ロス・ビッチョスが持つクンビアとロックのフレンドリーな関係 鳥居真道が考察
Rolling Stone Japan / 2021年2月1日 20時0分
ファンクやソウルのリズムを取り入れたビートに、等身大で耳に引っかかる歌詞を載せて歌う4人組ロックバンド、トリプルファイヤーの音楽ブレインであるギタリスト・鳥居真道による連載「モヤモヤリズム考 − パンツの中の蟻を探して」。第20回は民謡クルセイダーズ、ロス・ビッチョスを入り口に、コロンビアを代表する音楽クンビアを考察する。
民謡クルセイダーズが米公共放送のNPRの名物企画「Tiny Desk Concerts」に出演した映像はもうご覧になりましたか! とても素敵なパフォーマンスでしたね。観ていて自然と口角が上がっていることに気が付きました。脳みそからじゅんじゅわあとハッピージュースが分泌されていたように感じます。きっと血行も良くなっていたはず。
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2017年、民謡クルセイダーズのことがとても気になっていた折、ピーター・バラカンさん主催のLive Magicで共演する機会がありました。そこの物販で『民謡しなけりゃ意味ないね』という5曲入りのCDを購入しました。曲目を見ると「会津磐梯山(ラテン)」、「安来節(エキゾボレーロ)」というようにリズムの種類が書いてあったのが印象的でした。土埃が舞うような「串本節」のダーティーでファンキーなアレンジはクンビアが下敷きになっているのか…… といった具合に教育を受けたのでした。
そういう意味では、民クルは民謡をぐっと身近にする存在であると同時に、わたしにとってラテン音楽の紹介者でもありました。一粒で二度美味しいとはまさにこのことではありませんか。
その後、クンビアというキーワードを再び意識したのは、ロス・ビッチョスというロンドンのバンドに出会ったときのことです。デンジャー・マウスか誰かのプレイリストに入っていたのがキッカケとなり、その存在を知ったと記憶しています。曲は「Pista(Great Start)」だったと思われます。
気になってMVを見てみると、このトロピカルなエレキインストを演奏しているのが、タランティーノの監督の『デス・プルーフ』から飛び出して来たかのような風体の女性たちだったことに衝撃を受けました。わちゃわちゃしていてとても楽しそうです。あまり気取った様子がありません。それでいて野暮ったくもない。そこにぐっときました。
彼女たちの音楽がラテンの影響下にあるものだとわかったものの、あまりリテラシーが高くないので、トロピカルという言葉でしかそれを名指すことができませんでした。
KEXPでのライブ映像を観ているときに、キャロリーナというメンバーが持っている赤いビザールギターのピックガードに貼られた「I ♥ Cumbia」という文字列を発見しました。そこで、クンビアって串本節の…… というふうに点と点が繋がったのでした。
ロス・ビッチョスの結成は、メンバーのインタビューによると、キャロリーナがリードギターのセラに『Roots Of Chica』というコンピを聴かせたところ、これを大いに気に入り、自分たちでやろうとメンバーを集めたことがきっかけとなっているようです。
『Roots Of Chica』はペルーのサイケ・クンビアであるところチーチャの音源をニューヨークのレーベル、Barbèがコンパイルしてリイシューした盤です。第二集までリリースされています。Spotifyにはありませんが、Bandcampで購入することができます。とても良い内容です。エレキインストが多く、たしかにこれはロス・ビッチョスのインスピレーションの源だと感じました。
クンビアはコロンビアを代表する音楽です。2拍子で演奏されます。Voxがクンビアを紹介している動画「Why Shakira loves this African beat」によれば、「カッカカカッカカ」というパターンと裏拍に鳴らされる「ウンカッウンカッ」というパターンが組み合わさったものがクンビアの基本的なリズムとのことです。果たしてオノマトペで伝わるのかという話ではありますが……。
念のため簡単なリズム譜で補足しておきます。上が「カッカカ」、下が「ウンカッ」です。
|X.XXX.XX|
|..X...X.|
コロンビア産のオーセンティックなクンビアは、『Cumbia Cumbia』というコンピで聴くことができます。『Buena Vista Social Club』でおなじみのレーベルWord Circuitからリリースされた盤です。これに収められた曲を聴けば、上記のパターンがぱっと見つけられるはずです。
クンビアのリズムはどのような感覚を私たちにもたらすのでしょうか。例えば、クラーベをベースにしたキューバの音楽やフェラ・クティのアフロ・ビートは、シンコペーションを多用し、着地点を持たないまま、横滑り的、あるいはドミノ倒し的にリズムを躍動させているような印象を受けます。それに比べると、クンビアは拍の感覚がはっきりと示されていてわかりやすい。というかノリやすい。のしのしと歩行している感じと言ったら良いでしょうか。それに加えて、ハンバーグの種など粘り気のあるものを捏ねているような感覚もあります。ねっとりと楕円を描くような躍動感をクンビアに感じます。
