マハラージャンが語る、脱サラして向き合った社会へ示すオリジナリティ
Rolling Stone Japan / 2021年4月21日 18時0分
謎のSSW・マハラージャンが、2021年3月24日にEP『セーラ⭐︎ムン太郎』をリリースしメジャーデビューを果たした。
スーツにターバンを巻いた独特の風貌、謎の男性が映ったジャケット写真など独特のセンスを持つマハラージャン。筆者が初めて彼を目にしたときからその特異性に惹きつけられ、楽曲「いいことがしたい」を聴いてみるとそのファンキーなグルーヴとソリッドなキレのあるサウンド、そしてこれまた独特のセンスが盛り込まれたナンセンスなようで含蓄のある歌詞のギャップで、一気に彼の世界観に引き込まれた。音楽作品としてのクオリティの高さはもちろん、社会人に向いていないと感じて脱サラ、音楽に一層のめり込んだ彼の思想が込められた歌詞に共感する人は少なくないはず。
Apple Music、Spotifyをはじめとする各配信サイトのプレイリストや、全国のFM局ディレクターから大注目の謎の新人「マハラージャン」。そんな彼にインタビューを敢行。いまだ謎の多い彼の音楽との出会いから人となり、最新EPまで余すところなく話を訊いた。
ーまず、マハラージャンさんが音楽に興味を持ったきっかけを教えてください。
小さい頃、母親がピアノを弾いていた影響でクラシックを聴いていたのと、小学校4年生でトランペットを始めて、中学で吹奏楽部に入ったんです。卒業生を送る会で「テキーラ」という曲を演奏したとき、僕が16小節の長いアドリブソロを弾いたらとても盛り上がって。「自分はこれがやりたいのかもしれない!」と思ったんですけど、その日が金曜日で。学校のヒーローみたいになったんですけど、月曜日になる頃には皆が忘れていて…… 一切触れられませんでした(笑)。
ーあははは。
高校生になっても吹奏楽を続けていたし、音大に行きたいと思っていたんですけどピアノが弾けなくて。音楽は好きだったので、音大の先輩にどうやったら音代に入れますか? って訊いたら、何でもいいからとにかくいっぱい音楽を聴けと言われたんです。それを愚直に守って色々聴き漁っていました。
ー当時はどんな音楽を聴かれていたんですか?
中学の時はLArc-en-Cielがとても好きで聴いていました。友達からビートルズも聴いた方がいいと言われて聴いたり、オフ・スプリングやボン・ジョヴィなんかも聴きました。高校に入ってからジャズが格好いいと思うようになって新旧問わずビッグバンド、あとはレディオヘッドもよく聴いていました。
ーマハラージャンさんの楽曲には、ジャミロクワイ的なエッセンスもありますよね。
高校でジャミロクワイに出会ったんです。「これはかっこいい!」とすごく衝撃を受けました。ただあまり真似しすぎるとオリジナリティがなくなると思って、10年ぐらい聴かないようにしていたんです。最近また聴き始めて、やっぱりいいなと思っています。他にも民族音楽や高円寺でやっている阿波おどりなんかも格好いいなと思っていたり。格好いいものを見つけるのが好きです。
ー音楽以外のカルチャーではどういったものがお好きなんでしょう。
映画が大好きなんです。学生の頃、映画を勉強していたんですよ。当時、年間300本観ろと言われて、結局2年で300本くらいしか見れませんでしたが。そこで分析しながら観ていく頭になったというか。この映画は何のメタファーだってすごく考えたりするので、それは音楽にも活きていると思います。最近はNetflixでアニメとかにしても、これは何を表現しようとして、この物語になっているんだろうと考えながら観る観方が身についたので、映画を勉強していてよかったなって思いますね。そういうメタファーを散りばめている作品が、音楽にしても好きです。
ーTwitterでは、ご自身で描かれた絵もアップされていますよね。絵ももともと好きで描かれていたんですか?
小学校の頃、チラシの裏側の白い部分がもったいないから、そこに絵描いてなさいって親から言われて描いていた結果、上手くなりました(笑)。
ーでは、作曲はいつぐらいから始められたんでしょう?
