スティングが語る「多様性」と「好奇心」 多彩なアーティストとのコラボ作『デュエッツ』を聴く
Rolling Stone Japan / 2021年3月21日 10時0分
2019年にリリースされた通算14枚目のアルバム『マイ・ソングス』で、ポリス時代とソロ名義の楽曲をリミックスや新録音でアップデートしたスティング。そのアルバムを携えての来日公演を行ったことも記憶に新しい彼が、これまで様々なジャンルや言語、世代のアーティストたちとコラボレートしてきた楽曲を、1枚にまとめたニュー・アルバム『デュエッツ』をリリースした。
本作のアイデアをスティングが思いついたのは、昨年アメリカのジャズ・シンガーであるメロディ・ガルドーと、リモートでレコーディングを行ったのがきっかけだったという。
「僕のギタリストであるドミニク・ミラーが、『リトル・サムシング』の作曲者の一人だったことから一緒に歌ってくれないかと言われ、『もちろん歌うよ』と答えたんだ。ただし会って一緒に歌ったのではなく、違う国のそれぞれのスタジオでディスタンスをとって歌ったんだ。パンデミックな関係だった、というのかな」
本来、シンガー同士が向き合って歌う「デュエット」は親密な行為である。しかし「リモート」という手段を使えば、たとえ物理的な距離があっても行うことが可能だと彼は気づいた。それを機に、これまでの自身の作品を見直してみたところ、本人も忘れていたデュエット曲がたくさん見つかったという。
「例えばシャルル・アズナヴールとの曲、最近のものではミレーヌ・ファルメールとの『ストーレン・カー』。これは大ヒットした。それからGIMSとも歌ったし、エリック・クラプトン、ハービー・ハンコック、メアリー・J.ブライジとも。これらを1枚に集め、人と人が一緒にいられない時代にこそ、アルバムでつながれたら良いんじゃないかと思った。そんなわけで『デュエッツ』は偶然の産物ながらも、とても満足のいくアルバムになったよ」
フランスに対する強い憧憬
中でもスティングが思い入れたっぷりに話すのは、2018年10月1日に94歳で逝去したシャンソン界の第一人者、シャルル・アズナヴールとのコラボレーションである。90年代にスティングは、シャルルを自宅に招き入れ、彼の代表曲である「恋は一日のように」を一緒に歌ったことがあった。当時スティングは40代。27も歳の離れた大ヴェテランのシャルルに必死で食らいつきながら、「学生時代に7年間習った」というフランス語を使いながら歌う様子が、聴いていると目の前にありありと浮かんでくるようでなんとも微笑ましい。
「彼(シャルル)はアイコンだ。シンガーそして俳優として、シャンソンの第一人者という意味でも。そんな彼と一緒に歌えたのは本当に大きな名誉だったよ。どれほど素晴らしい曲だったかを忘れていたが、実にラヴリーな曲だ。いつまでもその思い出は僕の心に残っていくだろう。2年前に彼の訃報を聞いた時は本当に悲しくて、お悔やみの言葉を述べさせてもらったが、一緒に歌うことができたことをとてもありがたく思っているよ」
シャルル・アズナヴールの他にも、エスニックなパーカッションが印象的な楽曲「ストーレン・カー」でデュエットしたミレーヌ・ファルメールや、どこか「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」を彷彿とさせる楽曲「レスト」でコラボしたラッパーGIMSなど、今作にはフランスのアーティストとのコラボが目立つ(いずれの楽曲も、当時フランスで大ヒットを記録)。そこにはスティングの、フランスに対する強い憧憬が窺える。
「僕自身、フランスの文化、言葉、シャンソンを愛しているので相思相愛だ。フランスの音楽の歴史も知っているつもりだし、ジャック・ブレルも大好きだ。だから少しだとしてもフランス語で歌える機会、もしくはフランス人アーティストと歌う機会があれば、名誉なことだと思ってやってきた。こうして今もパリにいる。第二の故郷のになった感もあるよ。今この時期はパリに住んでいるんだ」
デュエット相手から得た学び
一方、ダニー・グローヴァーとメル・ギブソン主演映画『リーサル・ウェポン3』のために書かれた、マッチョで男らしい二人の”相棒ソング”「イッツ・プロバブリー・ミー」では、エリック・クラプトンともデュエットを実現させている。この曲は、スティングの5枚目のアルバム『テン・サマナーズ・テイルズ』(1993年)にも別ヴァージョンで収録されている(1998年の『フィールズ・オブ・ゴールド~ベスト・オブ・スティング 1984-1994』に再録)。
また、『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12ヶ月』に使用された「ウィル・ビー・トゥゲザー」は、アニー・レノックス(元ユーリズミックス)とのツアーから生まれた曲だ。アニーとスティングは1977年以来の友人であり、活動初期もよく対バンをしていたそうだ。
