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カネコアヤノが語る、流されやすい自分に「言い聞かせるため」に歌う理由

Rolling Stone Japan / 2021年4月20日 18時30分

カネコアヤノ

CDショップ大賞に初入賞した『祝祭』が発売されたのは2018年。仕事終わりに駆けつけたインストアライブには店の外まで多くの観客が集まり、彼女がすでに多くのリスナーの心を惹きつけていることを痛感した。

翌年リリースされた『燦々』では、第12回CDショップ大賞<青>に選出。そして2020年、自身のキャリアで最大規模となる中野サンプラザでのワンマンライブをあっという間にソールドアウトにしてみせた。

そして2021年4月14日、6枚目となるフルアルバム『よすが』を発売。5月からは全国8都道府県、9公演に渡るツアーをスタートさせる。

年々加速度的にファンを獲得し続け、その存在感を確固たるものにしてきたカネコアヤノだが、どこまでいっても彼女の音楽が光閃のように新鮮な煌めきを失うことはなかった。この日の取材で彼女が話してくれた言葉の中に、私たちが大切にしている心のありかを再確認してもらうことができたらと思う。

—ここ1年は特に気持ちが内にこもってしまうことも多くありましたが、今回のアルバムは「追憶」の歌詞にあるように、まさに外に連れ出してくれるようなアルバムだなと思いました。「抱擁」のMVもすごく素敵で。一週間前に撮影したって聞いてびっくりしたんですけど。

ありがとうございます。MVは先週撮ってきて、帰ってきたばっかりなんです。



—YouTubeのコメントでも励まされたって声がいっぱいあって。

ありがとうございます、嬉しいです。ああいう壮大なところに一人で立って、衣装はYUKI FUJISAWAのワンピースで、映画の長回しみたいなミュージックビデオを撮りたいんですって奥山さん(監督・奥山由之)に相談して。構想の段階では泣くところまではもちろん入れてなかったですけど、奥山さんが雪山で撮ることを提案してくれて、ありがたかったです。

—場所はどこですか?

長野の八方尾根って山です。標高は割と高くて。
 
—すっごい寒そうでした(笑)。
 
寒かった。天候があるから2日間のチャレンジだったんですけど、初日がマイナス8度とかになっちゃって。
 
—ええ!  時間は明け方ですか?

明け方の5時台かな。2日間のその時間しか撮影できないから、1時間ぐらい長回ししてって感じでしたね。

—本当に素敵なMVでした。「爛漫」が去年の今頃にでて、私自身すごく救われて。当時急に先が見えない世の中になったと思うんですけど、それでも変わらない自然のたくましさに気づかせてくれるような曲でした。「抱擁」しかり、もちろんコロナは関係なくつくった曲だったと思うんですけど。

確かに、そうですね。



ー変わらないことを大事にしたい、みたいなお話をされてましたけど、それもひとつ魅力だなと。

変わってもいいんですけど、我を忘れたくないです。忙しくなったりすると忘れがちになっちゃうけど、自分で選んでここにいるわけだし、それが分かんなくなると多分とっ散らかっちゃうから、「そもそもなんで音楽やってるんだっけ」みたいな一番シンプルなことは、定期的にちゃんと考えるようにしたい。我を忘れたくないです。


バンドなんだけど、バンド名が付いていないだけ

—仕事とか生活のために頑張らなきゃってなると、頭で考えることが増えてしまうんですけど、カネコさんの曲を聴いていると、綺麗な景色を見てるような、自分の五感を思い出せる感覚があります。

あ、嬉しい。大人になったり歳を取ったりするにつれて、腐ってくっていうか。小さいときはまだ全部が新しいから五感も刺激され続けるけど、慣れていくことによって腐っていっちゃうから、そこは意識して保ちたいですよね。例えば小さいときに食べられなかったものが大人になるにつれて食べられるようになるのって、単純に舌がバカになってるかららしいんですよ。苦手がなくなることはもちろんいいことだけど、そんなふうに自分の感性もぶっ壊れていくんじゃないかな。そこはやっぱ壊したくない。保ちたいですよね。「あ、私今腐ってきてる」って思ったら、「なんでここにいるんだっけ」「なんで私この洋服着てるんだっけ」って考えたいです。

—そういうのって、どんな風に気付くんですか?

