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今注目すべきはジャンルを超えて活況を呈するイギリス? 2021年1stクォーターを象徴するアルバム4選

Rolling Stone Japan / 2021年4月20日 19時30分

アーロ・パークス(Photo By: NBC/NBCU Photo Bank via Getty Images)

音楽メディアThe Sign Magazineが監修し、海外のポップミュージックの「今」を伝える、音楽カルチャー誌Rolling Stone Japanの人気連載企画POP RULES THE WORLD。ここにお届けするのは、2021年3月25日発売号の誌面に掲載された2021年1stクォーターを象徴するアルバム4選の記事。

ドレイクやケンドリック・ラマーなど2020年最大のビッグリリースと期待された幾つかの作品がいまだ先送りになったままの3カ月間、もっとも注目すべき作品は未曾有の活況を呈する英国から産み落とされた。アーロ・パークス、スロウタイ、ブラック・カントリー・ニュー・ロード、フー・ファイターズ――今聴くべき4枚を紹介しよう。

1. Arlo Parks / Collapsed In Sunbeams



本人がいくら否定しようとも、「Z世代の代弁者」と呼ばれてしまうのも無理はない。ロンドン出身の20歳、アーロ・パークスのデビューアルバム『Collapsed In Sunbeams』は、同世代の日常に潜む苦悩を鮮やかに描写し、そこに慈愛の眼差しを投げかけている。ビリー・アイリッシュともオリヴィア・ロドリゴとも違う、新世代アイコンのひとつの形を象徴する傑作だ。本作の主なテーマは、メンタルヘルスの問題やセクシュアリティの抑圧。2010年代後半に前景化したポップの主題を継承したものだが、精神不安を扱ってきたエモ新世代の陰鬱としたムード、もしくはアルカ最新作の如く性的マイノリティを祝福するような力強さは表立っていない。BPM80~90後半の穏やかなブレイクビーツと接合された、軽やかなソウル/R&Bのフィーリング。大切な友人にそっと語り掛けるようなパークスの親密な歌声――むしろここで際立っているのは、冬の陽だまりを思い起こさせる、冷えた心と体をやさしく包み込むような暖かさだ。

本作がこのようなムードを持っているのは、パークスがメンタルヘルスやセクシュアリティの問題を当事者の苦悩として歌っているのではなく、そうした問題を抱える友人やパートナーの気持ちに寄り添い、静かに思い遣るような詩作のスタイルを選択していることが大きい。例えば「Black Dog」は、心の病を抱えた大切な人を部屋から連れ出し、ちゃんと食事と薬を取らせるために近所の店まで付き添うという曲。「Green Eyes」は長続きしなかったパートナーについての曲だが、その相手を責めたり未練を歌ったりするのではなく、パートナーが同性愛に理解のない両親から抑圧を受けていることを心配している。2010年代はメンタルヘルスとアイデンティティの不安の時代であり、だからこそセルフケアというアイデアが重視されるようになった。無論それは今も重要だが、パークスの曲にあるのは、セルフケア以上に互いをケアし合うことが重要という発想だ。2010年代ポップの主題を継承しつつ前進させたという意味で、これは2021年の始まりにふさわしい作品と言える。


2. Slowthai / TYRON



まさにアーロ・パークスのアルバムが好例だが、メンタルヘルスの問題は依然としてポップカルチャーにおける重要なトピックだ。「ブレグジットの無法者」を自称し、2019年のマーキュリー賞授賞式ではボリス・ジョンソンのマネキンの生首を掲げてステージで暴れていたスロウタイでさえ、2nd『TYRON』のテーマは自身のメンタルヘルスである。ここには不敵な笑みを浮かべて、社会の底辺から唾を吐く男はいない。この変化の直接的な要因は、2020年のNMEアワーズでプレゼンターに暴言を吐き、ミソジニストとしてキャンセルされかかったこと。それまで歯に衣着せぬ言動で権力者に盾突き喝采を浴びていたはずが、一歩踏み外した途端に掌返しの袋叩きにあうとは、なんとも現代的な事象だろう。本作は2枚組となっており、1枚目はキャンセルカルチャーに真っ向から反撃する「CANCELLED」を筆頭としたアグレッシヴな曲、2枚目は自身が抱える発達障害を曲名に冠した「adhd」など内省的な曲が並ぶ。言うまでもなく、本作の主題は物事の多面性だ。スロウタイという人間にもいろんな側面がある。これはつまり、SNS時代はどうしても人々は物事を冷静にいろんな角度から見ることを忘れ、自分の見たいものだけ見てしまうことに対する批評でもあるのだろう。良くも悪くも当事者の問題として回収されがちなメンタルヘルスというテーマを通し、彼は今の社会の在り方を見つめている。


3. Black Country, New Road / For the first time



ブレグジットの混乱の中でリリースされたスロウタイの1stの表題『Nothing Great About Britain』は秀逸な社会批評だったが、「黒い国、新たな道」という不穏なバンド名も今のイギリスが置かれているハードな状況を否応なしに連想させる。活況が続くサウスロンドンのバンドシーンから登場した7人組、ブラック・カントリー・ニュー・ロードのデビューアルバム『For the First Time』は、今のところ同シーンが生んだ最良の成果だ。ジャズ、ポストパンク、ノーウェイヴ、ミニマルミュージック、クレズマー(東欧系ユダヤ人の民族音楽)などが混濁したフリーフォームなサウンドは、言わばポストジャンル時代に対する英国アンダーグラウンドからの応答。サウスロンドン勢に多いポエトリーリーディング調の歌唱は、言葉の響き以上に意味を強調しているという意味で(ラップに影響を受けた)現行のポップとも緩やかに共振している。だが同時に、彼らは意識的に時流へ背こうとしているのも間違いない。ポップソングがストリーミングやTikTokでのヴァイラルに最適化すべく、短くてわかりやすいフックを重視する傾向が強まっているのに対し、ジャムセッションから発展した彼らの曲はどれも尺長で、あくまで全体の流れで聴かせる構成。その詩的なリリックも、曲全体から抽象的なフィーリングを立ち昇らせることを意識したものだ。プレイリスト向けのポップに慣れた耳には、このアルバムは不親切で、混沌として聴こえるかもしれない。だが、彼らはその混沌の先にこそ「新たな道」が見えると信じているのだろう。


4. Foo Fighters / Medicine At Midnight



BCNRがアンダーグラウンドのロックバンドによる最良のトライアルだとすれば、フー・ファイターズの10作目『Medicine At Midnight』はメインストリームで勝負するロックバンドによる果敢な挑戦の記録だ。これまでよりも明らかに音の隙間を意識し、各楽器の抜き差しでダイナミズムを生もうとするサウンドデザインは、今のチャート音楽に対する対抗心が伺える。デイヴ・グロール曰く、目指したのはデヴィッド・ボウイ『レッツ・ダンス』。わかりやすくヒップホップに目配せするのではなく、グルーヴ主体のポップ音楽として『レッツ・ダンス』を目標に掲げたのは、いい落としどころだろう。少なくともこれは面白く、興味深い。本作が『レッツ・ダンス』に並ぶ成功を収めるとは思わないが、メインストリームの第一線で戦い続けるロックバンドの矜持はしっかりと伝わってくる。

Edited by The Sign Magazine

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