「自分のポートフォリオには加えない」就任式のバーニー・サンダースを撮った写真家が語る
Rolling Stone Japan / 2021年1月27日 6時45分
ここ数日、SNS上で大いにバズったのがバーニー・サンダース上院議員の大統領就任式での画像。ぽつんとパイプ椅子に座る”あの写真”を撮影したブレンダン・スミャロフスキー氏はこのように語っている。「おそらく彼は何の問題もなくあの場にやって来て、一人で座り、書類を抱えて、そのあとは普段通りの生活に戻っていったと思います」
たった1枚の写真が、バーニー・サンダース1000人分もの多くのことを物語る。この場合は、1枚の写真から10万以上ものミームが生まれた。
就任式の2週間前、暴徒化したトランプ支持者らが連邦議事堂に乱入したとき、コネチカット出身の元スポーツ・フォトジャーナリストで現在はフランス通信社の政治担当カメラマン、ブレンダン・スミャロフスキー氏はちょうど議事堂の前にいた。そして1月20日、スミャロフスキー氏は寒空の下再び議事堂の前で、ジョー・バイデン大統領新政権の誕生の瞬間を撮影していた。
【画像を見る】バーニー・サンダース「あの画像」を撮ったブレンダン・スミャロフスキー氏の近影
望遠レンズとニコンDSLRを手に、スミャロフスキー氏はその日の雰囲気や貴重な瞬間をフィルムに収めようとしていた。「右を見れば連邦議事堂、そして壮麗なスタンドと座席が広がっています。左には人っ子一人いないナショナル・モールです」と、彼はローリングストーン誌に語った。
テッド・クルーズ、ジョシュ・ホーリー両上院議員の姿を追っていたスミャロフスキー氏は、距離を空けておかれた椅子に座っているバーニー・サンダース上院議員に気が付いた。その写真は就任式最大のミーム画像となった。アマチュアもプロもこぞってサンダース議員の姿を古典絵画や映画のスチール写真、アルバムカバーや古い写真、その他ミームに織り交ぜた。また、無意味な会議から4人組バンドのコンサートのチラシにいたるまで、あらゆるものに苛立ちを表現するリアクション画像の恰好の餌食にもなった。
「彼は超有名人です。予備選挙では一目置かれる人物です。政界での彼のブランド力は引きがあります」とスミャロフスキー氏は言う。「だから僕も、彼本人や彼と交流する人々には目を光らせておきたいと思っています。いい写真を撮るためにね」
そのあとの成り行きは皆さんご承知の通り。
「彼は人間的にも一匹狼なんだと思います」
ーあの写真が撮れた時、一番最初に頭に浮かんだことは何ですか?
スミャロフスキー:写真そのものの出来はそれほど良くありません。構図がいまいちです。自分のポートフォリオには加えないでしょうね。
ーあの時、議員の写真を何枚ぐらい撮影したんですか? どのぐらいの時間観察していたんでしょう?
スミャロフスキー:あの瞬間は2枚撮りました。おかしな話ですが、2枚目の方が―僕としては出来が良かったように思いました。でも1枚目のほうが彼の姿勢やポーズなどがいい瞬間だったので、そっちを通信社に送ったんです。でも構図は最悪でした。ごちゃごちゃしていましたが、こっちの方がいい瞬間をとらえていた。僕はいつも言っているんですが、フォトジャーナリズムでは構図は二の次、まずは中身です。中身こそが瞬間なんです。後からいくらでもよく見えてくる。写真のあらゆる要素を盛り込んで、それでもうまく収められなかったら、それはそれで構わない。瞬間をとらえることのほうがずっと大事なんです。それから、いい写真が撮れるよう撮り続けることです。
今回の場合、あの瞬間は本当にあっという間でした。だから撮り直しはきかなかった。この写真を撮る前にも彼を観察して、あちこち歩き回りながら何枚か撮ってはいたんです。僕はわりと気を抜きながら撮影していました。突然面白いものが出てくることがあるからです。大勢の人の頭や体が動きまわっていて、まるで「ウォルターを探せ」状態。でもこの写真を撮った時は(上院議員のテッド・)クルーズと(ジョシュ・)ホーリーを追っていたので、カメラは別の方向を向いていたんです。
ーつまり、あなたの狙いは2人だったと?
