アーティストの不満を解消? Spotifyがロイヤリティについて解説する新サイトをオープン
Rolling Stone Japan / 2021年3月25日 17時0分
Spotifyは、少ないロイヤリティに対するアーティストの不満への対応策として、新たなデータを提供するインタラクティブサイトを立ち上げた。
ここ数年にわたってSpotifyのロイヤリティの支払いシステムを公然と批判してきたすべてのアーティストや作曲家に対して同社は「みなさんの声はしっかり届いています」というメッセージを発信した。
Spotifyのメッセージ通り、「Loud and Clear」と命名された新サイトおよびイニシアチブは、現地時間3月18日に公開された。このイニシアチブのねらいは、ロイヤリティの支払いシステムの舞台裏を包み隠さず公開し、アーティストや音楽クリエイターたちにストリーミングビジネスの仕組みをより良く理解してもらうことにある。
「社内では、アーティストへの支払いやロイヤリティについて毎日話し合っています。しかしながら、社外に対して私たちは沈黙を守りすぎ、こうした議論にいままで参加・貢献してきたことを十分共有できていなかったのだと思います」と、同社マーケットプレイス部門責任者を務めるチャーリー・ヘルマン氏は本誌にこのように述べた。
新サイトでは、Spotifyが採用する”プロラタ”(訳注:残高に応じて比例配分すること)モデルによるロイヤリティの支払いシステムの解説に加え、アーティストが自分自身をほかのアーティストと比較したり、プラットフォーム全体における立ち位置を比較検査したりするのに役立つ新しいデータがいくつか公開されている。さらには、利用者のためにロイヤリティの支払いシステムをステップごとに紹介する動画や、複数の楽曲のストリーミングや月の再生回数を実験的に試し、プラットフォーム全体におけるアーティストのパフォーマンスを検証するツールも用意されている。
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詳しくない人のために解説すると、Spotifyは次のようなビジネスモデルを採用している。まず、Spotifyには”無料利用枠(Free Tier)”というサービスによる広告収入とプレミアムプランという定額制の月額プランの利用者からキャッシュが入る。Spotifyはここから得た収益をひとまとめにし、その約3分の1を自らの取り分としてキープする。残りは月のストリーミング再生回数の割合に応じてレコードレーベルや音楽配信を代行している音楽ディストリビューションサービスなどの著作権所有者に分配する。続いて、著作権所有者が契約内容に基づいてしかるべき額をアーティストに支払うという仕組みだ。昨年、著作権所有者にSpotifyが支払った金額は50億ドル(約5400億円)、ロイヤリティの総額は史上最高額の230億ドル(約2兆5000億円)だった。
ストリーミング時代にアーティストとして活動することは、いくつかの矛盾を受け入れることでもある。多くのデータが示すところによると、音楽業界の売上は2000年から2010年代初頭にかけて著作権侵害やデジタルダウンロードなどの影響で減少していたが、その後は大幅な回復を見せており、昨年は122億(約1兆3200億円)という収益を記録した。だが、音楽業界がキャッシュをかき集める一方、ストリーミングサービスを利用しているアーティストのほとんどは、その恩恵を感じていない。
アーティストたちは、自作の楽曲がストリーミングプラットフォームで数百万回再生されてもごくわずかなロイヤリティしか払われないことに度々不満を漏らしてきが、Spotifyが立ち上げた新サイトは、1再生あたりのレートは重要な物差しではないと主張する。定額制の場合、レコードショップやiTunesの時代と違ってリスナーは楽曲単位で購入しないからだ(当然ながら、すべては全体の収益と月の再生回数の割合次第なので、再生回数だけをとって金銭的価値を算出することは不可能)。「自作の楽曲が数百万回再生されるのは本当に素晴らしい。それは賞賛に値する偉業です」とヘルマン氏は言う。「それに私たちは、いままで55万1000回こうした偉業が達成されたことを祝うべきです。数多くの楽曲がこうした成功を勝ち取っているのです。これは実に素晴らしいことですが、そこにいたる前後関係をアーティストにしっかり説明することも重要です」
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ヘルマン氏は次の点も承知している。「一定の再生回数が売上となり、プラチナディスクやゴールドディスクといった評価に結びついていた過去の一部業界では、(アーティストとしての)頂点がどのようなもので、レベルごとの違いが何かをイメージすることができました。しかしながら、ストリーミング再生回数となると現在のアーティストが自身の立ち位置を見極めるのはかなり困難です」
定額制のストリーミングサービスによる収益分配方法は、近年の音楽業界において極めて重要な問題だ。2021年3月、SoundCloudは一部の独立系アーティストに対して従来のプロラタモデルではなく、リスナーのストリーミング再生回数に応じてロイヤリティを支払うと発表して物議を醸した。その一方、一部の音楽エグゼクティブは、これによって透明性がもたらされ、再生回数の少ないアーティストや楽曲に新たなバリューが生まれると、SoundCloudの判断を歓迎した。
音楽業界全体を対象とした検査なしにユーザー重視のストリーミングモデルがアーティストの生活に与える影響を明確にすることはできないが、Spotifyが自社のユーザー重視モデルを検証した結果、「中堅クラスのアーティストや新進気鋭のアーティストに関しては、私たちの多くが期待していた劇的なシフトは見られなかった」と、ヘルマン氏は述べる。それは、気軽にストリーミングを楽しむリスナーの多くは、もっとも人気のコンテンツを消費する傾向があるからだ。だが、「音楽業界がその方向に進むのであれば、私たちも柔軟に変化に対応していくことは間違いありません」と氏は言う。
透明性を追求するためにSpotifyが立ち上げたLoud and Clearが現在のストリーミングビジネスに対するアーティストの怒りをどれだけ和らげられるかは、いまのところわからない(その間、本誌はTwitterなどを通じてリアルタイムな反応をチェックする)。
From Rolling Stone US
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