ザ・ホワイト・ストライプスが挑んだ音楽の「再定義」とは? 2000年代ロック最大の発見を振り返る
Rolling Stone Japan / 2021年2月12日 20時0分
1997年に結成され、2011年に解散した伝説のデュオ、ザ・ホワイト・ストライプス。これまでにリリースしたオリジナル・アルバムは6枚、そのうち3枚がグラミー賞を獲得。初のベスト・アルバム『ザ・ホワイト・ストライプス・グレイテスト・ヒッツ』に合わせて、彼らがシーンに与えた音楽的影響をあらためて考察する。書き手はThe Sign Magazineの小林祥晴。
自分たちが歴史の一部であることに自覚的であり、だからこそ、過去の音楽的遺産を継承して未来へと繋いでいこうとすること。しかも、歴史の片隅から誰もが忘れて埃を被っていたお宝を引っ張り出し、磨き上げ、ときに思いもよらぬ形に組み替えて、人々がハッとするような魅惑的なフォルムで再提示すること――米デトロイト出身、ジャック・ホワイトとメグ・ホワイトからなる2000年代屈指のバンド、ホワイト・ストライプスがキャリアを通してやってきたのは一貫してそのようなことだ。
このたび、ホワイト・ストライプス初のベスト・アルバム『グレイテスト・ヒッツ』がリリースされる。これを機に、バンドのキャリアを追いながらその功績を位置づけ、2021年の今こそ彼らを聴くべき意義を考えていきたい。
時代の最先端となったストライプスの音楽ルーツとは?
ホワイト・ストライプスの名前がセンセーショナルに世に響き渡ったのは、いまから20年前の2001年。90年代オルタナティヴの残骸やラップメタルが支配的な状況への反動として、ロックンロールリバイバルと呼ばれるプリミティブなバンドサウンドへの回帰運動が世界的に起こり始めたときのこと。このムーブメントの火付け役はNYから忽然と現れたストロークスだったが、その「次に聴くべきバンド」を血眼になって探していたメディアによって発見されたのがホワイト・ストライプスだった。デトロイト出身の一介のガレージバンドだった彼らは、突如として時代の最先端に躍り出ることになったのである。
だが、ホワイト・ストライプスは、当時ロックンロールリバイバルと括られたバンドたちとはある程度の共通項を持ちながらも、同時に決定的に違っていた。それは、彼らのブレイクスルー作となった3rdアルバム『ホワイト・ブラッド・セルズ』(2001年)を聴けば一目瞭然だろう。その共通項とは60年代ガレージロックを彷彿とさせる荒々しい演奏。違っていた点は、当時のバンドの多くが70年代末~80年代初頭のポストパンクをヒントにしていたのに対し、ホワイト・ストライプスの最大のリファレンスは戦前のデルタブルーズ、カントリー、フォークだったということだ。
例えば「ホテル・ヨーバ」という曲を聴いてみてほしい。ジャック・ホワイトによるほぼ3コードのシンプルなアコギ演奏を基調にしたカントリーソングだが、壁や床をバカスカと叩いているようなメグ・ホワイトの笑えるくらいパワフルなドラムビートが荒々しいエッジを生んでいる。コーラスでのクラッシュシンバルの連打も効果的だ。極めてシンプルなアイデアながら、(オルタナカントリーとはまったく別の方向から)ここまで生き生きとカントリーを蘇らせたアーティストはほかにいない。
The White Stripes - Hotel Yorba
一方、ミシェル・ゴンドリーによるMVも話題になった「フェル・イン・ラヴ・ウィズ・ア・ガール」は、わずか1分50秒で終わる真正ガレージパンク。ジャックのギターはお得意の粘っこいブルーズスタイルではなく、どこまでもストレートでトラッシー。ほとんどヴァースの繰り返しだけで押し切るシンプルな構成だが、中盤から飛び込んでくる子供がふざけて歌っているようなコーラスは耳について離れない。ミニマムだが効果的なインパクトを残す、理想的な一曲だ。
The White Stripes - Fell In Love With A Girl
この2曲が持っていた音楽的アイデアの新鮮さと、その振れ幅。それだけでも彼らが時代の寵児となったのは当然と理解できるだろう。
Photo by Pieter M van Hattem
既存の「形式」から逸脱、コンセプチュアルなバンドの美学
先ほどホワイト・ストライプスのリファレンスとしてデルタブルーズを挙げたが、それをより強く感じるにはブレイク前の初期二作『ザ・ホワイト・ストライプス』(1999年)、『デ・ステイル』(2000年)に遡った方がいいだろう。
『デ・ステイル』収録の「ハロー・オペレーター」は、急発進と急停止を繰り返すようなホワイト・ストライプス特有のアンサンブルに乗せてジャックがブルーズギターを弾きまくる逸品(ハーモニカはゲストミュージシャンによるもの)。「デス・レター」はジャックが愛してやまないデルタブルーズの巨人、サン・ハウスのカバーだ。
