世界中で爆発的ヒット、オリヴィア・ロドリゴが異例のブレイクを果たした5つの理由
Rolling Stone Japan / 2021年2月12日 17時0分
米カリフォルニア州出身のシンガーソングライター、オリヴィア・ロドリゴの快進撃が止まらない。1月8日にリリースしたデビュー曲「drivers license(ドライバーズ・ライセンス)」は全米・全英シングル・チャートで4週連続で1位を継続中。もうすぐ18歳となる彼女がここまで支持されている理由とは? 歌詞や音楽性、本人のバックグラウンドを掘り下げることでヒットの秘密に迫る。
【動画を見る】「drivers license」歌詞和訳つきMV
きっかけは、よくある失恋だった。誰にでも経験があるものだ。10代の恋。何をしていてもその人のことしか考えられないくらい、夢中になった恋。そして、短命に終わった恋。今、私は一人で胸の痛みに苦しんでいる。でも、彼/彼女はもう、別の誰かと一緒にいる……。
誰もが経験したことのある恋と別れには、人の数だけそれぞれ個別のドラマがある。その胸の高鳴り、その悲しみ、その痛みは、誰にでもシェアできるものじゃない。
でも、その痛みや悲しみが、歌になったらどうだろう。個別具体的な経験が歌詞になり、メロディーとリズムに乗せられた途端、「よくある失恋」は誰もがシェアでき、口ずさめるポップソングになる。その歌を聴いた人々は、自分自身の経験が重なる部分をそこに必ず見出す。この歌は、私のことを歌っている――。そんな感覚を覚えさせてしまうのが、ポップソングの魔法だ。
オリヴィアは日本時間2月5日に米人気テレビ番組『ザ・トゥナイト・ショウ・スターリング・ジミー・ファロン』に出演し、「drivers license」のパフォーマンスを初披露。
2021年2月9日現在、初登場からなんと4週連続で全米シングル・チャート(Billboard Hot 100)の1位の座を占めているオリヴィア・ロドリゴの「drivers license」。この曲はまさに、そんなスペシャルな魔法がかけられたものだと言っていい。本稿ではその「drivers license」の魅力、そこにかけられた魔法をつまびらかにしていきたい。
①主役は「内向的な女の子」
まず、オリヴィア・ロドリゴという人物については、Rolling Stone Japanのこちらの記事に詳しい。2003年生まれの17歳で、カリフォルニア州テメキュラ出身。幼い頃から歌を習い、作曲もしてきた。また、俳優として『やりすぎ配信!ビザードバーク』(2016~2019年)や『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』(2019年~)というディズニー・チャンネルのTVシリーズで主演を務めている。言ってみれば彼女は、ディズニーアイドルだ。
とはいえ、音楽ジャーナリストの沢田太陽が指摘するように、オリヴィアが演じてきた役柄は、明るくて元気はつらつな従来のディズニーアイドルとはちょっとちがう。いわゆる「クイーンビー」のようなカリスマではなく、ナードっぽかったり、地味で内向的だったりするタイプなのだ。
これは、「drivers license」を理解するうえでも重要なポイントだと思う。というのも、「drivers license」の歌詞には”あなたはきっと、あのブロンドの女の子と一緒にいる”という一節があるから。これはつまり、この歌の主人公(≒オリヴィア)がクイーンビータイプの「ブロンドの女の子」ではないことを表している。
「drivers license」の主役は、目立ちたがりでもリーダーシップを発揮するタイプでもない、ちょっと内向的な女の子だ。だから、誰もが身近に感じられ、聴き手がアクセスするポイントを見つけたり、自己像を投影したりしやすい。
②歌詞の内容、実体験とゴシップ
少し先取りしてしまったが、「drivers license」の歌詞の内容に踏み込んでいこう。
「drivers license」は、別れた恋人への尽きない思いと、張り裂けそうな胸の痛みを歌っている。彼と話していた運転免許をついに取ったのに、車の助手席に彼はいない。彼は今、”私よりずっと年上”の”ブロンドの女の子と一緒にいる”。私は一人、郊外をドライブして思う。まだ彼のことを愛している……。
「drivers license」の歌詞についてよく言われるのが、オリヴィアが実際に体験した失恋をもとにしている、というもの。オリヴィアは前述の『ハイスクール・ミュージカル』で相手役を演じたジョシュア・バセットと付き合っていたのだが、ジョシュアは今サブリナ・カーペンターとデートしているらしい。このゴシップは、「drivers license」のリリースの2週間後にサブリナが「Skin」という曲を発表し、それが「drivers license」へのアンサーソングなのではないか、という憶測を生むところにまで発展している。
③誰もが共感できるユニバーサルなバラード
ただここまでのヒットを記録し、TikTokでもバズっていることを考えると、オリヴィアのストーリーなんて知らずに聴いているリスナーの方が多いはず。誰にでも心当たりがある、失恋についての歌。だからこそ、これほどの広がりを見せているのだろう。「drivers license」はバックグラウンドを知っていてもいなくても否応なしに心に響く、ユニバーサルなバラードだ。
たとえば、TikTokの動画やYouTubeのコメント欄では、「歌詞が響く」「私も同じ状況だ」など、リスナーがそれぞれのエピソードや思いを吐露している。そこでよく使われているのは、「痛み」「美しい」「感動」といった言葉だ。「drivers license」は痛みを美しく感動的に描ききったからこそ、大きな支持を得ている。
