LiSAアコースティックライブを考察、むき出しの「歌」とともに10周年へ
Rolling Stone Japan / 2021年3月24日 18時30分
LiSAがアコースティックライブ『LiVE is Smile Always ~unlasting shadow~』を2月22日、Zepp Hanedaにて開催。この模様が3月14日にStagecrowd、LINE LIVE-VIEWINGといったプラットホームにてネット配信された。この『LiVE is Smile Always ~unlasting shadow~』というライブ、本来は昨年春に全国ツアーとして実施される予定だったもので、二度にわたる開催延期を経てツアーとしての開催は中止。代わりに、新型コロナウイルス感染拡大防止ガイドラインに基づいた新規公演として1公演のみ行い、後日ネット配信を通じて国内外の大勢のファンが目にすることとなった。
有観客ライブとしては、LiSAにとって実に1年以上ぶり。このコロナ禍において、昨年末に実施された配信ライブ『ONLiNE LEO-NiNE』が久しぶりの単独公演となったが、続く今回のアコースティックライブでは一体どんなステージを見せてくれるのか。また、1年以上ぶりに再会するファンを前に、彼女がどんなパフォーマンスを届けてくれるのか。始まる前から期待は尽きなかった。
筆者は3月14日の配信を通じてこのライブに触れたのだが、結果から書いてしまうと……これは会場で体感したいステージだったと言わざるを得ない。それくらいスペシャルで、エモーショナルな瞬間が凝縮された、今後のLiSAにおける大きなターニングポイントになるであろう公演だったからだ。配信を通じて本公演に触れたという方の中には、もしかしたら何度も配信を見返したという声も多いことだろう。それくらい何度でも味わいたい、見応えのあるライブだったと力説しておきたい。
【画像を見る】エモーショナルな瞬間の連続だったアコースティックライブ
配信開始時間と同時にモニターがライブ会場に切り替わると、街の喧騒や雨が降る音などが響く中、会場の暗転とともに美しいピアノの旋律が流れ出す。そのメロディに乗せてLiSAがステージに登場すると、会場は大きな拍手に包まれる。胸に手を当て、客席と向き合ったLiSAは〈雨の雫みたい 迷いながら 落ちていく〉という歌い出しが会場の環境とリンクする「ASH」でライブを開始。スローバラード調にリアレンジされた「ASH」では、原曲が持つ攻撃的なアレンジとは異なり、ピアノと歌のみというミニマムな編成で激しさ、力強さを表現。この時点で、今回のライブが特別なものになるであろうことは、観ている者すべてが実感できたことだろう。1曲歌い終えると、LiSAは久しぶりの有観客ライブに対する喜びと安心感からか、涙で顔を歪ませる。そのまま涙声で「こんばんは、LiSAです!」と最初の挨拶をすると、「みんなから拍手をもらったら感動してしまって、(ステージに)出てきてすごく緊張しながら歌わせていただきました。今日はここで歌える喜びとか大切さ、いろんなこと全部そのまんま、後ろの後ろまで、一番前から全員に届けます。ぜひ受け取ってください」と改めてこのライブに対する決意を口にした。
音数の少ないアレンジだからこそ、息遣いや繊細なニュアンスまで伝わる
「ASH」という楽曲とMCを通じて、少しだけ気持ちが楽になったLiSAは、続く「紅蓮華」でさらなる圧倒的な存在感を歌で提示。音数の少ないアレンジだからこそ、息遣いや繊細なニュアンスまで伝わるこんな贅沢な瞬間、なかなか経験できないものだ。さらに短いMCを挟み、以降はドラム、ベース、アコースティックギター、ピアノ、パーカッション&女性コーラスという編成をベースにライブが進行。観客のハンドクラップを効果的に取り入れた「BRAND NEW YOU」では、アコースティックギターのストロークとアーシーなアレンジ、LiSAの荒々しい歌声とが相まって独特のグルーヴが生まれる。また、「変わらない青」では無機質なシーケンストラックに乗せて、LiSAがイントロや間奏でグロッケンを叩く場面も。彼女が切々と歌う中、ステージには星を思わせるような照明による幻想的な演出も展開された。
Photo by Viola Kam(Vz Twinkle)
ジャジーなアレンジに生まれ変わった「蜜」からは、再び場の空気が一変。LiSAはグランドピアノの上に横たわりながら、優雅かつセクシーさをにじませた歌を聴かせる。普段のLiSAのライブではオーディエンスの声援や歌声も重要な演出要素となっていたが、今回のこういったアレンジ/演出の場合はむしろ声を出さずにじっくり歌に耳を傾けるほうが最適のように思える。公演中、声を上げることができない昨今の状況が、(結果論でしかないが)今回のライブを最良の方向へと導いたのではないだろうか。さらにこの「蜜」から、アカペラスタートのアレンジが施された「シルシ」へと続く構成は贅沢以外の何ものでもない。この冒頭のアカペラのみで涙腺を刺激されたという視聴者は、きっと筆者だけではなかったはず。力強さと繊細さ、豪快さと儚さが共存するこの名バラードを、完璧すぎるほどエモーショナルな歌で表現するLiSA。久しぶりの”デート(※LiSAはライブをこう称する)”を心の底から楽しんでいることが画面越しにも伝わる。さらにダメ押しで、大ヒット曲「炎」へとつなぐと、ピアノ伴奏に女性コーラスが加わることで、原曲が持つ美しいハーモニーがその場で再現されていく。LiSAはいつも以上に言葉の1つひとつを丁寧に歌うことで、歌詞の持つメッセージを会場中に、そしてモニターの先により強く響かせた。
優しさに満ちた美しい新曲「サプライズ」
