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Gotchが語るシーンの越境から手に入れたもの、音楽を未来につなぐためのトライアル

Rolling Stone Japan / 2021年3月3日 18時0分

Gotch(Photo by 山川哲矢)

Gotchこと後藤正文による3rdアルバム『Lives By The Sea』が昨年12月のデジタル配信に続き、3月3日にLP/CDでリリースされた。ASIAN KUNG-FU GENERATIONでの活動も含めて、これまでのキャリアで国や世代、ジャンルの壁を超えて「人と人の繋がり」を広げてきた過程を振り返るべく、今作のLP/CDには「後藤正文を巡るアーティスト相関図」が封入されている。Gotchはどのような思いでニューアルバムを完成させたのか。新作のテーマとサウンド面の変化、コレクティヴから生まれた化学反応、カルチャーにまつわる問題意識について語ってもらった。聞き手は今作のライナーノーツを執筆した柳樂光隆。


―2014年の『Cant Be Forever Young』と2016年の『Good New Times』は繋がりがある感じがしたんですが、ニューアルバムは一気に飛躍して違う文脈にある気もします。いかがですか?

Gotch:楽曲だけを見るとあまり関連性がないと思うかもしれないけど、サウンドデザインには繋がりがあります。1枚目からも多少はラップの要素は出てきていて、当時はベックを参照にしてやってましたけど、最近はラップミュージックがカジュアルになっていますよね。そこに自分の興味も強く移っていったので、(ベックのように)サンプリングしたジャンクなフォークやロックにラップを乗せる形ではなく、もう少ししっかりゴスペルのフィーリングみたいなものを取り入れて、さらにトラップとかを通過して、今作みたいな感じになってきました。ずっと同じ仲間とやってるので、現場で共有している演奏の課題や問題を発展させられてきているとは感じてますけどね。

―前の2作は「ロックの人がやるラップミュージック」という印象でした。例えば前作も、ヒップホップというよりは、ヒップホップにも通じるミニマルな、もしくはループで作られた音楽という感じだったと思います。それが本作はミニマルでループの音楽ではありつつ、そこに明確にヒップホップやR&Bの要素が前景化しているように思いました。

Gotch:メイン・アレンジャーとしてのシモリョー(the chef cooks meの下村亮介)や、mabanuaのテイストがこれまでよりも出ている作品ではありますよね。それにここ何年かは、チャンス・ザ・ラッパーやジャミーラ・ウッズとか、シカゴ周辺のコレクティブの関係性やフィーリングが豊かに見えていて。ゴスペルやチャーチの音楽の信仰に根差したフィーリングが心地いいとも思っているんですよね。そこにある静かな時間というか。神みたいな存在に向かって焦って祈る人はいないから、性急ではないんですよね。僕はキリスト教徒ではないけど、そういう静かな性質によって穏やかな気持ちになっていくんです。

後藤さんが2020年に選んだ年間ベストにも、チャンス・ザ・ラッパー周りのピーター・コットンテールが入ってました。あのコミュニティのどういうポイントが気に入っていますか?

Gotch:仲間をフックアップし合っている様とか、関係性がすごく有機的に見えるんですよね。コロナになってから痛感しますけど、理想的な繋がりですよね。シカゴだけじゃなくて、例えばKing Gnuとか石若駿くんとかにしたって、あの界隈にも似たような繋がりを感じるというか。気の合う集団で仕事を作っている彼らによって、いろんなところで生まれている音楽がどれも違うベクトルで、どれも面白い。音楽だけじゃなくて、「人と人の繋がり」があるのも今風でいいなと思います。



「場づくり」をしたい気持ち

―今回は曲名にもフィーチャリングでたくさんの名前が入っています。それも「人と人との繋がり」を意識しているからでしょうか?

