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米銃乱射事件で注目集める「大きいお友達」の極右過激派たち

Rolling Stone Japan / 2021年4月27日 6時45分

マイリトルポニーのぬいぐるみを頭に乗せた男性。(Photo by Andrew Caballero-Reynolds/AFP/Getty Images)

米物流大手フェデックス施設で4月15日に発生した銃乱射事件。インディアナ州にあるフェデックスの倉庫で男が銃を乱射し、8人が死亡。容疑者は元従業員の男(19歳)で、現場で自殺した。事件の後、ウォール・ストリート・ジャーナル紙はFacebookが配布した内部メモを引用して、男が子供向けアニメシリーズ『マイリトルポニー~トモダチは魔法~』への熱い想いを語る場としてFacebookアカウントを使っていた、と報じた。この番組を好む成人男性ファンはしばしば「ブロニー」と呼ばれている。

メモではすぐに、ブロニーカルチャーと事件の関連性を示すものは何もないと否定されているものの、犯人は犯行におよぶ1時間前に、アニメに登場する黄褐色のキャラクター、アップルジャックというポニーへの愛情を投稿していた。「来世ではアップルジャックと一緒になりたい、彼女のいない人生なんて無意味だ」と、犯人は投稿。「もし来世がなくて、彼女が現実でないなら、どのみち俺の人生なんて意味がなかった」 またメモによると、犯人は過去にも、キリストは復活してヒトラーになったとほのめかすミームなど極右的なコンテンツを投稿していたという。

ブロニーのファンカルチャーが大いに誤解されていること、本来は人種差別的でも白人至上主義でもない点はあらためて述べておく必要がある。大多数のブロニーは、単純に『マイリトルポニー~トモダチは魔法~』が好きなだけなのだ。ファンコミュニティのメンバーは事件の被害者への募金活動をGoFundMeでいくつも立ち上げ、SNS上で拡散している。とはいえ、犯人のソーシャルメディアでの活動はコミュニティ内の不穏な傾向にあらためて関心を集めた。コミュニティは当初から、極右勢力に浸食されていた。

ブロニーとは、アニメシリーズ『マイリトルポニー~トモダチは魔法~』を好む男性ファンのこと。ブロニーカルチャーの起源を取材したジャーナリスト、ローレン・オルシーニ氏によると、ブロニーコミュニティはアニメの放映開始から2年経った2010年、4chanの掲示板から誕生した。成人男性が熱をあげるのは尋常ではない気もするが、アニメと作品が発信するメッセージに純粋に共感する男性は大勢いた。

「最近の多くの子供向けメディアと同様に、『マイリトルポニー~トモダチは魔法~』も複数の視聴者を念頭に置いて制作されています。親を飽きさせずに子供の心をつかむためです」とオルシーニ氏は言う。「子供と一緒に視聴する大人にも訴求することで、当然大人のファン層も形成されていきました」

『マイリトルポニー』の性的要素に惹かれる人々は、自慰にふける人を意味するfapperと馬の蹄の音をあらわすclopをかけて、clopper(パコパコファン)と呼ばれてきた。だがやはりキャラクター文化同様、『マイリトルポニー』のファンの多くはアニメのキャラクターに性的妄想を抱いたりはしていない。「性的目的だけの集まりだ」というメインストリームの見方にも異を唱えている。「ポニーと友情をテーマにした女の子向けの番組を男性が好むのは、なんとも居心地が悪いという風潮の現れですね」と言うのは、ブロニーカルチャーを研究しているメディア研究の専門家、アン・ギルバート教授だ。以来ブロニーはまっとうなインターネット・サブカルチャーとして花開き、ブロニーコンというコンベンションが毎年開催される他、ファンの姿を描いたドキュメンタリーも数多く制作されている。


ブロニーファン文化と極右との関係とは?

