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澤野弘之が語る、職業作曲家として大事にしている3つの要素

Rolling Stone Japan / 2021年3月4日 18時0分

SawanoHiroyuki[nZk](Courtesy of SACRA MUSIC)

アニメ(「進撃の巨人」「機動戦士ガンダムUC」等)やドラマ(「連続テレビ小説 まれ」「マルモのおきて」等)といった劇伴音楽を中心に活躍する澤野弘之によるヴォーカルプロジェクト、SawanoHiroyuki[nZk]が4作目となるアルバム『iv』をリリースした。

Yosh、naNami、mizukiという今や[nZk]作品に欠かせないヴォーカリストに加え、今回初参加となる岡崎体育、アイナ・ジ・エンド、ジャン・ケン・ジョニー(MAN WITH A MISSION)らを中心とした豪華なゲスト陣を迎えて制作された2年ぶりの作品について澤野に話を聞いた。

―SawanoHiroyuki[nZk]の作品は常に独自の世界観を築いているように感じるんですが、澤野さんは曲を作る上で世の中のトレンドをどれぐらい意識しているんですか?

僕はマニアックなことをやりたくて音楽をつくっているわけではなくて、どちらかというとポップなものが好きだったりするんです。ただ、日本のチャートに入ってくるようなものよりもアメリカのビルボードチャートに入ってる音楽が好きで、そういうサウンドに影響を受けて曲をつくっているところはありますね。

―でも、20年前ぐらいに比べるとビルボードに入ってくる音楽も様変わりしていますよね。

ああ、そうそう。今はヒップホップが強いですよね。ヒップホップもトラックがカッコいいと思ったものは聴きますけど、2~3年前にEDMを使ったポップなサウンドが流行ったじゃないですか。あれが自分的にはすごくしっくりくるんですよ。バンドだと、MAROON5とかFALL OUT BOYみたいな打ち込みを取り入れた音。そういう音楽から打ち込みの音色の使い方とか、リズムのとり方に関するヒントを得て、自分なりにつくっていますね。

―[nZk]はポップスともロックともダンスミュージックともつかないサウンドですよね。どういう手法でこういう音に着地するんですか?

 そのときに影響を受けているサウンドが大きいと思うんですよ。僕は海外のサウンドを自分なりに気にしていて、ロックをめちゃくちゃ聴いてるときはそれに感化されてエレキギターやバンドサウンドを重視してつくることもあるんです。今回は打ち込みをより全面に出してつくっているんですけど、それは海外からの影響がありますね。

―具体的に挙げるなら?

今回でいうとDua LipaとかRita Oraみたいにエレクトロなサウンドを駆使しているアーティストとか、一時のHalseyとかそのへんのサウンドに影響を受けていますね。あと、今回は開き直ったところがあって。CDを出すということはビジネスでもあるのですが、前作の『R∃/MEMBER』を作っている時に日本の売れ線の音楽を意識した曲づくりをしたほうがいいのかなと制作中に迷ったことがあったんですよ。でも、本当に自分のやりたい音楽で人に振り返ってもらわないといけないと改めて考え直したんです。なので、今回のアルバムは売れる/売れないは置いといて、自分がカッコいいと思えるサウンドを追求して、それをさらに広げてくれるようなヴォーカリストをチョイスすることによって音楽をもっと楽しめるようなアルバムにしたいと思って作ったところはありますね。


「オーケストラの曲をつくるときでもリズムは重要視してる」

―今作はリズムも魅力的で、大きなグルーヴの曲が多いですよね。ノリが後ろに感じられるというか。

曲をつくる上でグルーヴは本当に大事だと思っています。ドラムのリズムトラックもそうですし、シーケンスでもどういうフレージングだと楽曲に一番グルーヴを出せるかというのはけっこう前から意識していますね。楽曲がカッコよく聞こえるのはグルーヴが大きく影響していて、日本の音楽の感覚だと「1、2、3,はい」という縦を感じるリズムが個人的に大きいと思うんですけど、洋楽の場合は縦以外にも横のグルーヴがあって、これがサウンドのカッコよさにつながっているのかなと。そう思うようになってからはリズムに対してよりこだわりを持つようになりました。



―リズムに関しても海外からの影響が大きかったんですね。

歌モノに限らず、サウンドトラックに関しても海外のものはなんで日本に比べてこんなにカッコよさが違うのかと考えてみると、リズムが大きく影響しているのかなと。なので、オーケストラの曲をつくるときでもリズムはかなり重要視していますね。