バンドの場合は毎日やってるから分かる。完全にこれ、全員だるいって思ってるなって。でもそういうときはシンプルに話しますね。自分も含めて、私たち今やばいと思いますって。あとは、人前でやるのが当たり前になってるのも結構怖いと思っていて、明日も明後日もZepp東京でライブできるわけじゃないし、それは甘えないようにしようよって話します。名前がついたバンドじゃないからこそ、話し合いでちゃんと繋ぎ止めないといけないような気がしてて。できるだけ対話をするようにしてます。
 
—バンドって形で固定はしない?

全員の気持ち的には多分バンドだし、この先のレコーディングもアレンジもこのメンバーでやっていこうってことにはなってて、ただ本当にバンド名がついてないだけって状態だと思うんですよね。私はあなた達とやりたいんです、だから、私も強制はしないけど、君達も自分でここにいる選択を取ってくださいみたいな。私のところってわけじゃないけど、何をするにも自分で選んでそこにいるってことをちゃんと考えてやろうよとは言いたいし、たまに言ってる。でも本当に今のメンバーでやっていきたいから、バンドなんですよ。バンドなんだけど、名前が付いてないだけ。名前だけじゃないと思う。


伊豆スタジオの合宿での日々

ー今回「爛漫」を再録音して、ライブ感というか、バンドとしての力強さがより増した印象がありました。その辺はやっぱり伊豆スタジオの合宿での日々も影響してるんでしょうか?

本当はそのまま入れようと思ってたんですけど、録音が全部終わって、曲順も考えはじめて、いろいろ並び替えて聴いてるときに、最初に出した「爛漫」があんまりハマらないな、って私的になっちゃって。「爛漫」ってコロナの真っ只中に出した曲だから、あんまりみんなの前でできてないんです。どの曲もそうなんだけど、やるときにだんだん熱量が上がってきて、どうも違う曲みたいになってんな、みたいな。そこって多分、単純に私の歌がコロナ禍を知ってるかどうかもすごく大きく影響している気がしたし、もういっそみんなが今やりたい「爛漫」を録った方がハマるなって感覚的に思ったから、すいません、録り直したいですって言って、追加の日程を1日押さえて録りましたね。
 
ー一番最後に。

最後に録りました。アルバムの最後に入れたいのもあったから、最後に入れるにはやっぱり録り直したいって言って録りましたね。そしたらみんな勝手にいろいろやってくれたし、林くんも気付いたらアウトロでガシャガシャガシャって入れてたし。みんなそれ聞いて爆笑するからいいですよね、わはは、みたいな(笑)。



ー合宿はどのくらいの期間?
 
1カ月間ぐらい行きました。夏中はずっと伊豆にいましたね。プリプロも含めて行ったから、アレンジ作業も伊豆でやって、その熱量をそのまま持ち込んでレコーディングした感じです。

ー合宿して録ろうっていうのは?

レコーディング自体は私が10代のときからずっと合宿でやってて、今ではそれが当たり前になってる。伊豆スタには、10代の頃からいつもエンジニアしてくれている濱野さん(濱野泰政)がPAさんでいるのと、アナログの卓もヴィンテージの機材もめちゃくちゃいっぱいあるから、それを求めて行ってます。だし、伊豆に行きたいのもある。みんな伊豆に早く行きたいって(笑)。

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—Instagramにも、海で遊んでる写真が(笑)。

ほぼ毎日海か温泉か、どっかに午前中に行って体を起こして、昼からレコーディングみたいな感じでした。これだけ話すと、本当何しに行ったのって感じ(笑)。夜花見したりバーベキューしたり、夜中に辛ラーメン食べたり。


言葉、メロディ、バンドサウンドの関係

—楽しそう(笑)。カネコさんの楽曲には、言葉だけを切り取ってもメロディだけを切り取っても説明できない、楽曲全体の文脈としての魅力がすごくあるなと思っていて。言葉とメロディ、バンドサウンドはどんなふうに結び付けてるんですか?

