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『エイリアン』から『ホミサイド』まで 記憶に残る名優ヤフェット・コットーを偲ぶ

Rolling Stone Japan / 2021年4月7日 6時45分

『ホミサイド/殺人捜査課』ではアル・ジャデーロ警部補を演じたヤフェット・コットー、81歳でこの世を去る。(Photo by Dave Bjerke/NBCU Photo Bank/NBCUniversal/Getty Images)

『007 死ぬのは奴らだ』のドクター・カナンガ/ミスター・ビッグ役、『エイリアン』のデニス・パーカー役、『ミッドナイト・ラン』のFBI捜査官アロンゾ・モーズリー役などで知られる俳優ヤフェット・コットーが3月に81歳で亡くなった。今回は彼のキャリアを振り返ってみよう。

ヤフェット・コットーが画面に登場すると、誰もその存在を無視できなかった。ひとつには彼の大きな体のせい。たいがいの俳優はカメラに映ると大きく見えるものだが、そんな中でも彼は6フィート3インチの長身に、とてつもない巨体だった。そしてあの声。ざらついた、それでいて独特の舌足らずな話し方は、彼が演じる役柄に適度な弱さを添えた。それからあの目。怒りと悔恨、そして登場人物が背負ってきた数々の苦悩に対する憂いが入り混じり、充血したこともしばしばだった。

【画像を見る】『エイリアン』『ミッドナイト・ラン』の登場シーン

3月に81歳で亡くなったコットーは、いろいろな意味で大金星ともいえるキャリアを築いた。ジェームズ・ボンドの敵役を演じ、『エイリアン』や『ミッドナイト・ラン』といった傑作では共演者として存在感を放ち、史上最高の刑事ドラマのひとつ『ホミサイド/殺人捜査課』ではボスを演じた。だが脇役としての際立った特性は、キャリア全盛期に演じた主演の枠には収まりきれず、ゆえに彼は性格俳優のカテゴリーに分類された。また彼は、『帝国の逆襲』のランドー・カルリジアンや、『新スタートレック』のジャン=リュック・ピカード船長などの大役を蹴ったこともあった。

だがどうして、彼は仕事で与えられた1秒1秒を大いに活用した。

コットーが俳優を目指したのは16歳の時。のちに彼は映画評論家ロジャー・イーバート氏にこう語っている。「言葉遣いや話し方を習得しなくちゃいけなくなるだろうとすぐにわかりました。私はハーレム流のいきった話し方でしたから……それでジョン・キャメロン・スウェイジのニュース番組を全部テープに録音して、真似しました」。60年代は舞台やTVで活動し、ついにオリジナルブロードウェイ作品『ボクサー』でジェームズ・アール・ジョーンズが演じたジャック・ジョンソン役の後任に抜擢され、ブレイクする。当時、黒人俳優の活躍の場が限られていることに気付いた彼は、カリフォルニアのハイウェイパトロール職員を描いた1972年の映画『The Limit(原題)』で自ら脚本・製作・監督・主演を手がけた。「今日、ある黒人女性に何て言われたと思います?」 映画のプロモーションでコットーはイーバート氏にこう語った。「黒人男性が黒人女性をデートに誘う映画を見たのは、私の作品が初めてだった、と彼女は言いました。ディナーとか、ロマンチックな音楽とか、そういった諸々です」


007シリーズ初の黒人の悪役を演じた

1973年、彼はロジャー・ムーアの初ボンド作品『死ぬのは奴らだ』で、シリーズ初の――そして今日に至るまで唯一の――黒人の悪役を演じた。原作に登場する悪党は、人種差別をデフォルメしたハーレムのギャング、Mr.ビッグ。映画版では、Mr.ビッグは架空のカリブ海国家の独裁者カナンガの別名だ。これは今でも大きな波紋を呼んでいる。またカナンガは、ボンドから口に圧縮ガス弾を押し込められ、文字通り風船のように膨らんで爆発するという、歴代のボンド悪役の中でももっとも取るに足らない死に方をしている。だがコットーの演技には、明らかに知性やキラリと光るところがある。Mr.ビッグという役柄やヴードゥー教、その他あらゆる虚飾がいかにばかげているかを心得、芝居の小道具として利用したかのうようだ。


『エイリアン』のシガニー・ウィーバー、ハリー・ディーン・スタントン、コットー(©20thCentFox/Everett Collection)

『エイリアン』では、コットーは宇宙船ノストロモ号――いわば未来の長距離トラック――の乗組員の1人、パーカーを演じている。シガニー・ウィーバー演じるリプリー以外の他のキャスト同様、パーカーもハラハラどきどきの展開を生き延びることはない。だが、ハリー・ディーン・スタントン演じるブレットとの信頼関係は、SF映画と労働者映画の融合ともいえる。パーカーがまさにエイリアンに殺される場面では、この怪物を止めるのは至難の業になるだろう、と観客は実感する。

