性差別だけではない「フェミニズムのニューウェイブ」を描いた映画
Rolling Stone Japan / 2021年4月17日 11時45分
Netflixオリジナル映画『モキシー 〜私たちのムーブメント〜(原題:Moxie)にキャスティングされるまで、主人公役のハドリー・ロビンソンはビキニ・キルの名前を一度も聞いたことがなかった。ビキニ・キルは90年代のライオット・ガール・ムーブメントを語る上で欠かせないバンドだ。
2017年に出版されたジェニファー・マチューの同名のヤングアダルト小説をもとに、エイミー・ポーラーが監督した作品は、ロビンソン演じる内気な16歳の高校生ヴィヴィアンが匿名でフェミニストのZineを出版し、学校内で反乱を起こす姿を描いている。母親のクローゼットでライオット・ガール時代の記念品がいっぱいの箱を見つけたことも、ヴィヴィアンにきっかけを与えた――ビキニ・キルの代表作「Rebel Girl」のオープニングを飾るギターのハウリング、そのあとに続くキャスリーン・ハンナの独特の叫びを耳にするや、彼女はまるで1993年にタイムスリップしたかのように部屋中を駆け回る。ロビンソンも言うように、演技の必要はほとんどいらなかった。
「私が最初に聴いた(ビキニ・キルの)曲も”Rebel Girl”で、ヴィヴィアンとほとんど同じような状態になった」と彼女は言う。「YouTubeでキャスリーン・ハンナが歌っているのを見て、完全に心を奪われた。胸の奥から熱いものが湧き上がってきて、たちまち曲の虜になった」
90年代初頭、ハンナをはじめとする当時の女性たちが起こしたフェミニスト・パンク・ムーブメントを今まで知らなかったことに「自分でもすごく驚いた」そうだ。「フェミニズムの歴史で、あの時代はとても重要な転換期なの」と本人も言う。そうした一種の気づき――そしてライオット・ガールの主張にもとづいて、ムーブメントを新たな時代へ牽引しようとする心意気――こそ、ポーラー監督とマチューが若い世代に伝えたいと願っていることだ。ハンナ個人にとってはそれがすべてだ。
「若い子たちにはライオット・ガールのいい部分を受け継いで、劇中で私たち(がやった)よりももっと上手く交流をはかってほしい」と彼女は言う。「若い子たちがしっかり批評して、そこからさらにいいものを作っていってくれるといいと思う」
原作者と監督が語るフェミニズムとの出会い
映画版『モキシー』はマチューの原作にかなり忠実に描かれている。ヴィヴィアンは体育会系の男子のいやがらせ、不当なドレスコード、ヤレる女ランキングなど、女子生徒に対する校内での差別的な扱いにうんざりしていた。彼女自身はそうしたいやがらせの対象から免れていたが、新入生のルーシー(アリシア・パスクァル・ペーニャ)が男子生徒の怒りのはけ口になったことで行動を起こした。母親の古いZineを見つけた後、彼女はひそかに『Moxie』というタイトルでZineを出版し、校内での不正を訴えた。たちまち彼女のプロジェクトはムーブメントへと発展し、校内の女子生徒全員を巻き込んでいく。
マチュー自身のライオット・ガールとの出会いは、なんとも奇妙な話だが、かなりメインストリームの情報源がきっかけだった。「雑誌セブンティーンで初めてライオット・ガールの記事を読んだのを覚えている」と彼女はローリングストーン誌に語った。「いま考えれば、ライオット・ガールの子たちは(そんな雑誌に載るのは)嫌だったでしょうね。でも私みたいに、そういうシーンとは縁がなかった女子はワクワクした。すごく保守的なカトリック系の高校に通っていたから、記事を読んでとにかく魅了されたのを覚えている」
シカゴの大学に通い始めると、マチューはさらに深くのめりこみ、『Jennifer』というZineを制作。ビキニ・キルやスリーター・キニーの音楽に親しんでいった。現在は作家として、また教師として、職場のテキサスの高校でフェミニストクラブを支援しながら、ライオット・ガールのミッションを果たし続けている。「若いフェミニストの活動や彼女たちの関心を間近で見ています」と本人。「私にとってフェミニズムは――ライオット・ガールを通じて知った時からずっと――『悦び』や『解放』という言葉を連想させるものです。事前に用意された社会規範から自分を解放するんです――私たち全員がすっかり完全に自分らしくなれたら、世界はどんなによくなることか」