再び会場に雨音が流れる中、儚げなピアノの音色が響き渡る。ライブタイトルにも用いられたダークなバラード「unlasting」へとつなぐと、それまでの楽曲ともまた異なる重苦しさや悲しみが伝わる歌と演奏で、会場を独特な空気で包み込む。このダークさを打ち破るかのように、最新シングル「dawn」がアコースティック色の強いアレンジで演奏されると、闇に朝日が差し込むかのように会場の雰囲気が軽やかに変化。シンガロングパートでは客席から一斉に拳が上がり、その光景を目にしたLiSAは「完璧!」と笑顔を浮かべる。ブレイクパートではこういう形態のライブでは恐怖すら感じるはずの無音状態をも楽しんでいる様子も伝わり、これもステージと客席との信頼関係の強さが成せるものなのだと強く実感した。
「dawn」で会場の雰囲気が変化したことを受け、LiSAは「幕が開けました!(笑)」と力強く宣言。ライブはここから、さらに明るさを増していく。普段のLiSAのライブを思わせる、多幸感溢れる楽曲で構成された10数分におよぶメドレーコーナーに突入すると、ポップな「KiSS me PARADOX」を筆頭にアップテンポの楽曲が続いていく。「オレンジサイダー」ではLiSAが鍵盤ハーモニカを使う一幕もあり、さまざまな形で観る者を楽しませてくれる。途中、「1/f」や「リングアベル」でペースダウンして優しい歌を届けると、最後は軽やかな「LOVER" S" MiLE」で締め括るというジェットコースターのような構成で、その場にいるすべての人たちを笑顔にさせた。
Photo by Viola Kam(Vz Twinkle)
以降は、クライマックスへと向けてLiSAとバンドメンバーはフルスロットル状態に。「Rally Go Round」ではLiSAが叩くドラムに合わせて、観客がハンドクラップやフットストンプで応える新たなコール&レスポンスが用意され、会場の熱気が一気に高まる。このコール&レスポンスは曲中にもたっぷり採用され、腕を振り上げる観客の熱量がライブ序盤よりも高まっていることも見て取れた。さらに「やくそくのうた」で会場をハッピーな空気で充満させると、ここからさらに前進していこうという思いを込めた、ライブのクライマックスに相応しい「ハウル」で本編を締めくくった。
アンコールでは、白いドレスに着替えたLiSAが「今年2021年4月で私は10周年を迎えます。この10年、いろんな人に出会いながら、いろんな出来事に出会いながら、いろんな出来事に泣かされたり喜んだり、いろんな思いを感じさせてもらいました。それは1つひとつ、その時々にいてくれたみんなが作ってくれたサプライズのような、希望の光のような、そんな1つひとつだったなと思います」と、改めて今の思いを吐露。続けて、「1つひとつここまで作ってくれたみんなに感謝を込めて、そしてサプライズのような希望をみんなに、これからも届けていけるように願いを込めて、新曲歌います」と新曲「サプライズ」を初披露した。優しさに満ちた美しいバラードは、デビュー10周年を目前としたLiSAに、この先もたくさんのうれしいサプライズをもたらしていく1曲になる……彼女の心のこもった歌を聴きながら、そう誰もが思ったはずだ。
Photo by Viola Kam(Vz Twinkle)
LiSAがステージで見出した新たな指針
LiSAからのうれしい”サプライズ”を経て、正真正銘のラストナンバーは彼女のライブには欠かせない1曲「best day, best way」。全力で歌い踊るLiSAの姿に胸を打たれと同時に、高く掲げたピースサインがここから先に待つであろう最高の未来を象徴するようで、観ているこちらも自然と笑顔になれたはず。こうして、2時間近くにおよぶ特別なライブは幕を下ろした。
「みんなのペンライトや肌色の手、すごいね? みんなの視線、すごいね! 今日はここに来てくれた1人ひとりがこの日を大切に作ってくださったからできた今日です。みんなに大きな拍手!」と改めて喜びを口にしたLiSAは、続けて「今日私は、『ああ、何かやれることあるな、ライブって楽しいな』と思っちゃいました。皆さんはどうですか? 今までたくさんライブをやってきて、誰かが作ってきた歴史の上にライブというものがあって、それを私たちは遊ばせてもらっていたんだなと思います。だから、今度は私たちで新しいライブの遊び方を一緒に作ろう!」と希望に満ちた言葉を観客に届ける。そして、再びライブ会場での再会を約束し、力強い「今日もいい日だ!」の一言とともにステージをあとにした。
1年越しで、1公演だけでも実現した今回のアコースティックライブは、間違いなくLiSAにとって”with コロナ”以降の大きな指針になる。そんな手応えを感じた貴重な公演だった。まだまだ思い通りにいかない日々が続くかもしれないが、4月のデビュー10周年を境に、さらに進化したLiSAに出会えるはず……そう信じている。
【関連記事を読む】LiSAが語る2010年代「10年貫いてきたからこそ、仲間に入れてもらえた」
LiSA『LiVE is Smile Always ~unlasting shadow~』セットリスト
01. ASH
02. 紅蓮華
03. BRAND NEW YOU
04. 変わらない青
05. 蜜
06. シルシ
07. 炎
08. unlasting
09. dawn
10. メドレー
・KiSS me PARADOX
・sweet friendship
・オレンジサイダー
・妄想コントローラー
・say my nameの片想い
・1/f
・リングアベル
・LOVER" S" MiLE
11. Rally Go Round
12. やくそくのうた
13. ハウル
--ENCORE--
14. サプライズ
15. best day, best way
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