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映画『ヤクザと家族』藤井道人監督が語る、義理人情の尊さと「FAMILIA」MV制作秘話

Rolling Stone Japan / 2021年2月19日 20時0分

『ヤクザと家族 The Family』出演の舘ひろしと主演の綾野剛(©2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会)

大ヒット公開中の綾野剛主演の映画『ヤクザと家族 The Family』。ヤクザをモチーフにした作品にもかかわらず、今年の邦画話題作の筆頭であり、役者・綾野剛の最高傑作という声も多い。監督は映画『新聞記者』で日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた藤井道人。映画公開日の当日、藤井監督に本作をめぐる社会的な背景、そして映画のアナザーストーリーでもある藤井自らが監督を務めた映画主題歌、常田大希率いるmillennium parade「FAMILIA」のMVについて話を聞いた。

ーヤクザをモチーフに選んだ理由は?

『新聞記者』という映画を、スターサンズ(映画製作・配給会社)と撮り終わって、クランクアップしてすぐにスターサンズの河村プロデューサーと『次は何やる?』という話になったんです。色々と話し合った中で、河村さんとの接地面が”ヤクザ”だった。僕自身が中野という街に育ち、新宿で青春を過ごした人間なので、ヤクザは遠い存在ではなくて。ただ、中に入ることは許されないし、あまり内情は分からなかったのですが、そこに対して河村さんと一緒に何か作っていこうということ自体に興味が湧いて、企画を作っていったって感じですね。

―ヤクザがモチーフの映画というと、2019年公開の映画『帰れない二人』がありました。

観ました。最高でした。ジャ・ジャンクー監督作品ですね。実は、『帰れない二人』はこの映画のクランクインちょっと前ぐらいに観ちゃったんです。観ながら「おい!ジャ・ジャンクーはやめてよ!」「もうやめて、今からヤクザ映画撮んだから!」って、思いましたね(笑)。

―本作『ヤクザと家族』もジャ・ジャンクー『帰れない二人』でも、ヤクザ社会にある、義理人情の世界が、社会の近代化の中で崩壊するばかりか、私たちの社会から義理人情の世界が失われて行く様を描いています。実際のところ、今のヤクザ社会では昔ながらの義理人情は存在しないのでしょうか?

僕自身がヤクザ社会の当事者ではないので、こうですよとは言えないんですけど、聞いた感じでは、現実は昔の任侠映画のように華々しいものではないそうです。今回、監修役に元ヤクザで作家の沖田臥竜さんが参加してくれたのですが、沖田さんからすると、今のVシネの極道映画は、別の世界を観ているみたいな感じがするそうです。

―『ヤクザと家族』になぞっていうと、義理人情の社会が、平成から令和に移る時代の中で、日本からごっそりと抜け落ちていったと?

そうですね。社会が浄化されていく中で、残るべき”義理人情”がハラスメントといった類のものと混同されがちになったなぁと最近すごく強く感じていますね。受け取り側の気持ちの問題みたいになっていて。それでいうと昔の体罰って何だったんだろうなって思うんです。僕は自分が受けた感覚と他の人が受けた感覚は違うから、体罰は課さないんです。けど、当時、謎に殴られた経験が大人になってすごく活きているので、僕は体罰が全部悪くないと、どこかで思っちゃうんですよね。あの時の古いしきたりというか。それが今必要とされていない時代なことも自覚していて、すごい複雑ですね。


出演者の舘ひろしと藤井監督(©2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会)

―そういう”古いしきたり”的なものを失うと社会的な損失があると思います。少し違いますが、コロナ禍で、去年は新しいバンドってほぼ誕生していない。スタジオに入れないし、ライブもできなかった。バンドデビューした若い人達がいないことが、3年後4年後に効いてくるはずです。

それはそう思いますね。

―お金の損失じゃない、そういう損失をもう少し私たちは想像しなきゃいけないはず。監督は本作で描かれている義理人情がなくなっていく社会的な損失をどう感じていますか?

