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女性死刑囚の刑執行をめぐる悲劇、虐待とトラウマと精神疾患

Rolling Stone Japan / 2021年2月3日 6時45分

米カンザス州メルヴァーン在住だったころのリサ・M・モンゴメリー受刑囚(Photo by Maryville Daily Forum/AP)

1月13日未明、米連邦政府は2004年に妊婦を殺害し、胎児を連れ去ったリサ・モンゴメリー死刑囚(52)の刑を執行した。トランプ前大統領退任間際、わずか6カ月間で、ソニア・ソトマイヨール連邦最高裁判事が「急ピッチの連続執行」と呼んだように、政府は過去60年間で執行した数の3倍以上の囚人を死刑にした。モンゴメリー死刑囚はその中の一人だ。

ニューヨーク・タイムズ紙によれば、連邦政府が女性の死刑を執行したのは67年ぶり。2004年、4児の母親だったモンゴメリー受刑囚は24歳の妊婦ボビー・ジョー・スティネットさんの腹部を切り裂いて赤ん坊を取り出し、出血するスティネットさんを放置して死に至らしめた。翌日、警察が胎児と一緒の彼女を発見。彼女は胎児を自分の子として通そうとしたが、やがて罪を認めた。

だが最初の裁判で、陪審にはモンゴメリーが罪を犯す前に耐え忍んでいた人生の全容は伝えられなかった。連邦死刑人身保護プロジェクトによれば、彼女の弁護士だったフレデリック・デュシャルト氏は拘留中の彼女と3回しか面会せず、裁判では彼女が想像妊娠に悩まされていたという薄っぺらな主張を繰り広げて心神喪失を申し立てようとした。

2012年からモンゴメリーの事件を扱ってきた公選弁護士ケリー・ヘンリー氏に言わせれば、通るはずもない言い分だった。「死刑が求刑されている裁判で、心神喪失を理由に無罪にしてくれと陪審を説き伏せるなんて」と言うヘンリー氏は、死刑判決に関してはこの道20年の専門家だ。「陪審は信じるわけがありません」。実際、その通りとなった。陪審は5時間足らずで有罪の評決に至り、彼女には死刑判決が言い渡された(デュシャルト氏はかつて、この裁判ではどんなミスも犯していない、と主張した)。

事件に至るまでのモンゴメリーの凄惨な人生を新たな弁護チームが調べ始めたのは、量刑判決が下されたあとだった――もし詳細が明らかになっていれば、始めから死刑は求刑されていなかったかもしれない。アメリカ法曹協会は、裁判で死刑が求刑されている場合、被告弁護人は「最低限の義務として」「減免専門家」と協力して臨まねばならない、と定めている。減免専門家とは被告人の経歴を掘り下げ、トラウマや精神疾患、被告人を1人の人間として陪審に理解させる手掛かりとなるものを明るみにする調査員だ(アメリカ法曹協会のガイドラインにも関わらず、デュシャルト氏は専門家をつけなかった)。新たな弁護チームは数百回におよぶ面会を経て、何十年にも及ぶ虐待、レイプ、凄惨な拷問の事実を突き止めた。


驚愕の事実が明らかに

新弁護チームが彼女の母親と面会したときの内容によれば、モンゴメリー受刑囚が最初に発した言葉は「痛いからお尻を叩かないで」だった。モンゴメリーの父親が家を出て、母娘は再婚相手と住むようになったが、継父は家の裏に離れを作り、そこで何年も友人らと10代のモンゴメリーを犯しては、事が済むと彼女に尿をかけた。母親は家の修復にやってきた修理屋に「体で代金を払うよう」娘に強要した。18歳の時に彼女は義理の兄弟と結婚するが、夫は何度も彼女を強姦・虐待し、時には瓶で犯したり、ビデオで撮影したりした。あまりにもひどく殴られたせいで、彼女は外傷性脳損傷を負っていることが弁護チームにより判明した(大勢の親族が証言しているものの、母親も継父も虐待の規模を認めることもなく、ずいぶん前に他界している)。

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彼女は売春と虐待の被害者で、双極性障害、側頭葉癲癇、複雑性PTSD、解離性障害、精神病、外傷性脳損傷を患っていた――これらすべての情報が2007年の裁判で陪審員に提示されていたら、彼女の刑も軽くなっていただろう。弁護チームは8年間、死刑判決を終身刑に切り替えてもらおうと政府を相手に戦ったが、上訴は一度も認められなかった。

