水村里奈、音楽を踊りに翻訳するダンサー
Rolling Stone Japan / 2021年2月26日 18時45分
コンテンポラリーダンサー・振付家として活躍する水村里奈に、女優の石山蓮華が迫った。「Rolling Stone Japan vol.14」掲載の連載「CLOSE-UP」をお届けする。
「踊るときは、曲ごとに違う私に化けるというか、その曲の世界で生きてる人になろうとしています。曲はその人の子供のようなものだと思っているし、出会ったバンドさんが作った曲で踊れるってありがたすぎる。恐れ多い気持ちと、さらに良い景色を見つけたいっていうワクワク感があります」
水村里奈は音楽を踊りに翻訳できるダンサーだ。
10歳からバレエを始め、高校時代に出会ったコンテンポラリーダンスに居場所を見つけた彼女は、大学在学中、RADWIMPS「光」MVでダンサーとして初めて映像作品に出演した。
「今まで経験したことのない面白さを味わいました。大学卒業間近だったんですけど、こういう道で行きたいって一気に固まって。チームワークの高揚感というか、バンドのメンバーさんや、監督さん、衣装さん、色んな職業の方がひとつの現場に集まって、連携を取りながら作品を作っていく様子を初めて目の当たりにしました。8人のダンサーのうちの1人でしたが、その時からソロで出たいっていう気持ちが出てきて。わがままなんです(笑)」
その後、ゲスの極み乙女。「秘めない私」MVでは出演と振付を担うなど、様々なアーティストのMVやライブに多数出演している。
水村の手脚は、空気のように音もなく伸ばされたかと思えば、鉄球のような速さで次のポーズに変わる。ターンやジャンプ、どんな動きでも重心の移動が滑らかで全くぶれない。予測不能に流動するダンスは一瞬で観客の目を惹き付ける。
なにより、リズムとメロディを捉える精度の高さも、アーティストや映像監督達から信頼される理由の一つとなっているだろう。
「MVやライブでダンスを踊るときは、オファーを頂いてから、毎日30回以上はその曲を聴きます。歩いているとき、寝る前、ご飯を食べるときとか、いろんなシーンで聴いてみると、さっきは気づかなかったけど、ここにこんなメロディがあるとか、見ているものと音楽がリンクする瞬間とか、たくさんの発見があります。日常的に聴いて聴いて聴いて、1と2の間を探っていくような作業をしていると、身体がしたい方向に向って動いていくんです。
ここでは走ってる、サビでは二人で向き合ってるよなという感じで、ぼやっとしていた情景がクリアになって、楽曲と同じ世界観の中でダンスを作れるようになるというか。即興で踊ることもあるのですが、自分の中にイメージがなくなった瞬間が一番怖いですね。何も動けなくなっちゃう。説得力もないと思うし、その曲である意味がなくなっちゃう気がするので。
歌詞はストレートに書かれる方もいるし、リスナーに想像させるというか、あえてあまりヒントを出さない書き方をされる方もいるので、私もすごく理解しようとはするんですけど、あえてアバウトなまま汲み取る時もあって。それこそ川谷絵音さんなら、歌詞の中で急に意外な言葉が入るような時もあるんですが、それはわざと違和感を与えるような風にやってらっしゃるから。
だからと言って思い切り振り幅を出すというよりは、その曲の流れであるものとして認識するというか……。難しいです(笑)」
「コンテンポラリーダンスはその人自身の正解を見つけていく表現」
2020年10月にリリースされたFAITH「Irony」MVで水村は葛藤の化身として出演している。
臨場感のあるダンスシーンでは、身体ごと空間に引っ張られるようなアプローチや、パントマイムのように相手との距離感を出す動き、顔を覆う振り付けなどを自在に用いながら、引き裂かれる気持ちに寄り添うダンスを見せている。
実は今回、水村がオファーを受けたのは3日前で、撮影時間はなんと2〜3時間だったそうだ。