”距離”ですかね。人と人の間に距離ができてしまった。そもそもソーシャルディスタンスって変な言葉だなって思うんです。ハグみたいな、ちょっとした愛情表現にみんな踏み込まなくなっていくと思うんですよ、今後さらに。だから空気に触れるように人とコミュニケーションを取ることに自分の恐怖を感じています。映画って、ガッツリ飯食いながら、いやー、あそこどうだったね、こうだったねっていうコミュニケーションの時間全部が無駄にならない創作なんです。批判も肯定も全てがありなんですけど、そういうコミュニケーションそのものが難しくなってきていて。その距離感を、今まであまり感じてなかったんですけど最近感じるんです。例えば、若いスタッフが、寝坊して現場に来て、俺が「何してん?」っていう。これって愛情なんですよ。寝坊するのは自分にプロとしての自覚がないから。どうしてもしんどいなら俺が起きろコールしてやるからって言っても、向こうはすっごい凹んじゃうんです。「凹むなよ。”さーせん”でいいんだよ」と、言っても、「いや・・・」みたいになってしまう。そういう一個一個が変わってきていて、既に自分の時代とはちょっと違うなって。年齢的には10年ぐらいしか変わらないんですけど。でも、それは人によるのかもしれないですけどね。今は目に見えない距離感がすごく難しいなって思います。


主演の綾野剛と藤井監督(©2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会)

―そういうところにも義理人情みたいな見えないものの損失が出てきていると。同時に、見えるもの、数値化できるものにしか信じない時代になりつつある。みんな内容よりもSNSの”いいね”の数に一喜一憂してる。『ヤクザと家族』の中でも、組の人々は、事務所にパソコンを置いて、時代に乗る努力をしながらも、大切なものはこれじゃない的に葛藤をしていますよね。

社会に対して置いてきぼりになった人達を、ちゃんと描ければなと思ったんです。僕自身、社会に出て確定申告すら分からなくて。パソコンが全然使えないんです。やっぱり置いていかれている感覚になってしまいます。コロナ禍の補償のシステムも見たんですけど、こんな面倒臭いんだって思いましたし。そういうことが一個もできない人もいると思うんですよ。で、できないからいいやってなっちゃう人もいるはずです。その社会からこぼれ落ちたり、置いていかれそうになった人達がどう生きていくのかみたいなものは、この映画の中でちゃんと描きたかった。逆にそこが唯一の接地面でもあると思うし。ヤクザっていうちょっと遠い人達と、僕らみたいな人間との接地面って、社会から取り残される恐怖みたいな、排除される恐怖みたいなのが、あるということです。少なくとも僕にはある。実際、映画業界も今は排除対象にはなってきていると思いますし。音楽もたぶんそうだと思います。芸術は不要不急でないと言われてしまうと、あれ?今までそんなこと一回も言われてなかったけど、めっちゃ否定されてるじゃん俺達っていう感じです。悔しいですけど。

―不要不急の話でいくと、本来不要不急なものは人によって違うはず。人類共通の不要不急なものはない。ある人によっては映画に行くこと、コンサートに行くことが一番大事な場合もある。喫煙だってルールを守れば、喫いたい人は喫えばいい。そういう個人の判断は尊重されるべきなのに、それが許されない不寛容さ、多様性を認めない空気感が非常に怖いなと。

この話は義理人情から一本の線で繋がっていると思っていて。やっぱり義理人情って寛容さだと思っているので。人が過ちを犯したとしても、ミスを犯しても、学べばいい、社会でもう一度やり直せばいいっていう寛容さが、逆に今不寛容さになってしまっている。はい!人生の生き残りゲームから落第。はい!お疲れさまでした!みたいな感じです。それがここ数年すごく色濃いなと思っていて。その中から上級国民みたいな言葉が出てきたり。人を区別するそういう風潮に対しての疑問みたいなものはすごくありますね。


―今回の作品では「煙」が象徴的に使われていますね。

”煙”は、今作のメタファーです。『デイアンドナイト』という山田孝之プロデューサーと一緒に作った映画は、”風”、『新聞記者』は、”落ち葉”。今回は煙にしました。オリジナルで、自分で映画を作る時は何かメタファーを一つ入れるようにしているんです。ヤクザ映画をやるなら義理人情をどう描くかってなった時に、言葉じゃない視覚的なアプローチを”煙”で表現しました。その煙が、章によって持つ意味が変わってきたり、食卓のシーンに出ている湯気にもその意味が重なったり、海の中で血って赤い煙にも見えたり…。人間って色んなものを纏っているわけですが、それが自分の中での”社会”っていう表現になるんです。言葉で「社会、社会」って、たくさん言うより、映像の中にそういう表現で入れられないかなと思って今回はしつこいぐらい煙が出てきます。

―今時には珍しいほど喫煙シーンも多いですが、タバコの煙もそういうことだと?