―ドラムのフレーズ自体はかなりシンプルに聞こえますが。

目立たせたい部分をしっかり出すことでシンプルに聞こえているのかもしれないですけど、実は裏でいろんなものが鳴っているんです。そこはエンジニアが試行錯誤してくれたり、ミックスでいろいろ詰めていますね。

―なるほど。聞こえはシンプルなのにグルーヴがすごく豊かなので理由が気になっていました。

なんだかんだ僕も日本の音楽で育っているので、メロディをつくるときにどうしても日本人的な感覚が出ちゃうときがあるんですよ。そういうものを少しでも緩和させたいので、リズムにこだわることでもう少し違った聞こえ方にしようとしているところはあるかもしれないですね。

―「Till I」の雄大さがすごく心地よいです。

「Till I」もドラムのリズムパターンはわりとシンプルなんですけど、ギターで鳴らしている16分のシーケンス的なフレーズとかがグルーヴに影響していると思います。

―今作はヴォーカリストの幅も広いですね。どうやって決まったんでしょうか?

自分のサウンドを追求したいという原点的な部分で、[nZk]を始めたときから一緒にやってきたヴォーカリストを信頼しているので、今回も参加してもらいたいという気持ちは最初からありました。でも、『R∃/MEMBER』をつくったときに、新しいアーティストの方とコラボする面白さに魅力を感じたので、そういう要素も入れられたら『R∃/MEMBER』を経た意味も出せると思って、そこから楽曲に必要な人を考えたときに僕が普段から気になっていた方ということで浮かんだのがアイナ・ジ・エンドさん。彼女のことは『R∃/MEMBER』のヴォーカル候補を探していたときにたまたま聴いたhideさんのトリビュートアルバムで知って、「こんな声の人が日本人でいるんだ」と惹かれたので、どこかでご一緒したいなと思って今回お願いしました。あと、優里さんは去年ぐらいに歌声を聴く機会があって、それを聴いたときにアイナさんと同じようなことを思って参加していただきました。


「歌の技術以上に重視しているのは声」

―澤野さんのアンテナに引っ掛かるヴォーカリストの傾向みたいなものはあるんですか?

僕は曲をつくってるときに海外のヴォーカリストを想像することが多いんですよね。そういうニュアンスを持っている人……例えば、アイナさんのハスキーさだったり、優里さんががなったときに出る海外のロックヴォーカリストみたいな雰囲気にすごく惹かれるというのはあると思います。

―「膏」に参加している岡崎体育さんはどうですか?

彼のことは、ヴォーカリストとしてだけでなくクリエイターとしても面白いことをやられている方だなと思っていて。TVなどでは彼の面白いところばかりを見ちゃうと思うんですけど、実は音楽面でもすごくクリエイティブなことをしていて、メロディもすごくキャッチー。歌声に関しては、ギャグ調の曲だと面白さが全面に出ていますけど、そういう曲でも彼の声って純粋にカッコいいんですよね。「膏」は自分なりにポップな要素が感じられるようにつくった曲なので、そのポップさをより広げてくれそうなイメージに一番近いのが岡崎さんだと思ってお願いしました。

【動画を見る】岡崎体育がVoで参加した「膏」のミュージックビデオ

―どの方も一聴してすぐにそれとわかる声ですが、そういうところもポイントだったりするんですか?

今回に限らず、自分がヴォーカリストとしてお願いするときに歌の技術以上に重視しているのは「声」なんです。歌が上手くてわりと普通な声の人と歌はそこまで上手くないけど声に特徴のある人だったら、僕は後者を選ぶと思います。

―歌い方の指示はするんですか?

「Aメロは静かめで、サビで強く歌ってもらえたら」ぐらいのありきたりなことしか言わないです。逆に、レコーディングに臨むまでに各ヴォーカリストの方々がいろいろ考えてきてアプローチしてくださるので自分はそれを楽しみたいですし、そうしていただくことで楽曲を広げてくれていると感じるので、みなさんの力には感謝してますね。

―思ってもなかったような仕上がりになった曲はありますか?

