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未だ謎多きUKバンド、ジャンゴ・ジャンゴが「音楽のモンスター」になるまでの物語

Rolling Stone Japan / 2021年3月10日 17時45分

ジャンゴ・ジャンゴ(Photo by Horacio Bolz)

2009年の結成以来、孤高の存在感を放ってきたジャンゴ・ジャンゴが通算4作目のニューアルバム『Glowing in the Dark』をリリースした。シャルロット・ゲンズブールのゲスト参加も話題の本作では、サイケからダンス、カルトまで古今東西の音楽を繋ぐエクレクティシズムと、英国特有の突き抜けたユーモアセンスにますます磨きがかかっている。ここ10年のUKロックシーン屈指の実力派にして、突出した変わり種でもある彼ら。未だ謎多き4人組の魅力を掘り下げるべく、ドラマー兼プロデューサーのデイヴ・マクリーンにZoom取材を行った。


DJカルチャーと折衷主義

—『Glowing In The Dark』のリリース記念でDJセットを披露していましたよね。DJ歴はもう長いんですか?

デイヴ:DJをはじめたのは1992年くらいだね。兄貴(2015年公開『スロウ・ウエスト』で知られる映画監督のジョン・マクリーン)が自分の部屋にデッキを持ってたんだ。ちゃんとしたセットというより、古いターンテーブルが2つあっただけだけど。それで、その翌年くらいから自分でヒップホップのDJをはじめたんだ。



—ドラムをはじめたのは?

デイヴ:ドラムセットを買ったのはもう少し後、1994年だね。4トラックのサンプラーを持っていたから、自分でドラムループを作ったり、ミックスしたりしてみたくて。それから学校でバンドを初めて組んで、ストーン・ローゼズのカバーをやったりしたよ。ジャンゴ・ジャンゴの結成はそこから10年くらい後の話だけど、それが音楽をはじめたきっかけかな。

—人に歴史ありですね。DJセットは選曲にも痺れました。ご自身のルーツとして、クラブミュージックやヒップホップのカルチャーはやはり大きい?

デイヴ:もちろんだよ! 最初にDJをはじめた頃ハマってたのは、デ・ラ・ソウルやパブリック・エネミー、RUN DMCとか。あとは90年代初期だったから、ブラック・シープも好きだったな。そこからだんだんと王道のハウスを通って、テクノを聴くようになっていって、その頃はブラック・ドッグがすごく好きだった。あとローラン・ガルニエだとか。

—最高じゃないですか!

デイヴ:その辺りの影響は自分にとってすごく大きくて、ジャンゴ・ジャンゴをはじめる前は自分でもダンスホールとかテクノをメインに作っていたんだ。結果的に、それを含むいろんな要素がジャンゴ・ジャンゴの音楽には反映されている。

でも、自分ひとりでたった4トラックだけでサンプリングしてビートを作ることにだんだん飽きてきてしまって。もっと違ったタイプの曲をイチから作ってみたくなったんだ。自分にとっては大きな転換だったけど、子どもの頃のヒーローはビートルズだったわけで、それまでとは違うタイプの曲を紡いでいく楽しさに目覚めていった。ただ、そんな中でも、ヒップホップやダンスミュージック、テクノを聴いてきたことで培った感性を失いたくないという気持ちは常にある。だから、それらすべてがミックスされて、今のジャンゴ・ジャンゴの音楽を形作っているように思うよ。

—よくわかる気がします。DJとしてのあなたのヒーローは?

デイヴ:テクノにハマったきっかけとして大きかったのは、デトロイト出身のジェフ・ミルズやカール・クレイグ。実際にプレイを見てシビれたのはジャイルス・ピーターソンやコールドカットだね。自分がスコットランドで友達とはじめて企画したDJイベントでは、ジャズとかヒップホップを取り入れた折衷的なセットを目指したんだけど、その辺りはジャイルスの影響が全開だったよ(笑)。

ぼくらの音楽はどこにも属せない

—あと先述のDJセットで、ティミー・トーマスの「Why Cant We Live Together」(邦題:かなわぬ想い)をかけていたのも印象的でした。シャーデーもカバーした1972年のメロウ・クラシックで、人気コンピシリーズ『Late Night Tales』のジャンゴ・ジャンゴ編(2014年)でもこの曲を収録していましたよね。