「本当にあっという間でした。普段は事前にここでこの振りを入れるとか、動きのルートとかを決めるんですけど、今回はもうその場で。ただ曲はめちゃめちゃ聴いて、世界観だけイメージして行きました。ここでフレームから消えた方がいいとか、ここは対面になった方がいいとか撮りながら決めていくのは、セッションみたいで緊張感がありましたね。イメージとしては、その人の葛藤が私に反射して、内に秘めているものが一瞬見えるみたいな、一人ずつにスポットライトが当たってるような感覚です。本番は5~6テイク撮りました。私がミスしてしまうこともあるし、カメラマンさんが捉えきれなかったとか、アーティストの方々が、ちょっとこう納得がいかなくてとか、皆の『いい』が重なる瞬間を探る作業はすごく大変でした。
でも、世界観がちゃんと作られていることが一番大事だって実感できましたね。いくら時間があっても、その曲に対する世界観作りとか、そのアーティストをよく見せられなければ、結局響かなかったりするので。そこはほんとにチームワークです」
MV出演や公演に限らず、雑誌や広告などでのモデル活動、YouTubeやInstagram等での作品発表など、活動の幅を広げている彼女に今後の展望を聞いた。
「これまでは、誰かありきの自分だったけれど、これからは自分で作り出す人になりたいです。コンテンポラリーダンスはその人自身の正解を見つけていく表現なので、そこに面白さを感じ続けています。
今まで現場では言われた通りにすることも多かったのですが、最近はより積極的に意見を言えたり、提案できたりするようにもなってきて。ちょっと勇気もいるんですが、いい作品作ろうとか同じ目標に向かってる人だと受け入れてくれて、お互いがより納得したものができるんだと分かってきました。
海外のアーティストと一緒に踊ることも目標の一つです。特にFKJさんのチルな音楽が好きなのでいつかセッションしてみたいなって。
観ていて活力の湧くようなダンスも好きなんですが、身体の力がふわっと抜けるような、リラックスできるダンスも届けてみたいです。あとは、ダンサーがもっと楽しめるウェアを作りたいっていうのも目標としてあって。今後もしかしたら、カフェをやりたいとか思うかもしれないし、その時の気持ちを大切にしつつ、ダンスから派生した、自分にしかできないことにも興味があります」
水村里奈はダンスという言語を使って、表情豊かに語りかける。ジャンルを飛び越え、新しい動きを紡ぐ彼女から目が離せない。
水村里奈(みずむらりな)
コンテンポラリーダンスアーティスト。幼少よりクラシックバレエを始める。東京都立総合芸術高校・舞踊専攻・コンテンポラリーダンスコースに1期生として入学し、コンテンポラリーダンスと出会う。日本女子体育大学・舞踊学専攻を奨励生として卒業し、フリーランスのキャリアをスタートさせる。卒業後はフリーランスダンサーとして活動の幅を広げ、ゲスの極み乙女。等を始めとするアーティストライブ・ミュージックビデオにて振付を担当。その他、RADWIMPS、水曜日のカンパネラ、須田景凪、LUCKY TAPESなど多数のアーティストのミュージックビデオに出演。ミネラルウォーターブランドevian主催の盆踊りイベントでは、オリジナル盆踊りの振付を担当するなど、美しくキャッチーな振付が好評を得ている。また、ダンサー・振付家と並行して、ブランドの広告モデルやビューティー雑誌モデル、着物モデル等の撮影も幅広く行う。
https://www.instagram.com/rina_mizumura/
https://www.youtube.com/c/RinaMizumura
取材・撮影 石山蓮華
電線愛好家としてメディアに出演するほか、日本電線工業会「電線の日」スペシャルコンテンツの監修、オリジナルDVD『電線礼讃』のプロデュース・出演を務める。俳優として映画『思い出のマーニー』、舞台『五反田怪団』、『遠野物語-奇ッ怪 其ノ参-』、川谷絵音ソロプロジェクト『独特な人』、NTV「ZIP!」「有吉反省会」などに出演。文筆家として「ホンシェルジュ」「月刊電設資材」「電気新聞」「She is」などに連載・寄稿。YouTube公開後、590万回再生を突破した「純猥談」シリーズの12月24日公開『私たちの過ごした8年間は何だったんだろうね』に主演、同月26日より劇団ノーミーツ オンライン長編演劇公演『それでも笑えれば』、2021年1月韓国現代戯曲ドラマリーディングVol.Ⅹ『加害者探究 付録:謝罪文作成ガイド』に出演。
https://twitter.com/rengege
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