The White Stripes - Hello Operator
The White Stripes - Death Letter (Live at Jays Upstairs June 15, 2000)
そして、『ザ・ホワイト・ストライプス』収録の「ザ・ビッグ・スリー・キルド・マイ・ベイビー」や「アストロ」は、いずれもデルタブルーズ発、地元デトロイトのストゥージズやMC5を経由したドス黒いブルーズパンクだと位置づけられる。
The White Stripes – The Big Three Killed My Baby
The White Stripes - Astro
もしかしたら、ホワイト・ストライプスに触れたことがない読者の中には、ここまで読んで以前彼らに投げかけられたのと同じ疑問を抱いた人がいるかもしれない。「これって単なるレトロ趣味の回顧主義なんじゃないの?」と。
だがそれは間違いだ。まず、そもそもホワイト・ストライプスは極めてコンセプチュアルなバンドだということを知っておかなくてはならない。構成主義の手法をヒントに、デビュー当初から赤、白、黒で徹底的に統一されたヴィジュアル(2ndアルバムのタイトル『デ・ステイル』は、モンドリアンが提唱した新造形主義を基本理念とするオランダの美術誌とそのグループの名前から取っている)。ジャック・ホワイトとメグ・ホワイトは元夫婦でありながら、姉弟と公言する謎めいた設定。そして何より重要なのは、やはりギター&ヴォーカルのジャックとドラムのメグだけという必要最低限「以下」のバンド編成を選択していることだ。
新しい何かを生むために必要なのは、既存の「形式」から如何に逸脱するかということ。ホワイト・ストライプスはこの特殊なバンド編成を選ぶことで、最初から「形式」の逸脱を目論んでいたのだろう。バンド編成をマキシマムに増やしたりメンバーの流動性を高めたりして自由度を上げるのではなく、敢えて不自由な2人だけの編成を選択したのも慧眼だ。これは、彼らが制約こそがクリエイティビティの源泉だと理解していたからにほかならない。つまり、ホワイト・ストライプスは歴史と伝統に繋がりながらも、既存の「形式」から逸脱することによって、それを更新することに最初から極めて自覚的だったということである。
「セヴン・ネーション・アーミー」がアンセムになった理由
再び彼らのキャリアに話を戻そう。ホワイト・ストライプスの名を世に知らしめた『ホワイト・ブラッド・セルズ』から2年後、まさにロックンロールリバイバルの熱狂の真っただ中に投げ込まれた決定打が『エレファント』(2013年)である。
これは、戦前のデルタブルーズ、カントリー、フォークを必要最小限「以下」のバンド編成で再構築し、ガレージロック的な激しく生々しい演奏で叩きつけるという、彼らの当初からのコンセプトがひとつの完成形を見た作品だ。
白眉は何と言ってもアルバムのオープニングを飾る「セヴン・ネーション・アーミー」。2000年代の最高峰に位置づけられる7つの単音で構成される完璧なギターリフ、そしてbpm120前後で揺らぐドラムビート。ほぼそれだけでしかない極めてミニマルな構造ゆえに、延々と繰り返されるリフの快楽性は余計に際立っている。そして、プレコーラスから徐々に激しさを増していく演奏は、ヴォーカルの代わりにギターリフで引っ張るコーラス(と解釈していいだろう)に至ると爆発的なカタルシスを生むのだ。
The White Stripes - Seven Nation Army
奇しくもこの曲はダンストラック的な構造を持っていたため、インディロックとクラブミュージックのクロスオーバーという当時の機運の後押しも受け、無数のブートリミックスが作られて世界中のダンスフロアで毎晩のように鳴り響くことにもなった。まさにジャンルの壁を越えた、時代を象徴するアンセムだと言っていい。
二作連続で大傑作を作り上げ、バンド結成当初からのビジョンが一つの完成形を見たとなれば、普通はその後に待つのは停滞だ。しかし、ここからの変化と進化によって、むしろさらに凄みを増していったのが、ホワイト・ストライプスが特別なバンドたる由縁でもある。では、この先はキャリア後期の二作を詳しく見ていこう。
Photo by Pieter M van Hattem
キャリア後期の傑作『イッキー・サンプ』
『ゲット・ビハインド・ミー・サタン』(2005年)は、「ギターとドラムだけのロックバンド」という当初自分たちに課した制約からも逸脱して見せた作品だ。1曲目の「ブルー・オーキッド」はジャックお得意の激しいブルーズギターが中心に据えられているものの、アルバム全体ではほぼギターは鳴りを潜めている。「ザ・ナース」はマリンバとピアノのエキゾチックな響きから始まる曲(そして突如として落雷のようなギターが空気を切り裂く)。のちにジュラシック5にサンプリングもされた「マイ・ドアベル」は、ブレイクビーツ風のドラムとパーカッシヴなピアノによるファンキーなナンバーだ。
