米ライブ・ネイション、グッド・シャーロットのライブストリーミング会社を買収
Rolling Stone Japan / 2021年1月23日 8時30分
パンク・ロックバンド、グッド・シャーロットのメンバーであり、2017年にライブストリーミング会社Veepsを立ち上げた人物のひとりであるジョエル・マッデンは、買収について複数の投資会社やIT会社と協議したことを明かした。
米現地時間1月19日、世界最大手イベント会社の米ライブ・ネイションは、ライブストリーミングプラットフォームVeepsの株式の過半数を取得したと発表した。新型コロナのパンデミックによって従来のコンサートやツアー活動が行えない状態を10カ月間忍び、いまも耐え続けているライブ・ネイションは今後、目覚ましいスピードで成長しているライブ配信業界のいちプレーヤーとなる。
Veepsを買収することでライブ・ネイションは新たな収入源を手に入れることになる。ライブエンターテイメント業界が一時停止を強いられるなか、同社の収益は2020年第3四半期に98パーセント、同年の第4四半期に95パーセントと劇的な落ち込みを見せていた。今回の買収は、Veepsにとっても明確なメリットがある。十数社もあるライブストリーミング会社——そのなかにはコロナ禍がきっかけで誕生した会社もある——によって業界が飽和状態になるなか、Veepsはライブ・ネイションという大手から競争を勝ち抜くうえで有利なテクノロジーとマーケティングに関するリソースを手に入れることはもとより、メジャーアーティストとつながることもできる。
現時点でライブ・ネイションとVeepsは、買収価格とライブ・ネイションが保有している具体的な株比率を公表していない。
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「今回のパートナーシップを通じて両社が提携するというアイデアはごく自然な流れであり、それはいまに始まったものではありません。この十年間、私たちはさまざまな方法でライブ・ネイションと綿密に連携してきたのですから」とVeepsの共同創業者であり、パンク・ロックバンド、グッド・シャーロットの結成メンバーでもあるジョエル・マッデンは本誌に述べた。「ライブ・ネイションは、ライブストリーミングへのアプローチを検討することに極めて意欲的です。彼らは、多くのことに対してオープンだと思います」。
2017年、ジョエル・マッデンは双子の兄弟でグッド・シャーロットのメンバーでもあるベンジー・マッデン、さらにはシェリー・サエーディ氏とカイル・ヘラー氏とともにライブイベントにおけるVIP体験とライブストリーミング特典といったサービスを提供する会社としてVeepsを立ち上げた。創業以来Veepsはライブ配信事業を強化しつづけ、2020年にはおよそ1000件ものライブ配信を実現し、1000万ドル(約10億3800万円)を超えるチケットを売り上げたことを明かした。同年Veepsは、シンガーソングライターのブランディ・カーライル、ワン・ダイレクションのリアム・ペインとルイ・トムリンソン、パティ・スミスといった数多くのアーティストのライブ配信を手がけた。
「ライブストリーミングは今後、アーティスト活動にとって必要不可欠なものになります。だからこそ私たちは、すべてのアーティストが自分に合ったライブストリーミングビジネスを見極めなければならない状況に直面すると考えています」とジョエル・マッデンは話す。
マッデンは次のように続ける。「私たちがワクワクしている点は、アーティスト活動のストリーミングという側面を成長させるサポートができることです。ライブストリーミングは、イベントが復活しても存在しつづけるでしょう。すべての配信番組が生き残るとは言いませんが、ストリーミングはアーティストがツアー活動を行う際に検討するものであることは間違いありません。問題は、どのライブを配信する、あるいはどのVIPイベントを配信するかです。これらはすべて、アーティストのツアー活動というビジネスを核としたクリエイティブな会話のテーマとなります」。
買収に関する協議は数カ月前に始まったとマッデンは話す。マッデンは会社名を伏せたまま、買収について複数の投資会社やIT会社と協議したことを明かしたが、音楽というバックグラウンドを考慮した結果、ライブ・ネイションほどふさわしい企業はないと考えた。ライブ・ネイションがVeepsの株式の過半数を保有する一方、マッデンは両社がジョイントベンチャー的なアプローチを採用し、自身とベンジーがVeepsの実質的な運営を担いつづけることを期待している。