デイヴ:スコットランドのガレージセールでレコードを手に入れたんだ。家に帰ってレコードをかけた途端、心を掴まれたのを覚えているよ。すごくエモーショナルな曲だし、なにせプロダクションが最高。ジャンゴ・ジャンゴで曲作りをするうえでも影響を受けてるね。特に「Loves Dart」だとか、1stアルバムのいくつかの曲。すごくシンプルなのにパワフルで、それが本当に自分に刺さったというか。「自分のなかで一番重要なレコードは?」と聞かれたらすぐに頭に浮かぶ作品のひとつだし、今でもDJでよくかけるんだ。



—あの曲はリズムボックスと電子オルガンによる最小限の伴奏が素晴らしいですよね。最新アルバムに収録された「Free From Gravity」にも通じるところがあるように感じました。

デイヴ:そうだね。やっぱり反復的なプロダクション、それに加えてあえて古いドラムマシーンとかキーボードを使うのが好きなんだ。クリアすぎない、味のある擦れた音みたいなのが気に入っていて、わざとジャンクな機材をたくさん使ってる。曲のメッセージのシンプルさも通じる部分かもしれない。シンプルだけど温かみがあって、ヴォーカルのパフォーマンスに真実味があるような。

—「Free From Gravity」は、「地球がメチャクチャになって出て行かざるを得なくなる状況」についての曲だと聞きました。

デイヴ:アルバムを作っていた時はまさに世界が混乱の真っ只中で、先行きが見えずにすべてが狂っていくような感じがしていた。気候変動や企業化だとかたくさんの問題があって、どこにいても安全じゃないような。だからこの惑星から飛び出して、戻る必要なんてないんじゃないかって考えが頭によぎった。ミュージックビデオに出てくる小さなエイリアンは、そのアイデアを代弁してくれているんだ。

遠いところから来た彼は、最後には地球を離れる。地球という惑星がクソだってことに気づいたからさ(笑)。あんまり住み良いところじゃないってね。そして彼はぼくと違って、気に入らない場所から自由に飛び出してどこにでもいけるんだ。だからこれはファンタジーだけど、もしも彼と同じようにその力があったら、君はこの地球を離れてどこか別の場所へ行きたいか?って問いかけでもあるんだ。



—これは褒め言葉のつもりですが、ジャンゴ・ジャンゴはデビュー当初からずっと変わったバンドだなと思っています。よく言われませんか? 

デイヴ:ハハハ、その通りだよ。ぼくらはどこにもうまく馴染めないんだ。10代のときに音楽をはじめて、自分の部屋にドラムセットを買ったときからそれは感じていた。趣味嗜好がとっ散らかっていて、テクノもピンク・フロイドもビートルズもパブリック・エネミーも同じくらい好きだったし、今もそのどこにも属せない感じがバンドに出ている。それは意識せずともそうなってしまうというか。本当に自分でも自分がわからないくらい、どんな音楽も聴くから、いつかはフォークにハマるかもしれないし、ロカビリーばかりを聴くなんて時期だってくるかもしれない。だからプロダクションのスタイルもずっと流動的だし、それは自分でもうまくコントロールできないんだ。

実際、一緒にやっているバンドメンバーの好みもバラバラだしね。ヴィニー(Vo)はロカビリーや正統派のロックンロールが好きだし、トミー(Key)は変わったシンセミュージックとかサウンドトラックをよく聴いてる。ジミー(Ba)はニック・ドレイクとかフォークが好きなんだ。そんなぼくらが一緒に音楽をやったら、それはおかしなものが出来上がるし、きっとどこにもうまくハマることができない。でも、ぼくらはそれでいいと思ってるんだ。

—本当に今更ですけど、どういう音楽をやろうと思って結成したんですか。

デイヴ:たしか最初は、ビートルズっぽいのをやろうって言ってたんだ。ぼくとヴィニーの共通点がビートルズ好きってことだったからね。あとはストーン・ローゼズ、プライマル・スクリームとか、アンドリュー・ウェザオールみたいなのもいいだとか話をしていたはず。だけどスタジオに入ってみて――もっとも実際のスタジオではなくて、自分の部屋のコンピューターの前にみんなで集まっていただけなんだけど、いざ曲を作ろうとすると、全員の方向性があまりに違いすぎて全然まとまらかった。