The White Stripes - Blue Orchid
The White Stripes – The Nurse
The White Stripes - My Doorbell
ギターとドラムだけというホワイト・ストライプス結成当初からアイデアは新しく刺激的だったが、それさえも繰り返していけば一つの形式として固定化し、マンネリに陥る。だからこそ、ある形式から逸脱することに成功すれば、「脱・形式化」して生まれた新たな形式からもまた逸脱しなければならない。これは、そのような問題意識を彼らが持っているからこそ生まれたアルバムだろう。しかも、どの曲も演奏は徹底してミニマル。決して安易な肥大化をせず、必要最小限のサウンドのみを使って「脱・形式化」を繰り返えせるところが彼らの突出したポイントでもある。
彼らにとって最後のアルバムとなった『イッキー・サンプ』(2007年)は、ジャックの鬼神じみたギターが復活すると同時に、さらなる音楽性の拡張――というより、さらに多様な音楽的な伝統との接続を試みたアルバムだ。
アルバムのタイトル曲でもある「イッキー・サンプ」では呪術的なアナログシンセのフレーズがのたうち回り、まるで南米の黒魔術の儀式に迷い込んだような妖しさを放つ。そして50年代のシンガー、パティ・ペイジのカバーである「コンクエスト」は暴力的なまでの勢いで演奏される壮絶なマリアッチ(メキシコの伝統音楽)。「プリッキー・ソーン、バット・スウィートリー・ウォーン」ではスコットランドのバグパイプも使われている。
The White Stripes - Icky Thump
The White Stripes – Conquest
伝統に連なりつつ再定義するというバンド結成当初からのビジョンに忠実でありながら、これまでのどのアルバムとも似ていない。ホワイト・ストライプスの最高傑作というと『ホワイト・ブラッド・セルズ』か『エレファント』を挙げる人が多く、筆者も異論はないが、この『イッキー・サンプ』はその二枚に次ぐか、ほぼ肩を並べる傑作と言っていいだろう。
メインストリームの流行とは無縁の普遍性
ホワイト・ストライプスは常に変化を続けながらも、その根底に流れる思想は驚くほど一貫している。それは本稿で何度も繰り返しているように、歴史や伝統に繋がりながら再定義すること。それを言葉にするのは簡単だが、キャリア10年弱、7枚のアルバムを通してここまで高いレベルで継続するのは並大抵のことではない。やはり彼らは同時期にブレイクしたロックンロールリバイバルのバンドたちと比べても、いや、2000年代を通して考えても、明らかに突出したバンドの一組であるのは間違いない。
では、もう10年以上前に解散したバンドであるホワイト・ストライプスを2021年に聴くことには、果たしてどれほどのアクチュアリティがあるのだろうか? ベースレスという特異なバンド編成は、ラップがポップの中心となり、低音重視となった2010年代半ば以降のポップミュージックの世界においては完全に異質。いわゆるJ・ディラ的な揺らぎをビートに持ち込むのではなく、リズムが走ったり、つんのめったりと安定しないからこそ演奏に緊張感とグルーヴが宿るという発想は、打ち込みやポストプロダクションでの加工が基本の現代においてはおおよそ考えられない。戦前のデルタブルーズやカントリーやフォークへの偏愛もほぼ例を見ないだろう。言ってしまえば、ホワイト・ストライプスは2021年において完全に「場違い」なバンドだ。
だが、考えてみてほしい。そもそもホワイト・ストライプスは、彼らが発見された2000年代初頭においても「場違い」なバンドだったのだ。メインストリームの流行とは完全に無縁だったのはもちろん、同世代のバンドたちと並べてもどこかはみ出していた。しかし、だからこそ彼らは時代を動かすことができた。いつだって歴史を動かすのは現状に適応しようとする者ではない。時代の空気に縛られている人々が思いも寄らなかった突拍子もないアイデアによってしか、歴史は前に進まない。2021年の今、再びホワイト・ストライプスが「場違い」なバンドになっているのなら、だからこそ聴く意義がある。そこにはまだ見ぬ未来へと繋がるヒントが隠されているかもしれないのだから。
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Photo by Pieter M van Hattem
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〆切:2021年2月21日(日)23時59分
※当選者には応募〆切後、「@INTSonyMusicJP」より後日DMでご案内の連絡をいたします。
ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル
