ネット発クリエイターとリアルの最前線に立つ「正夢」の狙い
Rolling Stone Japan / 2021年3月22日 13時1分
数々のアーティストがブレイクを果たし、いまや日本の音楽シーンのメインストリームを担う存在となりつつあるネット発クリエイターたち。00年代から10年代にかけてコミケなどの同人イベントやニコニコ動画などの動画投稿サイトに芽吹いた日本独自のポップカルチャーが、20年代に入り大きく花開きつつある。
「正夢」は、その新たな土壌を耕すべくスタートしたプロジェクトだ。まずは第一弾として、ボカロP、歌い手、VTuberなど8組が参加したコンピレーションアルバム『正夢 vol.1』を2月27日にTSUTAYA限定でレンタル開始。本日3月22日には参加アーティストが出演するリリース記念イベント『正夢ライブ vol.1』も開催される。
また、2月11日から3月31日にかけては、クリエイターたちの作品を全国のTSUTAYA店舗に展開する「みんなのクリエイター大作戦」が実施されている。コロナ禍で同人即売イベントの開催が難しくなっている現在、失われてしまった「ネットとリアルの接点」としてTSUTAYAの店頭を提供するという試みだ。
これらの企画を進めているのが、CCCグループの株式会社otto。同社には和田たけあき、煮ル果実といった気鋭のボカロP、イラストレーターのりゅうせーといったクリエイターも所属している。
同社の阿部翔太氏、杉浦菜月氏に「正夢」の狙いとこの先のシーンの展望について語ってもらった。
—まず、どんな狙いでこのプロジェクトを始めたんでしょうか?
阿部:otto自体が2019年12月11日に発足した会社で、僕らがジョインしたのが12月16日でした。TSUTAYAグループ全体でこの分野を強くやっていこうという流れの中で始まって、でも、去年1年はコロナで何もできず、ボカロPさんのCD流通やグッズを作るお手伝いをさせてもらっていました。当初からCCCミュージックラボのチームと「何かやりたい」という話はしていたんですが、ようやく1年を経てこの「正夢」というプロジェクトが立ち上がった。レンタルCDもそうですし、ネットで活躍しているクリエイターをもっと知ってもらいたい、TSUTAYAを通してもっと伝えたいという思いがあって動いています。
―以前と比べるとネット発のクリエイターもより広い場所で活躍するようになっていると思うんですが、そのあたりはどうでしょうか。
杉浦:私はもともと動画のプラットフォームの会社にいたというのもあって、このシーンに10年くらい前から関わらせてもらっています。その頃からボカロPさんや歌い手さんたちと一緒にお仕事しているんですけれど、今はだいぶこの文化が受け入れられる状況になっていると思います。やっぱり米津玄師さんの影響はすごく大きいですね。それこそ今活躍している方たちは、米津さんを見て「ボカロPをやりたい」と思った人も多いです。
あえてレンタルCDにした理由
—株式会社ottoはどういうビジョンのもとに発足した会社なんでしょうか?
阿部:ネットのクリエイター達の活動の場を増やせるような環境が作れたらいいなというのが大前提としてあります。ボカロPさんとか、歌い手さんとか、絵師や動画師さん、そういった人たちに寄り添って、彼らがもっと飛躍していくようにお手伝いをさせてもらうという会社です。
—所属アーティストには、和田たけあきさんと煮ル果実さんとイラストレーターのりゅうせーさんがいますが、特にボカロPの2名について、それぞれの作家性やポイントはどんなところにありますか?
杉浦:曲を聴いていただくのが一番いいとは思うんですが、あえて短くまとめて紹介すると、和田たけあきに関しては、世の中に対してのヘイトや、どこかしらにある悪意の部分を言葉巧みに表現して、それを誰もが共感するような形でうまく発散、昇華させることできるクリエイターだと思っています。
―煮ル果実さんはどうでしょうか。ずっと真夜中でいいのに。のアレンジャーとしても知られていますが。
杉浦:煮ル果実に関しては、今、本当に成長過程だと思います。引き出しの数も多く、それを自分の音に昇華するためにいろんなことに挑戦している。曲調によってもだいぶ異なるんですが、自分の世界観を大事にするアーティストでもあり、プロデュース力がとても強いですね。
—『正夢 vol.1』に参加しているのは、和田たけあき、Teary Planet、R Sound Design、Lanndo feat.bis、ぼっちぼろまる、NOSISTRY、ベアードアード、おはようございますという8組です。このメンツは、和田さんは別として株式会社ottoの所属アーティストということではないわけですよね。
杉浦:そうですね。活躍されている方にお声掛けさせていただきました。
—どういう観点でこのセレクトになったんでしょうか?
杉浦:今回はVOCALOIDじゃない楽曲にしようというのはありました。まずは多くの人に受け入れやすいであろう、人間の声で歌っている楽曲をセレクトさせていただきました。
—クリエイターの方々には、レンタルCDのコンピという意図をどう伝えたんでしょうか?
阿部:サブスクやYouTubeで聴けてしまう世の中で「何故あえてレンタルCDなの?」という疑問は僕自身の中にもありました。なので「TSUTAYAグループの棚を使ってプロモーションしないですか?」みたいな言い方をさせてもらいましたね。TSUTAYAとしてもレンタルCDをプロモーションと考えている部分もあるので、そういうストーリーを伝えた上でお願いしました。
杉浦:彼らはインターネットを使って自分でプロモーション活動ができている方達なので、インターネット以外のところに出口を作りたかったということですね。
「今」のボカロPや歌い手が目指すゴール
—音楽シーンを巡る状況は5年前と今ではだいぶ違っていると思います。かつてボカロPや歌い手などのクリエイターが見据えていた成功や目標と、今の10代にとっての前提はかなり違っている気がします。そのあたりはどう見ていますか?
