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つらさを耐え凌ぐための自傷行為 周囲の人が取るべき行動と認識

Rolling Stone Japan / 2021年3月31日 11時30分

Source of photo:Pixabay

音楽学校教師で産業カウンセラーの手島将彦が、世界の音楽業界を中心にメンタルヘルスや世の中への捉え方を一考する連載「世界の方が狂っている 〜アーティストを通して考える社会とメンタルヘルス〜」。第39回は中高生の10人に1人は経験するという自傷行為と周囲の人々に求められる行動と認識について、産業カウンセラーの視点から伝える。

コロナ禍の影響もあってか、2020年の小中高生の自殺者数が統計のある1980年以降で最多になってしまったという報道がありました。女性の自殺者も目立って増えており、非常に憂慮すべき事態となっています。これを受けて、自殺を未然に防ぐためにどう対処すべきかさまざまな媒体から発信されています。この連載でも以前に自殺について、女性がメンタルヘルスに問題を生じやすい状況について書いてきました。この機会にそれらもご一読いただければと思います。

関連記事:女性のうつ病有病率は男性の2倍、SNSと埋まらないジェンダーギャップの相関

そして、今回は自殺に繋がるリスクのひとつとして、自傷行為について取り上げてみます。シンガーソングライターのCoccoさんは「大変なことがあるとお風呂に入ってリラックスっていうよりは、ひっかいてた方がいいし」とご自身の自傷行為について告白されていますが、「Raining」という曲では自傷行為と思われる内容が歌われています。




リストカットなどの自傷行為は、激しい怒りや絶望感、不安感などの、自分ではどうにもならない辛い不快な感情への対処が目的であるケースが多く、本来は自殺企図とは異なる行動として区別されます。しかし自傷行為を繰り返す人には慢性的な自殺念慮を抱いている人も多く、長期的な自殺リスクは自傷行為未経験者よりもかなり高いことが研究で明らかになっています。また、一般の中学生や高校生の1割は、少なくとも1回、刃物で自分の体の表面を切るという経験があるということも調査でわかっています。周囲の大人はそれに気づいていないことが多いため、もっと少ないだろうと思ってしまっていますが、10人に1人と決して稀なことではないのです。

よくある誤解として「構って欲しいアピール的な行為だ」というのがあります。そうしたケースが全くないわけではありませんが、実際は、自傷行為を繰り返す若者の96%はひとりきりで行い、誰にもそれを告げません。つまり、ほとんどの場合はアピール的な行為ではなく、むしろ圧倒的に辛い気持ちに対し自分一人でなんとか耐え忍ぼうとしているのです。しかし、自傷行為は一時的に心の痛みを和らげますが、長期的には慣れも加わって、だんだん行為が過剰になってしまうことがあります。また、その過程で周囲の人が感情的に振り回されてしまい、その結果としてサポートする人が離れ、少なくなっていってしまうこともあります。そうなると、自殺リスクは高まってしまいます。

リスクを高めている根本的な原因の一つは、悩みを抱えたときに周囲に相談しない、できない、そもそも相談できる人がいないこと、にあります。実際に助けられた経験が少なかったために助けを求めるという発想に至らなかったり、自分の気持ちを言葉にすることが苦手なために他者に助けを発信できなかったりという場合もあります。そうなってしまうのには一人一人複雑な背景がありますが、様々な要因から自傷行為をしている人を支援するときに「自分を傷つけてはいけない」などの説教や叱責をしてはいけません。死なないために、生きるために自分を傷つけているわけですから、まずは辛い気持ちがあるということ、そしてそうやって心の痛みを和らげてなんとか凌いでいるということを共感的に受けとめることです。自傷することの良し悪しを議論することにはあまり意味がありません。また過剰に同情することも良くありません。

とはいえ、今その当事者がなんらか幸せではない状況にあることは確かです。また、自傷行為がエスカレートしていくことへの懸念があります。まず問題を生じさせている原因(例えばDVやいじめ、過剰適応など)の解決にあたる必要がありますし、その上で自傷以外の心の痛みを和らげる方法(マインドフルネスやその他の代替行為)を教えていくことなども必要になってきます。いずれにせよ、それには信頼関係を構築することが重要ですし、そのための時間も必要になってきます。

自殺を予防するために「命は大切に」、「自分を大切に」ということを言う場合があります。しかしこれは「命を大切にしない者は不道徳だ」となったり、例えば親からDVを受けていたりいじめに遭っていたりする子どもは「じゃあなんで自分は大切にされないんだ? 自分の命だけ重要ではないのか」となってしまい、逆に追い詰めてしまうこともあります。そうした道徳的アプローチよりも、人は誰でも精神に問題を抱える可能性があること、そしてその場合にはSOSを出すこと、信頼できる大人に繋がる、繋げること、というメンタルヘルスの教育が必要なのです。周囲の人は、先述のように、まずそうやって凌いでいるということを受けとめ、自傷行為に精神疾患が関与していると考えられる場合や、本人の死にたくなる気持ちが強い場合、自傷行為が周囲の人々に悪影響を与えていると判断される場合には、精神保健の専門スタッフに相談することが必要です。学校ではスクールカウンセラーや養護教員、地域なら保健相談所や精神保健福祉センターの担当者に相談してください。

「死にたい」という言葉の背後には、別の言葉で言い表せる何かの出来事や感情があります。それをともに考え、読み解いていくこと、そして皆が「助けて」と言える社会を作ることが必要なのです。

■相談窓口
・日本いのちの電話連盟
電話0570・783・556(午前10時~午後10時)
https://www.inochinodenwa.org/
・厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」やSNS相談
電話0570・064・556(対応時間は自治体により異なる)
https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
・東京自殺防止センター(NPO法人国際ビフレンダーズ)
電話03・5286・9090(午後8時~午前2時半)
https://www.befrienders-jpn.org/
・よりそいホットライン
電話0120・279・338(24時間対応。岩手、宮城、福島3県は末尾3桁が226)
https://www.since2011.net/yorisoi/

参照:
Cocco拒食症、自傷など語る 日刊スポーツ2009年8月28日:https://www.nikkansports.com/entertainment/news/p-et-tp0-20090828-536298.html
みんなのメンタルヘルス 厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/kokoro/know/symptom3_3.html
「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか 松本俊彦編 日本評論社
「講演録 青少年の自殺予防のために何ができるか」 松本俊彦Journal Of Tama Clinical Psychology No.9 2015. P29-54


<書籍情報>



手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。

手島将彦
ミュージシャンとしてデビュー後、音楽系専門学校で新人開発を担当。2000年代には年間100本以上のライブを観て、自らマンスリー・ライヴ・イベントを主催し、数々のアーティストを育成・輩出する。また、2016年には『なぜアーティストは生きづらいのか~個性的すぎる才能の活かし方』(リットーミュージック)を精神科医の本田秀夫氏と共著で出版。Amazonの音楽一般分野で1位を獲得するなど、大きな反響を得る。保育士資格保持者であり、産業カウンセラーでもある。

Official HP
https://teshimamasahiko.com/


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