Gotch:そうですね。Apple MusicでもSpotifyでも名前をクリックしたら、その人の作品が聴けたりして、網の目状にリンクへ飛んでいけるじゃないですか。だから、そういう表記はしたいと思っています。

―後藤さんも仲間を集めた年間ベストをonly in dreamsで毎年公開していたり、これからの社会を考える新聞『THE FUTURE TIMES』を作ったり、もしくはコレクティヴ的に何かをやったり。人が集まれる場を作ったりするのが好きなんでしょうね。

Gotch:「場づくり」をしたい気持ちはあります。というのも、自分たちが出てきたときに場がないなって感じたので。俺たちは洋楽が好きでバンドをはじめたけど、洋楽しか聴かないような人からは中指立てられた世代で。NANO-MUGEN FES.を始めたのも「聴かせる場がない」状況だったから。自分たちはロキノン系の最たるものだと思われているのかもしれないけど、その文脈だけで語られることに違和感があって、語ってもらえる場所がないなっていう気持ちもあった。だから鳴らす場所を自分たちで積極的に作っていかなきゃいけなかった。

それにインディーズとメジャーで分かれていくのも違うと思っていたから、アジカンのツアーでもよせばいいのにいろいろな対バンを呼んでたんですよ。例えば、ゼロ年代にはウリチパン郡、neco眠るとか。ceroやスカート、ミツメも呼びましたし。そういうことをウザがられながらもやってきたんですよね。

―そう考えると、今作は後藤さんがずっとやってきたことの延長って感じもありますね。

Gotch:シーンの越境みたいなことを試みて、初めて誰にも怒られてないかもしれないですね(笑)。むしろ褒められました。最近はアジカンでもようやく、いろんなバンドを呼んでも怒られなくなりましたし。昔は「そこ混ぜるなよ!」みたいな空気があったんですけど、フラットになってきていますよね。

―リスナーも寛容になってきているんですかね。

Gotch:RISING SUN ROCK FESTIVALに初めて出た時は「あんなのロックじゃないから呼ぶんじゃねぇ!」って言われましたからね。

―どういうことですか?(笑)

Gotch:「あんなのロックじゃない」とか「ハイプもいいとこだ」みたいな感じで言われてましたよ。だから俺たちは王道でも何でもないんですよ。それが今じゃ、ある種のロックの権化みたいに取り上げられて。こっちとしてもどう返していいかわからないですよね。時代によって捉えられ方が変わったりして。

自由度を広げた「ソウルメイト」との関係

―後藤さんのバンドには、下村さんと井上さん(Turntable Filmsの井上陽介)が全作参加しています。各々のバンドでは全く異なる音楽をやっていますが、この2人は後藤さんにとってどんな存在ですか?

Gotch:よく一緒にいますから、ソウルメイト的な感じですね。それぞれ興味を持っているものは違うけど、音楽の話や機材の話とか、シェアしているものはすごく多いし。お互い影響を与えあっていると思います。mabanuaもそのグループに入るかもしれないですね。彼が作ったスタジオにも僕が紹介したエンジニアからの機材の知恵が流れ込んでいると思うし。新しい発見があったら、mabanuaとも早いうちにシェアしてます。そういう話をする仲間って感じですね。




―仲間内でシェアしている音楽や、録音やミックスなどのアイデアを実現させているプロジェクトというか。

Gotch:そうそう、ある種のラボみたいなところもあるかもしれないですね。ここ数年でたくさんあった音響的な発見を共有してます。「この曲はサビに行ったら、低音が無くなってるんじゃなくて、もっと低いところで鳴ってるんだ!」みたいなローエンドのことで驚いたりとかね。それは環境を整えないと聴こえないので、僕らの界隈はしっかりしたスピーカーとルームチューニングで聴きましょう、みたいなところに向かっていますね。

―今回のアルバムで、そのラボでのトピックって何かありますか?