岡崎さんの「膏」ですね。ヴォーカルレコーディングのときにも「これは面白い感じになるな」と思ったんですけど、ハモリも構築した上でミックスをしたらすごく手応えを感じる楽曲になりました。本編の最後を飾る曲にしたいと思うぐらいいい形にしてもらえたと思っています。

―なるほど。

あと、YoshさんとnaNamiさんはこれまでも一緒にやってきているんですけど、改めて彼らのセンスに驚かされたし、悔しくも感じました。彼らも洋楽から影響を受けた音楽をつくっているんですけど、その吸収の仕方が僕とは違っていて、彼らのセンスの素晴らしさを今回のレコーディングで目の当たりにしました。この2人がプロデューサーや作曲家に立場を変えたら自分は敵わないと思うぐらいだったので、改めてご一緒できてよかったと思いますね。


「音楽を始めたきっかけはCHAGE and ASKAのASKAさん」

―澤野さんは歌詞も書いていますけど、どういう世界観を意識しているんですか?

表現が違うだけで、基本的に僕の歌詞はほとんど同じ題材なんですよ。自分の音楽活動や世の中の状況を見た上で思うことを「前向きにしていきたい」という気持ちを込めて書いていますね。

―確かにポジティブな歌詞ですね。

僕はネガティブな気持ちで終わるのが好きじゃないので、自分を奮い立たせるために書いているところもありますね。もちろん、人に読んでもらっていろんな気持ちになってもらうのもありがたいんですけど、僕は歌詞を抽象的に書くし、自分の言葉をお客さんにメッセージとして届けたいという気持ちはほとんどないんです。だから、歌詞を読んだ人が僕の意図と真逆に受け取っても全然構わないし、自由なイメージで聞いてもらえたらいいし、歌詞は音の響きやグルーヴの面で考えているところも大きいので、たまたま1行だけ心に響くぐらいでも構わないという気持ちですね。

―なるほど。

自分が思っていることをダイレクトに知ってほしいというわけでもないので、気づいた方にわかってもらえたらいいかなという気持ちです。

―すべてを知られるのが怖かったり?

ダイレクトに知られて変に憶測されるのが怖いというのもありますし、考える余地があってほしいんですよね。僕の偏見かもしれないですけど、今って一言一言ちゃんと説明しなきゃいけない時代だと感じるんですけど、そうではなくて、一人ひとりがその言葉から「これはこうなんじゃないか」と思いを巡らすような余白が大事だと思うんです。だからそういう抽象的な書き方をしているところもあるかもしれないですね。僕、音楽を始めるきっかけがCHAGE and ASKAのASKAさんなんですけど、多分、ASKAさんの歌詞も僕が間違えて理解しているところがいっぱいあると思うんですよね。でも、それで勇気づけられたこともたくさんあったので、自分で歌詞を書く上でもそういうことができたらと思っていますね。

【関連記事を読む】デビュー40周年のASKA、「万里の河」をめぐる出会いのストーリー

―なるほど。

あと、僕は作曲家という意識が強いので、人の音楽を聴くときも単純にサウンドと歌声とメロディでカッコいいかどうかを判断しているんですよ。日本の曲を聴くときも歌詞にはそんなに重点を置いてなくて、音として楽しいかどうかを気にしていますね。だから、自分がつくる音楽で一番重要視しているのもその3つの要素で、歌詞も響きとして聴いてほしいところがあるんです。

―最近は歌詞を重視する若いリスナーが多いといいますね。

そうですよね。こないだ、松本人志さんの番組を観ていたら甲本ヒロトさんが出ていて、「最近の人たちは歌詞を聴きすぎだと思うんだよね」とおっしゃっていて、それは自分の考えにも近いところがあるなと。甲本さんみたいな方がそういう視点を持っていることに勇気づけられたところはありますね。


「サウンドトラックに興味を持ってもらう機会を増やすために」

―ああ、僕も観てました。あれは興味深いお話でしたね。話は戻りますが、今作にはボーナストラックとして<MODv>(みなさんのおかげですVer.)の楽曲が収録されています。今振り返ってみて、この挑戦はどういうものだったと思いますか?

