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コロナ禍で世界進出した日本人アーティストから探る、アフターコロナの音楽シーン

Rolling Stone Japan / 2021年2月19日 15時36分

Kirk(左)とDANTZ(右)

新型コロナウイルスによって、音楽を取り巻く環境は大きく変化した。ライブやフェスといった興行が一切できなくなった一方で、DTMソフトや楽器、レコードの売り上げは拡大しているという。これは、先の見えない鬱屈とした世界の中で、音楽に癒されたり鼓舞される人や、言葉にできない想いを表現しようとしている人が増えているということでもあるのではないだろうか。そう考えると、”アフターコロナ”の世界での音楽シーンは大きく変化していくのかもしれない。

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ノンバーバルなコミュニケーションである音楽は、国境や人種を超えていく。シーンの人口が増えれば、きっと世界に何か面白いことが起きていくはずだ。

音楽活動の全てにおいて「やりづらい」状況が続いた2020年、米ユニバーサルミュージックグループから「Lemon Soda Music」を立ち上げ、世界に羽ばたいた日本人DJ/プロデューサーのDANTZと、ラッパー/シンガー/プロデューサーのRay Kirkはまさにこれからの時代の先駆者なのかもしれない。大変革期の音楽シーンの先端にいる二人の話には、これからの時代の音楽シーンを考えるヒントが隠されていた。



ーDANTZさんは長年EDMやHOUSEなどのダンスミュージックを作られてきたので、Lemon Soda Musicからリリースされたのがロービートの楽曲だったことが意外でした。ファンの方々からはどのような反応がありましたか?

DANTZ:日本のファンの方々からは「今っぽいね」や「そういう方向で来たんだ!」といった声が上がっていましたね。

ーそもそも、ロービートの音楽に転向したきっかけはどのようなものだったのですか?

DANTZ:一緒にお仕事をさせていただいていたA&Rの方から「HIP HOPに手を出してもいいんじゃないですか?」と言われていたんです。でもその時は、HIP HOPをそこまで知らなかったし、そこまで能動的に聴いてはいなかったのでピンと来なかったんです。でもそのちょっと後にEDM的な音楽に飽きてきて、新鮮さを感じなくなってしまって。DJも曲作りも、行き詰まってしまったんですよね。その時に、A&Rの方の言葉を思い出してHIP HOPをチェックするようになったんです。色々な曲を聴いていくうちに、HIP HOPがすごく自由な音楽であることに気づいて。

ー自由とは具体的にどのようなことでしょう?

DANTZ:HIP HOPのアーティストは色々な音楽の要素を取り入れてたんです。Future Houseが流行っている時はそれを取り入れている曲も多かったし、Trapを取り入れている曲も多いですよね。ビートもすごく自由。EDMだとBPM128がベストだったり、一定のルールのようなものがあって。DJプレイに関しても、「このタイミングで繋がないといけない」などのルールがあったり。僕はNujabesさんが好きなのですが、彼のように形にとらわれないロービートを僕も作ってみたいと思ったのが大きなきっかけですね。それで、勉強しようとHIP HOPのDJスクールに通ったりもしたんです。アメリカに行くきっかけも、ロービートの音楽を本気でやりたいと思ったからです。でも僕はHIP HOPの歴史もまだまだ勉強中なので、広い意味で「ロービートの音楽」として取り組んでいこうと思っています。

ー作曲の手法も、ダンスミュージックとは違うんですか?

DANTZ:そうですね。自由度が高い。自分がこれまでにやってきた音楽も取り入れていけるので、可能性が広がりました。



ーアーティストやジャンルによって全く変わってくるのが、作曲の手法だと思います。おふたりはどのような工程で曲を作られているのでしょうか?

Kirk:ふたりの曲に関しては、まずDANTZさんが作ってくれたトラックを僕が聴いて、そこから降りてくるメロディーから歌を作っています。例えるなら、ハンバーガーのようなイメージ。まずDANTZさんからハンバーガーの一番下のバンズをもらって、その上に歌詞やメロディーを具材のように入れて、最後にブラッシュアップをしながら一番上のバンズを乗せていく感じです。



ーハンバーガーという例え、面白いですね!わかりやすい。DANTZさんはKirkさんの声質をイメージしてトラックメイクをしているんですか?

DANTZ:声質をイメージするというよりかは、基本的には先に「こういう曲を作りたい」というイメージがあって、そこから自然発生するものを形にしています。

ー歌詞やメロディーなどの”具材”については、Kirkさんと話して決めるんですか?

DANTZ:そうですね。例えば「女性のラッパーを起用しよう」とか話して、二人の目指すイメージに近づける要素を取り入れています。

ー日本では音声合成ソフト・VOCALOIDで楽曲を制作しているボカロPと呼ばれる方々がいるのですが、彼らは作曲からミックスダウン、マスタリングまで一貫して一人で行うらしいんですよ。おふたりはそうしたエディット作業をどのようにされているんですか?

