斧で夫婦を惨殺、犯行現場の屋敷に約2億100万円の高値がつく理由
Rolling Stone Japan / 2021年2月13日 6時45分
19世紀末、アメリカ全土で大論争を巻き起こした「リジー・ボーデン事件」。資産家として知られるアンドリュー・ボーデンと妻アビー・ボーデンが斧で殺害され、容疑者として末娘のリジー・ボーデンが連行された(アビーはリジーの継母にあたる)。その後、裁判で彼女は無罪となったが、真犯人は見つからず同事件は未解決事件として今に至る。
殺人事件のあった家は現在B&B・ミュージアムとして公開されている。そして今、その家が200万ドル(約2億100万円)で売りに出されている。
繊維製造の中心地として栄えていた米マサチューセッツ州フォールリバーの2番街230番地にあるこの家は、もともとは二世帯用の住居として建てられた。アンドリュー・ボーデンは1872年にこの家を購入し、1階と2階をつなげて自分の家族が住む大きな屋敷にした。彼がここに住んでいたのは1892年まで。居間で昼寝をしている最中に、斧を振りかざす何者かによって殺害された。スイートルーム2部屋、客室4部屋――そのうち1部屋はアビー・ボーデンが殺害された2階の寝室だ。
1893年に無罪放免となった後、リジーと姉のエマはフォールリバーの中上流階級向けエリア、通称「ザ・ヒル」にあったアン女王様式の大きな屋敷を遺産で新たに購入した。7つの寝室がある3935平方フィートの家を、リジーはのちに「メイプルクロフト」と名付けた。屋敷は最近改装されたばかりで、建築様式に合わせた家具を完備した状態で売りに出されている。メイプルクロフトの売りは6つの暖炉とステンドグラスの窓、そして秘密のメッセージが隠されていると信じる人もいる木彫りの炉棚(もっとも、購入当時からそこにあったのかどうかは不明。あるいは大量生産されていたもので、ショウルームかカタログで購入した可能性も高い)。
現在の所有者はいずれもドナルド・ウッズという実業家。両物件を扱う不動産業者スザンヌ・セントジョンさんによると(週のうち1日はミュージアム兼B&Bのツアーガイドも務めている)、昨秋からメイプルクロフトを競売にかけている。だが1月初めにボーデン宅が売りに出されて以来、メイプルクロフトに対する関心が急激に高まった。セントジョンさんいわく、購入希望者からの提示価格は200万ドル近くに上るという。希望者の大半は以前ここを訪れたことのある地元以外の人間だという。
ボーデン宅とメイプルクロフトは必ずしも抱き合わせで販売されているわけではないが、セントジョンさんは買い手が両物件を所有してくれたら、と期待を寄せている。「どなたかリジーの家――B&Bのほうですね――を買ってくださって、メイプルクロフトにお住まいいただくのが一番いいと思います」とセントジョンさん。「ですが今のところ、皆さんB&Bの購入を狙っていらして、メイプルクロフトの購入はそのあともしかしたら、という状態のようです」。現在、メイプルクロフトの売値は89万ドル(約9300万円)だ。
ボーデン宅はニューイングランド随一の観光名所
『Parallel Lives: A Social History of Lizzie A. Borden and Her Fall River(原題)』の共著者で、フォールリバー歴史協会(リジー・ボーデンに関する資料、写真、遺物など世界最大のコレクションを所有する)のキュレーターでもあるマイケル・マーティンスさんにしてみれば、歴史協会がどちらの物件も購入できれば最高なのだが、現在の協会予算は不可能だろうと語る。「当ミュージアムが2つの物件を所有するのが一番しっくりくるのですが、経済的に無理ですね」とローリングストーン誌に語った。「ですので私としては、最終的に物件の所有者が誰であれ、願わくば事件や屋敷のニーズに同調してくださることを願うばかりです」
ボーデン宅と違って、メイプルクロフトのほうは商業物件ではなく、個人住居として販売されている。つまり、最終的にB&Bとして開業しようと思った場合、購入者は自らの責任で法的手続きを取らなくてはならない――セントジョンさん曰く、手続きには1年ほどかかるそうだ。