そうなんです。タバコの煙のように、煙たがられる存在であるヤクザがどういう行動をしているのか。という一個一個もすごく大事だと思うし。第3章で嫌な警察官がアイコス吸っているのは、僕のちょっと反抗心です(笑)。僕はまだ紙のタバコなので。

―ヤクザのような煙たい存在の排除がどんどん進んでいる中で、そこでしか生きられない人の場所が狭くなってきている。J.D.サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』でも、主人公・ホールデンは金至上主義のインチキ野郎どもに嫌気がさし、彷徨うが、物語の最後、ホールデンは精神病院にいることがわかる。排除は危険だと感じる一方で、どういう社会にすべきかの設計図がない。監督の中では何かイメージはありますか?

コロナさえなければっていうプランがあったんです。一見気にしないテーマというものを、エンターテインメントというか、小さくて作家性が強いけどミニシアターでかかるようなものじゃなくて、ちゃんと地方に届くようなものに練り込む作業をこの10年ちゃんと続けていければ、映画の見方が変わったり、映画が教えてくれることが多くなったりすると信じてきました。だから、映画の中に問いかけを多く入れてきたんです。けれどコロナのせいで色々プランが崩れてしまった。正直、今現代劇を撮りたくないなって気持ちになっちゃってます。追突事故で入院中みたいな気分なんですよね。これは全業界そうだと思うんですけど。コロナ自体が論理的じゃないんですよ。社会の憂いを描いていく中で、本当急に横から来たものに対しての向き合い方が今は全然わかってない。それでも、去年は分かっていたと思うんです。去年は「乗り切ろう!」「頑張る!」「頑張れる!」「それでもやるんだ!」という、アティテュードを見せればいいって。昨日クランクインだったんですけど、もう心が折れるんですよ。もう何回も心折れてます。で、誤魔化して生きているけど、これ来年まで誤魔化すのは無理かも。と、思っているのは事実ですね。明確なゴールみたいなものを持てていないのは自分の中でもすごく焦っていて。2020年以前のことしか描けない。2020年の話だと、登場人物はマスクをしているのか、それ見て誰が面白いんだろう。それはエンタメなのか、など色んな疑問が浮かんできてしまい、自分自身まだ答えが出てないですね。


主演の綾野剛と藤井監督(©2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会)

―そこはアーティストの皆さんが試行錯誤しているところだと思います。ただ、0から1を作るのがアーティストの役割。更にいうと、今色んなルール化が進んでいる中で、道徳やルールの外に連れ出してくれるのがアート。しかも今作のモチーフそのものがルールに適応できない人達の話なので、二重の意味でこの映画を観るべきと思います。

ありがとうございます。時代が重なったっていうか、コロナが来て幸か不幸かみたいなところもありますね。別の意味合いも加わってくれたからよかったですが、もしかしたら2020年にこれを撮っていたら全然違う作品になっていたなって思いますね。2年前で良かったっていうのは正直ありますね。

―先ほど出た「問い」でいうと、「良い作品」は、君はこれでいいのか?という問いと、「君はこれでいいんだ」という安心感の両方を与えてくれますが、この作品には両方を感じることができました。

それはめっちゃ嬉しいです(笑)。

―まだ映画を観てない人のために、監督からこの作品の問いをあらためて言葉にすると?

他人事じゃない風に観てくれると嬉しいですね。『ヤクザと家族』という結構強気なタイトルですけど、”あなたと私”くらいの気持ちでこの映画を作ったので、決して他人の話じゃないよ、一つ社会にみんなが生きているという話だよ、という風に観てくれると、さらにこの映画を楽しめるんじゃないかなと思います。


―本作の主題歌、millennium parade「FAMILIA」のMVも監督が撮っていますね。

去年の10月から12月下旬まで『新聞記者』のNetflixのドラマの撮影に入っていて時間が全然なかったんですが、(綾野)剛さんと常田君が「撮るっしょ」「藤井ちゃんじゃないと、これ締まんないでしょ」ってけしかけてきて(笑)。で、なるほどって言って、ドラマの撮影直後、12月28日、29日っていう本当ド年末にこの作品を撮ったんです。