どうなんだろう。歌と歌詞はだいたい一緒にできて、バンドサウンドは、ジャケのこういう風にしたい、みたいな漠然としたイメージと一緒で、大体こういうイメージっていうのを伝える。そこから、エンジニアの濱野さんがプロデューサー的な立ち位置でいろいろ提案してくれたり、バンドメンバーが自分の楽器の音作りをしたりします。私は、なんか天使が降りてくる感じ、とか、森みたいな、ってみんなに伝えて、みんなももう慣れてるから、なるほどね、って。エンジニアのヤスさん(濱野さん)はよくわかんないけど大体理解してくれて、あー、わかるわかる、みたいな。

ー最初に歌があって、そのイメージを伝える?

歌をみんなに聞いてもらいます。今回のアルバムも、この曲がどういう人格を持ってるか、みたいな共有をしっかりしてからレコーディングしようっていうのは、めちゃ話しました。私がだいたいのイメージを伝えて、合わせてみて、違ければそういう感じにしたいんじゃなくて、とか、もっとここで急に違う世界に行きたいんだよね、みたいなことを言います。こういう曲だけど暗くしたくないんだよ、とか。セッションに近い感じで作ってんのかな。最初はふわっとみんなでコードさらって、あ、さっきの林君のリフよかったから、それもっかいできる?って言ったら、え、俺何弾いてたかわかんないとか(笑)。簡単なレコーダーで録音して聞いて、徐々に徐々に、少しずつつくっていく感じ。だいたい曲の人格が分かってから後半の方で、何拍目で休んでから入りましょうとか、ここだるいよね、じゃあどうする、みたいな引き算をしてる感じですね。

ー曲の人格ってどんなイメージでしょう?

この曲がどういう印象のものになりたいかっていうか。洋服着せてあげるみたいな感じで、メンバー同士でその意思疎通はすごいしてからやりました。あと音楽として、余白も綺麗に聞こえるアルバムにしようってこともすごい話して。

ー曲と曲の?

曲と曲もそうだし、曲の中にある余白みたいなものも、ちゃんと綺麗になるといいよねって。


バンドの中には「救い」がある

ーなるほど。カネコさんは曲の中でいろんな光の表現をされてると思うんですけど、今回のアルバムは「閃きは彼方」にある”雷光”のような、一筋の希望の光のようなアルバムだなと思いました。去年は音楽活動を制限されてしまうことも多くて、気持ちが沈んでしまうことも?

そうですね。終わりって感じでしたね。入れた曲達をつくるか、止まるか。何をするにもそういう感じ。曲ができた後も、何もできなくなっちゃったりはしました。



—ライブができないことで、やっぱりモチベーションが下がってしまいましたか?

下がりまくりです。コロナ前って、とにかくもうライブしかしてなかったから。ライブないときは週2とかでリハに入って、週末はライブしてって感じだったから、本当にやることが何もなくなっちゃって。抜け殻みたいな状態になりましたね。

ーそうですよね……。

あとサンプラザが、本当にずっとやりたい会場だったし、見てきた中でも好きな会場だったから、自分がやれることになったのも嬉しいし、チケットもソールドアウトしていて、もうすごい楽しみだったんですよ。コロナが感染拡大してきて、さすがに4月末にはおさまっているだろうって思ってたら、だんだん雲行きが怪しくなってきて、また延期になってまたその先も延期になって、ちょうど一年延期になっちゃって。サンプラザがなくなったときに、「あ、もう無理」って。今年は諦められる心を準備しておかないとやられちゃうなって思って、あんまり期待をしないようにしてました。期待しても今年は駄目になっちゃうことが多いなって。

—そんな中でも延期して公演してくれて、ファンのみなさんすごい喜んでると思います。ありがとうって。

頑張ります、ありがたいです。

—ライブには学生時代からよく行かれてたとか。中野サンプラザではどんなアーティストを見てましたか?