杉浦:たぶん5年前の目標ってメジャーデビューだったと思うんです。そういうところを見据えている人が多かったと思うんですけれど、今は発信する方法が沢山ある。「別にそこがゴールじゃないよね」という人が非常に多いと思います。実際、楽曲の配信も自分でできるし、CDもディストリビューターを使えば全国に流通できる。自分でYouTubeに動画を投稿してその反応が自分に返ってくるしということも当たり前になっている。そこで音楽家としてどう成功するか、みなさんいろいろ模索してる状況なのかと思いますし、できるところまでは自分でやってみたいという人も多いと思います。
阿部:今は恵まれてる時代だと思います。SNSをうまく活用して自分のランクを上げることができる可能性もある。ただ、僕自身はメジャーレーベルにいた人間でもあるし、そこに行ってみないと見えない景色があるというのも実感しているんです。その可能性も選ぶことができる。そういう意味で、選択肢が増えた時代になったと思います。
—昨年にYOASOBIのAyaseさんがインタビューで言っていた言葉が印象的だったんですけれど、「”ネット発”みたいな言葉で語られるのは、僕らぐらいの世代が最後になるんじゃないか」と言っていたんですね。どんなアーティストもネットで発信しているわけで、「ネットシーン」とそうじゃないものをわける垣根がどんどん無くなってきたのが最近の傾向だ、と。そういう風にフィールドが広がったことで、逆にシーンの中の細分化や多様化も進むようにも思っているんですが、そのあたりはどうでしょうか。
杉浦:今はこれだけいろんな才能が溢れていますからね。シーンの中のカテゴリも増えているし、さらにここから増えていくとも思います。でも、ネットの中でも広がる人と広がらない方に大きな差があると思っていて。ユーザーにとっては、本当に自分が好きなものになかなか行き着かないことが多いと感じているんです。カテゴリが細分化されすぎて、どこに行けばいいのかわかりづらくなっている。今後しばらくこれは続くじゃないかなと思ってます。なので、今回のコンピでボカロPさん、歌い手さん、Vtuberさんといういろんなタイプのクリエイターを集めたのは、その中で一個でも引っかかるものがあると嬉しいというところもあるんです。何か一つでも、どのジャンルでもいいから、こういうものがあるんだというのが伝わったらいいなというのはあります。
ネットのクリエイターに「場所」を提供する
—3月22日には『正夢ライブ vol.1』も開催されます。ここに関してはどんな狙いがありますか?
阿部:やっぱり、生の現場というのは音楽にとって絶対に切り離せないものだと思うので。来ていただければいろんな音楽、アーティストに触れられる。それを肌で体感してほしいと思っています。
杉浦:さっき言ったように、それぞれのファンがわかれているんですよね。それをミックスする場所ができればと思っています。「この曲を作ってたのは実はこのボカロPさんだった」みたいな出会いがあると思うし、その人自身の音楽に触れることで、近いものを感じて、好きになったりもする。そういうことが起きる場所になってほしいなと思います。
―この先の「正夢」プロジェクトにはどんなプランがありますか?
阿部:今『みんなのクリエイター大作戦』という企画を展開しているんですけれど、次は『正夢マーケット』という名前で夏コミの後にやろうという話が出ています。もともと、ニコニコ超会議や同人イベントがことごとく中止になったり延期になったりしていることで、クリエイターさんたちが手売りする場所が限られていたんですね。そこで「じゃあ、TSUTAYAを使ってください」ということで『みんなのクリエイター大作戦』を立ち上げたんです。次回以降は「正夢」としてそういう機会を作っていこう、と。
—たしかに、ネットを拠点に活動しているクリエイターほど、ライブや同人即売イベントのような、リアルで人に出会える場を大切にしているんですよね。そういう意味でも『みんなのクリエイター大作戦』や『正夢マーケット』はクリエイター目線でも嬉しい話なのではないかと思いました。
阿部:もともと、そういう場を作りたかったんですね。それで『正夢』と同じタイミングで『みんなのクリエイター大作戦』も立ち上げたんです。これまでもコミケや同人イベントはありましたけれど、地方にまで紐ついているものはあまり無かったと思うんです。そういう意味でも、TSUTAYAという店舗を使ってネットのクリエイターに場所を提供できればいいなと思っています。
<LIVE INFORMATION>
「正夢ライブ vol.1」
2021年3月22日(月)
東京・TSUTAYA O-Crest
開場/開演/終演:17:00/17:30/20:00 ※変更可能性あり
出演:NORISTRY/ベアードアード/ぼっちぼろまる
主催:CCCミュージックラボ株式会社
企画:株式会社otto CCCミュージックラボ株式会社
協力:Rolling Stone Japan
チケット:3,000円(w/1 drink)
配信チケット:1,500円
お問い合わせ:TSUTAYA O-Crest crest@shibuya-o.com 03-3770-1095
・Streaming+では配信チケットも販売中
Streaming+ https://eplus.jp/masayume-st/
『正夢vol.1』
全国のTSUTAYAにてレンタル中
※レンタル限定盤につき、販売はございません。
=収録楽曲=
1. 和田たけあき/わるいこになあれ
2. Teary Planet /コペルニクス的転回
3. R Sound Design/flos
4. Lanndo feat.bis/vivid a
5 .ぼっちぼろまる/嘘つき犬が吠える
6 .NORISTRY/Sing
7. ベアードアード/ベアードアード
8. おはようございます/極普通
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