Gotch:初めて自分でミックスしたことですかね。最終的な作業はエンジニアと一緒にしましたけど、当初はすべて自分の手でミックスする予定で始めたんです。ゆえに楽曲のアレンジを他のメンバーに委ねたところがあるというか。井上くんやシモリョーに「今回はミックスに時間とエネルギーを割きたいから、俯瞰的な目で見ていおいてほしい」とオファーを出して。アレンジも2人に振ったり、そういう意味ではなるべく自分の身体から作曲を離したのはありますね。ミキシングの段階では自分の意志をがっつり入れるけど、それより前の段階まではかなり委ねています。

―ミックス以外で、自分でやったところはどこですか?

Gotch:メロディとコード進行、ゆるいビートまでのデモは作って渡しました。あとは自由に広げてほしいって感じで。だから、「そこを差し変えるのか?」と驚くところもありましたね。「Eddie」はホーンアレンジをしたデモを渡したのに、そのホーンがまるっと80sっぽいシンセに置き換わって返ってきたりして。でも、そっちの方が面白いからそれでいいよって。



―これまでのアルバムと全くアレンジが違うのは、制作プロセスの違いも大きいんですね。

Gotch:そうですね。自由度が高いのはリモートワークの延長にあるからだと思います。それぞれが自宅でしっかり揉んで、ファイルのやり取りのなかで構築できるし、それをバンドに戻して再現する形だったので、そのプロセスがバラエティを広げているかもしれないですね。

「個の力」が音楽を変える

―仕上がったサウンドは、最終的にはひとつのバンドっぽいですよね。でも、曲ごとに違う人が手掛けているのがわかる。その分業体制はラップミュージックの作り方とも似ているのかもしれませんね。

Gotch:あと、ひとつ考えていたのは、なるべく生音に近い質感で録りたいということ。打ち込みっぽいエディットをやりすぎると、演奏者の記名性が剥がれちゃうんですよ。トム・ミッシュとユセフ・デイズのアルバム『What Kinda Music』は、ドラムの音像のバランスがとても良くて、ヒントになった作品のひとつです。あんなふうにmabanuaやビートさとし(skillkills)の演奏を収録できたらいいなって。人間味を消さないようにエディットや差し替えも最小限にしてやっています。



―演奏のキャラクターが残るように意図してやったと。

Gotch:ジャズの人たちの音楽の作り方は参考になりますよね。ここ数年、改めて個の力が浮き彫りになっているというか、上手い人やユニークな人たちしか残れなくなっていて。自分もシンガーとして、それを頭の片隅に置いておかないと乗り遅れるし、残っていけない危機感もありました。西田修大くんや石若駿くん、新井和輝くん(King Gnu)、CRCK/LCKSとか。あの界隈を見てもわかるとおり、若い人たちは演奏が上手いことがデフォルトですよね。その上でどんな特別さを持っているのかが重要なんだなと。そういうことを意識して音楽を作っていくと、(必然的に)コレクティヴ的になってしまうというか。自分のやりたいことのために特別な人をピックアップしていくと、コレクティヴに向かっていきますよね。

―前作まではジョン・マッケンタイア(トータス)、もしくはクリス・ウォラ(元デス・キャブ・フォー・キューティー)といったエンジニアやプロデューサーがいたからだと思うんですけど、サウンドが全体的に同じトーンになっていたと思うんです。でも、今作はかなり生バンドっぽい。音も太くて生々しい。何か参照したものはありますか?

Gotch:ピーター・コットンテイルやブラストラックスのフィーリング、ハイムやブレイク・ミルズ界隈の音の配置は参考になりました。特にリヴァーブの敷き方ですね。あとはアラバマ・シェイクスの作品でショーン・エヴァレットがやっている、「生々しいものをどれだけ生々しく録るか」みたいなエンジニア・ワーク。彼はハイムにも関わってますよね。あの辺の界隈で起きている面白い音には注目していました。

一緒にエンジニアリングを手伝ってくれた古賀(健一)くんには、とにかくエンジニア的なやり方で均さないでほしいというか、野球で言ったらグラウンドにトンボかけるようなことはしたくないって伝えていました。変なところは変なまま残したいと。アメリカの音はどこかに触ってないところや整頓されてないところが用意されていて、そこが作品のチャームポイントになっている。日本だとその部分にまで鉋(かんな)をかけがちだから、それをやめたいって話をしました。





