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リル・ウェイン×リル・ベイビー対談 サウスがヒップホップを支配する理由

Rolling Stone Japan / 2021年1月27日 18時25分

リル・ウェインとリル・ベイビー

ローリングストーン誌の企画「Musicians on Musicians」で、いまや全米最重要ラッパーとなったリル・ベイビーと、彼のヒーローであるリル・ウェインの対談が実現。それぞれの生い立ちと影響源、ラッパーとしての美学などを語り合った。

【動画を見る】リル・ウェイン×リル・ベイビー対談の様子

ある金曜日の夜おそく、リル・ウェインは自分が所有するマイアミのスタジオでジョイントを灯し、「ミスター・カーター」という名前でZoomにログインした。「どうしてる、ベイビー?」と彼。「家族はどう?」「いい感じだよ」とリル・ベイビーが答え、ロサンゼルスから微笑む。「それはよかった」とウェインも答える。

ウェインは新しい音楽をたくさん聴くほうではない――「自分の曲ばっかり聴いてる」と彼は言った――が、リル・ベイビーのことは大好きだ。25歳、アトランタ出身のこのラッパーは、ほんの2、3年ほどで、服役中の身からラップ界で最も求められるひとりへと成長した。ウェインが注目するのはベイビーのリリックだ。彼のリリックは政治的にコンシャスな意見表面をおふざけの言葉遊びと組み合わせて(”I done made a quarter this week in huaraches/Top model with me, trying to feed me hibachi”)、しかもラップ界で最もなめらかなケイデンスにのせて聞かせてくれる。「彼の作品には最大限のリスペクトを捧げているよ」とウェイン。言及しているのはおそらくベイビーによるプロテスト・アンセム、「ザ・ビガー・ピクチュア」だ。(このインタビューが行われたのは、ウェインが大統領選の直前にトランプ大統領と一緒に写真を撮った、あの議論を呼んだ行動より前に行われた)



ウェインがミックステープ『ノー・シーリングス』シリーズや、マルチプラチナを記録した『ザ・カーターⅢ』でラップのあり方をつくりかえていたころ、ベイビーは10代前半だった。ベイビーは、ウェインが巨大なラジオ・ヒットを飛ばしつつ、大胆なクリエイティヴ上の選択を行ってきた(それには彼か2010年に発表したロックアルバム、『ザ・リバース』も含まれる)バランス感覚が好きなのだという。「いつだってウェインは自分のやりたいことをやってるんだって思えた」とベイビー。「それができたのは、数字が伴っていたからだ。それがいま俺がやってることにつながっている。自分がやりたいことはなんでもやる、数字を出せる限りは」

ニューオーリンズとアトランタで育った影響

ベイビー:あなたを聴いたのは本当に若いときだった。思い出せないくらい昔で、たぶん小学生とか中学生くらいのとき。ぜんぜん思い出せないんだけれど、最初にリル・ウェインの曲を耳にしたときには、なんでかすでに一言一言ぜんぶ覚えてた。

ウェイン:それはうれしい。「ドリップ・トゥー・ハード」のビデオを見たときのことを覚えてるよ。もちろん、どれもこれも似たように聞こえる音楽が波のようにやってくるなかの一曲だったわけだけど。「これ誰だ?」って思った。レジーナ(ウェインの娘)は「だからずっと言ってるじゃん」って感じで。それがはっきりわかって以来、ずっとファンだ。




ーウェイン、あなたはニューオーリンズの出身で、ベイビーはアトランタ出身ですよね。それぞれの都市から受けた影響は?

ベイビー:影響はおおいに受けてるよ。だってこの街こそが俺のスワッグだし、俺の味だし、俺のフロウだから。喋り方、歩き方もまさしくそうだ。どこの出身かっていうのが人間の9割を決めるくらいに思ってる。

ウェイン:ニューオーリンズこそ、自分がラッパーになった理由なんだ。単純明快。うちの長男はいま学校の宿題をやってるが、今週はこんなことを聴いてきた。「ねえ、父さんについての課題をしなくちゃいけないんだ。いくつか質問してもいい? どんなラッパーに影響を受けたの?」答えはこう。「ごめん。無理だ。先生たちや友達もみんな、自分たちが何者なのかわかることはないだろう」