『Cumbia Cumbia』や『Roots Of Chica』に収められたグループたちとロス・ビッチョスとの大きな違いは編成にあります。現地のクンビアは民謡クルセイダーズのような編成のグループが多いと思われますが、ロス・ビッチョスは一般的なロック・バンドの編成です。ショルキー担当のメンバーがいるのがユニークと言えばユニーク。YAMAHAのSHS-10SというFM音源のショルキーとのことです。それはともかく、ドラムがいるのがとにかく大きい。これは長らくロックに慣れ親しんできた人間の感覚かもしれませんが、ドラムがいるだけ急激に親しみやすくなります。ちなみにドラムセットにはカウベルやブロック、ボンゴといったパーカッションが組み込まれています。
ロス・ビッチョスのメンバーはロンドンのインディーシーンでそれぞれ活動していたそうです。分母にはロックがあり、分子にクンビア的なものを取り入れたという構造になっているといえます。ある種のカジュアルな取り組み方が彼女たちの風通しの良さ、親しみやすさに繋がっているように感じます。トムトムクラブ的なフレンドリーさと言ったら良いでしょうか。
ロス・ビッチョスは現在、プロデューサーにフランツ・フェルディナンドのアレックス・カプラノスをプロデューサーに迎えてアルバムを製作中とのことです。いつリリースされるのか不明ですが、楽しみにしています。
ロス・ビッチョスとほぼ同時期にコロンビアの首都ボゴタ出身のロス・ピラーニャスというトリオを知りました。彼らのアルバム『Historia natural』がとても良かった。レコメン系好きのためのラテン・ミュージックとでも言うべきでしょうか。血湧き肉躍り知恵熱が出るような内容でした。
寡聞にして知らずにいたのですが、ロス・ピラーニャスはアベンジャーズ的なスーパーグループとのことで、メンバーの一人、マリオ・ガレアーノはフレンテ・クンビエロというグループを率いています。そして、なんとフレンテ・クンビエロは昨年、民謡クルセイダーズとコラボして音源をリリースしているではありませんか!
また別のメンバー、エブリス・アルバレスはメリディアン・ブラザーズというグループの中心人物で、彼らが昨年にリリースした『CUMBIA SIGLO XXI』というアルバムもとても良かったのです。今年に入ってから知って、目下、聴き込み中であります。
昨年はリスニングにおいても引きこもりがちで、積極的にディグっていく姿勢があまりありませんでした。けれども、民クルのTiny Desk出演時の映像を観て、もっと音楽を聴こうという気持ちが湧いてきました。とくにクンビア。やっと2020年が終わり、2021年が始まったのでした。
鳥居真道
1987年生まれ。「トリプルファイヤー」のギタリストで、バンドの多くの楽曲で作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライブへの参加および楽曲提供、リミックス、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、トークイベントへの出演も。Twitter : @mushitoka / @TRIPLE_FIRE
◾️バックナンバー
Vol.1「クルアンビンは米が美味しい定食屋!? トリプルファイヤー鳥居真道が語り尽くすリズムの妙」
Vol.2「高速道路のジャンクションのような構造、鳥居真道がファンクの金字塔を解き明かす」
Vol.3「細野晴臣「CHOO-CHOOガタゴト」はおっちゃんのリズム前哨戦? 鳥居真道が徹底分析」
Vol.4「ファンクはプレーヤー間のスリリングなやり取り? ヴルフペックを鳥居真道が解き明かす」
Vol.5「Jingo「Fever」のキモ気持ち良いリズムの仕組みを、鳥居真道が徹底解剖」
Vol.6「ファンクとは異なる、句読点のないアフロ・ビートの躍動感? 鳥居真道が徹底解剖」
Vol.7「鳥居真道の徹底考察、官能性を再定義したデヴィッド・T・ウォーカーのセンシュアルなギター」
Vol.8 「ハネるリズムとは? カーペンターズの名曲を鳥居真道が徹底解剖」
Vol.9「1960年代のアメリカン・ポップスのリズムに微かなラテンの残り香、鳥居真道が徹底研究」
Vol.10「リズムが元来有する躍動感を表現する"ちんまりグルーヴ" 鳥居真道が徹底考察」
Vol.11「演奏の「遊び」を楽しむヴルフペック 「Cory Wong」徹底考察」
Vol.12 クラフトワーク「電卓」から発見したJBのファンク 鳥居真道が徹底考察
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Vol.18 裏拍と表拍が織りなす奇っ怪なリズム、ルーファス代表曲を鳥居真道が徹底考察
Vol.19 DAWと人による奇跡的なアンサンブル 鳥居真道が徹底考察
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