―それと今作ではYasei Collectiveのベーシスト、中西道彦さんが参加しているのも大きな変化ですよね。

Gotch:ミチくんは何年か前にもライブで弾いてもらっているし、the chef cooks meでもベースを弾いてるから、シモリョーからの繋がりですね。最近はYasei Collectiveの10周年イベントに客演で呼んでもらったりして、近しい距離にいると感じています。ミチくんの参加はかなり大きいです。譜面も読めるし、読んだとおりに弾けるし、圧倒的な技術で支えてくれていて、スペシャルな信頼を置いてます。

―中西さんもそうですけど、今作はエレキベースとシンセベースの両方を使っていて、そのなかでもシンセベースの割合がかなり多いのが印象的でした。

Gotch:最近はエレキベースの扱いが難しいと思い始めているんです。いまの音楽は音域的に使いたい帯域が低いほうに広がったので、ベースがシンセだと楽なんですよ。シンセだと音の重心を下げられるから、他の楽器の中域の表現力がものすごく上がって色んなことができるようになる。J-POPの音源を注意深く聴いていると、歌が細くなる理由はベースの音域が上ずっていて、他の音が中域から押し出されて行くからだと感じるんです。ミックスの順番的に歌が上に押し出されていく。空いてるところが高域しかないからカエルみたいな声になってしまう。弦を弾くエレキベースだと倍音がいっぱいあって、意図しない膨れ方をしたり、そこをどう抑えるのかっていうエンジニアリングの問題になって、コントロールが難しい。そういう意味で、シンセベースはコントロールがしやすいんですよね。

ジャズのミュージシャンのライブを観ていると、オクターバー(元音のオクターブ下の音を発生させて加えるエフェクター)を使っていて、高いフレットに行くときは低域を足したり上手にやっていますよね。ベースの音域についての考え方が、いろんな音楽で変わってきているのを感じます。シンセベースの可能性は、まだまだこれから広がるはず。それにベーシストがもっと自由になるかもしれないなとも思う。シンセベースがコントラバスみたいな低い位置を引き受けて、エレキベースがチェロ的な位置で動けば、サンダーキャットの6弦ベースみたいにずっとリードを弾くような役割になっていくかもしれない。


中西道彦がエレキベース(左)とシンセベース(右)を演奏する動画

―中西さんのベースとmabanuaさんやビートさとしさんのドラムの組み合わせによる、レイドバックしたグルーヴもこれまでとの大きな違いになっています。

Gotch:ジャズやR&Bといったアフリカン・アメリカンの音楽をよくわかっていて、解釈的にいろんなことができるミチくんが入ったことで音楽が変わりましたよね。ロックではない風が入りました。

―そうやってリズムセクションが変われば、必然的にアレンジ全体も変わってくる。

Gotch:ミチくんの演奏への信頼があったので、鍵盤など他の楽器も自由に組めたと思うんですよ。井上くんもギターが本当に上手いから、こっちでジョキジョキにチョップして新しいフレーズを作ってもそれが再現できる。ベーシックの3人(井上、mabanua、中西)の演奏に対しての信頼が、今回は特に厚いです。どんなことを指定してもやれるでしょ、みたいな感じですね。

シンガーとしてのラップ、ラッパーとの共同作業

―サウンドが変われば、歌い方も変わったんじゃないですか?