ー(笑)。

本作を観た常田君が書き下ろしてくれた曲なんで、その曲をまた映像に戻すにはヤクザと家族のアフターストーリー、もしくはアナザーストーリーにしたいっていうところがスタートだったんです。実はこのMVのクリエイティブエンドロールを見ると、常田君と剛さんと僕とクリエイティブディレクターの佐々木集君が4人入ってるんです。剛さんが「アーティストの名前にもあるパレード、葬式、野辺送り‥‥そういうものが延々と歩いているワンカットでもいいよね」って、フワッと言ったのが、実はこのクリエイティブのスタート地点だったんです。埋葬するっていうパレードをmillennium paradeらしくどうやろうかみたいな話から始まったんです。で、僕ともう一人の共同監督の有光で、普通にやると時代劇みたいになるけど、どうしようか?っていう時に、透明な箱の中から煙が出ているクリエイティブなビジュアルを作ってみたんです。そこから色んなものを足して、間引いて、最終的に撮影の2週間前ぐらいにあの形になりました。もうヘロヘロだったんですが、でもこの映画は常田君の曲でちゃんと帰着する映画になってるなと思っていて。逆にあの音楽を聴いていいなと思った人達がまたミュージックビデオを見て映画を追体験してもらえるなって。本当はもう一回映画観てって言うべきなんでしょうが、もう1回130分の映画を観るの結構キツイと思うんですよ。僕もあんまり2回は同じ映画を観ないタイプだし。4分でもいいからこの映画のことを忘れないでほしいみたいな仕掛けにもなればいいなっていうので、あのストーリーになりました。



―監督はミュージックビデオもたくさん手がけていますが、映画と音楽もMVというジャンルを通してどんどん融合しつつある。「FAMILIA」の映像には新しい何かが生み出されるワクワク感がありました。

MVってアーティストのものだなって謙遜しちゃう部分がすごくあったんです。でも今回発注されたMVに対しては、「原作者はあなたなんで」みたいな気持ちでディレクションできたんです。僕がゼロイチで作ったものに対して、常田君もゼロイチを作っている。それを足して100にする。そういうアプローチにはできたなと思っていて。常田君も徹底して「いや、俺はMVには出なくていいっしょ」って。普通スケベ心であるじゃないですか?

―普通は出たがります。

好きなアーティストのMVってその本人が出てるだけで見れちゃうから、僕は出てほしいと思ってたんですが、常田君は「いやノイズになるから、いいっしょ俺出なくて」の一点張りでした。棺桶を担ぐ役で出せばよかったなって今になって思うんですけど、純粋に作品のこと考えてくれて出なかったですね。

―あくまでも映画の続編、アナザーストーリーと捉えてくださったと。

そうしてくれましたね。だから逆にクリエイティブもそこまでしっかり固まって、映画の出演者に出てほしいって言ったら、みんな出演を快諾してくれました。年末の撮影時も磯村(勇斗)は富士の裾野で2時ぐらいまで撮影してたのに、5時にこっち入ってくれて、そこからずーっと棺桶を担いでくれたんです。すごく良いチームで良いもの撮ったなって思いましたね。

―クサイ話かもしれませんが、それこそ義理人情の話ですね。

いっちー(市原隼人)も、「道人に言われたら行くしかないよ」ってドラマの合間を縫って来てくれた。そういうのが映画業界というか、我々の世代はまだ確実に存在してるんだなって実感できましたね。

―最後の質問になりますが、MVも映画本編も、最後のシーンで主人公が少し笑っているように感じました。主人公・山本賢治は幸せだったと監督自身は思いますか?

と、演出しているつもりです。思い残すことはない、自分の命が誰かのために少しでも使えるなら生きてて良かったって、誰かに肯定されたような気持ちになった山本賢治で終わりたいなという風に思っていて。で、僕自身もそう思って生きています。自分には何もないけど、自分の映画に救われたり、自分が何かをしたことで他人がどうにかなってくれるのは嬉しいことです。そういうものが映画でもMVでもちゃんと出てくれたら嬉しいなと思いながら撮りました。

―今コロナで、出会った人たちがセックスするか問題があります。セックスは濃厚接触になるので。でも本当に好きなならセックスをすべきだと思う。愛のためなら命を落とすって言ったら大袈裟ですけど、感染するかどうかのリスクの計算じゃなく、本当に愛おしいかどうかが問われている時代なのかなと思いました。

確かに今の人達、どうしてるんですかね?

―それも含めてこの映画では本当にたくさんのことが問われていると思いましたし、次回作も期待しています。

まだ詳細は言えないんですが、次もゆかりのあるアーティストが音楽を全部書いてくれています。次は恋愛映画なんですけど、かなり良い感じになってると思いますので、楽しみにしてていてください。


藤井道人
1986 年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。大学卒業後、2010 年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(2014年)でデビュー。 以降『青の帰り道』(18年)、『デイアンドナイト』(19年)、『宇宙でいちばんあかるい屋根』(20年)、など精力的に作品を発表。 2019年に公開された『新聞記者』は日本アカデミー賞で最優秀賞 3 部門含む、6部門受賞をはじめ、映画賞を多数受賞。新作映画、『ヤクザと家族 The Family』2021年1月29日より公開。


『ヤクザと家族 The Family』
配給:スターサンズ/KADOKAWA
大ヒット上映中
(C)2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

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