大学在籍中から作曲はしていたんですけど、曲が全然出来なくて。元々ギターは弾けたんですけど、パソコンで打ち込みや録音をする中で、ギターだけじゃなくベースも弾けるようになっていきました。大学の軽音部でオリジナル曲を何曲かバンドでやったんですけど、しっくりこなくて。社会人になってからもバンドを組んだんですけど、それもあまりしっくりこなかった。結局、自分の好きな音楽を1人で追求しながら作り続けて、今の形になりました。
ーマハラージャンさんの耳に残る印象的な歌詞のフレーズは、頭の中にいつもあるものなんですか?
僕は他の人が歌っているような歌詞を使いたくないんです。聴いたことがあるような歌詞を発してしまうと、真似をしている気がしちゃって。誰も言っていなさそうなオリジナルな言葉で格好よく魅力的にしたい。社会人生活にまつわる曲や、なるべく自分しか言わない言葉に落とし込みたいと最近は思っています。
ーマハラージャンさんは、社会人生活を経て音楽活動を本格化させるに至ったわけじゃないですか。サラリーマン時代に感じたおかしなことや不条理だなと思うことが歌詞になっているんでしょうか?
「いいことがしたい」という曲ができてから、堰を切ったようにいろいろと生まれ始めるようになったんです。それまで自分は社会人に向いてない違和感があって。向いてないなと思う人は沢山いると思うんですけど、自分はそれを強めに感じていた。音楽をやりたいのに社会人をしている、こんなはずではなかったという気持ちが歌詞になっているのかなと思います。
ーちなみに、どういったところが社会人に向いてないと思われたんですか?
当時、CM制作の仕事をしていたんですけど、早朝3時から撮影の準備が始まって、帰ってくるのも遅い。毎日そんな感じで。もっと自分ができることがたくさんあると思っていたのに全然できていない、そういうつらさがあって。自分には向いていないんじゃないかと思っていたんです。
ー僕は今社会人3年目なんですけど、自分は何かできたかもしれないとたまに思うところがあって。今すごく共感しました。バンドをやったりDTMをやっていた時期もあるのですが、僕でも音楽作れますか?(笑)
僕の場合、執念もあるというか、ほぼ怨念だと思っているんです(笑)。人によるとは思うんですけど、自分の場合はこれまで聴いてきた音楽だったり、抱え込んできたものが上手くまとまったと思います。自分がやりたいことを完全に表現できていたら、それは表現者じゃないかなと思うんです。そこは自分次第だと思います。
ー先ほど、他の人がやっていないことを音楽で作りたいとおっしゃっていましたが、ご自身のオリジナリティは明確になってきている実感はありますか?
誰かと似たことをなるべくしたくないと言ったんですけど、どこかで必ず似ちゃうところはあるんです。それは踏まえた上で、グッとくるもの、おもしろいものを常に探しています。そういう強いインパクトを与えてくれるものを信じているし、みんなにもそれを聴いてほしい。まだマハラージャンってなに? っていう人がほとんどなんですけど、圧倒的に魅力的な音楽でありたいなと思っています。
ー『笑っていいとも』のオープニングのアレンジだったり、Perfumeの「ワンルーム・ディスコ」を生活音でやってみただったり、既存の作品にご自身のニュアンスを入れてオリジナリティを出していったりもされていますよね。
基本的にかっこつけている人が嫌いなんですよ。自分のやっていることに関しては、なるべくモテるとかモテないとかでやってないというか。そういうのを僕は非常に嫌っている(笑)。どうやったらこれがおもしろいか、音としてかっこいいかっていうことだけを考えて作っています。
ーメジャ―・デビュー作『セーラー☆ムン太郎』は、どのようなテーマのもと、作られたんでしょう。
これは、2020年の自分へのセラピーなんです。
ー何か癒やしたいものがあったんですか?