Gotch:自分で楽器を弾かなくてもよかったことは大きいです。ギターのピッキングがシンコペーションしているのに、それとは違うビートで歌うのって、手と口の意識を分離させないとだから難しいんですよね。今回はそういう呪縛から逃れられることができた。ギターを弾きながら歌うイメージで作っていないので、譜割り的にも自由なんですよ。

―ヴォーカルに専念してるってことですよね。今回はリズムにハメて歌うような意識も見られるし、発声自体も変わってる気がするんです。ロック的なシャウトをするような場面もないですし。

Gotch:そこからも自由になったのかもしれませんね。アジカンでも自由になりつつあるけど、わりとシャウトを求められてるし、バンドもやかましいからシャウトしないと聴こえないということもあって。街のスタジオでリハーサルしたらわかるんですけど、みんなの音がうるさくて自分の声がモニターから聴こえない。だから、ロックバンドってシャウトしないと成り立たないところがあるんです。でも、今はデジタル・オーディオ・ワークステーションのおかげで、曲を組んでからセッションできるようになったので、歌い方のバリエーションが出せるようになりましたよね。

あと、今回はラップをどの程度やるのかについての揺れ動きがありました。自分としてはシンガーのイメージなので、メロディーをどのくらいまでそぎ落とすのかも含めて、自分の表現をラップにアジャストさせていくときに、どこまでやって、どこまでやらないのかは考えました。



―韻シストのBASIさん、JJJさん、唾奇さんとラッパーがたくさん参加しています。みなさんキャラクターも異なりますが、これはどういう人選なんですか。

Gotch:このアルバムのフィーリングを分かち合えそうな人って言ったらいいのかな。自分が描こうとしていることを一緒に作品にしてくれそうな人たち、というイメージです。例えば、BASIさんの昨今の作品を聴いていると、めちゃくちゃ慈愛に満ちているわけですよね。自分の考えているゴスペルや教会的なフィーリングみたいなものと相性がいいし、一緒に面白いことができるかなと。

今回のアルバムのテーマは「悲しみを湛えながらも生きていく」というイメージだったんです。JJJのアルバムや、彼がSTUTSのアルバムに客演した曲を聴いて、”それでも歩んでいくんだ”みたいなフィーリングを共有できるんじゃないかという直感がありました。作品全体にまつわるトーンを理解して、共有してくれるような気がしたというのが一番近い言葉かもしれません。彼の書くリリックに対する信頼もありました。アルバムの最後を彼に締めてもらえないかなと思って。

唾奇は若くてはつらつとしているんだけど、どこか陰があって、それでいて愛もある、そういうニュアンスを感じます。彼にはアジカンのツアーに一度出てもらっていて、一緒に何か作りたいねっていう話もしていたから、一番最初に声をかけました。ひとりの音楽ファンとして彼の音楽を聴きながら、一緒に音楽が作れて、分かり合えるところがあるんじゃないかなって勝手に想像していましたから。

離れた場所に住む人たちで作ったアルバム

―インドネシア出身のDhira Bongs、彼女とはどこで知り合ったんですか?

Gotch:2017年の京都音博で共演したんですよ。そこでLINEの連絡先を交換したら、彼女のシングルのレコーディングに誘われて。その作業の終盤にこっちでは「The Age」を作っていて、彼女にも声かけたんです。ちゃんと岸田(繁)くんにもLINEで報告しました。

―「The Age」では彼女とともに、Keishi Tanakaさんが参加しているのも面白い組み合わせですね。

Gotch:いつかゴスペルっぽいコーラスがやりたいって話をAchico(Ropes)によく相談してたんですよ。「Nothing But Love」も、当初はあそこまでクワイアで広げずに、ドゥーワップくらいの人数感でストリートっぽい感じがいいねって話していて。「それならケイシと私の2人がいればできるよ」ってAchicoが言ってくれてたんですよね。ケイシのアルバムにAchicoが参加したときの話も聞いていたし。でも、あの曲は最終的に僕の選択はクワイア・チームで広げる方向になって。

「The Age」は教会のクワイアというよりは、コーラスの人数を抑えてやりたいイメージだったから、それならケイシとAchicoだなって。この辺は他でもゆるく繋がっていて、mabanuaのソロにもTurntable FilmsのアルバムにもAchicoが参加しているんですよね。



―YeYeさんはどうですか?

