LAMP IN TERREN松本大が語る変化の理由「向き合うべきは、自分ではなく世界」
Rolling Stone Japan / 2021年2月15日 19時0分
取材現場にふらっと彼が姿を現した時、あまりの変貌ぶりに驚いてしまった。トレードマークだった長い前髪をバッサリと切り、全体的にブリーチをかけたナチュラルなショート・リーゼントが、生まれ持った精悍な顔立ちをより引き立てている。「どうしたんですか?」と尋ねると、「いや、ちょっとしたイメージチェンジです」と照れ臭そうに目を伏せた。
「自分の顔が、ずっとコンプレックスだったんですよ。色素が薄くて茶色い瞳と、黒髪のコントラストがすごく嫌で、ずっと目を隠すような髪型にしていました。バンドでも、”隠したい気持ちがあった”とか、”汚れていく自分が嫌いだった”みたいな、自分のコンプレックスを歌詞にしていることが多くて。”僕が僕を好きになった瞬間に、世界は変わるんだ”なんて歌っているくせに、自分を好きになるための行動なんて何もしてきていなかったことに気付いたんです。『よし、思いっきり髪を短くしてみよう』と(笑)。周囲の評判も今のところいい感じだし、自分のイメージみたいなものをぶち壊すのは気持ちよかったですね」
長崎県で結成された、4人組ロックバンドLAMP IN TERRENのヴォーカル&ギター松本大。ラテン語で「星」や「大地」を意味する「terra」を捩った造語であるバンド名には、「この世の微かな光」という意味が込められている。新型コロナウイルスによる感染が世界中で広がる中、昨年10月にリリースされた通算5枚目のアルバム『FRAGILE』には、そのバンド名のごとく暗闇の中で「光」を求めるような楽曲が並んでいた。
長らく続いた自粛期間中、多くの人々が口にしていた「自分自身と向き合う」という言葉に、松本は強い違和感を覚えていたという。本アルバム収録曲「EYE」の中でも、”見つめるべきは きっと僕じゃなくていい””ただ自分であることも 忘れてしまえたら”とその思いを綴っている。
「向き合うべきは、自分ではなく『世界』だと思うんです。こんな世の中だからこそ誰かの言葉に感動したり、誰かの作品に感銘を受けたり。そういうことで人間は、より良い方向へと進んでいけるのではないか。他者に関心を向け、手を取り合って生きていくことが大事なんじゃないか、と思ったんですよね。『自分を愛せなければ、他人を愛せない』と言う人がいるけど、どうやって自分を愛したらいいかなんて分からないじゃないですか(笑)。それよりも、誰かを好きになれるからこそ、そんな自分を好きになれるんじゃないかな。誰かを好きになり、共に生きていきたいと思うことこそが、こんな世界で生きる理由になる気がするんですよね」
コンプレックスと表裏一体の自己表現
アルバムに描かれたイラストは松本によるもの。素朴だが、どこか不穏な空気を内包するその絵はレディオヘッドの『Amnesiac』や、『Hail to the Thief』あたりを連想させる。
「取り繕った絵も描こうと思えば描けるのですが、もっとパーソナルな作風に惹かれるというか。自分のライフスタイルがそのまま落とし込まれている作品が昔から好きなんですよね。例えばジャン=ミシェル・バスキアやパウル・クレーのような、ちょっと落書きっぽい絵に惹かれます。今はInstagramなどを活用しながらお気に入りのアーティストを探していますね」
音楽以外のアート表現にも強い関心を持つ松本。先行シングル「Enchanté」のジャケットに使用された写真は、彼が公園で遊んでいた子供に声をかけて撮影したものだ。
「写真は去年ハマって、京セラのコンパクトフィルムカメラCONTAX T2を持ち歩いていました。フィルムって、デジカメと違って撮れる枚数が決まっているじゃないですか。『この瞬間を絶対に収めよう』という意識がより強く働くんですよね。現像に出して、プリントされてくるまでの時間も好き。『ああ、こんな写真も撮ったな』とか『あ、こんな瞬間に自分は惹かれたんだ』みたいに、後から発見があるのも楽しいです」
例えば画集や写真集を制作したり個展を開いたり、自身が手がけた音楽以外の作品をまとめて発表する気持ちはないのだろうか。
「まだまだそんなレベルじゃないです(笑)。本気で写真を撮っている人たち、それを専門でやっている人たちには到底敵わないですからね。絵も写真も、言ってしまえば音楽も、自分は全て『感覚』でやっているんですよ。何か一つを極めるというよりは、自分の中から湧き出てくるものを最適な手段でアウトプットしたい。実は今度、芝居をやる予定なんですけど、それも一緒ですね」