このコミュニティの発端が女性蔑視やヘイトスピーチの温床となる傾向にある4chanであることから、『マイリトルポニー』ファンカルチャーの中にも極右過激思想に偏る少数派がつねにいた、とオルシーニ氏は言う。「2010年代中盤ですでに少数派の台頭が見られました。(鉤十字をつけたポニーの画像や、精液まみれのポニーのフィギュアなど)世間を騒がせたり、不快な思いをさせたりする目的でファンカルチャーに参加する人たちです」とオルシーニ氏。「『マイリトルポニー』のファンカルチャーをクリエイティブに扱うブロニーファンのアーティストやミュージシャンなど、ポジティブな少数派もいましたが、この10年はそれと合わせて不快なものも出回っていたんです」

近年こうした過激な側面は、以前にも増してメインストリームから注目を浴びている。昨年のジョージ・フロイドさん殺害と、全米各地で発生したBlack Lives Matter抗議運動を受け、ファンアート・コミュニティDerpibooruでは内部抗争が勃発した、とアトランティック紙のケイトリン・ティファニー記者が報じた。政治的メッセージを広める場として利用されるべきではない、という理由で、大勢のDerpibooruユーザーがBlack Lives Matterをテーマにした『マイリトルポニー』ファンアートを批判した。ブロニーカルチャーでは以前から、MAGA運動やナチ系の画像を投稿していたにも関わらず、だ。こうした画像には、鉤十字をあしらったオリジナルキャラクター、Aryanneの画像もある(アトランティック紙の記事を受けてDepibooruの管理人は当初、表現の自由を奪っているという見方に反論していたが、最終的には「人種差別を宣伝している、あるいは感情を逆なですることだけを目的としているような画像は断固禁止する」と規約を改定することで手を打った)。

フェデックス銃乱射事件の犯人が『マイリトルポニー』のファンカルチャーの住人だった、という報道に対し、コミュニティのメンバーは極右過激派との関わりを積極的に否認する行動に行動に出ている。「極右ブロニーはついに死人を出した。我々のコミュニティや空間から彼らを追放しなくては。Derpibooruのどっちつかずの態度はまっぴらだ。ああいう連中は積極的に排除しなくてはならない」と、主要なメンバーはツイートしている。彼らのファンカルチャーがメインストリーム社会で広く誤解されてきたことを踏まえ、コミュニティのメンバーは報道のされかたに懸念を示して応戦している。「いったんニュースがインターネットで多くの人々に広まれば、反動が起きることが予想されますのでご用心ください」と、『マイリトルポニー』のファンサイトEquestria Dailyも注意を呼びかけた。


ブロニーが尊重するもの

報道に関していえば、ブロニーのファンカルチャーに過激思想寄りの部分があるのは否めないものの――どんなファンカルチャーにも間違いなく言えることだが――FedEx銃乱射事件を口実に、ブロニー全体を誹謗したり、このサブカルチャー自体問題だと決めつけるのは公平ではないことは留意しておくべきだ。「ブロニーへの興味と、特定のイデオロギーへの興味の間に何かしら特別な関連があると決めつけるのは、私も気が引けます。むしろ状況的な相関関係によるものだと思いますよ」とギルバート教授も言う。「ブロニーの集いの場となったインターネット空間は、いかにもイデオロギー的なコミュニティがはびこる温床でもあります。こうした空間に集まる人々は、ブロニーであれその他コミュニティであれ、目の前のものに惹かれる傾向があるのは明白ですよ」。さらに彼女は、「白人中流階級のストレートな独身男性が多く集まるような、男性的な視点を強調する空間は、えてして特定の思想へ惹きつける場合があります」とも指摘した。

オルシーニ氏もブロニーをひとくくりにしてはならないと警告している。「ブロニーの大部分は、肯定的なメッセージを発信する色彩豊かなアニメを楽しむ、ごく普通の人たちです」とオルシーニ氏は言い、フェデックス銃撃事件の犯人が温めていたとみられる考えは「ブロニーが何よりも尊重している価値観とは正反対です」と付け加えた。ブロニーが尊重するもの、それはすなわち愛と友情、寛容だ。

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from Rolling Stone US







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