コットーの話では、まさに『エイリアン』の撮影中に『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』のランド役が回ってきたそうだ。ちなみに監督のアーヴィン・カーシュナーは1977年のTVドラマ『エンテベ空港奇襲作戦』のイディ・アミン大統領役にコットーを起用し、彼にエミー賞ノミネーションをもたらした立役者だ。「地球に戻りたかったんです」と、2003年のインタビューでコットーはこう説明した。「(『エイリアン』の後)また宇宙映画をやったら、型にはめられるのではないかと恐れたんです」。俳優人生での立ち位置の心配から、彼は『スタートレック』ユニバースの仲間入りも果たせなかった。『新スタートレック』のピカード船長役を断ったことを後悔している、と本人も認めている。「私は人生でいくつか間違った決断をしたと思います。あの役は受けるべきでしたが、蹴ってしまった。映画をやっていると、TVのオファーを断りがちなんです。大学に進学して、高校のダンスパーティに誘われるみたいなものですよ。誰でもノーと言うでしょう」

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映画やドラマに安心感を与える性格俳優

1988年、彼は最高に笑える役を演じた。ロバート・デ・ニーロ、チャールズ・グローディン主演のアクションコメディ『ミッドナイト・ラン』のFBI捜査官アロンゾ・モーズリー役だ。トップクラスの性格俳優が勢ぞろいし、互いに最高の演技をぶつけ合うような映画だったが、ここでもコットーは、自身の身分が盗まれたことを知って「俺がモーズリーだ!」と咆哮する場面に始まり、最終的に標的を逮捕した時の思わずこちらも釣られそうなしてやったりという表情にいたるまで、針のふれた演技で突出している。


『ミッドナイト・ラン』のコットーとロバート・デ・ニーロ(Photo by Alamy Stock Photo)

NBCのドラマ『ホミサイド/殺人捜査課』で7年間コットーが演じたアルフォンス・”ジー”・ジャデーロ警部補は、ゲイリー・”ディー”・ダッダリオという白人イタリア系のボルティモア警察官が下敷きになっている。ドラマのプロデューサー陣は(パイロット版を監督したバリー・レヴィンソンも)コットーをいたく気に入り、つじつまを合わせるためにこの役を黒人とシシリア系のハーフという設定にした。脚本家たちも喜んでコットーのセリフにイタリア風の言い回しを織り交ぜた(ファイナルシーズンでは、実際に黒人とシシリア系の血筋をひくジャンカルロ・エスポジートが、ジーの息子のマイク役で出演した)。

もっとも、脚本家らはほとんど――制作総指揮のトム・フォンタナや、最終的にはドラマシリーズの原作の著者デヴィッド・サイモンも――コットーのために脚本を書いた。これまで彼が演じた役柄の多くは、その大きな体格を登場人物の特徴として活用した。ジーも体格のいい威圧的な役柄だったが、同時におしゃべり好きで、因習にとらわれない刑事たちを手中に収めながら、長い説教やもっともらしい訓戒を垂れた。

刑事ドラマでは、黒人上司が白人の主人公に威張り散らし、本人はほとんどストーリーに絡まないという昔からの残念な伝統がある。だが『ホミサイド』では常に少なくとも3人の非白人レギュラーキャストが登場し、一時はアンドレ・ブラウアー演じるフランク・ペンブルトンが事実上の主役を張ったこともあった。ジーも飾り物では終わらず、むしろ独立した登場人物となった。シリーズでは6人の黒人警官が同時に登場して白人が1人も出ない場面もあったし、人種の話題は一度もあがらなかった。だが、人種の問題を掘り下げたこともある。ジーが褐色の女性とブラインドデートするエピソードでは(コットーと脚本家の1人の会話をヒントに作られた)、ジーは彼女が肌の色の濃い雑種の男との交際を先延ばししている、と推測する。役者が生命力と情熱を注ぎこんだ甲斐あって、非常に奥行きのあるキャラクターだった。ドラマが打ち切られた数年後、TV映画として『ホミサイド』のキャストが再集結したが、ロングランドラマの登場人物全員を再集結させるほどの大事件といえばアル・ジャルディーロ本人の殺害だけだった(この作品でもコットーは、死後の世界のシーンをはじめ、記憶に残る名場面を演じている)。

カメレオンのごとく様々な役を演じるがゆえに愛され、次はどんな役を演じるのか楽しみだ、という性格俳優がいる。かたや、毎回同じような役柄をきちっとこなすがゆえに、映画やドラマに安心感を与える性格俳優もいる。コットーは後者のタイプに属するだろう。これまで業界で50年以上も警官役を何度となく演じてきたことを考えればなおさらだ。だが、彼はその巨大な体躯を当たり前のようにあらゆる役柄に押し込め、まるでイディ・アミン大統領をリアルに演じた。リチャード・プライヤーやハーヴェイ・カイテルと共演した『ブルー・カラー/怒りのはみだし労働者ども』でのやぶれかぶれの工場従業員や、『ブルベイカー』で演じた模範囚もしかり。ちなみに『ブルベイカー』の役柄は『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』を蹴って得たものだが、コットーはクラウド・シティのマントに身を包むことなく、映画界で不朽の地位を得た。役柄の大小を問わず、彼は記憶に残る俳優だった。

from Rolling Stone US

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