昨年トランプ政権が連邦政府による死刑を復活させると、弁護チームはモンゴメリーが精神疾患ゆえに刑罰を理解することができないと主張し、トランプ大統領に慈悲を求めた。だが12日、政府は再三の訴えを退け、最終的に最高裁判所は彼女の死刑執行を認めた。車輪付きの寝台に乗せられた彼女を、AP通信は「ひどく狼狽していた」と描写している。弁護チームによれば、新しい施設に連れてこられたストレスで彼女に解離性障害の症状が出ていたためだそうだ。大勢の人々が、憲法修正第1条で受刑囚には宗教助言者を死刑執行室に迎え入れる権利がある、と主張したものの、政府は彼女にそれを認めなかった――「彼女の宗教指導者は、化学物質が体内に流れていく間、『主われを愛す』を歌うつもりでした」と弁護士は語った。午前1時31分に死亡が宣告された。

弊誌は刑執行の翌日、彼女の弁護士であるケリー・ヘンリー氏に取材した。弁護士にとって依頼人を失うのはいつもつらいものだが、モンゴメリーの場合は特にそうだった。「彼女は素敵な人でした」と本人。「彼女は『大草原の小さな家』が大好きでした。聡明で、精神疾患さえなければ刑務所に入るような人じゃありませんでした」


幼い少女を守れないとこういう結末になる

ーリサ・モンゴメリーの虐待、トラウマ、精神疾患の歴史は、彼女の人生の主要部分だと思われます。なぜそれが判決では影響しなかったのでしょう?

(最初の裁判で)政府側の専門家は、リサが自ら進んで継父にレイプされていたと表現したんです。そうしたある種の女性蔑視が、この裁判ではまかり通っていました。いわゆる被害者バッシングです。こうした人々を起訴できる人間がいるとすれば、(検察側は)リサを被害者として(証言台に)立たせたでしょうに。それが反対に、「知りようがない、彼女は誰にも言わなかったのだから。記録はどこにある?」と言うんですよ。児童レイプは秘密裏に行われます。証人などいません。

2016年、我々がこうした事実を突き止めて審問会を開いたとき、政府はきっと人身売買には反対の立場をとるはずだと思っていました。でも政府は気にもしなかった。彼女は人身売買の被害者だったんです。幼い少女を守れないとこういう結末になる。だから女性たちは真相を語らないんです。

ーモンゴメリーに代わって上訴した際、あなたは元弁護士について、彼女の傷ついた過去の全容を調べようとしなかった、と主張して非難しています。彼女の裁判で、元弁護士が乗り越えられなかった障壁があったんでしょうか?

リサはひどく精神を病んでいました。私は大勢の精神病患者の弁護人を務めていますが、彼女の過去は把握するのがとくに困難でした。彼女のような精神疾患の症状は、しっかり調査をするまでなかなか検知できない。解離性障害の相手と向かい合って座ることはできます。でも何の反応もないわけではありませんよね? リサはよく、自分がいい母親かのように人生を語っていました。でもちゃんとよく見れば、この女性が現実から完全にかけ離れているのは分かります。

ーあなたは何十年も死刑裁判の被告人の弁護人を務めていますが、大多数が男性です。女性の死刑囚の代理人を務めたことで、とくに大変だったことはありましたか?

女性の代理人を務めることは想像していた以上に大変です。これまで2人の女性を弁護しました。ゲイリー・オーウェンスとリサ・モンゴメリーです。ゲイリーの場合は慈悲を受けることができました。彼女は2019年の感謝祭で亡くなりましたが、自由の身としてこの世を去りました(註:ゲイリー・オーウェンスは1986年、殺し屋を雇って夫を殺害しようとした事件で有罪となった)。

こういう女性たちは深刻なトラウマを経験しています。恥と屈辱を抱えています。ゲイルの場合も、夫の仕打ちを息子たちに知られるぐらいなら、死刑になった方がましだと考えていました。

リサの場合は100人以上の女性支持者がサポートしてくれました。でも世間は、被害者を信じろと言うわりには彼女のことは信じなかった。そんな言葉は、実際に受け入れようとするまでは単なる詭弁です。


精神疾患の場合、死刑は免除されない

ー2002年、最高裁判所はアトキンス対バージニア州の裁判で、精神障害の患者を処刑するのは憲法修正第8条――残虐かつ尋常でない刑罰からの保護――に違反するとの判決を下し、知的障害によって死刑裁判の「信頼性と公平性が疑わしくなる」と述べました。あなたご自身もモンゴメリーの脳損傷を示すMRIスキャンや、脳の機能不全を示すPETスキャンの画像を提出しています。それで死刑から守られるはずだったのでは?