EP『セーラー☆ムン太郎』には、いろいろなことが起きた2020年の世の中で、自分が感じたものを託した曲ばかりが収録されています。正義とは何か、すごく考えたし、それはみんなで考えなくちゃいけないことだと思っていて。例えば日本の政治も、Black Lives Matterも、常に正義を掲げてどこかで対立が起きている。そういった構造がベースになっています。そうした現状の中でも、大体の人は普通に生活しているわけじゃないですか。そういう人たちが本当は尊いし、強いよってことを『セーラー☆ムン太郎』に託しました。
ーEPのジャケットとMVからは、昨今の女性の社会的地位の話だったり、ジェンダーの話といったメタファーを感じることもできます。本作は、社会に対してだったり、外向きな視点を意識されて作られているんでしょうか。
会社を辞めて気づいたことがあるんです。サラリーマン時代は自分対会社でも、辞めてしまったら直で社会と向き合うことになる。コロナがあって、さらにその感覚が強まった感じがするんです。
ー直接社会に触れることで、自分がさらけ出されている感じ?
そうですね。そこで感じたことを、音楽の力を借りてというか、強いメッセージではないですけど、余地のあるものを残すのがおもしろいと思っていて。今起きていることやその人の抱えているものがエンターテイメントで昇華されている方がおもしろい。世の中のためになるとまでは言わないですけど、そういう音楽を僕自身、聴きたいんです。
ー音楽を通すことで、自分の思っていることや伝えたいことを、よりスムーズに人々に伝えられる部分もあると。
人は死にますけど、歌はずっと残っていく。それって伝承的な意味もあるというか。『セーラー☆ムン太郎』が未来永劫残るか分からないですけど、感じたことを残していけば、人は死んでも曲は死なないというか。作った時はそこまで思っていなかったですけど、作り終えてみた今そういうことを思っています。
ー2曲目「示談」はダンサブルなサウンドです。歌詞は駆け引きというか相手の裏側を読むような内容ですね。
そういうギャップがある曲ではあるんですけど、フルートっぽいシンセのリフができた時に、「あ、これは来たな」とバチッときた感じがあって。曲をガンガン作っていく中で、めちゃくちゃな歌詞をつけてやりたいと思って。それで、すぐ思いつきましたね。「滅相もない」って言ってやろうって(笑)。
ー「滅相もない」って言葉は、歌詞にはあまり使われないですよね。歌詞と曲調の組み合わせも意識されたりするんですか?
それこそ「いいことがしたい」ができた時に、自分の中で強い意識が生まれたんです。やっぱり、曲がかっこいいことが大前提で曲を作りたいんです。曲が格好よければ、変わった歌詞だったとしても、みんな好きになってくれると思っていて。世の中にそういう歌詞がいっぱいあれば、別に皆なんとも思わないはずなんですよ。ちなみにライブをやる時に「聴いてください、「何の時間」」「いいことがしたい」」とか言うと、若干初めてのお客さんがざわざわ笑うんです。でも曲が始まるといいねってなるので、そういうことでいいなと思ってます。
ーフェスとかで、遠くから滅相もない♪って聴こえてきただけで「え!?」ってなりますもんね(笑)。
海外の人で聴いてくれている人は、日本語がわからない人がいると思うんですけど、僕も日本人の歌だとしてもほとんど歌詞を聴いて聴かなかったんです。吹奏楽をやっていたこともあると思うんですけど、歌詞よりも音楽がいいかどうかしか聴いてこなかったから、そういう作り方になっているんだと思います。
ー3曲目「適材適所」は、肩の力を抜いて聴ける遊びのあるサウンドですね。
その通りで、作っていて1番楽しかった曲です。どこまでみんなに受け入れてもらえるんだろうと試してみたかったというのもあります。そういう挑戦的なことをやっているアーティストは日本だけじゃなく海外でもいっぱいいると思うんですよ。カオスだけど、ファンクでもある。だけど、ただのファンクに収まっていない。表現の領域に行けたと自分の中では確信してます。
ー今ファンクって言葉が出てきたんですけど、ジャンルレスで音楽を聴いてこられた中でも、ファンクは特別な思い入れのあるものなんですか?