大人になるまでは頻繁にブロック・パーティが開かれてたものだ。まるでほとんどコンサートみたいなもので、ただしマイクはいつでもオープンだった。ブロック・パーティにあらわれては盛り上げる馴染みの連中がいると、そいつらはスーパースターだった。つまり、彼らは車も宝石もなんにも持ってなかった。でもステージにのってはDJをロックさせるんだよ。俺はそれを見てた。彼がはずんでるのを見て、とにかくあれになりたいと思った。それである日、マウンテンデューを一口飲んで気合を入れた。まだ11歳のときだ。DJのほうに近づいていって、こうだ。「マイク、貸して」

ゲームに加わりだした頃は、(サウスっていうのは)冷ややかな扱いを受けていたもんだよ。「『ケツを振れ!』みたいな曲ひっさげてガキがなんかやってるぞ」みたいな。いや、俺たちは大事な話をしてるのに! ラジオから曲が聞こえてきた曲が気になったら、マック(・メイン)に聞くんだ。「あれは誰だ?」って。すると彼は教えてくれるんだけど、俺は、「いいや、ニューヨークの奴らなわけがないでしょ」って感じで。でもわかるだろ、これは今じゃお世辞になる。

お互いの影響源について

ー最初に衝撃を受けたアルバムは何でしたか?

ウェイン:ジェイ・Zの『ライフ&タイムス・オブ・ショーン・カーター』だ。単純明快。あのアルバムがはじめて、ジェイ・Zが話に出してる車を実際に買ったやつだった。もはや自分のためのアルバムだと思ってる。それに、ジェイの口ぶりはマジでいかれてた。あのアルバムじゃ彼はどうかしちゃってるくらいやばかった。あのアルバムのリリックを引用して自分にタトゥーしたりした。あのアルバムに入ってる曲のスピンオフをリメイクした曲も作ったよ。



ベイビー:思い出せないな。いつもラップして、みんなの曲をリミックスして、歌詞を変えて歌っていたから。レコーディングブースに入っていくときのプロセスはとにかくハードにいくことだけ。考えることすらしない。頭にあるのは、「このビートでやれるだけハードにかまそう」ってことしかない。

ウェイン:俺のアプローチはちょっと違ってる。その曲は誰に向けたものか、その曲はどんなことを題材にしているかを知っておきたい。その後で、俺もリル・ベイビーみたいなモードに戻っていく。つまりブースに向かって言って、一発かますんだ。俺がまさいまいる場所にたどりつけたのは、つまるところ、人を感動させようと常に挑戦してきたからだ。曲をくれたのが誰であれ、まず考えるのはそれだ。送り返すときも、その人に感動してもらいたいし、単に素材が戻ってきてよかったってだけじゃないのがいい。喜んで欲しいだけなんだよ。

ーふたりとも、とてもメロディアスなスタイルを持ってますよね。ラップミュージック以外の影響源は何ですか?

ウェイン:まず挙がるのはミス・アニタ・ベイカーで、あとミッシー・エリオット。ミス・エリカ・バドゥ。がらっと変わって、スマッシング・パンプキンズ、ニルヴァーナ。ナイン・インチ・ネイルズ。311。こういう感じかな。みんなが作ってるものを聴くようにしている。俺たちみんながまだ同じ戦いを続けているっていうのを確認するためにね。誰の音楽でも聴くよ。

ベイビー:ヴァイブがあるものだったらなんでも。R&Bであり、ソウルミュージックであり、感じるところがあるもの。

ウェイン:ちょっと一服するから、音でおすそわけしよう。

ベイビー:集中し続けること(は大きなチャレンジだ)。集中し続けないと。いまじゃ失うものがたくさんできたから。最近は俺がたくさんの人びとを養っている。俺にとってはきついチャレンジだよ、気が散ることなんかがたくさんあるから。だから俺にとって重要なことっていうのは、自分の金を正しく管理することだ。

ウェイン:俺にとって一番やりがいのあるチャレンジは、完璧な――完璧なんてことがあるならだけど――父親であろうとすることだろうな。3人の息子と美しい娘の父親にね。チャレンジは大好きだ。

曲作りとアイコンとしての美学

ー誰もがあなたについて言ってることがありますよね、ウェイン。ずっとスタジオにこもっていて、狂ったように働いているって。

ウェイン:それは(キャッシュ・マネーの創業者である)バードマンとロナルド・”スリム”・ウィリアムズ、そしてマニー・フレッシュから直に学んだことなんだ。彼らは俺たちにこのやり方を刻み込んだんだ。彼らはスタジオに月曜日から日曜日まで毎日通う。なんでもいいから働けって頭に叩き込まれた。まだ学校に通っていた頃だ。13歳とか14歳で、こっちに試験があるとかなんとか知ってるのにまったくお構いなし。「スタジオにいろ。ヴァースが要るんだ」って。そうしてるうち身体に染み付いたんだ。