サンプラザでは最近だと、細野さんを見に行きましたね。あと学生のとき、ちょうどフジファブリックの志村さんが亡くなって、そのときの追悼がサンプラザだったんですよ。それは行きました。学生時代はすっごいちっちゃいライブハウスばっかり行ってたから、大きいところは、武道館とかZepp東京とかブリッツとかSHIBUYA-AXとかしか行ったことないんですけど。

—カネコさんのライブを見てると、女の私でもドキッとしちゃうような男の子みたいな瞬間もあれば、女性ならではの儚げな表現もあって、性別不詳だなっていつも思うんですよね。

めちゃくちゃ嬉しいです。そうありたいぐらいですよね。こういう時代ですけど、結局性別が一番コンプレックスかもしれない。最近は女性であることは好きになってきたけど、やっぱり、男の子に対する憧れはもう一生消えないと思う。だから、今のバンドの中にいるときって、そこはあんまり考えなくていいことにめちゃくちゃ救いがあるなって思ってる。そういさせてくれるというか。別にみんなはそこは考えなくていいんですけど、自分がそうありやすい場所ではあるかなって思いますね。


考えすぎずに「好き」でいいと思う

ーカネコさんを見てるとすごい女の子っぽい格好もしたくなるし、かっこいいギターをかき鳴らしたくもなる。

私も両方好きです。ぶりぶりのワンピースもいまだにめちゃくちゃ好きだし、T シャツにジーパンも好きだし。全部できたら全部楽しいじゃん、みたいな。化粧はあんまりしないからわかんないけど、肌の色がこれだからこの色が似合いますって提示は、人によっては考えすぎちゃって苦しくなっちゃう人もいるんじゃないかなって。だから本当に、「好き」でいいと思うけどな。好きな服が着れて、自分の気分が上がることが一番なのではって思っちゃう。

—パーソナルカラー診断とか骨格診断とかいろいろありますよね。

そうそう!  ほんとはフリフリが好きなのに、あなたの骨格的には V ネックのブラウスとこういう形のパンツが似合います、とか言われても、「でも全然好きじゃないし自分上がらないんですけど」って。生きづらいなって思う。もちろん洋服があんまりわかんない人だったら助けられるのかもしれないけど、もともと服が好きで、こういう暮らしがしたくてって気持ちがあるんだったら、シカトして生きてみた方がいいんじゃないって最近は思ったりします。

—「春の夜へ」”僕しか分からない美しさよ”って歌詞がすごく好きです。他人からの評価じゃなく、自分が好きなんだからいいって思えるのがカネコさんの強さですよね。

もう自分に言い聞かせるためにも歌ってる。私にしか分からないんじゃ!みたいな。そういう、人に言われた言葉とかがよぎると自分らしさがわかんなくなっちゃうから。私は特に意思が弱いっていうか、本当はすごいネガティブだし人に流されやすいから、こういうことを自分に言ってないと、自分がどっかに行っちゃいそうで。だから歌っていきたいです。



—そういうところがリスナーが惹きつけられるところなんだと思います。
 
いやあ、どうなんでしょう、嬉しいです。暴力的な言葉に勝つには、自分で励ますしかないっていうか。自分のことを自分でちゃんとケアできるようになりたいですね。

ーそういう風に思えるようになったのって、何かきっかけがあったんですか?

どうだろう。もともとすごく消極的で、流されちゃう自分が本当に嫌だったけど、嫌ってことさえも気づかないようにしてた時期が22歳ぐらいまであって。そのタイミングで最初に所属してた事務所を辞めることになってしまって、本当に何もない状態になって。そこではじめて、私ってなんで音楽やってるんだっけって考えたんです。誰かがいないとできないことだったのかな、みたいな。もともと働くことも誰かに従うことも苦手なのに、ここで音楽やめたらそうなるのはまずいって思ってから、とにかく変わりたい方向に頑張ってみました。震えながら意見を言ってみたり、本当につくりたいCDって何だったんだろうとか、今まで自分がどんな気持ちで音源買ってたかな、どういうライブに感動してたんだろうって考えたりしました。そしたらちょっと楽になった。生きやすくなったなって思います。

—自分の軸を取り戻すような感じですか?