「ありのままの私たちでいてほしい、というのがライブ・ネイションのメッセージです」とマッデンは話す。「ライブ・ネイションはこのメッセージを心から愛しているのです。彼らは私たちが大切にしているものや私たちとアーティストとの関係を尊重しています。この会社は実にユニークで、本当の意味で”アーティスト・ファースト”な会社と言えますから、それが伝わったのだと思います。ライブ・ネイションはこれらすべてを尊重していて、その愛情が私たちの対話を導いてくれたのです」。
新型コロナのパンデミック到来後、巧妙なからくりとして避けられてきたライブストリーミングは、瞬く間に業界全体の救世主的存在となった。世界中で多くの人が自主隔離を続けるなか、そして有観客のライブイベントの開催がはやくて2022年になるという予測が数多く存在するなか、ライブストリーミングは2021年のライブエンターテイメントにおいて欠かせない体験のひとつであり続けるだろう。
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たとえライブイベントが復活したとしても、多くのエージェントやアーティストのマネージャーは、何らかの形のライブストリーミングはライブ体験として存続すると口を揃える。BTSやデュア・リパの配信イベントが証明したように、視聴者数のリミットというものが存在しないライブストリーミングには、高い収益性を実現するポテンシャルがある。だからといって、かならずしも成功するとは限らない。バーチャルイベントのなかには制作費が膨れ上がったものもあり、複数のブッキングエージェントが本誌に語ったところによれば、ライブストリーミングの売上と視聴者数を最大化するには、まだまだ改善の余地がある。とりわけアーティストのファンは、こうしたコンテンツの山に埋もれているのだから。
Veeps買収以前、ライブ・ネイションはパンデミック中もライブストリーミングに本腰を入れず、実験的な試みを続けていた。同社は、定額制音楽ストリーミングサービスのTIDALとタッグを組んでミーガン・ジー・スタリオンとラッパーのリル・ウージー・ヴァートのデジタルイベントを手がけたり、ScarypoolpartyやAWOLNATIONのように同社が所有するカリフォルニア州ロサンゼルスのライブ会場・The Wilternで配信ライブを行った経験のあるアーティストの配信イベントを主催したりした。その一方、ここ数カ月にわたって同社のマイケル・ラピノCEOは、未来のライブイベントの追加特典的なものとしてライブストリーミングのポテンシャルを称賛しながら、2021年は同社がより多くのライブ配信を行うと述べている。
「(ライブストリーミングは)私たちの主力事業に対する重要な称賛でもあります。従来のペイパービュー方式のライブを開催して大きな収益を上げられるビヨンセ、BTS、ビリー・アイリッシュレベルのアーティストがいなくなる心配はありませんから」とラピノ氏は昨年11月にビデオ通話で行われた同社の四半期会議でこのように述べた。「大まかに言えば、私たちの事業そのものがライブイベントという主力を称え、プロモーションするものです。2021年から2022年へと向かうなか、私たちは会場に足を運べないファンや、デジタルコンテンツとカメラアングルといった特典付きのライブ配信をライブ・ネイションのアプリで楽しみたいという人たちのためにより多くのコンサートを開催する予定です」。
この度の買収に関するライブ・ネイションの声明のなかでラピノ氏は、このような考えを繰り返した。「地元で行われるのにチケットが完売してしまったライブを視聴するのであれ、遠く離れた場所で行われる好きなアーティストのライブを楽しむのであれ、未来のライブストリーミングは、ファンとアーティストの距離を今後もますます縮めていくでしょう」とラピノ氏は述べた。「ライブストリーミングにおけるもっとも重要な要素はステージに立つアーティストであり、ライブ・ネイションの卓越したすべてのリソースをVeepsに注ぎ込むことで私たちは音楽ファンがいままで以上にライブ音楽を楽しめる場所を実現していきます」。
From Rolling Stone US.
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