リジー・ボーデンB&B/ミュージアムは、ほぼ完全な造作付きで売りに出されている――当時の家具や内装はそのまま、ボーデン一家や殺人事件に関する遺物も残されている(唯一、数点のハリケーンランプと一部絵画は、宿泊施設のオーナーの私物なので除外される)。またもれなく「知的財産権」もセットでついてくる。セントジョンさんいわく、主に約60個のWEBドメインと複数のリジー・ボーデン関連のWEBサイトのことだ。B&B兼ミュージアムに付随する「リジー・ボーデン」という屋号と商標もこれに含まれる。
セントジョンさんによれば、所有者のウッズ氏が物件を売りに出すことにしたのは、ひとえに引退計画のためだ。決してCOVID-19に関連して業績が落ち込んでいるからではない。事実、たいがいのB&Bと比べてもかなり景気はいいそうだ。コロナで4カ月間閉鎖した後、ツアーも再開した。「ニューイングランド随一の観光名所です。リジー・ボーデンのことは世界中の人がご存知ですし、みなさん未解決事件にご興味がおありですから、いつか来たいと思っていらっしゃいます」とセントジョンさん。「ふつうのB&Bじゃありません――ニッチ市場であり、歴史そのものです」
だが一部の人々は、屋敷の訪問者全員が入場チケットを購入しているわけではないと信じている――この屋敷にはなにかが存在するのを探知した、と主張する幽霊探し番組がいくつもある。事実、セントジョンさん自身も経験者だ。「自分から探し回ったりしません――一応言っておきます。でも確かに、何かが起きるんですよ」
【関連画像を見る】アンドリュー・ボーデンが斧で殺された居間
超常現象ももれなくセットでついてくる?
そうした不思議な現象のひとつは数年前、毎年8月4日に行われる殺人事件の再現劇の週に起きた。セントジョンさんはブリジット・サリバン役だった――アイルランド系の住み込み家政婦で、事件当日に家にいたことから当初容疑者として名前が挙がっていた人物だ。「突然目に痛みを感じて、涙が次から次へとあふれてきたんです。『いったい何事?』という感じでした」とセントジョンさん。涙が落ち着いたところで彼女は目をぬぐい、ツアーをやり終えた。「あまり深くは考えませんでした」と彼女は続けた。俳優数名がB&Bに泊まったが、そのうち2人は滞在中なにか強い力で目を突かれた、とのちに語った。「その時、私も目を突かれたんだ、と気づきました」と、セントジョンさんは語る。「そういう体験が何度かありました。取り乱したりはしませんがね」
セントジョンさんや再現劇の俳優だけではない。B&Bの宿泊客が滞在中に超常現象を体験したという類の話は枚挙にいとまがない。だが、こうした出来事が訪問客の足を遠ざけることはなく、屋敷の購入希望者の心をくすぐるようだ。「素晴らしいチャンスですよ」とセントジョンさん。「だって、歴史を買うチャンスなんてめったにないでしょう? 歴史を手に入れるんです。市場を独占することができるんですよ」
一方でフォールリバー歴史協会のマーティンスさんは、自分が知る限りどちらの物件でも超常現象がおきた話はこれまで聞いたことがない、と言う。「屋敷の元住人のご家族と時々連絡を取りました――あるいは個人的に知り合いなんですが」と彼は言う。「いずれのご家族も、みなさんが経験しているようなことは一度もなかったそうです」
それでも、彼のもとには定期的に、超常現象の調査員やドキュメンタリー番組のスタッフからボーデン宅での超常現象疑惑に関する依頼が寄せられている。だが歴史協会は純粋に、リジーの裁判や殺人事件前後の彼女の人生を学術的にとらえている、と彼は言う。「ここで我々が携わっていることとは全く無関係です。我々としては、皆さんがやってらっしゃることにお力になれることは何もないのですから」と彼は語った。
最終的に誰が2番街の家を手に入れるのか――そして多くの人々が信じているように、アンドリュー、アビー・ボーデン夫妻殺害の責任を取るのか――はさておき、購入者は1892年8月4日に実際に起きた史実を心に留めてほしい、とマーティンスさんは願っている。「2人の人間が惨殺されたことを、みなさん忘れがちです。(歴史協会では)そのことに深い同情を寄せ、センセーショナルに騒ぎ立てたりしないようにしています」と本人。「ボーデン殺人事件には非常に多くの方々が関心を寄せていますが、リジー・ボーデン・ランドにはならないでしょう――そうなるべきではありません」
【関連記事を読む】凄惨な殺人事現場専門の不動産鑑定者が語る、難あり物件のあれこれ
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