キャンペーン詳細ページ
https://www.sonymusic.co.jp/artist/thewhitestripes/info/526533
<INFORMATION>
『ザ・ホワイト・ストライプス・グレイテスト・ヒッツ』
ザ・ホワイト・ストライプス
ソニー・ミュージックジャパン インターナショナル
国内盤CD、アナログ盤発売中
デジタル配信中
https://TheWhiteStripes.lnk.to/GreatestHitsRS
【収録曲】※英語タイトル横の数字は収録オリジナル・アルバム
1. レッツ・シェイク・ハンド | Lets Shake Hands ※1st AL『The White Stripes』収録(日本盤ボーナストラック)
2. ザ・ビッグ・スリー・キルド・マイ・ベイビー | The Big Three Killed My Baby ※1st収録
3. フェル・イン・ラヴ・ウィズ・ア・ガール | Fell In Love With A Girl ※3rd AL『White Blood Cells』収録
4. ハロー・オペレーター | Hello Operator ※2nd AL『De Stijl』収録
5. アイム・スローリー・ターニング・イントゥ・ユー | Im Slowly Turning Into You ※6th AL『Icky Thump』収録
6. ザ・ハーデスト・ボタン・トゥ・ボタン | The Hardest Button To Button ※4th AL『Elephant』収録
7. ザ・ナース | The Nurse ※5th AL『Get Behind Me Satan』収録
8. スクリュードライバー | Screwdriver ※1st収録
9. デッド・リーヴス・アンド・ザ・ダーティー・グラウンド | Dead Leaves And The Dirty Ground ※3rd収録
10. デス・レター | Death Letter ※2nd収録
11. ウィ・アー・ゴーイング・トゥ・ビー・フレンズ | Were Going To Be Friends ※3rd収録
12. ザ・ディナイアル・トゥイスト | The Denial Twist ※5th収録
13. アイ・ジャスト・ドント・ノウ・ホワット・トゥ・ドゥ・ウィズ・マイセルフ | I Just Dont Know What To Do With Myself ※4th収録
14. アストロ | Astro ※1st収録
15. コンクエスト | Conquest ※6th収録
16. ジョリーン | Jolene ※3rd収録(日本盤ボーナストラック)
17. ホテル・ヨーバ | Hotel Yorba ※3rd収録
18. アップル・ブロッサム | Apple Blossom ※2nd収録
19. ブルー・オーキッド | Blue Orchid ※5th収録
20. ボール・アンド・ビスケット | Ball And Biscuit ※4th収録
21. アイ・フォート・ピラニア | I Fought Piranhas ※1st収録
22. アイ・シンク・スメル・ア・ラット | I Think I Smell A Rat ※3rd収録
23. イッキ―・サンプ | Icky Thump ※6th収録
24. マイ・ドアベル | My Doorbell ※5th収録
25. ユー・アー・プリティ・グッド・ルッキング (フォー・ア・ガール) | Youre Pretty Good Looking (For A Girl) ※2nd収録
26. セヴン・ネイション・アーミー | Seven Nation Army ※4th収録
関連ウェブサイト
アーティスト オフィシャルサイト(英語)
https://www.whitestripes.com/
ソニー・ミュージック オフィシャルサイト(日本語)
http://www.sonymusic.co.jp/artist/thewhitestripes/
オフィシャルinstagram
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オフィシャルFacebook
https://www.facebook.com/thewhitestripes
オフィシャルYoutubeチャンネル
https://www.youtube.com/user/whitestripes
【「ボール・アンド・ビスケット」2003年10月22日東京・SHIBUYA-AX公演】
https://www.youtube.com/watch?v=yLTXdIpwMvk
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