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プレイボーイ・カルティが語る、ラップスターの孤独と沈黙

Rolling Stone Japan / 2021年4月17日 19時45分

プレイボーイ・カルティ:2021年2月19日、米アトランタにて撮影(Photo by Josiah Rundles for Rolling Stone)

『Whole Lotta Red』が全米1位になったアトランタ出身のラッパー、プレイボーイ・カルティは最近のムードを、「パンク・モンク(Punk Monk)」と形容する。その表現には様々な意味合いが込められている。毎日足を運ぶスタジオで作業に没頭する彼の姿は、敬虔な信者を思わせる。

【動画を見る】歌詞の内容より語感やフロウを重視する「マンブル・ラップ」 カルティはその象徴的存在

彼は現在、最近作『Whole Lotta Red』のデラックス版の監修に取り組んでいる。ロクに寝ていないと話す彼は、スタジオでのクリエイティブプロセスにこそ安らぎを覚えるのだという。拠点であるアトランタと息子が暮らしているカリフォルニアを頻繁に行き来している彼は、ニューヨークのロウアー・イースト・サイドに引っ越すことを検討している。「あの街は俺を夢中にさせてくれる」。彼はそう話す。

「パンク・モンク」は、昨年12月にチャートの頂点に立った『Whole Lotta Red』収録曲のタイトルでもある。彼は容易に口を開かないことで知られるが、同曲からは彼が考えていることを伺い知ることができる。具体的な名前を挙げて、カルティは音楽業界に対するフラストレーションを残酷なほどストレートに表現する。「ヤツらは俺を白人アーティストにしようとする でも俺はリル・ディッキーとは違う」。新たに身につけたヴォーカススタイルである、声帯の限界に挑むかのような唸り声で、彼はそうまくし立てる。異なるヴァイブスを羅列するような同曲は、モッシュピットでの瞑想を思わせる。現在24歳の彼はパンクロックからの影響を頻繁に口にしているが、今はそれに心の平穏のようなものを見出そうとしている。「孤独に耐えられない人もいるけど、俺はそれが大好きなんだ」。カルティはそう話す。「『パンク・モンク』はこの世界に生きる一匹狼のアンセムだ。自分のすぐそばにいる人々だけが、唯一の味方なんだよ」



『Whole Lotta Red』はクリスマスの直前にリリースされた。「俺からのプレゼントだと思ってもらいたかったんだよ。だからあのタイミングでリリースしたんだ」。カルティはそう話す。同作はソーシャルメディア上で賛否両論を巻き起こし、ハードコアなファンがすぐさま飛びついたのに対し、よりラフなエッジに否定的な反応を示す人々もいた。攻撃的なドラムパターンを中心とするプロダクションと、カルティのユニークなヴォーカルスタイルのコンビネーションが描くのは、混沌としたランドスケープだ。「Stop Breathing」では、憤怒を滲ませた荒ぶる息遣いと歪んだドラムが絡み合い、ヒプノティックな効果を生み出している。同作のハイライトであり、ラップトラップというよりもパンクバラードに近い「Control」は、2020年屈指のラブソングだった。「Ever since I met youooouu」というラインの語尾を情感たっぷりに伸ばすさまは、カルティの圧倒的なヴォーカルレンジを体現している。


カルティがトレンドセッターである理由

『Whole Lotta Red』のリリースに伴って、彼はヴィジュアル面とイメージも一新した。現在はキャンディーレッドのドレッドヘアをトレードマークとし、時にはオルターエゴの吸血鬼に変身する(「Vamp Anthem」ではドラキュラのテーマソングとなっているバッハの「トッカータとフーガ ニ短調 BWV 565」をサンプリングしている)。彼のエキセントリックさは、他にも様々な面に現れている。アルバムのアートワークは、70年代にロサンゼルスで発行されていたパンク同人誌Slashへのオマージュだ。彼の新たな名刺のひとつでは、彼の楽曲タイトルの多くで見られるように、大文字が不規則に用いられている。そのアイディアを思いついたきっかけは、文字変換予測テクノロジーT9を採用していた携帯電話でメールを打っていた頃の記憶だった。「リリックにも出てくるよ。『ヤツらに俺は理解できない 俺の会話手段は造形文字』っていうやつだ」。彼はキッド・カディを客演に迎えた「M3tamorphosis」についてそう話す。「くだらないことであっても、俺は自分にとってリアルなものについて語るようにしてる。人はそういうものに共感するんだよ」


Photo by Josiah Rundles for Rolling Stone

カルティが自身をトレンドセッターと捉えるのには根拠がある。彼が2018年にリリースした『Die Lit』が、以降のラップシーンに与えた影響の大きさは計り知れない。最近では「ベイビー・ボイス」と形容される高ピッチでアドリブを多用するスタイルを、甘美で幽玄なプロダクションと組み合わせるというやり方は常套手段となっているが、カルティのヴォーカルのユニークさは抜きん出ている。沈黙を守っていた数年間においても、彼のオンラインプレゼンスが衰えることはなかった。YouTubeでPlayboi Cartiを検索すると、ファンがアップロードした数々のリーク音源やスニペット、リミックス等をコンパイルしたページが数多くヒットする。過去数年間におけるカルティの勢いは、リスナー層の大部分を占める若く熱狂的なファンによって支えられていた。