このプロジェクトは、コロナでミュージシャンの方々の仕事がストップしてしまって、自分のライブもキャンセルになったり延期になったりしてみんなが下向きになったときに、何か少しでもポジティブなことができたらということで提案したんです。だけど、結果的には自分が前向きな気持ちにさせてもらいましたね。あのときは「何かをやってみる」ということが重要だった。あと、改めて気づいたのは、僕は職業作家なので仕事を振られたら曲をつくるというパターンがほとんどなんですけど、せっかく音楽をやっていて仲間のミュージシャンもいるなら、自分からももっと提案していくべきなんじゃないかと思って。ただ頼まれたものをつくるだけではなくて、サウンドトラックに興味を持ってもらう機会を増やすために自分でもいろんな動きをしていくべきだと気づかされました。本当にやってよかったですね。
 
―最初に想像していた以上に意味のあるプロジェクトになったんですね。

そうですね。でも、動画を観ていただいたお客さんの反応あってのものだと思うんですよ。あと、今、コロナで音楽業界の動きがストップしてしまいましたけど、本来人間はそういう不測の事態を見越して生きていかないといけないんだよなっていうことを強く思いました。

―確かに。

何かが起きてからあたふたするんじゃなくて、何が起こるかわからないという状況を踏まえた上で活動をしていくことが大事なんじゃないかって。音楽業界はCDセールスが落ちてきて、アーティストはライブで稼ぐという方向になってきて、もちろんそれも重要だと思うんですけど、ライブビジネスだけに意識を向けがちになるのではなくて、コロナが収束してからもまた何が起きるかわからないし、音楽活動の幅を模索して広げていかないといけないんだなというのは感じましたね。

―ところで、澤野さんは小室哲哉さんからも大きな影響を受けているんですよね?

TM NETWORKが解散したあとに好きになったんですけど、「Get Wild」はいまだにカッコいいと思いますし、中学のときに友達から借りた『Tetsuya Komuro Presents TMN black』というベスト盤の1曲目に入っていた「Self Control」が衝撃的でした。サビのメロディに電子の声をメインに乗せるというのは当時自分が聴いていた音楽にはなかったので好きでしたね。あと、小室さんはサウンドトラックもたくさん手掛けられていたので、それがインストの曲に興味を持つきっかけになっています。「マドモアゼル・モーツァルト」のサントラが好きでよく聴きましたし、「二十歳の約束」のサントラもめちゃくちゃ聴いてました。

―「吸血鬼ハンターD」のサントラもいいですよね。

あれもいいですよね! ……ああ、一度小室さんにお会いしたときに言えばよかった! 当時のインスト曲でライブをやってほしいんですよ! そういうライブをやってくれたら絶対行くのになあ。「吸血鬼ハンターD」とか「ぼくらの七日間戦争」とか「天と地と」とか……すっごい観たいですね! 

―かつて小室さんから影響を受けたように、澤野さんも自分の姿勢を後続のミュージシャンに見せていきたいという気持ちはあったりしますか?

ああ、まったく考えないわけではないですけど、自分は決して成功してるとは思っていないので、今は自分の思い描いている場所に向かってどれだけやれるかというところでまだ必死になっていますね。でも、音楽を志している若い人たちが僕の活動を観て、劇伴音楽だけでなく、「こういう作曲家の在り方もあるんだ」とアーティスト活動に興味を持ってもらえたらそれはそれでうれしいですね。

<INFORMATION>

『iv』
SawanoHiroyuki[nZk]
SACRA MUSIC
発売中

初回限定盤 [CD+Blu-ray]


通常盤 [CD]


1. IV
2. FLAW(LESS) by SawanoHiroyuki[nZk]:Yosh
3. FAVE by SawanoHiroyuki[nZk]:AiNA THE END
4. Chaos Drifters by SawanoHiroyuki[nZk]:Jean-Ken Johnny
5. N0VA by SawanoHiroyuki[nZk]:naNami
6. Tranquility by SawanoHiroyuki[nZk]:Anly
7. time by SawanoHiroyuki[nZk]:ReoNa
8. Trollz by SawanoHiroyuki[nZk]:Laco
9. Till I by SawanoHiroyuki[nZk]:優里
10. Felidae <iv-ver.>by SawanoHiroyuki[nZk]:Gemie&Tielle
11. CRY by SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki
12. 膏 by SawanoHiroyuki[nZk]:okazakitaiiku
13. OUT OF "iv"

ボーナストラック
14. Barricades<MODv>by SawanoHiroyuki[nZk]:Yosh
15. Keep on keeping on<MODv>by SawanoHiroyuki[nZk]:mizuki
16. NEXUS<PODv>by SawanoHiroyuki[nZk]:Laco

初回限定盤Blu-ray収録内容
「澤野弘之 LIVE ”BEST OF VOCAL WORKS [nZk]” Side SawanoHiroyuki[nZk]」ライブ映像







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