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Official髭男dism「Universe」に見る、J-POPとゴスペルの新しい関係性

Rolling Stone Japan / 2021年2月25日 20時45分

official髭男dism(Courtesy of ポニーキャニオン)

Official髭男dismがニューシングル「Universe」を2月24日にリリースした。『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』の主題歌としても話題の同曲を、気鋭のライター/批評家・imdkmが考察。

【動画を見る】『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』予告編

突然の告白で恐縮なのだけれど、自分はどうやらヒゲダン、つまりOfficial髭男dismのことがやけに好きらしい。レビューの書き出しとしてはほとんどご法度ものだ。でもレビューしようと思って聴けば聴くほど「巧さ」に唸り、またそこからはみでる「腕力」にまた唸る。

このたびシングルとしてリリースされる「Universe」は唸る側の曲だ。すでにダウンロード配信やストリーミングなどで先行配信されていたから、すっかり聴きなじみのある方も多いだろう。『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021』の主題歌にふさわしく、この人気アニメを彷彿とさせる情景や掛詞を折り込む手際。あざとさと紙一重の「巧さ」だ。しかし、力技のワンフレーズがそうした「巧さ」をさらにねじふせて、「巧さ」の一歩先を聴かせてくれる。



具体的には、曲名にもなっている”universe”の一語を高らかに歌うサビの一行――”涙とmistake 積み重ね野に咲く universe”(2度めのサビでは”今日は帰ろう いつの日も野に咲く universe”となって、半音上に転調もしている)。曲名であり、サビであり、さらにキメの最高音域のフレーズに、映画のモチーフでもある「宇宙」という壮大なスケールの一語をもってきているのはあまりにもストレートで大胆だ。なによりそれを「野に咲く」と修飾するのも凄い。たとえて言うなら、足元の草花を眺めていたと思ったら、カメラが180°垂直にティルトして視界が一気に大空へと開けていくかのような。日常的な言語感覚ではぎりぎり意味をとれるかとれないかの凄まじい飛躍が、まさにその飛躍によって説得力のあるイメージを喚起させているのが面白い。飛躍と言えば「野に咲く(移動ドで言うとレドシド)」から「universe(同じくドシド)」でちょうど1オクターブ跳躍するメロディになっているのも同様で、藤原聡の張り上げるような歌唱もあいまって、いかにもヒゲダンといったケレン味を演出している。

巧いだけではあざとく単調に、腕力だけでは持久力を欠いてしまうところが、うまく補完されている。どこまで意識しているのか定かではない、というか多分そういう意識をわざわざしているともあまり思えない。なんでこんなことできるんだろう、ときょとんとした顔になってしまうのだった。

注目すべきは「ブラス」と「ゴスペル的フィール」

この曲についてもうひとつ面白いのが、J-POPでありがちなこてこてのストリングスではなく、ブラスによってサウンドにドラマチックな厚みを与えている点だ。ということをなんでわざわざ強調しなければならないか、ぴんとこない方も少なくないだろう。ストリングスを使うのが一概に悪いとは言わない。それをうまくアレンジにおとしこむテクニカルな蓄積が日本の音楽産業にはあるのだろうし、時代にあわせた革新も常にある。けれど、個人的な話をすれば、J-POPを意識的に聴くようになってネックに感じ続けているのがストリングスの扱いなのだ。ストリングスって情動をコントロールするのにやや安直に使われ過ぎでないか、ともやもやしっぱなし。それだけに「これは……」と思うストリングスの響きは印象に残るものだ。話はそれるけれど、米津玄師「海の幽霊」とか。

閑話休題。例にもれずヒゲダンとて、「Universe」と同じくアニメ映画の主題歌であった「イエスタデイ」のように、これでもかとストリングスをきかせた曲がある。タイアップで言えば「コンフィデンスマンJP -プリンセス編-」主題歌の「Laughter」もその例に加えてよいだろう。




しかし、ディスコグラフィを振り返って印象的なのは、むしろピアノを含んだバンドのアンサンブルの妙であり、ブラスやクワイアを効果的に用いたゴスペル・フィールのアレンジだ。クワイアやクラップをEDM的構成のなかに効果的に組み込んだ「Stand By You」はすごくスマートだ。ブラストラックスあたりのサウンドをアツいポップスに落とし込んだような「宿命」は、「ABC夏の高校野球応援ソング」というタイアップもあって、ブラスをフィーチャーしたプロダクションを高校の吹奏楽部文化と接続する(!)という力技が凄まじかった。「I LOVE...」でのブラスやクワイアの取り入れ方も洒脱で、凝りに凝った楽曲構成のなかのアクセントになっている。




「Universe」もその系列のなかに堂々入る一曲だ。少しビターな詞に対して多幸感を演出するピアノのフレージングとブラスのメロディ。ただしクワイアは控えられ、むしろ藤原のヴォーカルがバンドのアンサンブルにのってぐいぐいと楽曲のドラマを牽引していく迫力のほうが勝っている(その究極が”野に咲くuniverse”だ)。ゴスペルの音楽的な意匠、フィールを、日本語で歌うポップミュージックに折衷(時に意表をつく接続)していく。あるジャンルの消化と昇華のかたちとして興味深い成果を残しているように思う。

ゴスペル的フィールの導入、という意味では、星野源(「さらしもの (feat. PUNPEE)」)やGotch(「The Age (feat.BASI, Dhira Bongs & Keishi Tanaka」)の近作を聴いたり、あるいは極彩色にまみれてピーナッツくん「グミ超うめぇ」のMVを見たりしていると、2010年代なかば~末にかけ、カニエ・ウェストやチャンス・ザ・ラッパー経由で日本にもたらされたものの大きさをしみじみと感じてしまう。そういえばTikTokなどのSNSでヴァイラル・ヒットを飛ばしたBLOOM VASE「CHILDAYS」なども、もしかしたらその影響圏のなかに位置づけてもいいのかもしれない。





そうしたなかにあってヒゲダンは、ヒップホップ的(あるいはtype beat的、と言ってもいいかもしれないが)なスタイルの波及とはまた異なる、ソングライターとして、あるいはバンドとしてこうしたフィールを武器としようという野心がみなぎっている。やはり先の例たちだと、ヒップホップ受容のひとつの回路としてゴスペルがある、というように思える(あるいは「チャンス風で」みたいに、もはやゴスペルとも意識されていないかもしれないが)。

とはいえ、バラエティに富んだ折衷精神もヒゲダンの持ち味であることを考えれば、これも多面体をほんの一面から透かし見たにすぎないのかもしれない。「Universe」に限らず、次にどんな力技がリスナーを襲ってくるのか楽しみにしておこう。


official髭男dism
「Universe」
発売中


CD Only:¥700+税 ※紙ジャケ2P仕様


CD+Live DVD:¥4500+税 ※特殊スリーブ仕様
CD+Live Blu-ray:¥4500+税 ※特殊スリーブ仕様

CD収録内容(3形態共通):
M1.Universe
M2.Universe-Instrumental-

DVD & Blu-ray収録内容:
Official髭男dism ONLINE LIVE 2020 - Arena Travelers -
(全19曲収録)

特設サイト
https://universe.ponycanyon.co.jp

購入リンク
https://hgdn.lnk.to/Universe2

視聴・DLリンク
https://hgdn.lnk.to/Universe

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