Gotch:(Gotch名義で)一番最初にリリースしたシングル『Lost』にも参加しているから、僕のソロでは古株です。彼女は声もいいし存在感も含めて面白いですよね。舐められるのは許せないみたいな、意外とパンクな人で。

―京都のYeYeさん、インドネシアのDhira Bongsさんといったふうに首都圏の人だけで作っていないのも面白いですね。

Gotch:「Endless Summer」でキーボードを弾いてるコイチくんは西宮に住んでいて。彼は韻シストのサポートもやっていて、そこでBASIさんと繋がったりして面白いですよね。今、東京にいなきゃいけない理由なんてあんまりないなって思うんですよね。制作費やサウンドに合わせて、場所を選んでもいい時代になっているような気がします。

―そういう意味では、離れた場所に住んでいる人たちで作ったアルバムでもあるわけですよね。

Gotch:威張って言うようなことではないけど、好きなところに住みながら活動できる時代だから。コロナで東京にいたって誰にも会えないんだったら、地方でもいいじゃんって思っちゃうというか。転換期ではあるかもしれないですね。アメリカのミュージシャンだって都心にスタジオを構えてないわけですから。

―今回の驚きは、skillkillsのビートさとしさんの起用でしょうか。

Gotch:skillkillsは2020年の出会いのなかで一番のディープインパクトだったんです。日暮愛葉さんの現場で一緒に作業したんですけど(アルバム『A』を後藤とskillkillsのGuruConnectが共同プロデュース)、あの兄弟のバイブスが最高だったんです。あんな狂った音楽を作ってるわけだから、さぞかし癖のある人たちで、俺のことなんて絶対好きじゃない感じの人が来ると思っていたら、全く逆で。底抜けにポップだし音楽の才能もあるし、一緒にいて最高に心地いい2人って感じですね。



―彼のビートが入ることで、これまでの後藤さんの音楽とは違うものが確実に入ってきてますよね。

Gotch:何がすごいって、シモリョーが作った難しい割り方のビートを、打ち込みの訛り方も含めてそのまま叩けちゃうところですよね。デジタル・オーディオ・ワークステーションに彼の技術が追いついているわけですよ。それがすごいなと思う。

―このアルバムはすごくキャッチ―でポップだと思うんですけど、ビートさとしさんのリズムみたいに、しっかり聴くと変なところがいっぱいある。さらに言えば演奏面のみに限らず、録音でも攻めてるのが面白いところだと思います。とにかく音がいいですし。

Gotch:音をよくするのはここ数年の目標として頑張っていたことなので、ひとつの達成かなと思ってます。自分が深く関わったミックスを「コールド・ブレイン・ワークス」と呼んでもいいような、自分の仕事として完成できた感覚があります。音響的な側面に関しては、この先プロデュースするにしろ、何かを作るにしろ、自信になった作品ではありますね。

気持ちのいい文化の流れを作りたい

―あと後藤さん的に、ドラマーとしてのmabanuaさんはどう見ていますか?

Gotch:mabanuaとの仕事は安心できますよね。彼はいろんな音楽をやっているし、いろんな音楽を聴いてるので引き出しが多い。それに最初に会ったときよりもドラムが上手くなっているんですよね。使ってるドラムセットもユニークになってる。ちょっと会ってない期間があるとその間にも上手くなるし。だから、一緒に音楽を作ってて気持ちがいいですよね。気付かされることもたくさんある。mabanuaは今や日本の音楽界におけるトップ・プロデューサーですから。

―最近はプロデューサーの役割を多く担っているmabanuaさんを、ドラマーとして贅沢に使っている作品でもあると思うんですよ。彼のドラマーとしての良さはどんなところにありますか?