—そうでしょうね(笑)。

デイヴ:結局どうしてそうなったかはわからないけど、とりあえずギターはソニックスっぽいのがいいとか、各々が好きなことを言い出して。そこら中に転がっていたレコードの山の中からパートごとにまったく別のバンドの音をあてはめていったら、最終的につぎはぎだらけのフランケンシュタインみたいな音楽が誕生したんだよね。そこから次々と直感的に異なるアプローチを試していって、音楽のモンスターがどんどん生まれるようになった(笑)。

アルバムのテーマは「どこかへ逃げ出したい」

—でもたしかに、ジャンゴ・ジャンゴは当初から越境的なサウンドを奏でていましたよね。1stアルバムに収録された人気曲「Default」(Spotifyで約2800万回再生されたバンドの代表曲)もそうでした。あの曲については今、どのように振り返りますか?

デイヴ:そうだなー、あの曲はコンピューターの4トラックだけを使って作ったし、プロダクションにも全然手がかかっていない分、すごく生っぽいというか。ギターのチューニングさえちゃんとしていなかった気がする。当時はまだ作曲家としては経験が浅かったし、プロデューサーとしての観点なんて持ち合わせていなかったけど、今振り返ってみれば、その生々しさや荒削り感が好きだし、気に入っているよ。テクニックや音がよければ、必ずしも質のいい作品になるってわけではないんだ。

例えばパンクミュージックをミックスし直して音質をクリアにしても、それが元の音源よりいいかっていえば、むしろ台無しになってしまうことだってある。だから、手を加えすぎてしまうことについてはいつも気をつけていなければいけないと思う。あの頃は誰かにアドバイスをもらって、これはこうしたらもっとよくなるとか、やらない方がいいとか教えてもらっていたわけじゃないから、細かいことを気にかけず好きなようにやっていたし、そうやって偶然できあがった音を今になって聴きかえすことで、それを思い出すことができるんだ。



—その頃からのファンとしては、最新アルバムのオープニングを飾る「Spirals」も不思議なグルーヴがあって嬉しかったです。

デイヴ:「Spirals」は特にライブセットで演奏することを意識して、フックになるような曲として作ったんだ。1stアルバムだと「Wor」とか「Silver Rays」とかに匹敵するような、アップビートでライブで盛り上がってもらえる曲を新しく作りたいとずっと思っていた。少し前からアメリカやメキシコのツアーで新曲としてプレイしていて、反応もいい感じだったからアルバムのために録り直したんだよ。未発表の曲をライブで演ることはこれまであまりなかったんだけど、それもおもしろかった。ライブのオープニングに適していたし、それと同じようにアルバムの1曲目に持ってきたんだ。



—話の順番が前後しましたが、今回の『Glowing in the Dark』におけるテーマやコンセプトについて教えてください。

デイヴ:話すべきことはたくさんあるけど、さっき「Free From Gravity」についても話したように、ロンドンや東京、ニューヨークみたいなめまぐるしく景色の変わる大都市に住んでいると独特の閉塞感に直面するというか、息が詰まって逃げ出したくなるようなときがある。だからそこから抜け出したい、みたいな気持ちを昇華させているんだ。それぞれの曲は全然別のアイデアからきているんだけど、根底には少しずつその想いがある。

たとえば「The World Will Turn」はジミーが書いた曲で、彼にとってすごくパーソナルなものなんだ。だけど、みんなで作った「Kick the Devil Out」なんかは、ある日ウザい悪魔が家にやってきて一緒に暮らすっていうおかしなストーリーがベースになっている。その悪魔は部屋を散らかしたり、近所でいたずらしたり、本当の悪者ってわけではなくて、ただイラつかされるようなレベルのワルなんだけどね(笑)。最後にはそいつを家から追い出すっていうコメディタッチの内容。ぼくらはみんなキッズ・イン・ザ・ホールというカナダのスケッチ・コメディ・グループが大好きで、そういった雰囲気を出したかった。そんな感じで、それぞれの曲のテーマは私生活の問題だったり、ファニーなアイデア、世界情勢や政治と本当になんでもアリなんだけど、共通したコンセプトは「どこかへ逃げ出したい」って気持ちがあることなんだ。




 「モンティ・パイソンの再来」と呼ばれたキッズ・イン・ザ・ホールのスケッチ「Bobby versus Satan」。最新アルバム収録の「Kick the Devil Out」に影響を与えた。

