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UKを制したソウル新世代、セレステが語る「自分の声」を見つけるまでの過程

Rolling Stone Japan / 2021年2月9日 17時30分

セレステ
(Photo by Elizaveta Porodina)

2021年1月に、デビュー・アルバム『ノット・ユア・ミューズ』をリリースしたイギリス人シンガー・ソングライターのセレステ。ブリティッシュ・ソウルとR&B色が混ざったジャズ調な楽曲を特徴とする彼女は、本作を完成させる前から”期待の新人”として数多くの音楽メディアやアワードから高い評価を得て、過去にサム・スミスやアデルもその栄光に輝いた「BBC Sound Of 2020」の1位を獲得している。また、著名人をも虜にする彼女は、ビリー・アイリッシュやジェームズ・コーデンらからもファンを公言されるほど。

満を持してリリースした『ノット・ユア・ミューズ』は、リリースするやいなや全英アルバム・チャートで初登場1位を記録した。今回そんなセレステとの、デビュー・アルバムに込めた想いやその制作過程についてのロング・インタビューが実現。新型コロナウイルスによるパンデミックや、ブラック・ライヴズ・マター運動から受けた、作品への影響についても語ってくれた。



―まずは、デビュー・アルバム『ノット・ユア・ミューズ』のリリースおめでとうございます。Tieksの「シング・ザット・ソング」でレコーディング・デビューしてから約6年、デビュー・シングルの「デイドリーミング」のリリースから約4年の歳月が経っていますが、こうして最初のアルバムを完成させた率直な感想を聞かせてください。

セレステ:ありがとう。制作にはかなり長いプロセスがかかり、3年かけてやっとでき上がりました。でも、そのうちスタジオで過ごしたのは、多分たったの7カ月くらいで、作業の合間にゆとりはありましたね。本当は2020年3月に仕上げたかったのですが、それができなくて、仕上げのためにスタジオに入るまでに3カ月間も空いてしまって。ですが、逆に期間が長引いたおかげで、曲がより成長することができたと思っています。



―『ノット・ユア・ミューズ』のリリースに至るまで、「BBC Sound of 2020」をはじめとする数多くのアワードやメディアで”ブライテスト・ホープ”として讃えられてきましたね。こうした評価は、アルバム制作にどのような影響を与えていますか?

セレステ:音楽を作りたいというモチベーションが確実に上がったと思います。でも同時に、高い期待を感じてしまうことで逆にプレッシャーにもなりました。可能な限り良い作品を作らなくてはと思ったし、皆から見られている、注目されている、という意識から、絶対に自分自身にとって誠実なアルバムを作らなくてはと感じて。結果、そういった想いがアルバムを制作する上で一番大切なことになりました。

―『ノット・ユア・ミューズ』は、特定の音楽ジャンルに当てはめて語るのが困難なほど、多彩な魅力に溢れている作品だと思います。そんなアルバムを作り上げるまで、あなたの音楽観の形成に大きな影響を与えたアーティストを挙げていただけますか?

セレステ:主に聴いていたのはソウルやジャズ。子どもの頃のお気に入りのシンガーは、アレサ・フランクリンやビリー・ホリデイでした。あと、ダイアナ・ロスも大好きだったな。彼女たちは、私の歌い方やサウンドに影響していると思います。


セレステ作成のプレイリスト

テーマは「困難を乗り越えた先の希望」

―今回のアルバムは、どんな作品にしたいと考えていましたか? テーマやコンセプトを教えてください。

セレステ:アルバムには沢山の異なるテーマが詰まっています。その中でも鍵となっているのは、困難に直面することと、その中に存在する希望。逆境を乗り越えた後に得られる自信や、より強い人間になれることが、主なテーマです。

―そういったテーマは、初めから頭の中にあったことですか? それとも制作過程で自然と生まれたものですか?

セレステ:作りながら、自然とそうなりました。アルバムを作るのが初めてということもあって、最初はどうしたらよいのか自分自身でもよく分からなくて。でも、アルバムを作っていくうちに段々と自身がついてきました。私自身が制作中に感じていた自然なフィーリングと共に、アルバムの内容も変化していったと思います。



―サウンド面ではいかがでしょう? 「こんなサウンドにしたかった」など、テーマやコンセプトはありましたか?