誤解を恐れずに言えば、松本にとって音楽もドローイングも写真も芝居も、すべては自己表現のための「手段」なのだろう。
「器用貧乏だと思いますし、そこはコンプレックスと表裏一体なんです。だからこそ僕が最も大切にしているのは、『嘘をつかない』ということ。何をするにしても、常に自分に正直でありたい。とはいえ嘘をつかないでいると、人との衝突を生み出すこともあって。そんな時に、曲げない部分と受け止める部分を見極める心を持っておくことも大切です。自分がどうしても譲れないもの、守りたいものがあるのと同じように、相手にもそれがあるわけですから。こんなことばかり考えて生きているので、一定数の人たちに嫌われている自信はありますね」
Photo by Mituru Nishimura
「タバコは自分の呼吸が可視化される」
そう言って、笑いながらタバコに火をつけた。実は本アルバムの中にも、タバコについて歌った”いつものこと”という曲がある。”赤い光は吸い込んだら煙に変わってダンスした その少し青い踊り子を窓の外へ見送る”という詩的な表現には、彼のタバコへの愛が込められているようだ。
Photo by Mituru Nishimura
「タバコって、自分の呼吸が可視化されるじゃないですか。生きて呼吸していることを強烈に意識させてくれる。そこがすごく面白いと思ったんですよね。1本吸い終わるまでの時間って大体決まっているので、時間の進み方も分かる。基本的に、曲を作っていて煮詰まった時に吸い始めるので、何も生み出せていない時間の象徴みたいな感じもあって(笑)。それも含めて愛着を感じるというか。タバコはすごく自分の近くにあるものだと思っています」
好きな銘柄は3種類。「ラッキーストライク」「メビウス・プレミアムメンソール・オプション・レッド・ワン・100s」「パーラメント」を順番に回しているという。それにしても、2018年に声帯ポリープの切除手術を受けるため、バンド活動を一時期休止させたこともある彼が、いまだにその原因となったタバコを吸い続けているのはなぜだろう。
「手術する時も、医者には『禁煙した方がいい』と散々言われました(笑)。でも、結局のところ人間は必ず死ぬし、喉だって他の器官と同じく消耗品じゃないですか。そう思うと、先々のことを考えながら生きていくより『今、この瞬間』が輝いてさえいればそれでいい。そんな破滅願望みたいなものが、僕の中にあるんですよね」
彼が好きなファッション・デザイナーも、そんな松本の思想と通じるものがあるという。
「日本ではまだまだ無名なのですが、フランス語で『憂鬱な金持ちの子供たち』を意味するユニセックス ブランド、Enfants Riches Deprimes(アンファン リッシュ デプリメ)が好きでよく着ています。コレクションのテーマとして『フレンチパンク』を掲げるなど、音楽とも親和性が高くて。そういうところにも惹かれますね」
退廃的な匂いを纏い、アートやファッションを自己表現の手段ととらえる松本大。彼と話をしながら、ぼんやりとジャン・コクトーのことを思い出していた。彼もまた、写真や小説、絵画などでマルチな才能を発揮していたアーティスト。そういえば、コクトーが執筆した中編小説のタイトルは『恐るべき子供たち』(アンファン テリブル)だった。
「実はつい先日、コクトーの言葉『詩人は未来を回想する』をタトゥーに入れたんですよ。今を生きることはもちろん大切ですが、自分がたった今発した言葉、作り出した音楽が、今よりも先の未来でどう響くのか、ずっと先まで鮮度の高い作品を作るにはどうしたらいいのか、常に意識しながら生きていきたいですね」
ロケ地協力:桜丘カフェ
松本大(まつもとだい)
LAMP IN TERRENのヴォーカル&ギター、ピアノ。バンドの作詞作曲全てを手掛ける。2006年、長崎県で結成。2015年1月、1stアルバム『silver lining』でメジャーデビュー、2020年10月に最新アルバム『FRAGILE』をリリース。
https://www.lampinterren.com/
<INFORMATION>
『FRAGILE』
LAMP IN TERREN
A-Sketch
発売中
『Maison Diary』
LAMP IN TERREN
A-Sketch
2月19日より配信開始
<収録曲>
1. ほむらの果て
2. Is Everything All Right
3. いつものこと
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