DANTZ:僕もKirkも、それぞれ指名のエンジニアがいるんです。

Kirk:ボーカルはこの人、ポップはこの人、R&Bはこの人というように、それぞれのパートごとに指名している人がいます。僕もDANTZさんもディティールに結構うるさい方だと思います(笑)。

ーパートでエンジニアを分けるのは、かなりのこだわりですね。日本だとひとりの方がすべてやることが多い気がします。

DANTZ:今僕たちが関わっているジャンルは、ミックスやマスタリングがすごく重要なんです。例えば僕の曲を一番聴いてくれているのは、ロンドンのリスナーで。次いでNY、LAと、欧米の方がたくさん聴いてくれています。Lemon Soda Musicは欧米にもアプローチをするために立ち上げたので、彼らの耳に届くためには、細部にこだわった音作りが重要なんです。

Kirk:エンジニアの方々もそれぞれプロフェッショナルなので、自分の得意な部分や不得意な部分をしっかりわかっているんですよね。だから他のエンジニアにもリスペクトがある。「ボーカルは彼の方がセクシーにできるよね」とか。



ーおふたりは今はアメリカと日本という物理的距離がある中で楽曲制作をされていますが、それぞれの工程での確認作業はどのようにされているんですか?

Kirk:データを送ってもらってそれぞれで確認し、二人で電話で話しながらブラッシュアップしています。DANTZさんとは呼吸が合うんです。

DANTZ:僕もKirkも感覚が近いんです。お互いに何を言っているかがわかるんですよね。

ー音楽というもので一緒に上がっていくパートナーとして、”感覚が合う”ことはかなり重要ですよね。

DANTZ:そうですね。アメリカに一緒にいる時も、車でテクノやハウスをかけたりするんですけど、「これいいじゃん!」みたいにどのジャンルでも同じ曲に反応することが多い。「このジャンルが好き」とかではなく、感覚的な好みが近いんだと思います。だから作曲作業もすごくやりやすいです。

Kirk:ぶつかったこともないですよね。

DANTZ:お互いの感覚を信頼してますね。

ー楽曲制作の面で、エンジニアリング以外に大事にしていることはどういったことですか?

DANTZ:自分にしかできないことをやることですね。ヨーロッパでEDMやハウスの曲を出した時、いつも周りから「個性を出さないとダメだ」と言われてきたんです。欧米で求められるのは、曲の良さだけではなく、唯一無二性。日本人である自分にしかできないことをどうやって音で表現するかを考えた時、哀愁とか奥ゆかしさといった情緒をメロディに取り入れようと思ったんです。自分の目指す世界観…欧米に受け入れられるメロディの中に奥ゆかしさを出すために、ベストの1つだったのが琴の音色だったので、「Let You Go」や「On My Way」には琴の音を使っています。琴もあまり「和」に聴こえないように、洋楽に馴染ませるための弾き方にしてもらっています。Kirkの「Donbrako」も、三味線を使ってるよね?

Kirk:そうですね。あの曲は、僕がアトランタに住んでいた時に出来上がっていた曲なんです。沖縄出身でアトランタに住んでいる友達が当時、三味線の音にハマっていたので取り入れて。「どんぶらこ」って桃太郎の桃が流れてくるときの擬音じゃないですか。実はアトランタ州の国旗が桃なんです。アトランタには、ストリップも多くていわゆる「ケツの文化」も盛んで(笑)。”Peach State”アトランタ、ケツの文化、日本の昔話「桃太郎」など全部が合体して、出来上がった曲なんですよね。



ー音楽には、そのアーティストが聴いてきた曲や体験など、それぞれの人生が色濃く反映されるものかと思います。長年音楽シーンに携わられているおふたりですが、プライベートではどんな曲を聴いてきたのですか?

DANTZ:長年EDMやHOUSEシーンにいましたが、実はプライベートで聴くのはチルで落ち着いた曲が多いんです。10代は、Aphex Twinが好きでした。90年代は電気グルーヴの「虹」が好きでしたし、2000年代によく聴いていたのはChicaneというアーティストの「No Ordinary Morning」。2000年代半ばはSigur RósやKyte。アンビエントやエレクトロニカで、メロディアスな音楽が好きなんですよね。邦楽でも、Dragon Ashの「静かな日々の階段を」とかも大好きでしたね。

ーDANTZさんは”お客さんを踊らせまくるDJ”という印象が強いので、意外です。バックボーンは結構荘厳な音楽なんですね。KirkさんのルーツはHIP HOPにあるかと思いますが、HIPHOPとの出会いはどのようなものだったのですか?

Kirk:小学3年生の時に、2Pacのアルバム『All Eyez On Me』に出会って魅了されすぎてしまったんです。真似しながらラップをしてみたり、PHSの着メロを作る機能でトラックのようなものを作ったりもしてましたね(笑)。それで5年生の頃、Eminemが大好きな友達と一緒にユニットを組んだのが、アーティストとしてのスタート地点ですね。

ーすごい、スーパー小学生ですね!1番好きな2Pacの曲はなんですか?