セレステ:私にとって一番重要だったのは、バンドをスタジオに連れて行って、できるだけ沢山の楽器をライヴでレコーディングすることでした。あまりモダンな技術を使ってサウンドを操作したり、変えたりはしたくなかったので。50年代や60年代って、コンピューターがなかったから、捉えたいサウンドがあったらマイクを特定の場所に置いて、その前で楽器を演奏することでボリュームを調整していましたよね。今回のアルバムをできるだけ誠実なものにするために、そういった昔の技術を使ってレコーディングしたかったのです。

―アルバムの制作に当たって、最も配慮した点はどんなところですか?

セレステ:できあがった時に自分自身が誇りに思える作品を作る、というのが制作中ずっと頭の中にありました。それで、リスクもありましたが、音楽業界での経験が浅くても私自身が心からその才能を信用できるミュージシャンと一緒に演奏することを選んだのです。その結果、誇りに思える作品を作れましたし、このことが頭にあってよかったと思っています。

自分自身に挑戦することができて、プロデューサー、マネージャー、レーベルも私に課題を与え続けてくれて、それに応えようと頑張ることで成長できました。誰かが試練を与えて背中を押してくれなかったら、すっと同じレベルのまま進歩しなかったと思います。自分の良いところばかりを見てそれに固執していては、新しい表現法は永遠に見つからないですしね。

―『ノット・ユア・ミューズ』には基本的にゲスト・アーティストもなく、全曲のソングライティングに直接あなた自身が関わっていますね。

セレステ:このアルバムを制作し始めた頃の私は、今よりも全然知られていませんでした。ロンドンや他の国のフェスで出会った才能あるミュージシャンたちが頭に思い浮かんだのですが、彼らとは知り合った程度で、長年友情を築いてきたわけではなかったのです。どんなに才能があっても、まだ私がその人に対して十分にオープンになって、自分自身をさらけ出せるような関係を築けていたわけではなくて。

アーティストをスタジオに招いて、そのパフォーマンスがどんなに素晴らしかったとしても、私の作品である以上、私にとってしっくりくるパフォーマンスでなければ意味がないのです。今回のアルバムは、自分自身に誠実な作品を作ることが大切だったから特にそう。1stアルバムを一人で完成させたことで、私という存在を知ってもらえると思っていました。この作品によって、誰かとコラボレーションする機会が切り開かれたらいいなと思います。

―本作で多くの曲を共作しているジェイミー・ハートマン(ルイス・キャパルディ、バックストリート・ボーイズなどに携わってきたソングライター)とのケミストリーについては、どのように考えていますか?

セレステ:ジェイミーとの作業は大好き。スタジオに入る時、何について歌いたいか、何を話したいかを私自身がしっかり理解していなくても、彼が私の頭の中に何があるかを言葉にしてくれる時があるのです。ソングライターの多くがそんな直感を持っていると思いますが、ジェイミーは確実にそれを持っている。会話の扉を開いて、それを曲にしていくような感じで。

私の人生に何があったか、私の1日に何があったか、彼に説明しなくても、私が部屋に入ってきただけでそれを感じ取ることができるのです。そんな直感を持っている人とは、本当に作業がしやすいし、良い作品を一緒に作ることができる。本当に特別な才能ですよね。

インスピレーションは毎日の生活

―アルバム・タイトルの『ノット・ユア・ミューズ』には、どんな想いが込められていますか?

セレステ:前述したことに繋がるかもしれませんが、今回のアルバムを作る過程で、もっと自分に自信が持てるようになって、自分の好きな方法で音楽を作っていいんだ、と思えるようになりました。去年私は、アーティストとミューズの関係により興味を持つようになったのですが、そこで認識したのは、ミューズとはある意味アイドルであるということ。つまり、自分自身のことは置いておいて、期待に応え、望まれたある形の音楽を作らなければならない。

でも私は、アルバムを作ることで自分の真の声を見つけようとしていたのです。プレッシャーを感じつつも、ここ3年で自分を理解し、自分自身が作りたいと思うサウンドを模索して、自分自身が言いたいことを表現するというポイントに辿りつきました。このタイトルは、私がここ数年で築き上げてきたそのスタンスを表しています。私は私。他の人からどうあるべきか操作されるのではなく、私自身であり続けるというスタンスです。