「お互い音楽活動を始めたのが同じ頃だった。彼女はツーリスツというバンド、僕はポリス。よく当時は一緒のライヴをやっていたよ。彼女はスコットランド海岸沿いの出身で、僕の故郷ニューカッスルから北にちょっと上がったところ。だから共通する所が多いんだ。受けてきた教育も、世の中のことや人権や女性の権利に対して強い関心があるところも似ている」
他にもハービー・ハンコックやシャギー、フリオ・イグレシアスなど豪華すぎるメンツが並ぶ本作。バッハの「プレリュード」をモチーフに、オリジナル曲として発展させた「ホェンエヴァー・アイ・セイ・ユア・ネーム」では、デュエット相手にメアリー・J.ブライジを指名。デュエット相手は、ときにスティングを次のレベルへと進化させることもあった。
「彼女のような並外れたシンガーに歌われることで、僕一人では叶わなかった何かがもたらされた。それはすべてのデュエット曲にもいえることだ。相手がもたらすものによって、曲は一段階レベルアップし、今度は僕がそれに見合うパフォーマンスをしなければならなくなる。自分一人の王国ではないということだね。誰かと分かち合い、願わくば何かを学ぼうとしている。実際、どの曲からもアーティストとして、一人の人間として、何かを学ばせてもらえたことをありがたく思っているよ」
「僕を駆り立てる原動力は好奇心」
冒頭で述べたように、本作はロックダウン中にメロディ・ガルドーと行った「リモート・デュエット」がきっかけとなり編纂されたアルバム。例えばズッケロと歌った「セプテンバー」は、変わらない日常が続くロックダウンによって曜日の感覚も、季節の移り変わりも曖昧になってしまうなか、「雨でも降ってくれ、何か違うことが起きてくれ」と祈るような気持ちで作られた楽曲だ。
「色々なことを考えたり、曲を書いたりした。何が言いたいのか、何を言うべきなのかを考えたが、同時に何も言うべきではないと思うことが多かった。今のこの騒音だらけの世の中に、これ以上は加担したくなかった。なので、むしろ自分の中で深く考えることの方が多かった」
本当なら2020年は、ヨーロッパ各地でのツアーを行い、ラスヴェガスでのレジデンシー公演、舞台『ザ・ラスト・シップ』の上演などが予定されていたスティング。すべてが中止となり、スケジュールがぽっかりと空いてしまった彼は、3月にはイギリスの家に帰り、2月ほど滞在した後イタリアでの生活を経て、フランス滞在中にインタビューを受けた。
「本来、人というのは社会的な生き物だから、社会に出るなと言われるのはとても辛いことなんだ。だが、これまでと違うことをする、チャレンジだと思えることをする良い機会だ。もしかすると長い目で見た時、人間のためになることなのかもしれない。楽なこととは言わないが、この好機を生かせなかったら、さらに悪いことを招き入れる事態になる。これが最後ではなく、別のパンデミックが起こるのかもしれない。気候変動は起きている。実存するいくつもの問題に関して、国単位ではなく、世界コミュニティーとして発信していかねばならないんだ」
コロナ禍や、その中で起きた香港デモ、ブラック・ライヴズ・マター、アメリカ大統領選などにより世界中で対立と分断が加速している。ここに来てようやく「結束(Unity)」が唱えられるようになってはきたが、ジャンルや言語、世代を超えて様々なアーティストとのコラボを行うことによって、ある意味では「多様性」を世に発信し続けてきたスティングは、混迷する世界に対していち早く警鐘を鳴らしていたのかもしれない。
「僕を駆り立てる原動力は好奇心なんだ。ミュージシャンをやっているのも好奇心が旺盛だからだよ。歌を歌うのもだ。このアルバムが、どう受け止められるのかとても興味がある。どんな時も、僕を導くのは好奇心であって、金とかレコードのセールスじゃない。アーティスティックなプロセス、それ自体への好奇心が僕を動かすんだ。なぜならどういう結果が生まれるか、保証は何もないからさ。そこにはリスクもある、それでも何かを発見したい。その感覚が好きなんだよ」
※『デュエッツ』収録曲のストーリーやビジュアルを1992年から現在まで時系列で見ることができる、グローバル特設サイトが公開中。
https://sting.lnk.to/DuetsTimeline
スティング
『デュエッツ』
発売中
日本盤のみSHM-CD仕様 / スティングによる全曲解説・日本語訳付、解説/歌詞・対訳付 / ボーナス・トラック1曲収録
DVD付デラックス盤:3850円(税込)
CD通常盤:2750円(税込)
視聴・購入リンク:https://umj.lnk.to/sting-duetspr
日本公式サイト:https://www.universal-music.co.jp/sting/
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