Kirk:「Life Goes On」もやばいし、うーん選びきれないですね…(笑)。あと、Rakimの2ndアルバム『The Master』も大好きで。「When I B On Tha Mic」を聴いてフローを練習していました。

ー小学生の時に、すでにフローの勉強という感覚があったんですね。

Kirk:初めてのライブは14歳の時です。今だから言えるけど、大阪の「SAM&DAVE SATURDAY」というクラブで年をごまかして出演してたいんです(笑)。オーガナイザーの前で、友達がビートボックスをして僕がフリースタイルのラップをして見せて「頼むからライブを演らせてくれ」と言って、現場を獲得したんです。そこが原点ですね。

ー大阪のどストリートから、世界に羽ばたいたというKirkさんの生き様がHIP HOPですね。

Kirk:そうですね(笑)。路上でチケットを売りさばくところからすべてが始まってます。

ーDANTZさんはアフリカのモザンビークでもDJされていましたよね。アフリカでの体験のなかで、今の活動に生きていることはありますか?



DANTZ:実は、今年アフリカのアーティストとコラボレーションしたいと考えています。モザンビークのファッションウィークのアフターパーティーで3年ほどDJをさせていただいていたのですが、現地のDJの方々の変化のスピードが速くて驚いたんです。1年目はもう6~7年前になるのかな。その時はEDMがアフリカに入りたてで、アフリカのULTRAも始まったばかりだったんです。EDMがそこまで浸透していなかったので、現地のDJさんもアフリカの曲とかをかけてたりするんですけど、すごい独特な曲をかけてて。EDMのような、レゲエのような…。年を追うごとに、現地のDJさんのかける曲やプレイスタイルは変わっていて、ザ・EDMというDJもいれば、HIP HOP寄りなDJもいたり。AFROHOUSEとかは昔からありましたが、EDMがシーンに入ったことでまた変化していると感じました。



Kirk:僕も南アフリカのDJ、Black Coffeeに激ハマりしていた時期があったんです。DrakeがBlack Coffeeをフィーチャリングした「Get It Together」を聴いたことがきっかけで。

DANTZ:アフリカに行っていた当時、現地のアーティストと交流する機会もあったのですが、僕はEDMのDJだったのですぐにご一緒する機会はなかなかなかったんです。でもアメリカに来てから「今のスタイルだと、彼らと一緒に何かできるかも」と思うようになって。Diploも、アフリカのアーティストとコラボレーションしていますしね。Kirkもアフロビートが好きなので、「じゃあやろう」となって、今年はアフリカのアーティストさんたちともコラボレーションしていきたいと思っています。

Kirk:僕たちの芯には、ジャンルを超えた曲を作ることがずっとあるんです。だから意欲的に様々なチャレンジをしていきたいですね。



ーStay Home期間中に、楽器やDTMソフトの売れ行きが世界的に伸びているそうなんですよ。つまり、胸に抱えているものを音楽で表現しようと思う人が増えているんですよね。だから、アフターコロナの世界では音楽シーンはもっと面白くなるのではないか思います。そうした”来たるべき日”に向けて、おふたりがやりたいことはなんでしょうか?

DANTZ:それぞれ僕らしかできないことをしていきたいですね。Kirkはハーフで僕は日本人。そういうふたりだからできること、日本の音楽シーンにも新しい波が起こせるといいなと思っています。僕たちの曲や活動がきっかけで、海外の音楽に出会い、日本でもっと音楽が好きな人やライブに行く人が増えたらすごく嬉しい。アメリカと日本で橋渡ししつつ、世界に広げていければいいなと思います。

ーおふたりのように、日本から世界に羽ばたいた方に続いていきたいと思う人はこれから増えていくと思います。そうした方々に何か伝えたいことはありますか?

DANTZ:僕たちもまだ階段を昇っている最中ですが、やっぱり自分にしかできないことをやることが大事だと伝えたいです。欧米では、DJのスタイルでも、楽曲でも、パフォーマンスでも、全てにおいて自分にしかできないことを求められます。自分にしかない武器を磨くことが一番大事だと思います。

Kirk:まず、人に対して思いやりを持つこと。仲間や家族とのUnity(団結)と、ネットワークを広げたUnify(統一)。あとはBe your selfでいることが、大事ですね。

DANTZ:2月10日にDigital EP『Let You Go』がリリースされました。先行シングル「Let You Go」「Give Me Love (Good Good)」のほか、それぞれカラーの違う曲が詰まっています。ぜひ聴いてください。




<リリース情報>



Digital EP『Let You Go』
ft. Ray Kirk, Cat Clark, BELLE

発売日:2021年2月10日(水)
https://dantz.lnk.to/letyougo

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