今までわかんなかったものが、はっきり見えるようになったっていうか。自分のことなのに。でもやっぱり今もずっと考え中って感じですよね。

ー身を削って音楽をやってくれてる感じが。

いやいやいや、人々が今日あったことを日記に書くのと本当に一緒だと思います。それをみんな楽しんで、一緒につくってくれて、嬉しいです、本当に。


同じ人とずっと同じことをやっていくことの強さ

ー衣装さんやメイクさんも含めて、素敵なチームですよね。どうやってみなさんと出会ったんですか?

衣装はもともとFUTATSUKUKURIが好きで、デザイナーのかえさんと知り合いだった人がいたので、その人に紹介してもらいました。そこから、実は衣装頼みたいんですけどって伝えたら音楽も聞いてくれて、両思いになり、今では大事なときはFUTATSUKUKURIを着ようって決めてる。FUTATSUKUKURIは奥さんがデザインもしながら服を作ってるんですけど、子どもが生まれたら子どもがいることをテーマにシーズンでコレクションを出したり、その時々の暮らしを反映させて製作していて、私もそれに影響を受けてる。かえさんの出す文章とか、今回はこういう気持ちでつくりましたみたいなものに、すごく感化されますね。

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ヘアメイクは7年前ぐらいからずっと、同い年の山本さん(山本りさ子)にやってもらっていて、今もめちゃくちゃ仲いいし、ほんと長いから、何も言わなくても伝わる。基本的にお任せです。髪まっすぐにしたい、ぐらい。私がどういう姿でステージに立って歌いたいかも多分もうわかってるから、本当に不安とかはないですね。カメラマンは今回小財美香子さんにお願いしたんですけど、もともと私がInstagramをフォローしていて、いつか一緒にやりたいなって思っていて。で、今回のイメージに合うかなと思って、声かけて一緒にやりました。

ープロデュースされて見え方が決まるアーティストも多いと思うんですけど、カネコさんは本当に、自分がやりたい感じに。

そうですね。自分でジャケのイメージも考えるし、ミュージックビデオでいえば、こういう所へ行きたいとか、映画のワンシーンみたいにしたいんですとか、できるだけ自分から出てくるものをやりたいとはすごい思ってます。

ーカネコさんのつくり出すものって、この先もう見られなくなってしまうって思わせるような儚さがあると思うんですけど、FUTATSUKUKURIのお洋服とか、そういうところからつくられてるんだなと思って。

そうなんですよ。今回のアルバムに関わってる人達以外にも、ライブも基本的に同じ映像のチームだし、照明もずっと同じ人にやってもらってて。前の事務所で一緒にやってた人は、どんどん新しい人とやってどんどん新しい自分に出会わないと、ってスタンスの人だったんです。だけど、私は今よりももっとずっと人見知りがひどかったし、その都度新しい人とやっていたら、もう、ぶっ壊れてしまう、と思って。

ー(笑)

それだけがかっこよさじゃないし、同じ人とずっと同じことをやっていくことの強さとか、頑丈な部分を作ることもかっこよさのひとつだろうって思って、最初の事務所をやめたときから今まで、意地でもそれをやるようにしてる。バンドもレコーディングもそうですけど、阿吽の呼吸みたいなものって絶対そういう人たちとしかつくれないから、それができてきたかなって思います。このままの状態で大きい会場でやるのが一番かっこいいし、最初はそれがやりたい。大きくなってきたからこういうプロデュースをいれなくちゃとか、MVにこれだけお金がかけられるからこういうことをしましょうとか、売れる曲みたいなのは狙ってつくりたくないし、今自分がやりたいことをちゃんとやって、このまま出てくるものだけを貫いて貫いて、大きい会場でやれるのが一番やっぱ、かっこいい気がする。それがやりたいです、ずっと。


目の前にお客さんがいてくれるということ

ー初期衝動みたいなものって技術が高まるにつれてどうしてもなくなってしまうこともあると思うんですけど、カネコさんの場合、技術も高まりつつ、気持ちが揺さぶられるような部分もぜんぜん変わらないというか、むしろどんどん昇華していってるなって。