大学生の頃、ダンス・サークルがロック・ダンスをやっているのを見たんです。ロック・ダンスはファンクをベースに踊るんですけど、ダンスと16分のビートがはまっているのがすごくかっこよく見えて、自分もダンスを1年間だけやっていたんです。その時に、踊れるものがいいって感覚が染み付いちゃったんでしょうね。体が動くグルーヴやリズムに今すごくこだわって曲を作っています。
ー「適材適所」は、社会人時代の体験も歌詞に活きているのかなと思いました。
適材適所にハマってなかったんでしょうね(笑)。曲を作ったときは何か分からなかったんですけど、「適材適所」って言葉を乗せた時に上手くハマったんです。そういう意味で、これは自分の適材適所にハマっていなかったことへのセラピーだなっていう解釈です(笑)。
ー4曲目の「空ノムコウ」は、SMAPの名曲をリスペクトした曲なんでしょうか?
全く意識していませんが、どうなんでしょうね。(笑)ただ純粋に曲の雰囲気に合うタイトルとして「空ノムコウ」がいいと思ってつけました。開放感のある曲にしたいと思っていたので、デモを流しながら、空を見上げた時に、これ空ノムコウだなって気がしました。
ー目標や未来に対する不安への一種の開き直りがあるのかなと、聴いていて感じました。そこと開放感は関連性があると思いますか。
繋がっていると思います。この曲に関しては自分が会社を辞める大きな決断をしたことがベースになっているんです。手放すことと言葉のイメージ、曲の持っている開放感が上手くマッチしたと思っています。
ー5曲目「僕のムンクが叫ばない」は前作までに描かれていたような、頭の中をぐるぐる巡る思考が書かれているのかなと思いましたがいかがでしょう。
それはどっちもあります。例えば、SNSで政治的な発言は控えたほうがいいとか、偉い人にこう言われて嫌だったけど言えない、みたいなことってあるじゃないですか。そういうことを考えていたとき、ふと「僕のムンクが叫ばない」ってタイトルを思いついて。「ムンクの叫び」をモチーフにして歌詞にまとめてみようと思ったんです。この曲に関しては全部1人で演奏しているんですけど、叫びをテーマに作っているので、わりとシンセのボコーダーを多用して作っています。
ー参加されているミュージシャンも、ハマ・オカモトさんだったり、Ovallのmabanuaさん、Shingo Suzukiさんだったり名うての方ばかりです。もともと交流があった方たちなんですか。
本当にはじめましての方ばかりだったんです。メジャーになるにあたって、バンドでやりたいとレコード会社の方に言った時、ハマ・オカモトさんと石若(駿)さん、皆川(真人)さんがイメージに浮かんできて。「空ノムコウ」に関してはOvallのイメージなんですよねって言ったんですけど、それが本当に通るとは思わなくて。みなさんオファーを受けてくれたので、すごくうれしかったです。今も実感がないんですけど、全員本当に素晴らしい演奏でした。例えばハマ・オカモトさんと石若さんの2人の共演で作られた曲って、僕だけじゃなく、いろんな方が聴きたいと思うんですよね。そういうものが自分の作品で実現できて本当によかったです。
ー根本的な質問なんですけど、スーツにターバンというスタイルには、どんなコンセプトとかメッセージがあるんでしょう?
本当はサラリーマンをやりつつ音楽をしている象徴ではあったんですけど、もうサラリーマンじゃないので、ただの王としての正装ですね(笑)。
ーライブもそれでやられるんですよね。
ライブはスーツにターバンでやっています。去年はライブがほとんどできなかったので今は今で新しいのを作っているところで。早くライブもしたいです!
リリース情報>
マハラージャン
3rd EP『セーラ☆ムン太郎』
発売日:2021年3月24日(水)
=収録曲=
1. セーラ☆ムン太郎
2. 示談
3. 適材適所
4. 空ノムコウ
5. 僕のムンクが叫ばない
Produced byマハラージャン
Recorded by 小野寺伯文(M 1, 2, 3 ) 、藤城真人(M 4 )
Mixed by 髙山徹
Mastered by 山崎翼
Official HP:https://maharajan.love/
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