The Forty-Fiveのジェネッサ・ウィリアムズによる論考では、オリヴィアに熱心に入れ込むファンに取材をしているのが興味深い。同じ東南アジア系のオリヴィア(父方がフィリピン系)をできうる限りサポートしたいと語るマリアムというファンは、「私たちはみんな、誰かを失った経験がある。あるいは、自分の元から誰かが去っていった経験がある。その思いを反映できる『drivers license』は、ただの失恋の歌ではなく、別れの歌であり、先に進んでいくための歌なんです」と言う。「drivers license」が包み込む痛みは、なにも失恋に限らない。
「drivers license」のキーになっているのが、「運転免許」だというのも重要だ。つまりそれは、一人で生きていかなければならない大人への入口に立った、10代後半の不安定な心情や宙ぶらりんな状況を表すシンボルになっている。だからこそ、「運転免許」というアイテムは楽曲に強いリアリティと説得力を与え、聴き手を歌の世界へぐっと引き込む。
曲名にも注目してほしい。すべて小文字で、アポストロフィも省いた「drivers license」というタイトルは、ショートメッセージやソーシャルメディアの投稿のように見える字面だ。インターネットネイティブ世代にとって身近で、とても共有しやすい曲名だと思う。
④曲のテーマを引き立たせる音楽的演出
では「drivers license」は、どんなふうに痛みを美しく感動的に描いているのか。もちろん歌詞だけでなく、そこには音楽的な演出や工夫が詰め込まれている。
悲痛さを湛え、緊張感を増して高音へと駆け上がっていくコーラス(サビ)のメロディ。そこからテンポがハーフになり、解放感をもたらすブリッジとアウトロは、まるでこらえきれなくなった涙が突然流れ出してしまったかのようだ。シンプルなコードワークによるソングライティングや楽曲構成が、巧みに痛みと悲しみを描き出している。
イントロでは、車のキーがかちゃかちゃと鳴る音とドアのロックを外すサウンド(オリヴィアが母親に頼んで録ってもらったものだとか)が効果的に配置されている。特に後者は、8分で刻まれるピアノのB♭の音とキックにそのまま繋がっていき、見事な導入の役割を果たしている。この非音楽的な要素は、先ほどの「運転免許」というアイテムとの相乗効果で楽曲の世界を提示する。
また、オリヴィアはテイラー・スウィフトとロードのファンとして知られており、「drivers license」を聴いて彼女たちの楽曲を想起したリスナーも少なくないだろう。この曲はとりわけロードの「Green Light」と似たテーマを持っており、「赤信号、止まれのサイン」という歌詞は、「Green Light」の「私は青信号に変わるのを待っている」というラインに呼応したものだと言える。
その「Green Light」にも近い、アコースティックピアノとエレクトロニクスが絡み合ったサウンドプロダクションも見事だ。静と動のコントラストが効いたアレンジ、深いリバーブのかかった厚いコーラス――これらは、共作者でありプロデューサーのダン・ニグロの貢献によるところが大きいはず。インディロックバンド、アズ・トール・アズ・ライオンのフロントマンだった彼は、コナン・グレイやエンプレス・オブ、ルイス・キャパルディ、カーリー・レイ・ジェプセンといったポップアクトの楽曲を手がけている才能だ。楽曲の悲痛なテーマを過剰に盛りつけず、あくまでもオリヴィアの声を中心に置き、現代的な意匠によって彼女の歌を聴かせているニグロの仕事はパーフェクトだと言える。
⑤オリヴィアの歌とインディフォークの系譜
ここまであまり触れてこなかったが、もちろん「drivers license」の魅力の大部分は、オリヴィアの歌の力が占めている。単純な歌の上手さを超えた聴き手に訴えかける表現力と、オリヴィアの声に固有のテクスチャーが、「drivers license」を特別な曲にしているのだ。
先に挙げた沢田の記事でファイストが引き合いに出されているように、オリヴィアの少しハスキーな歌声やボーカルスタイルは、キャット・パワーやニーコ・ケイス、あるいはカレン・ダルトンなどを思い起こさせる。つまり、高音で歌い上げる大味なポップシンガーではなく、低めの声で親密かつ繊細な表現を得意とするインディフォーク系のシンガーに近いのだ。そこが、オリヴィアを替えの利かない歌い手たらしめている。
TwitterやInstagram、TikTokといったソーシャルメディアでは無邪気な姿を見せているオリヴィアだが、歌や音楽には真正面から向き合っているのだろう。背景の物語を取り去ってみると、「drivers license」からは彼女の真摯さが伝わってくる。音楽ライターの竹田ダニエルが書くとおり、アーティストとしての誠意や音楽的なクオリティの高さ――つまり、ここまで述べてきた歌詞の魅力、サウンドプロダクションの巧みさ、歌とメロディの力強さ――こそが、「大人たちが会議室で考えた戦略」ではないオーガニックな受容と型破りのヒットを生んでいる。
現在進行形で様々な記録を打ち立てている「drivers license」の成功については、すでに様々な分析がなされている。しかし、本稿でそれについて言えることがあるとすれば、いい歌だからヒットしたという、ただそれだけだ。とても凡庸で、ここまで読んでくれた読者には呆れられてしまうような結論かもしれないが、それに尽きると本当に心の底から思う。
オリヴィア・ロドリゴ
「drivers license」
視聴・購入:https://umj.lnk.to/OliviaRodrigo_license!DR
オリヴィアが出演しているディズニープラス配信のドラマシリーズ
『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』サントラ
試聴:https://lnk.to/HighSchoolMusical
日本公式HP:https://www.universal-music.co.jp/olivia-rodrigo/
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