そうですね……ライブに対してそれってあんまり減ってないかも。だから、去年お客さんの前でまじでできなくなったことがそれを失いそうで怖かった。配信とかもめちゃくちゃいい映像ができたなって本当に思ってるし、もちろん誰かには向けてますけど、そのときの素直な気持ちで言うと、本当に誰に向けて歌ってるのかが分かんなくなっちゃう瞬間がやっぱりあった。目の前にお客さんがいてくれるというか、一人でもいいから聞いてくれる人がいるっていうのが、私が音楽をやる条件の中に一つ大きくあったんだなって思いました。もちろん自分のために音楽やってるし、好きだからやってるんだけど、その中に、どうしても人に聞いてもらいたいって感情がめちゃくちゃあったんだな私は、っていうのに、気づいた。

ーこの1年で。

はい、それはまじで。聞いてくれる人にとって、ずっと想像以上でいたいなって思ってる。楽しいからやってるだけっていうのもあるし、そんなに重く考えてないけど。でも本当に、それは思いますね。ライブができないってそういう感情にもなったなって気づきがありました。

ー去年3月の無観客配信ライブは、リスナーとしては自宅で見れて、とにかくありがとう!って気持ちが強かったんですけど、ライブ会場でメンバーが客席に向かって演奏してるから、見ている側としては私たちがここにいれないなって気持ちにも少しなって。

あぁ、そっかぁ……。

ーでもLIVEWIREのときはメンバー同士で向かい合ってたから、ライブの代わりじゃなくてあれはあれで、ひとつの新しい表現方法だなと思いました。

そうですね。なんかね、ステージに立って、誰もいない客席に4人向いてやってる光景が意味不明になっちゃって、私の中で。なんで? なんなの?みたいな。だって客席のほうを見ててさ、誰もいないから、本当に不安になっちゃって。感情の放出先も分からないし。だから、3人が見える安心感が欲しすぎて、LIVEWIREからは円になってやりました。スタジオだったらいつも向かい合ってやってるから、私の前にはボブがいて右には林くんがいて左には本村くんがいる、みたいなのがめちゃくちゃ安心しました。そして安心して演奏ができて、すごい楽しかった。あれはあれで楽しかったし、やってよかったってすごい思ってます。

ーライブの在り方もだいぶ変わりましたよね。

いやあ、難しいですよね、ほんとに。やれるようになってきてるけど、いつ元通りになるんだろうっていうのは実際まだ見えてないし。でもライブができるだけで嬉しいですね。やっぱお客さんがいて、体温がないとライブしてるって感じがしない。やっぱそれが好きだなって思いましたね。

ー中野サンプラザ公演のあとは、ツアーも始まりますね。楽しみにしてます!

ありがとうございます!  ツアー早くしたいです。すごく楽しみです。

<INFORMATION>


『よすが』
カネコアヤノ
1994
発売中

1 抱擁
2. 孤独と祈り
3. 手紙
4. 星占いと朝
5. 栄えた街の
6. 閃きは彼方
7. 春の夜へ
8. 窓辺
9. 腕の中でしか眠れない猫のように
10. 爛漫 (album ver.)
11. 追憶

https://kanekoayano.net/special/yosuga/

「カネコアヤノ ワンマンショー 2020春 -東京公演-」

4月23日(金)中野サンプラザ
昼公演:開場・15:00  開演・15:45
夜公演:開場・18:15  開演・19:00

「カネコアヤノ ワンマンショー 2020春 -大阪公演-」

5月1日(土) 大阪市中央公会堂 
開場・16:30 開演・17:30
5月2日(日) 大阪市中央公会堂 
開場・12:00 開演・13:00

「カネコアヤノ TOUR 2021 ”よすが”」

5月27日(木)広島JMSアステールプラザ 大ホール
18:00 開場/19:00開演
5月29日(土) 福岡市民会館
17:00 開場/18:00開演

6月3日(木)札幌市教育文化会館福岡市民会館
18:00 開場/19:00開演

6月13日(日)仙台電力ホール
17:00 開場/18:00開演

6月26日(土) 金沢市文化ホール
17:00 開場/18:00開演

6月28日(月) 大阪オリックス劇場
18:00 開場/19:00開演

6月30日(水) 名古屋市公会堂
18:00 開場/19:00開演

7月6日(火) ・7日(水) LINE CUBE SHIBUYA
18:00 開場/19:00開演

https://kanekoayano.net/



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