ベイビー:俺について言えば、とにかく稼いで身を粉にして働けっていうのから来ていると思う。以上。なんでもそうだけど、もし稼ごうとしてるんだったら、ハードにいくだろ。スタジオでも同じことだ。俺にとっては結果が一番。つまり、正しく仕事に打ち込めば、ツアーに出て、金を稼ぐことができる。そうすればなにか買うこともできる。

ーあなた方みたいなやり方でスタイル・アイコンになったり、カルチャーをかたちづくったりしてラッパーが認知されることってないですよね。ふたりとも、自分なりのルックスをどのようにしてつくりあげたんでしょうか?

ウェイン:いつも人と違っていたいっていうそれだけだよ。俺はホット・ボーイズっていうグループから始めたんだけど、こういうスローバックジャージを着るようになった。そのおかげで、俺はもうちょっと個性を出せるようになったんだ。キャッシュ・マネーでもユニフォームがあった。俺はいつもちょっと道をそれて目立ちたいと思ってたよ。

俺の母親はひとり親だった。彼女は俺の背骨を折るくらいの勢いで、俺がイカしてるか、ファンキーかを確かめてきた。だから、スタイルの源はそれだ。ちょっと頼まれて角の店でコークとポテトチップスを買ってくるだけのときでも――店に寝起きの格好のままでいくもんじゃないって。俺も息子たちにはそう教えてるよ。

ベイビー:俺は元からなにが欲しいかはわかってた。けど、それをやってみるだけのカネがいつでもあるわけじゃなかった。だから、金を稼ぎ始めさえすればよかったわけだ。

ウェイン:それはそうだ、まさに。

ーあなたがたのプロダクションは異次元です。ビートを選ぶプロセスについて教えてください。

ベイビー:プロデューサーからビートをもらってくる。みんながイカれるようなビートをね。

ウェイン:彼が言うみたいに、すべての称賛はプロデューサーたちの賜物だよ。単純明快。もし音楽がよかったというなら、じゃあ彼らのおかげだ。俺は音楽の部分には関わってない。

ーアルバムにまとめるときはどうやってトラックを選んでますか? 集団でやるものですか?

ウェイン:マックがやる。単純明快。俺はただ全部ならべて聴かせて、彼に髪をかきむしって考えてもらう。あいつに髪なんてないんだけどもね。俺は彼に、そうだな、90曲は渡す。本当に彼に必要なのがたったの2曲でも(笑)。あとは、どれを選んだかを教えてくれるだけだ。つまり、こういうことができるのは、俺が自分のやることひとつひとつに自信を持ってるからに尽きる。俺がやる曲は全部この国でナンバーワンを獲るに値すると思ってるから、彼があの曲を選ばなかったからといって頭にきたことは一度もない。彼が選ばなかったのも最高のものばかりだ。ミックステープに入れるよ。

ベイビー:仲間たちに聴かせると、みんな俺に「あの曲もう一度」とか「あれが聴きたいな」とか教えてくれるんだ。それである意味感じ取ることができる。周りにいる連中はいろいろ教えてくれるんだ。「Instagramでチラ見せしなよ」とかなにか。他のみんなに頼らなくても仕事を済ませられるようにしてるけれど。

ウェイン:昔が懐かしいよ。今は俺は自分だけでスタジオに入る。制作中にまわりに仲間がいるのは好きじゃない。首を突っ込ませないようにしてるよ。火事かなんかでも起こったら教えてくれ、って。俺はひとりになるんだ。そしたらあとはフィーリングだけだ。頭の中で曲を組み立て始める。これは特別に教えるけど『ノー・シーリングス3』では俺とベイビーが一緒にやってる。

ーウェインは十分に評価されてると思います?

ベイビー:俺がラップ・ゲームについて知り始めたのは、十分に評価されるなんてことは絶対ないってことだ。ある人たちからは評価されるかもしれないが、多くの場合、評価なんてされないよ。

ウェイン:そのとおりだって言うしかないね。そのとおりだ。

From Rolling Stone US.






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