映画の中でヴィヴィアンの母親を演じているポーラー監督は、マチューの原作のそこかしこに自分自身の姿を見出した。彼女もまた同じような形で、当時の音楽やムーブメントに出会ったのだ。若い学生でコメディアンだった彼女は、シカゴのミュージックストアをはしごしてはZineを探して回り、ハンナや彼女の仲間たちの音楽から勇気づけられた。「あの当時は女性たちが、音楽業界で自分たちの声をどうすれば表現できるか、自分たちの関心事を活動の一環としてどう表現するか、試行錯誤していた時代。あの曲は、そんな時代を象徴する1曲だった」と監督。映画の制作過程で、音楽が物語の重要なパートになることは監督にもよく分かっていた。「(映画の中で)音楽は橋渡しのような役目をしている」とポーラー監督。「若い子たちが初めて音楽を聴いて、もっと広い視野で曲の意味を理解した瞬間の気持ちをとらえたかった」
「ライオット・ガール」を進化させる
だが同時に、マチューの原作にも描かれているように、ヴィヴィアンと同級生たちがフェミニズムの可能性を進化させることも重要だった。ポーラー監督も言うように、彼女が演じる40代の役柄は「まだまだ学ぶべきことがたくさんあると、娘から教わることになる」
それこそが『モキシー』の肝だ。ライオット・ガール回帰や、レザージャケットでおしゃれしてZineを作ることだけでなく(もっとも、確かにそこが一番楽しい部分だが)、初期フェミニズムの過ちをなくすこと。主なところでいえば、当時の活動を支持していたのはおおむね白人女性だった。映画の中ではリサが90年代版のライオット・ガールの象徴として登場するが、ヴィヴィアンはいわば中間地点に立っている。若い白人女性として彼女が最初に試みた抗議は、男子からいやがらせを受ける女子、ダブルスタンダードといった自らの世界観に縛られていた。ストーリーが進むにつれ、彼女はそうした考え方の欠点に気づく――つまり、黒人の新しい友人ルーシーや親友でアジア系のクローディアのように、非白人女性が直面する独特の問題を排除している点だ。ヴィヴィアンは白人であるがゆえに、反乱から生じる数々の影響から守られる。だが、同じことが彼女の友人にも当てはまるとは限らない。
「この映画は性差別だけでなく、人種差別や特権についても触れているという点で重要だと思う」とロビンソンも言う。「とても様々な話題を取り上げている。いわばフェミニズムのニューウェイブね。長い戦いになるでしょうけど、今関わってる女の子たちは長期戦で臨んでいると思う」。とはいえ、彼女もフェミニストの先駆者たちの功績を認めている。「撮影を終えたとき、私がいたのは実は撮影セットじゃなく、周りの人からいろんなことを教えてもらえる修士課程だったような気がしたわ」
「『モキシー』のテーマはヴィヴィアンを超えて、他の人々も取り込まれていく」とポーラー監督も付け加えた。「抗議活動のなんたるかを象徴していると思う。主導権を握る人々や、自分たちに与えられたチャンスや特権を認識すること。90年代初期の私たち世代のフェミニストはその点を考慮に入れていなかった。自分たちが知っていることしか知らなかった。私たち世代は、もっと考えを改めるべきね。『モキシー』の登場人物も、交流不足だったこと、用語を誤って使っていたこと、文化を不当に独占していたことを語っている。今ならもっとうまくできるはずのことをね――若い世代はそれを直感的に理解している」
ハンナが若いオーディエンスに映画から何を学んでほしいのか――こうした枠組みの中に置かれた自分の楽曲から、何を受け止めてほしいのか? 「若い子たちが映画を通じて、ビキニ・キルや他のフェミニストバンドを聴くようになってくれたらうれしい。願わくば、その中の一部が『ふざけんな』と言って、曲を書いてくれたら最高ね」とハンナはローリングストーン誌に語った。
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