彼女は知的障害ではありません。脳損傷はありましたが知的障害ではなかったので、リサは条件から外れていたんです。ですが、2002年のアトキンス裁判で問題視されたことはすべて、リサのような重度の精神疾患者にも同じく当てはまります。被告人は自己弁護する能力が欠けているため、陪審も精神疾患の影響を理解しないままで終わってしまう。リサは公判中、巡回控訴裁判所の治療を受けていたため、薬漬けで心ここにあらずの状態でした。彼らも彼女が精神を病んでいることに気づいていたんです。

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ー精神疾患の場合、死刑は免除されないのですね?

そうです。法曹界の多くの人々が死刑免除の主張を展開し、裁判所にそれを認めさせようとしています。議会でも現在検討されているところです。オハイオ州では重度の精神疾患の患者は死刑判決に該当しないという法案が可決し、州知事も署名しました。これは過去にさかのぼって適用されます。双極性障害や統語失調症、外傷後ストレス障害など、対象となる特定の障害も定義しています。

(慈悲を求める嘆願書には)検事からの支持もいただきました。この手の裁判では死刑を求刑するべきではない、なぜならその人物が精神疾患を患っていて、トラウマを引きずっていることは――犯罪を見ただけでも――明白だからだ、と皆さんおっしゃいました。

ーリサはジョー・バイデン次期大統領が就任する1月20日を指折り数えてカレンダーに印をつけていました。彼が連邦政府による死刑の終結を公約に掲げていたのを知っていたからです。政権が違っていたら、慈悲も認められていたと思いますか?

当然です。何度も何度も頭をよぎりましたよ、「8日あれば」とね。バイデン大統領ならきっと、連邦政府の死刑廃止という公約を果たしていたと思います。すでにアヤンナ・プレスリー下院議員とディック・ダービン上院議員が法案提出の意図を公表しています。実際どれだけのスピードで実現するかはわかりません。ですがこの国の大統領は代わりました。候補者が死刑反対を口にすると大統領選に勝てない、という状況から、政治的に死刑反対を口にするだけでなく、実際に連邦レベルで廃止することが可能なところまで来ました。その点がせめてもの慰めです。


精神疾患も刑事司法の問題として扱うべき

ー今日のような日――依頼人が死刑に処されて数時間後――どんな気持ちで仕事を続けるのですか?

憲法が私の聖書です。依頼人の憲法上の権利のために戦うという栄誉を、ないがしろにしたことはありません。彼らは私やチームを信用してトラウマを語り、自分たちの話を打ち明けてくれる。そしてこう言うんです、皆さんに真実をお話ししましょう、真実をお話することで皆さんを信用します――嬉しくも苦々しい栄誉ですね。私は大した生活のスキルは持ち合わせていません。料理も人並みですし、アートはさっぱりです。でも依頼人のために弁護することはできます。

ただ、私が常に感じていることがあります。こういう状況になった原因を理解することができれば、その気になってじっくり見てみれば、「お前は怪物だ、だからお前を死刑にする」と言う代わりに、事件の再発を防ぐことができると思うんです。依頼人の話を語ることで――相手が利く耳を持っていればですが――未然に防ぐ方法のヒントや情報が得られる、そんな方法があるはずです。食料危機は刑事司法の問題です。教育も刑事司法の問題です。精神疾患も刑事司法の問題として扱うべきです。なぜなら、犯罪が起きる原因はそこにあるからです。互いを思いやり、理解する。それこそが、この国が誇るべきキリスト教の美徳ではありませんか? 学ぶべきことはたくさんあります。そういった様々な理由で、私はこの仕事が好きなんです。辞めるつもりはありません。

歯がゆい思いもあります。歯がゆさで壁に頭を打ち付けたくなることも。同時に、リサがこの世で家族と一緒に過ごし、最終的には子供たちと関係を築くことができたという事実、病ゆえに自殺監視員に見守られながら孫と始めて対面したときのこと、彼女にそうした贈り物ができたこと――私にとってそれがどれだけ大きな意味を持つか、言葉では言い表せません。それが私の心の拠りどころとなって、こう言うことができるのです。「私たちは誰一人として、最悪の行為で判断されるべきではない。たとえ最悪の行為が理解を超えるものだとしても」

from Rolling Stone US

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