実験性の強い野心作『Whole Lotta Red』によって、プレイボーイ・カルティは未来のスタンダードを確立しようとしている。「それが今俺がすべきことだからね。しばらく先の未来において主流になるようなサウンドを確立したいんだ」。彼は新曲についてそう語っている。「それは新しいものを生み出そうとするプロセスの一環に過ぎないんだ。誰もがすぐ理解できるようなものって、要するに他と一緒ってことだからね」。カルティは『Whole Lotta Red』のデラックス版の内容について多くを語ろうとせず、彼らしい曖昧な表現に終始している。「デラックス版はモンスターアルバムのパート2だ」。彼はそう話す。「すごい曲が収録されてる。いま言えるのはそれだけさ」


マンブル・ラップの立役者の一人

プレイボーイ・カルティことジョーダン・カーターはアトランタ南部に生まれ、10代の大半をバスケットボールと折衷したクリエイティヴィティの発散に費やした。メンバーとして所属していたアトランタのAwful Recordsコレクティブを通じて、彼はラップにおける実験的プロダクションに興味を持つようになった。プロデューサーのEtherealの作品での彼のパフォーマンスは、類まれな才能の片鱗を既にうかがわせていた。2015年発表の「Beef」での控えめなドラムパターンに乗せた軽快なライムからは、後にトレードマークとなるヴォーカルスタイルと打ち寄せる波のようにランダムなアドリブの原型が見て取れる。彼はヴァイラルヒットを記録した「Magnolia」を収録した、セルフタイトルの初ミックステープを2017年に発表する。同曲における「ニューヨークにいるときはドラッグを靴下の中に忍ばせてる」という耳に残るフックは無数のミームを生み出し、ネット上における音楽の消費方法が一変する前兆となった。その1年後にリリースされた『Die Lit』で、彼はその存在感を確固たるものにした。カルティと彼を起点としたマンブル・ラップ(ラップのサブジャンル)の一大ブームは、以降のシーンにおけるキーワードとなった。



『Die Lit』と『Whole Lotta Red』の間の空白期間、カルティは頑なに沈黙を貫いていた。ファンベースが急速に拡大していたにもかかわらず、新たに曲が公開されることはなかった。同世代のライバルたちとは対照的に、ソーシャルメディアをほとんど活用しないことも、彼の謎めいた存在感に拍車をかけている。「俺はこれまでもずっとそういうタイプだった」。露出を控える姿勢について、彼はそう語っている。「俺が口を開くのは、そうすべき理由がある時だ」

私生活についてほとんど語ろうとしない彼だが、世間の議論の的となることはある。『Whole Lotta Red』のリリース後、カルティの元ガールフレンドであり、彼との間に子供をもうけているラッパーのイギー・アゼリアが、彼が父親としての義務を放棄していると語ったことを受け、カルティはネット上で激しい非難に晒された。カルティはアゼリアの主張について回答しなかったが、後に息子であるOnyxとの写真をTwitterに投稿した。電話取材の場で、彼は自分の私生活についてこれ以上世間に知られたくないと語っていた。「俺は大勢の人間の面倒を見てる」。彼はそう話す。「俺には子供がいる。でも俺が世間と共有したいのは、俺のクリエイティブプロセスと作品なんだ。世間はプレイボーイ・カルティの普段の姿に興味があるんだろうけど、そういう期待に応えるつもりはないよ」


ロックスター的な価値観

ファッションにこだわるカルティにとって、ニューヨークは理想的な街なのかもしれない。『Whole Lotta Red』には、フランスの高級ブランドGivenchyのクリエイティブディレクターを務めているマシュー・ウィリアムズが、エグゼクティヴプロデューサーとしてクレジットされている。音楽ビジネスとファッション業界がタッグを組んだ前例は多く存在するが、このコラボレーションは両者の共存関係の加速を象徴している。特にウィリアムズは、これまでもファッションと音楽のコラボレーションの第一人者として活動してきた。ドレイクが「トゥーシー・スライド」で、彼のブランドAlyxに触れていたことも記憶に新しい。

「彼は俺が信じることのすべてを体現してる。俺が言葉にしようとしているものを、彼は服で表現しているんだ」。長い付き合いだというウィリアムズについて、カルティはそう話す。

パンデミックの最中にありながら、カルティは『Whole Lotta Red』を制作している間、ライブパフォーマンスのことを常に念頭に置いていた。「オーディエンスがどう反応するかを想像するんだ」。彼はそう話す。すべてのロックスターと同様に、カルティの音楽はライブでこそ本領を発揮する。そういう意味では、本作はこの上ないタイミングでリリースとなった。「『Whole Lotta Red』は、パフォーマーとしての自分の力量を示す上で理想的なレコードなんだ」。彼はそう話す。「今このアルバムがリリースされれば、ショーができるようになる頃には、その魅力が十分に理解されているだろうからね」

今や完全に確立されたカルティのロックスターとしてのモードは、音楽やファッション以外の面にも現れている。彼との電話取材には、あまのじゃくなロックミュージシャンを相手にする時と同程度の忍耐を必要とする。『伝説のロックスター再生計画!』や『あの頃ペニー・レインと』を思い浮かべるといいかもしれない。カルティにつきまとうミステリアスなイメージは計算されたものではなく、普段の彼のライフスタイルから自然に派生したものであり、パンク・モンクとしての生き様の一部といってもいい。電話を切る直前に、筆者は彼が吸血鬼を新たなペルソナとした理由について尋ねた。その質問に対する彼の回答は、カルティのミュージシャンとしてのアイデンティティを端的に表現している。

「ヴァンパイアは不死身だ」。彼は当たり前のようにそう口にした。「あれほどファッショナブルなキャラクターは他にいない」

from Rolling Stone US








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