現代のアメリカン・ドリームを体現する24kGoldn 渡辺志保がその魅力を解説
Rolling Stone Japan / 2021年4月9日 21時0分
「時代が生んだスター」という言い回しがあるが、24kGoldn(トゥエンティ・フォー・ケー・ゴールデン)ほど、今の時代の潮流に乗ってスターダムにのし上がった若手アーティストがいるだろうか。のし上がったというよりは、彼の音楽性やアーティストとして歩んできた道のりが自然と彼をスターへと押し上げた、という表現の方が近いかもしれない。
”ゴールデン”という目立つ名前は本名だ。2000年、米サンフランシスコに生まれたゴールデンは、小・中学生の時に教会のクワイアに参加し、また、音楽ゲームの”ギターヒーロー”などに親しみながら徐々にアーティストへの道を目指すようになる。SoundCloudに自作の楽曲をアップロードするようになると、あるトップ・プロデューサーがゴールデンの存在に注目し始めた。それがエミネムやタイガらのヒット・シングルを手がけているDA・ドーマンだ。ドーマンとの出会いは、ゴールデンにとって強力な切り札の一つとなる。また同時にゴールデンは奨学金を手にし、有名校の一つ、南カリフォルニア大学への進学を決める。
2019年、彼はドーマンのアシストのもと、EP『DROPPED OUTTA COLLEGE』を発表する。そして、EPに収録された一曲「CITY OF ANGEL」が彼の運命をさらにドラマチックに変えていく。24kGoldnの名前を一気に全米規模へと押し上げた。ハイトーンで歌い上げるコーラスはエモーショナルで、何よりキャッチーであり、ゴールデンのアーティスト性を印象付けるには十分だった。ここ数年、TikTokでの話題を起爆剤にしてヴァイラル・ヒットを記録する若手アーティストは乱立している。リル・ナズ・Xのように、たった一曲のヒットによってアーティストとしてのその後の道筋がハッキリと示される稀有な者もいれば、まるでその曲がSNSの付属品のように扱われ、すぐに名を消す者も少なくない。
24KGoldnは、彼の才能と人気はたまたま手にしたチャンスによって作り出されたものではないことを証明するかのように、更なるヒット曲を世に送り出した。それが、2020年最大のヒット曲といっても差し支えない「Mood|ムード」だ。同じく若者から厚い指示を集めるラッパー、イアン・ディオールを迎えたこの曲は、爽やかなギター・リフが特徴な楽曲で、メロディアスな楽曲を得意とするゴールデンに打って付けの一曲だった。見事、「Mood|ムード」はビルボードのシングル・チャートの首位を獲得しただけではなく、ロック&オルタナティブ・チャートでも同じく1位をマークし、ジャンルを超越した彼のヴァーサタイル(多才)な魅力を証明した。
ポップさとハードさを行き来する多様性
2021年3月、24kGoldnは世界中の期待を受けてデビュー・アルバム『EL DORADO | エル・ドラド』を発表したばかり。自身の名前、そしてこれからも続くことを確信しているであろう輝かしいキャリアにかけて、伝説の”黄金郷”の名前を冠したアルバム・タイトルは、彼のデビューを飾るにふさわしいものであろう。『EL DORADO | エル・ドラド』を聴くと、彼が目指す方向がハッキリと見えてくる。収録されている多くの楽曲は、メロディアスでエモーショナルなヴォーカル、そしてギターのサウンドが印象的なものが多い。
あえてジャンル名を付けるとすると、やはり”ポップ・ラップ”と呼ぶのがもっともふさわしい。軽妙なリズムが特徴的な「Love Or Lust」や「Breath Away」、アルバム収録曲中、もっともエモーショナルに歌い上げる「Dont Sleep」などを聴くと、インディ・ロックにも大きくインスパイアされたという彼の音楽性を強く感じることができる。同時に、フューチャー、ダベイビー、スワエ・リーといったヒップホップ界を代表するトップ・アーティストらも参加。キャッチーさとインパクトを兼ね備えたヒット曲ならお手の物であるダベイビーや、すでにポスト・マローンやグッチ・メインらと特大ヒット曲を世に送り出しているスワエ・リーらとの相性が悪いわけはない。ストリートのトラップ・シーンを描写し続けてきた先輩ラッパーのフューチャーを迎えた「Company」は収録曲中、ゴールデンの最もハードなラップを聴くことができる一曲だ。
以前、24kGoldnは米ローリングストーン誌へのインタビューで、自身のことをこう形容した。自分は「今の音楽業界のスティーブ・ジョブス」だと。「俺はこのゲームに革命を起こしてる。俺を型にはめることはできない。そのことを俺は何度も証明してきた。俺はこれまでの人生で、世界が俺に追いつくのであって、その逆じゃないってことを学んだんだ」。確かに彼の楽曲を聴くと、これまでのラップ・ヒットとはどれも似ていないことに気が付く。若さゆえのオリジナリティはとりわけ明るく光り輝く。時代が生んだスターは、黄金郷を求めてまだまだその航路を進めていく。
文:渡辺志保(音楽ライター)
【関連記事】全米1位のラッパーが「音楽業界のスティーブ・ジョブス」を名乗る理由
<INFORMATION>
『EL DORADO | エル・ドラド』
24kGoldn | 24kゴールデン(読み:トゥエンティ・フォー・ケー・ゴールデン)
配信中
配信URL:https://lnk.to/24KGoldn_ELDORADORS
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