—ひねくれたユーモアセンスもジャンゴ・ジャンゴの魅力ですよね。あなたが所有するスポークンワードのレコードも影響源として大きかったと聞いています。

デイヴ:そうそう、タイトル曲の「Glowing in the Dark」では、『2001年宇宙の旅』を朗読しているレコードをサンプリングしているんだ。「in the dark」って読みあげてる部分をリッピングしてループをかけてビートを加えて使っていて、それの上からヴィニーとジミーのヴォーカルを被せている。だから歌うというよりも、どこか話し言葉みたいな雰囲気が残っているんだよね。

古いレコードを集めるのが趣味なのもあって、昔のライブラリー・ミュージックに影響を受けている部分はあると思う。テレビとか映画の挿入歌として作られている曲のコレクションなんだけど。60年代のプロダクションが特におもしろくて、エイドリアン・シャーウッドだとか、ダブのレコードなんかもそういったライブラリー・ミュージックがサンプリングに使われていたりするんだ。



シャルロットとの共演、日本で過ごしたときの記憶

—シャルロット・ゲンスブールの参加も話題ですが、彼女との共演はどのように実現したのでしょう?

デイヴ:ぼくらは同じレーベル所属(フランスのBecause Music)なんだけど、「Waking Up」のデモができあがったときに、自然と彼女のことがすぐに頭に浮かんだんだ。ダイナミックな彼女のヴォーカルがハマったら、曲に奥行きが生まれるような気がして。レーベルを通してデモを送ったらもともとバンドのファンだし、すぐに「曲が気に入った」と連絡をくれた。だから電車でパリまで行ってレコーディングしたんだ。

—「Waking Up」はサウンド面でもゲンスブールのDNAを感じました。

デイヴ:その通りだよ。歌詞のテーマはボニーとクライドをイメージしているし、古いロードムービーっぽい感じだとかロマンティックな逃避行って、シャルロットにぴったりだと思うんだ。そのイメージを見事に再現してくれたよ。



—プロデューサーとしての視点で、『Glowing in the Dark』について、「Default」の頃にはできなかったけど、今だから実現できたことを挙げるとすれば? 

デイヴ:自分のスタジオにドラムセットを置いたことだね! これまではスペースがなくて無理だったんだ。だからドラムを録りたいときは、セットのある別のスタジオにいちいち行かないといけなかったし、実際そうやって制作するのはちょっと無理があって。やりたいことが思うようにできなかったから、今回のアルバムでは絶対に手に入れようと決めていたんだ。「Night of the Buffalo」なんかは、自分のスタジオにドラムセットがなかったらできなかった曲だと思う。



—年齢や経験を重ねたことで、バンドのあり方も変わってきましたか?

デイヴ:そうだね。それぞれがもっと音楽に集中できる環境が整ってきて、音が少し成熟したような感じはあるかな。プロダクションにこだわる部分が増えて、それぞれの曲にかける時間も長くなったし。みんなで毎日のように呑んで騒いで二日酔いになっていたころよりは、生活がずいぶんマシになったっていうか(笑)。クラブに出かけるよりも家やスタジオで過ごす時間が増えて、細かいマイクのセットアップとかを気にするようになってきたね。1stアルバムの頃は若かったし休まず動いていられたけど、今はそうもいかないよ(笑)。

—ロンドンもロックダウンが長引いていると思いますけど、2012年のフジロック以来となる来日公演も期待したいです。

そうだね。もうずいぶん前のことにも感じるけど、まだツアーをはじめたばかりの頃に呼んでもらったから、あのときのライブのことはよく覚えているんだ。あんなに大勢の前でライブをすること自体に慣れていなくて、心の準備もできていない状態だった。ギターのチューニングにもやたら時間がかかったりして焦ったんだけど、それでもちゃんと観てくれている人たちが多くて、みんなやさしいなって思ったよ(笑)。ぜひまた日本でライブをしたいし、日本のカルチャーもすごく好きだから、ゆっくり遊びに行ってみたい。自分にとっても訪れるたびに新鮮な驚きがある場所だよ。前に東京に行った時は、渋谷の東急ハンズとゲーセンのアーケードゲームで1日潰れたのをよく覚えてる(笑)。





ジャンゴ・ジャンゴ
『Glowing in the Dark』
発売中
試聴/購入リンク:https://caroline.lnk.to/GLOWING
アーティスト日本公式サイト:https://carolineinternational.jp/django-django/





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