アルバム作りの初めの段階でタイトル・トラックの「ノット・ユア・ミューズ」を作り始めたのですが、コーラスを書いたあと、ヴァースを書くのがすごく大変だったこともあり、しばらく曲を放っておきました。その後、去年のロックダウンの時にやっと仕上げることができて。時間というプレッシャーがなかったのがよかったのだと感じています。



―アルバムの中から、あなたにとって最も挑戦的な試みになった曲はどれになりますか?

セレステ:一番チャレンジングだったのは、「ノット・ユア・ミューズ」。コーラスを書いたのは3年前なのですが、それから曲を仕上げるまでに2年半~3年もかかりました。曲が私の人生の中で落ち着くべき場所を見つけ、そこに収まるまでにすごく時間がかかったのです。この曲で表現したいことを、自分自身が十分に経験したと思える瞬間を待たないといけなかった。それが降りてきて初めて納得のいく表現ができるので。

プロデュースの面で一番大変だったのは「トゥナイト・トゥナイト」と「ステップ・ディス・フレーム」。その2曲はジャズとフォークにインスパイアされて書き始めた曲で、特に「トゥナイト・トゥナイト」に関しては、作曲中ずっとレナード・コーエンを聴いていました。昔の音楽とメインストリームのサウンドの交差のさせ方など、絶妙なバランスを追求するのがすごく大変で。ジャズやフォークのルーツに忠実でありながら、ポップ過ぎずモダンなサウンドにするという中間を見つけ出すのは、本当にチャレンジングでした。

―アルバムの制作にあたって、何かインスパイアされたものはありますか?

セレステ:私にとってのインスピレーションは毎日の生活。自分の周りで起こっていること、存在していることを取り入れようと意識しています。みんなが人生や日常で経験するようなことですね。人間関係だったり、仕事だったり。経験そのものについて書くよりも、そこから何を感じるか表現することを心がけています。自分の胸の内にあるものを曲にするように。

だから、それぞれの曲が異なるテーマを持っているんですよ。例えば、「ビラヴド」は遠くから称賛している誰かを恋しく思う気持ちについて。「テル・ミー・サムシング・アイ・ドント・ノウ」は、イギリスの政府から過小評価、もしくは見落とされているフィーリング、国への落胆がテーマになっています。こういったテーマは、みんなの人生に共通して存在しますよね? そういったインスピレーションの中から自分にとって一番意味のあるもの、重要なものをピックアップしているのです。

パンデミックとBLM運動に思うこと、社会との向き合い方

―新型コロナウイルスのパンデミック、ブラック・ライヴズ・マター運動の世界的な拡大、アメリカ大統領選挙など、2020年から現在に至る混乱した世界情勢は、アルバムの内容にどのような影響を及ぼしていますか?

セレステ:これらに対する自分のフィーリングについてはアルバムでも歌っていますし、そういった出来事が起こる前から、コミュニティの分断は存在していたと思います。ロンドンでは労働者階級の問題がずっと存在していて、ブラック・コミュニティの問題も世界中に存在していました。その動揺の全てが2020年に表に現れ、みんながそれに対する新しい答えを探し始めた。それが大きな変化を生み出したのだと思います。

みんなの抗議は前向きな結果をもたらしていますよね。今イギリスでは、EU離脱が私たちにとって何を意味するかに直面しているところですが、離脱を決定づけた選挙の結果は、特定のコミュニティにおける不穏や、きちんとした教育が行き届いていないとういう現実が引き起こしたもの。教育や人々の理解が揺らいでいるせいで、怒りだけで決断を下してしまった結果だと感じます。



―現在の音楽シーンで、あなたが最も刺激を受けているアーティストやムーブメント、作品を挙げていただけますか?