Gotch:周りの演奏にビシッと合わせられるのは大きいですよね。大局が見えているというか。楽曲のことを理解して、大きく捕まえることができて、そのうえ技術もある。プロデューサー的な視点で叩いている部分もあるから、自分の演奏のディレクションも自分でできる。バシッと2テイクくらいしか叩かないんですけど、どこをダビングするかのジャッジもしっかりしていて、「あそこのあそこがこうヨレていたので直します」とか、「もうちょっとインテンポの方がいいと思う」とか、そういうディティールも見えている。作業が一つ減るくらいに助かるんですよ。

―ジャズピアニストの坪口昌恭さんが同じようなことを言ってました。「mabanuaさんは全体が見えてるから、彼が叩くとみんなが演奏しやすい」って。

Gotch:自分で歌うこともあるし、楽器は全部できるから、俯瞰した演奏ができるんですよね。

―しかし、後藤さんは本当にいいミュージシャンを起用してますよね。ライブではドラマーの伊吹文裕さんを起用したこともあったり。

Gotch:伊吹くんを見つけてきたのもシモリョーですね。彼もすごいんですよ。絶対音感があるのに、音程のある楽器が嫌でドラムを叩いていると言ってました。ある種の呪縛から離れるための反抗としてドラムを選んで、あそこまで行くんだから天才ですよね。ミュージシャンへのアンテナは、(自分よりも)シモリョーの方が立っているかもしれないです。

―実は後藤さんのバンドは、あいみょんさんや藤原さくらさん、Charaさんと人脈的に近いんですよね。

Gotch:確かに。さくらちゃんもYasei Collectiveが入ったり、origami PRODUCTIONS(mabanuaが所属するレーベル)のミュージシャンやSpecial Othersが入ったり、そう言われてみると割と近いですね。


アルバム収録曲とゲストの楽曲からセレクトされた、後藤制作のプレイリスト「Around The Lives By The Sea」

―こうやっていろんな人を起用してきたのは、新しい才能を紹介しようという意図もあったと思うんですよ。アジカンのツアーで若いミュージシャンと対バンしたり、後進ミュージシャンを育成するために『APPLE VINEGAR - Music Award』を立ち上げたり。今回のアルバムは、そういった後藤さんの思想とも地続きに繋がっている。

Gotch:気持ちのいいシーンの流れを作りたいとは思っておます。ともすれば自分たちのファンを獲得して終わりみたいな流れがあるじゃないですか。それって棒倒しみたいに誰が一番砂を取ったのかみたいな感じで、ヘルシーじゃないよなって。そういう問題意識を長く持ち続けているんです。それに前の世代からもらったパスを、次に渡していかなきゃいけないよねって気持ちもある。それは機会の面もそうだし、お金の面もそうだし、文化的な知恵や技術の問題もある。だから、俺たちももっと話を聞きに行かなきゃいけないと思って、ここ何年かで坂本龍一さんにいろんな話を聞いたり、質問したり、そういう機会が自分の中でプラスになっているんです。

―なるほど。

Gotch:こういうのは川の流れやツリーのようになっていかないと貧しくなっていくと思うんですよ。海外のミュージシャンには文化的な流れを感じますよね。地域ごとに流れがあって、それが連なるように歴史になっていくし、スタジオ文化みたいな形で地域にも張り付いていって、それをみんなが再利用している。シカゴも街の歴史とともに音楽のコミュニティがあるし、文化の成り立ちには社会のあり方も関わっている。だから、僕らはずっと音楽だけじゃなくて、社会にもアプローチしないといけない。僕としては矛盾なく、それを誠実にやるだけだよって感じですね。ファンダムとかファンベースをたくさん築いた人が勝ちとかじゃなくてね。

NYに行くと、この街には音楽が好きな人がたくさんいるんだなって感じるんですよ。あんな雰囲気になってほしいと思うから、そこに向かってアプローチしているのはありますね。音楽を好きな人が増えないと、俺たちがやる場所がなくなってしまう。そういう思いで活動しているし、最後に実現した社会とかシーンを若い人たちにパスして去っていけたら最高。そんなイメージですね。



Gotch
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