多様化と更なる充実が進む、UKブラックミュージックの今
Rolling Stone Japan / 2021年4月28日 18時45分
音楽メディアThe Sign Magazineが監修し、海外のポップミュージックの「今」を伝える、音楽カルチャー誌Rolling Stone Japanの人気連載企画POP RULES THE WORLD。ここにお届けするのは、2021年3月25日発売号の誌面に掲載された、現在のUKブラックミュージックの充実ぶりをキャプチャーした記事。2010年代半ばのグライム復活を発端に、進化と拡大を続けてきたUKブラックミュージックは今、再び最盛期を迎えつつある。
2010年代後半のイギリスにおいて、もっとも多くの優れたプレイヤーたちがしのぎを削り合い、質/量ともに文句なしの充実を見せた音楽はジャズでもインディでもなく、ラップを中心としたブラックミュージックだった。そして、その勢いは2021年もまったく衰えることがなさそうだ。
2014年にスケプタがグライム復活の狼煙を上げたことに始まり、Jハスが牽引したアフロバッシュメントの隆盛、ヘディ・ワンが象徴するUKドリルの躍進など、2010年代のUKラップはアフリカ音楽/移民やシカゴドリルなど「外部」の影響を取り込みながら進化を続けてきた。その盤石な基盤に支えられ、早くも2021年は多くの充実作に恵まれている。
デイヴがエグゼクティブプロデューサーを務めたフレッド『Money Cant Buy You Happiness』(全英2位)は、ストリートライフを詳細に描写しながらも抒情的なセンスが光る、The Guardian曰く「メランコリー・ラップ・リアリズム」。
Fredo - Money Cant Buy You Happiness
自らをジョーカーと呼んでいたスロウタイは2nd『TYRON』(全英1位)で内省的な一面を見せ、ゼロ年代から活躍するベテランのグライムMCゲッツは、スケプタやストームジーからエド・シーランまでを迎えたメジャーデビュー作『Conflict of Interest』(全英2位)で、「15年のハードワーク、ノーブレイク」というジレンマを遂に打破した。
Slowthai - TYRON
Ghetts - Conflict of Interest
NYタイムズが「UKドリルシーンを代表する声」と評するディガDのミックステープ『Made In The Pyrex』(全英3位)は、ヘディ・ワン以降のシーンの勢いを象徴する充実作。
Digga D - Made In The Pyrex
そして、リリースは昨年11月だが、BBC Sound of 2021で1位に選ばれたパ・サリューの初ミックステープ『Send Them To Coventry』は、ダンスホール、アフロビーツ、グライム、ドリルなど多彩なビートを採用しながら、そこに自身のルーツであるガンビアのエレメントを掛け合わせた「Jハス以降」の傑作だ。
ちなみに、このミックステープのタイトルは「爪弾きにする」という意味の慣用句(実際にサリューはコベントリーの生まれでもある)。これは、10歳までガンビアで暮らしたサリューが西アフリカ訛りの英語のせいで爪弾きにされ、イギリスのブラックコミュニティにおいてマージナルな存在だったことを意味している。と同時に、だからこそ活況を呈するシーンに埋もれない独創的な傑作を生み出せたという意味合いも含まれているのだろう。
Pa Salieu - Send Them To Coventry
UKラップの多様化と充実の証明
マージナルな存在と言えば、UKラップの世界では女性は依然として少数派。だが、最近は注目のラッパーとして女性の名前が挙がり始めているのは、UKラップの多様化と充実の証明だ。
昨年「Rumors」がヴァイラルし、ヘディ・ワンの全英1位アルバム『エドナ』にも参加したアイヴォリアン・ドールは、女性ドリルMCの先駆者としてさらなる飛躍が期待される存在。
Ivorian Doll - Rumours (Official Music Video)
そして、幼い頃のあだ名はミッシー・エリオットだった(!)という最高のエピソードを持つエニーは、その名に恥じないクールかつスキルフルなフロウで、あらゆる容姿の黒人女性の美しさを称揚する「Peng Black Girl」が白眉。ジョルジャ・スミスが惚れ込み、自ら希望してこの曲のリミックスに飛び乗ったのも無理はない。
ENNY - Peng Black Girls (feat. Amia Brave)
ENNY ft. Jorja Smith - Peng Black Girls Remix | A COLORS SHOW
ポップの世界でも、やはり注目はブラックのニューカマーたちだ。昨年の新人賞をほぼ総なめにしたセレステは、遂にデビューアルバム『Not Your Muse』(全英1位)を上梓。オーセンティックなソウル/R&Bを絶妙にモダナイズしたサウンドと、往年のソウルシンガーのようにブルージーな歌声は、「次のアデル」もしくは「次のエイミー・ワインハウス」として多大な期待を寄せられるのも当然だろう。2010年代のイギリスが生んだ世界的ポップスターはアデル、エド・シーラン、デュア・リパと白人や東欧系だったが、将来的にセレステはその流れを変える存在になるかもしれない。
Celeste - Not Your Muse
そして、アーロ・パークスの『Collapsed in Sunbeams』(全英3位)は、モダンなR&Bサウンドに乗せて10代の抑圧された感情を表現しているという意味では、フランク・オーシャンとビリー・アイリッシュの間にあるどこか。紛れもない傑作だ。
Arlo Parks - Collapsed In Sunbeams
2020年末から2021年3月までをざっと振り返っただけでも、これだけの注目すべき作品とアーティストが揃っている。2010年代後半からの着実な積み重ねを背景に、イギリスのブラックコミュニティからは今後も多様な傑作が生み出されることだろう。
Edited by The Sign Magazine
【画像を見る】ローリングストーン誌が選ぶ、史上最高のベーシスト50選(写真50点)
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