セレステ:これから起こることに、より刺激を受けると思います。全ての人々が関わって一つになり、みんなのために改善できることを政府に伝え続けていくことなど。ブラック・ライヴズ・マター運動に関しては、私自身も私の周りの人も、問題をより深く理解することができた上、変化がありました。そしてあの運動は、疎外感を感じている様々な人にとって刺激になりましたよね。

私がそれを踏まえて特に感じたのは、トランスジェンダーのコミュニティに対する声がもっと必要だということ。社会の中でもこのコミュニティの規模は小さくて、見落とされがち。去年もより規模の大きな他の出来事の中に埋もれてしまい、過小評価されてしまっていました。彼らの声にもっと耳を傾ける必要があると感じています。私にとって、それはとても重要なことなのです。

―アルバムのオープニングを飾る「アイディール・ウーマン」は、楽曲的にも歌詞的にもデビュー・アルバムの1曲目として良い意味で意表をつかれる内容でした。この曲であなたが訴えたかったことはなんでしょう?

セレステ:「アイディール・ウーマン」の中で、私は自分自身も脆くて不安があることを認めています。でも同時に、その不安の中にパワーを見つけようとしている。社会の期待に応える必要はない。社会が求める格好をして、社会が求める行動をする生き方はしない、ということを歌っています。これは私が自然に考えていたことで、「よし! このことについての曲を書こう!」と思って書き始めたのではなく、自分の中から自然にでてきました。自分自身もあとになってから曲の内容に気づいたくらい。

―16歳のときに制作したという「サイレンス」、そして2019年リリースのシングル「ファーザーズ・ソン」など、父親を題材にした曲を歌われていますが、お父様の存在はあなたの人生観にどんな影響を与えているのでしょう?

セレステ:「ファーザーズ・ソン」を書いたのは今から4年前くらい。私の父は、私が10代の時に亡くなってしまったのですが、あの曲を書いた目的は、父のこと、そして自分のことをもっと理解するためでした。父が亡くなってから、彼のことをもっと知りたいと思って色々と探っていたのですが、私たちの性格はよく似ていることもあって、彼について知ろうとすることで、自分自身をより理解していくことに気がついたのです。

それでこの曲では、父のことを知ろうとすることで、自分についての疑問への答えを見つけたいと思っていました。「Im my fathers son」と断言する代わりに「Maybe Im fathers son」と歌詞にためらいが入っているのは、私自身が自分のアイデンティティについて理解していなかったから。自分のアイデンティティは母よりなのか、父よりなのか。今となっては、私は自分自身であって他の誰とも違う、という結論にたどり着きましたけどね。曲を書いた当時は、自分が誰なのか、ということをもっと理解したかったのです。



―『ノット・ユア・ミューズ』を作り上げたことによって得た、最大の収穫はなんでしょう?

セレステ:一番大きかったのは、アルバムをどうやって作っていくかというプロセスを学べたこと。当初は、アルバムをどうやって作ったらいいのかあまり理解していなかったのです。アルバムを作ったことがある人の話を聞いたり、インタビューを沢山読んだりはしていましたが、やっぱり自分でやってみないと完全に理解することはできなくて。

この経験することによって、私がなぜ音楽を作りたいかに改めて気付くことができました。注目や名誉、お金のためではなく、自分自身のために音楽を作ることの大切さを再認識したのです。アルバムを作り終えたあとに感じた充実感も、本当に大きかった。今回、曲作りの楽しさに気づくことができたので、次に作品を作る際には恐れよりも興奮の方が勝ると思います。

―今日はありがとうございました! 日本でショーが見られる日を楽しみにしています。

セレステ:こちらこそありがとうございました。早く来日できますように!


デビュー・アルバムの制作を通して、自分自身のアイデンティティを深く掘り下げたと語ったセレステ。社会問題にも言及するなど、自らの声を最大限に投影した『ノット・ユア・ミューズ』は、収録曲「ヒア・マイ・ヴォイス」が第78回ゴールデン・グローブ賞の歌曲賞にノミネートされ、早くも話題となっている。受賞の行方に注目しつつ、2月26日に控えた国内盤CDの発売を心待ちにしたい。


アーロン・ソーキン監督によるNetflix映画『シカゴ7裁判』のために制作されたエンディング・ソング「ヒア・マイ・ヴォイス」



セレステ
『ノット・ユア・ミューズ』
配信中
国内盤CD:2021年2月26日発売
https://umj.lnk.to/Celeste_Album

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