ストリープがかつてSESTA/FOSTAなどセックスワーク反対運動を支持していた事実も、怒りをかきたてた。2017年に制定されたオンライン人身売買禁止法SESTA/FOSTAは、セックスワーカーの主張によれば、顧客の選別を可能にするプラットフォームのような必要不可欠なセーフガードを排除し、セックスワーカーをさらに危険にさらしたとして波紋を呼んだ。

NBCのドラマシリーズ『パークス・アンド・レクリエーション』で多くの方がご存知であろうラシダ・ジョーンズは、セックスワーカーやその仲間たちとさらに険悪な関係にある。彼女がプロデューサーを務めた2015年のドキュメンタリー映画『ホット・ガールズ・ウォンテッド』は2017年にNetflixでシリーズ化されたが、いずれの作品も風俗業に偏った見方をし、同意の上での売春と人身売買産業を混同しているとして、セックスワーカー支援運動家から厳しく批判された。Netflixのシリーズに関しては、作品の内容を偽ってセックスワーカーを出演させたとして激しく非難された。


「彼女にとって私たちは閲覧件数を稼ぐ手段でしかない」

『Sell/Buy/Date』映画化のニュースが出た後、『ホット・ガールズ・ウォンテッド』に出演したセックスワーカーたち――製作チームから騙された、あるいは約束を反故にされたと主張するセックスワーカーたちは、ジョーンズがまたもや風俗業を題材にしたプロジェクトをプロデュースすると聞いて怒りに燃えた。「前の2作品であれだけ批判されながら、ラシダがまたセックスワークのドキュメンタリーを作るなんて信じられない」と言うオータム・ケイさんは、『ホット・ガールズ・ウォンテッド』製作陣が無断で彼女のPeriscopeのビデオチャット映像を投稿したと主張している。「彼女はまるで私たちのことを気にかけているような顔をしていますが、彼女にとって私たちは閲覧件数を稼ぐ手段でしかないんです」



セックスワーカーのジア・ペイジさんは以前、ドキュメンタリーの製作陣が彼女のFacebookの写真と本名の一部を公開し、映画の中では家族やプライベートは避けてほしいという本人の意向を尊重しなかったと主張していた。『Sell/Buy/Date』映画化のニュースを聞いて、彼女は他のセックスワーカーに、映画に関わらないようTwitterで警告した。「何年も彼女にツイートしているわ。新しく入ったセックスワーカーの子たちに、彼女の仕打ちを警告したくてね。でも、今度は違うだろうと思って参加しちゃう子は絶対いるのよ」と、彼女はローリングストーン誌に語った。「私があんなひどい目に遭った後で、他の子にも同じような思いをさせたくないの」(ペイジさんの出演に関して、製作陣は倫理に違反することは一切なかったと否定している)

ジョーンズ、コックス、ストリープの代理人にコメントを求めたが、すぐに返答は得られなかった。だがジョーンズは以前、『ホット・ガールズ・ウォンテッド』が風俗業にうがった見方をしているという批判に反論し、シリーズで描かれている内容は「すべての人に当てはまるわけではない」と主張した。「風俗関係者の多くが、あの映画はセックスワークを差別し、偏見をさらに強めたと感じているけれど、私たちはそんなこと全く意図していなかった」と、かつてローリングストーン誌にも語っている。


セックスワーカーたちへの具体的なサポート

このように偏見に満ちた状況の中、風俗業に深くかかわる人々の声にスポットライトを当てずして、業界の一面だけを描くのは不十分だ、というのがセックスワーカー支援活動家のダダモさんの意見だ。「コミュニティから物語を持ち出して紹介し、それで金もうけして、こちらには何の見返りもせず、この手のことでとばっちりを受けている人たちと交わりもしなければ代弁もしない。そんなの身勝手だと思います」と彼女は言い、FKAツイッグスのようなセレブリティはセックスワーカー共済基金に寄付することで、社会から疎外されているコミュニティにどうすれば還元できるかお手本を示している、と付け加えた。

「今はこれまで以上に、セックスワーカーたちに参加の場を作る必要があります」とダダモさんはさらに続けた。「私は文字通り、法をかいくぐるのに手を焼いています。”セックスワーカー”という言葉を使うと必ずフラグを立てられてしまうんですから。やみくもに会話に割り込んで、そのくせ存在を主張することすら難しい人々をサポートしようともしない人がいるなんて、頭に来ます」

【関連画像】オンライン上で活動するセックスワーカーの悩み(写真2点)

from Rolling Stone US

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください