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aikoが語る、日常を歌にするまでの過程「絡まった洗濯物は好きという気持ちと同じ」

Rolling Stone Japan / 2021年3月3日 11時45分

aiko(Courtesy of PONY CANYON)

aikoが約2年9カ月ぶり14枚目となるフルアルバム『どうしたって伝えられないから』を3月3日にリリースした。そこでRolling Stone Japanでは独自の質問を交えた彼女のインタビューを掲載することになった。

ちなみに、筆者、Rolling Stone Japanのチーフディレクターとaikoは75年生まれの同い年。そこで、いつの間にか社会における立場が変わってきている我々の世代へ向けたエールをインタビューの最後に求めたところ、彼女らしい回答が返ってきたのだった。聞き手はライターの森朋之。

【動画を見る】aiko「磁石」ミュージックビデオ

—ニューアルバム『どうしたって伝えられないから』、去年以降のaikoさんモードがリアルに感じられる、素晴らしい作品だと思います。aikoさんご自身にも、これまでとは違う手ごたえがあったのでは?

はい、違いましたね。今回のアルバムは、前よりも自分で制作していた感じがあったんです。たとえばボーカルのセレクトも、スタッフが選んでくれたものに対して、「ここをもうちょっとちゃんと歌いたい」という話をしながら進めました。今までの作品のなかでも、人の目をしっかり見て、会話をしながら作れたアルバムのような気がしてますね。マスタリングが終わったときも、すごく達成感があったんですよ。やっとスタートに立てたというか、「このアルバムをどうやって届けられるか」というところまで来れたなって。

ーアルバムに関わる人たちとしっかりコミュニケーションを取りながら制作できた、と。

はい。デビューして22年経つんですけど、(制作に対して)自分にコンプレックスがあって。ミュージシャンのみなさん、エンジニアやアレンジャーの方に聞きたいことがあっても、「こんなことを今さら聞くなんて、何も知らないんだな」と思われたらどうしようって怖くなって、質問できないんですよ。自分で作っておきながら、ミュージシャンの方が音を入れてくださって、「大丈夫でしたか?」と聞いてくれると、「私に意見を聞いてくれるんや?」って恐縮しちゃうし(笑)。でも、今回は自分の気持ちをちゃんと伝えて、聞きたいことは聞いて。「ちゃんと自分でやらなくちゃいけない」と思っていたし、それが出来たのはすごく良かったなって。このアルバムを聴くと、一緒に作った人たち、演奏してくれた人たちの顔が浮かぶんですよ。それはホントに幸せなことだなと思うし、1曲1曲しっかり作れた実感がありますね。


aikoが語るアレンジの秘密

—まず、オープニングナンバー「ばいばーーい」の歌詞のインパクトが強くて、作品全体のイメージがこの曲に引っ張られそうになるぐらいでした。これを1曲目に据えた理由はなんでしょうか? 

「ばいばーーい」はトオミヨウさんにアレンジしていただいたんですが、音が上がってきたときに「これを絶対、1曲目にしよう」と思って。1曲目が決まると「メインが決まった」みたいな感じがあるんですよね。あと、「いつもいる」という曲が出来たときに、スタッフが「この曲を最後にしよう」と言ってくれて。まず最初と最後を決めて、あとは流れを考えながらパズルしていきました。

ー「ばいばーーい」は恋人と別れた女性が新しい人生に進んでいく決意を描いていて、「いつもいる」は、”出来るだけ気持ちを伝え合って、いっしょにいよう”という気持ちが伝わる楽曲。この2曲が最初と最後にあることで、「人はいつか一人になるけど、だからこそ好きな人を大事にしながら生きていきたい」というストーリーが伝わってきました。

曲順を決めるときは意識してなかったけど、私も最近、そういうふうに思ってますね。若い頃は「永遠ってある」と思ってたけど(笑)、だんだん「いや、そんなことないな」と実感するようになって。「限りがあるからこそ、今をどれだけ楽しめるかを考えよう」とか「たくさん笑うことが大事」とか、20代のときはわからなかったので。

—今の話は、「どうしたって伝えられないから」というタイトルにもつながっている気がします。

アルバムのタイトル、いつもめちゃくちゃ難しいんですよ。全部をまとめて一つの言葉にするのってプレッシャーがあるんですけど、今回は曲が出揃ったときに「伝えられなかったことを歌にしているな」と思って。歌詞の一節をタイトルにする案もあったんですけど、なかなかピンとこなくて。スタッフの勧めもあって、「どうしたって伝えられないから」に決めました。

ーどんなに伝えたいと思っても、全てを伝えることはできないですからね。

そうなんです。自分の気持ちが相手に100%伝わることはないし、相手の気持ちを100%共有できることも絶対になくて。それが歯痒いなと思うときもあれば、「わからないからこそ、もっと知りたいと思ったんだな」ということもあって。そういういろんな感情が混ざって、このアルバムになってる気がしますね。

—伝わらないからこそ、歌にするのかも。

そうだと思います。今回のアルバムは去年書いた曲がけっこう多いんですけど、「いまだにムカつくと歌詞を書きたくなるんだな」って思ったり、酔っぱらって泣きながら歌詞を書いてたこともあるので(笑)。


Courtesy of PONY CANYON

—アレンジに関しても聞かせてください。aikoさんの楽曲アレンジは作品を重ねるごとに少しずつ変化してきていますが、どこか「aiko印」と呼ぶべき傾向がある気がしていますが、aikoさん自身は考えていますか?

あまり考えてないんですけど、好奇心はあるほうなので、いろんな音楽を聴くのが楽しいって今でも思えてるのが、バランスに繋がっているのかな?と思ったりしますね。


「シャワーとコンセント」に込めた情景

—今回のアルバムには3人のアレンジャー(トオミヨウ、OSTER project、島田昌典)が参加。それぞれの個性が活かされているのも、本作の魅力だなと。まずトオミヨウさんは、シングル「青空」で初めてaikoさんの楽曲に参加。

はい。一昨年、大阪のFM802のキャンペーンソング(「メロンソーダ」)を作らせてもらったときに、アレンジしてくれたのがトオミさんで。それがとても素敵だったので、改めて「青空」のときにお願いしました。アレンジが素敵なのはもちろん、レコ—ディングのときもすごく頼もしかったです。「こういう演奏をしてほしいんだけど、どう伝えたらいいだろう?」ということがあると、トオミさんがちゃんとわかりやすい言葉に変換して伝えてくれて。

ーそして島田さんは、デビュー当初からaikoさんの楽曲のアレンジを手がけてきたクリエイターです。

久しぶりに”島田さん”にお願いしたんですけど、やっぱり天才やなって思いました。とある方に、「島田さんはいろいろな方のアレンジをされてますけど、aikoさんのときはすごい化学反応が起きて、とんでもないアレンジを作るイメージがあります」と言ってもらって。ホントにその通りで、思っていた以上のすごいアレンジを上げてくださいました。歌うときも気合いと責任、感謝、嬉しさ……といろんな感情が混ざってましたね。

ーOSTER projectさんは、2014年以降のaikoさんの音楽を支えてきたプロデューサーですね。

そうですね。OSTER projectさんにはずっとボカロの世界があって、私の曲をアレンジしてもらうと、それがとてもいい距離感で出てきて。人間が再現するのは難しいくらいテクニカルなアレンジもあるんですけど、ミュージシャンのみなさんも挑んでくれる感じがあるんです。「これは人じゃ弾けないですよ」と言いながらも、それをクリアするためにがんばって。そのピリッとした空気もいいんですよね。

ーアルバムの新曲について、いくつか聞かせてください。まずは「シャワーとコンセント」。仕事に行く前に彼女がシャワーを浴びていて、その音を聞きながら、”僕”は「そのまま帰って来なくなる事も何となく分かってるよ」とぼんやり考えているっていう。

そうですね。「これで別れるんだな」って。

—ドラマや映画みたいな状況じゃなくて、シャワーの音を聞いてそう思うのがリアルだなと。

そうかもしれないですね。私、マジメに話していてるときに、フッと全然違うことを考えちゃうことがあって。たとえば別れ話してて、めちゃくちゃ泣いてるとして。すごく悲しいはずなのに、一瞬、ちょっと上あたりから「え、めっちゃ泣いてるやん」って見てる感じになったりするんです。あと、「洗濯物、取り込まないとな」とか(笑)。

—わかる気がします(笑)。

ですよね? 「シャワーとコンセント」も、そういう感じが出てるかもしれないですね。ちょっとした瞬間に「この子、このまま帰ってこないんちゃう?」「せやろな」って自分のなかで会話してるというか。あと、好きな人がシャワー浴びてるときって、いろんなことを考えてたな……って思い出しながら。


Courtesy of PONY CANYON

ー「愛で僕は」は、ブラックミュージック的なアプローチの楽曲。アウトロのフェイク、めちゃくちゃ気持ちいいですね。「よくある幸せなんてどこにもない」という歌詞にもグッときました。去年、日常のすべてが特別だったんだと思い知らされたので……。

そうですよね。「愛で僕は」もコロナ禍のときに書いた曲なんですけど、普通にできることが出来なくなって、いろいろ考えているうちに浮かんできたので。「天気が良かったら手を繋いで出かけよう」もそうですね。

ーそういう普通のことこそが素晴らしい、というか。

ホントに。「マクドが閉まってると、こんな気持ちになるんだ」って思いましたから(笑)。レコーディング中、作業が終わった後、どうしてもマクドに行きたくて探したんですが、けっこうどこも閉まってて、「え、うそやろ?」って思いました。一軒だけ開いてるところがあったんですけど、そんなこと初めてですからね。


いろんな気持ちが自分の心のなかで生きてる

ー「片想い」も素晴らしいですね。ピアノの練習曲のようなフレーズがすごく可愛らしくて。

私が家で弾いたフレーズをトオミさんがそのまま弾いてくれたんですよ。何歳になっても心のなかにある女の子の気持ちを、音でも歌詞でも表現したくて。

ー10代の頃の片想いの感情がいまも心のなかに残っている?

ありますね。中学とか高校のとき、友達のグループで遊びに行くじゃないですか。好きな男の子と手が触れたりすると、フラッてなってたんですよ、マンガみたいに(笑)。そのときの感触はずっと覚えてるし、いまも同じだなって思うので。そうやっていろんな気持ちが自分の心のなかで生きてるから、いろんな感覚で曲が書けるのかなって。なので「aikoは年甲斐もなく恋愛の歌ばっかり歌って」って言わないでください(笑)。

—「一人暮らし」の「あなたのロンTあたしの体と固結び」という歌詞もビックリしました。これはどういう状況なんですか?

(笑)。ロンTをネットに入れないで洗濯しちゃったら、めっちゃ絡むじゃないですか。毎日のことだから、すごくめんどくさいなと思って。……そういえば昨日、テレビでブロッコリーに美味しい茹で方を紹介してたんですけど、「芯のところは千切りにして」とか「冷ますときはウチワであおぎます」って言ってて、「そんな時間ないよ!」って一人でツッコんでたんですけど(笑)。

ー確かに(笑)。

洗濯もそうで、きちんとロンTをネットに入れたり、色分けするとか大変じゃないですか(笑)。で、こんがらがったロンTをほぐしてるときに、「好きっていう気持ちといっしょだな」と思ったんです。「好きだから、一生離れない」というキレイな蝶々結びではなくて、がんじがらめに絡まっちゃうこともあるよなって。

ー本当に生活のなかから歌のアイデアが生まれるんですね。「Last」のエモーショナルな歌も素晴らしいです。「あなたの息が届く距離のせいで心が震える」というラインもめちゃくちゃエモいなと。

この曲を作ったのはちょっと前なんですけど、アルバムを作ってるときに「今やりたいな」と思って。「一緒にいられるとは思ってなかった」というフレーズがすごく好きだったんですけど、ワンコーラス作ったところでストップしてたんです。でも、島田さんのアレンジがあまりにもカッコ良くて、「早く2コーラス目も作ろう」という気持ちになって。アレンジのおかげで書けた感じがすごくありますね。


Courtesy of PONY CANYON

—なるほど。最後に入っている「いつもいる」も島田さんのアレンジですよね。

はい。この曲は去年の夏くらいに書いたんですけど、ミディアムバラードでけっこう長い曲だし、家で一人で作ってるうちに、いいのかよくないのかわからなくなってきて。でもスタッフが「この曲を最後にしよう」と言ってくれて、アルバムに入れることになって。去年はホントに、この曲で歌ってるような気持ちで過ごしてたんですよ。あのときとまったく同じ気持ちにはなれないし、ちゃんと形に出来てよかったなと思います。


許せることも増えて、柔軟になってきた。

—CDジャケットもすごく素敵でした。aikoさんのCD作品のアートワークはコンセプトがほぼ一貫している印象があるのですが、これには何か理由があるんでしょうか? 

いつも”切ない”を意識しているからかもしれないですね。今回はそれに加えて、ノスタルジックな感じが出せたらいいなと。ジャケットは砂丘で撮ったんですけど、超寒かったんですよ。ヒートテックとかも着てなくて、「体当たりしたほうがいいものが生まれる」という昭和な考えで頑張りました(笑)。

−aikoさん、CD好きですよね?

好きです! 私のアルバムの初回盤って、解体するとペロッと剥がせるところがあって、そこに私からのメッセージが書いてあるんですよ。今回もそれをやろうと思ったら、お願いしている工場の機械がダメになっちゃって、出来なかったんです。なので今回は別の方法でやってみたんですが、そうやって色々変わっていくんだろうなと思いますね。スタッフ全員で文字校正して、「ここは大文字じゃなくて小文字にする?」みたいな話をずっとして。CDは大事にしたいですね、これからも。

ーここ数年は楽曲配信、ストリーミングの需要が高まっていて。

そうですね。CDも大事にしたいし、配信、ストリーミングも頑張りたいなって。両方、いいバランスでやれたらいいなと思ってます。

—最後に。今回、Rolling Stone Japan用に質問を作成したライターの阿刀さんとRolling Stone Japanのチーフディレクターは75年生まれでaikoさんと同い年なのですが「aikoが頑張ってるから俺らも頑張る」と言い聞かせて様々な困難を乗り越えていくうちに、責任のある立場になってきたし、無意識のうちに立つべきステージが上げられたような感覚があるそうです。そこでaikoさんから、同年代の人たちへ向けたエールをいただけるとうれしいです。

いやもう、これからですよ! 今からはまったく違うステージが待っていると思うので、一緒に進んでいきましょう!って言いたいです。

—たとえば20代の頃と比べて、40代のほうが楽しいと思うことも多いですよね。

私もそうです。いろんなことを自分で判断できるようになってきたし、許せることも増えて、柔軟になってきて。これからの人生、きっと素晴らしいと思います!

<INFORMATION>

『どうしたって伝えられないから』
aiko
ポニーキャニオン
発売中
https://aiko.lnk.to/DoushitatteTsutaerarenaikara

【初回限定仕様盤A/B】


【通常仕様盤】


■CD収録曲
1. ばいばーーい
2. メロンソーダ
3. シャワーとコンセント
4. 愛で僕は
5. ハニーメモリー
6. 青空
7. 磁石
8. しらふの夢
9. 片想い
10. No.7
11. 一人暮らし
12. Last
13. いつもいる

■初回限定仕様盤A(CD+LIVE Blu-ray)
品番:PCCA-15003 価格:¥4,200+税
※カラートレイ&三方背ケース仕様

■初回限定仕様盤B(CD+LIVE DVD)
品番:PCCA-15004 価格:¥4,200+税
※カラートレイ&三方背ケース仕様

■通常仕様盤(CD Only)
品番:PCCA-15014 価格:¥2,913+税

■DVD / Blu-ray収録内容
aiko online live「Love Like Rock vol.9~別枠ちゃん~」
1. 恋をしたのは
2. あたしの向こう
3. 二人
4. メロンソーダ
5. オレンジな満月
6. カブトムシ
7. 青空
8. ストロー
9. beat
10. 赤いランプ
11. Loveletter
12. さよなランド

https://www.aiko.com/





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