スミャロフスキー:2週間前に起きたことを考えれば、今はあの2人が旬ですからね。僕の最優先事項もそんなところでした。でも撮影しているときは両方の目をしっかり開いているんです。つまり、片方の目はカメラ越しに物事を拡大して見る。すなわち写真に撮ろうとする映像ですね。ですがもう片方の目もしっかり開けて、周りで何が起きているのか、他のことも目に入るようにしておくんです。決して視野を狭めたくはないでしょう。だから僕も片方の目で回りを観察しています。あの時は(サンダース議員が)腰かけて、ちょっと身動きしているのが目に入った。それで急いでカメラを動かして、あの写真を撮ったんです。
ー写真を見る限りだと、バーニーは少々苛立っているというか、退屈しているように見えます。実際に彼はそういう感じでしたか? それとも、あの瞬間だけでしたか?
スミャロフスキー:実際のところ、僕自身この手の写真はあまり好きじゃないんです。特定の瞬間を切り取った写真は、誤解を招くようなところがありますから。こういう写真は好きじゃないし、意図して撮ろうともしません。断言できますが、次の瞬間にはきっと違う写真になっていたと思います。ただ、写真から伝わるフィーリングはありのままだと思います。構図的にも、彼の手の位置や足の位置といった細かいところは少々違っていてもね。でも、僕はこれが最高だと思ったし、それで十分うまくいきました。
この日はやることがたくさんあったので、その瞬間に長くとどまるつもりはありませんでした。バーニーが目的じゃありませんから。彼だって、ずっと一人きりで座っていたわけじゃありませんよ……当然他の人と会話もしていました。ただ、サンダース議員は政治的には無所属ですし、たぶん人間的にも一匹狼なんだと思います。おそらく彼は何の問題もなくあの場にやってきて、一人で座り、書類を抱えて、そのあとは普通に日常に戻っていったんだと思います。
「あのミトンの手袋は温かそう」
ーあの写真を撮った時、こんなに大ごとになると予想しましたか?
スミャロフスキー:いいえ。当然、シャッターチャンスだと思ったから撮影したんですけどね。人生の一部分をうまくとらえていました。そういうところは僕も好きです。被写体らしさが出ているのがいいですね。そういう場合、僕の仕事も多少楽になるんですが。
ーもしこうなると予測できていたら、今頃は億万長者になっていたかもしれませんね。
スミャロフスキー:もしこうなると知っていたら、ミーム画像なんか絶対撮りませんよ。ミーム画像は絶対撮らない方が、僕はずっとうれしいです。
【画像を見る】SNSを賑わせたバーニー・サンダースのコラ画像
ー特定の画像がこんな風にミームされやすくなるのはなぜだと思いますか? なぜ人々の想像力をこんなにかき立てたんでしょう?
スミャロフスキー:たぶん、そういう話には僕はふさわしくないでしょうね。それは社会学や心理学の領域で、間違いなく僕は専門外ですから。でもひとつ自信をもって言えるのは、サンダース議員は非常に確立したイメージと政治的ブランドを持っているということ。この写真は絶好のシャッターチャンスをとらえているんでしょう。間違いなく僕にもそれは言えます。でも、それも彼の人となりがあってこそ。もしこれが別の誰かの写真で、そっくり同じポーズだったとしても、こんな風にはならなかったと思います。
ー最終的に出てきたミームのなかで、気に入っているものはありますか?
スミャロフスキー:皆さんがPhotoshopを駆使して、芸術作品に切り貼りして本物らしく見せているのは、本当に面白いですね。画像に合うテキストをつけたりして、全体的に見せるというのはある種の才能です。どの芸術作品と組み合わせるか、どんな台詞を言わせるかによって、ものすごく面白くなりますしね。多分、ミームの作り方で作者の人となりがよくわかるような気がします。
.@BernieSanders now capitalizing on viral image, selling $45 Sweatshirts on his website. 100% of proceeds go to Meals on Wheels Vermont. pic.twitter.com/TYGDfVXdIm — Pat Ward (@WardDPatrick) January 22, 2021
※ツイート日本語訳
バーニー・サンダースもついに拡散画像で便乗商売、webサイトでスウェットが45ドルで販売中。売り上げは全額、Meals on Wheels Vermontに寄付されます。
ーバーニー陣営があの画像でスウェットを作ったのをご覧になりましたか? ご自身もおひとつ購入しますか?
スミャロフスキー:我が家には鉄則がありましてね。服でもなんでも、新しくするときは古いものを捨ててからにしなさい、って。今のところ、持っている服は全部気に入っていますし、まだ温かく着られます。新しく新調するのに、どれか1枚スウェットを捨てるなんて、考えられないですね。
ー議員がつけていたミトンを誰かが送ってきたとしたらどうしますか?
スミャロフスキー:あのミトンはなかなか良さそうですよね。正直な感想ですよ。写真の皮肉なところは、常に一瞬だと言うことです。でもその一瞬を記録するために、膨大な時間をかけている。とくにフォトジャーナリストの場合、外の寒い中で膨大な時間をかけています。でも指は動くようにしておかなきゃいけないし、手は温めておかなくちゃいけない。あのミトンはそういう意味ですごく良さそうです。
ーでは、ミトンはお気に召したんですね。
スミャロフスキー:とりわけああいう日には、ちょっとうらやましいなと思ったかもしれませんね。
【画像を見る】バイデン/ハリス就任式、フォトジャーナリストが見たもう一つの現実(写真ギャラリー)
From Rolling Stone US.
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
「正直、もっと怒られると…」 映画『あんのこと』の入江悠監督が語る、“実話をもとにした物語”を描いた葛藤。「この子のことを描く以上は自分は一生背負うことになる」
集英社オンライン / 2024年7月4日 11時0分
-
「僕のインスタ見てないの?」が口癖のイケオジと“野球観戦デート” その先に待っていたものは…
Sirabee / 2024年6月30日 18時0分
-
「ヒグマが突進、死ぬほど怖かった」“子連れグマ”との距離は数メートル、手が震えて…動物カメラマンが恥を忍んで告白
文春オンライン / 2024年6月30日 11時0分
-
日本でいちばんクマを撮っている「クマ恐怖症」になったカメラマンが5年がかりで撮った“決定的瞬間”とは
文春オンライン / 2024年6月30日 11時0分
-
【インタビュー】平泉成、俳優生活60年から振り返る「縁」 三隅研次監督、市川雷蔵さんとの思い出
映画.com / 2024年6月8日 9時0分
ランキング
-
1「大正製薬の広告炎上?」怒る人は本当に多いのか 企業はネットでの批判に翻弄されるべきではない
東洋経済オンライン / 2024年7月5日 18時40分
-
2不倫相談士は見た 第2回 PTAは不倫の温床? 恋に狂った妻には届かない“ダブル不倫の絶対ルール”とは
マイナビニュース / 2024年7月4日 16時0分
-
3宝くじに当たる「確率」ってどれくらいなの?
オールアバウト / 2024年7月5日 21時40分
-
4ワークマンの「暑い日に履きたい、通気性抜群のシューズ」3選 980円の「ボーンサンダル」はカワイイ&歩きやすい
Fav-Log by ITmedia / 2024年7月4日 5時55分
-
5【早期発見のために】乳がん、大腸がん、肺がん、子宮がん、胃がん、食道がん…“予兆”の可能性がある「体からの警告」
NEWSポストセブン / 2024年7月5日 16時15分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)