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girl in redが「心の闇」を乗り越え、インディーロックの新しい主役に躍り出るまで

Rolling Stone Japan / 2021年4月30日 11時30分

girl in redことマリー・ウルヴェン(Jonathan Vivaas Kise for Rolling Stone)

ノルウェー出身のgirl in red(ガール・イン・レッド)が、1stアルバム『if i could make it go quiet』を4月30日にリリース。2017年の楽曲「I wanna be your girlfriend」で注目を集め、先行シングル「Serotonin」はビリー・アイリッシュの実兄であるフィネアスがプロデュースを担当。デビュー作が生まれるまでの過程を本人が語った。

現在22歳のgirl in redことマリー・ウルヴェンは、ニューアルバム『if i could make it go quiet』についての話の途中、ふと謝罪しようとしたのをやめた。それは自分が早口で話しすぎていると感じたり、聞き手が自分の話を理解できているか不安なときに発する類の声だったのだが、すぐに「ごめんとは言わないよ」ときっぱり言った。「なんでもかんでも謝る人間にはなりたくないんだ。悪いとは思ってないし」。マリー、君はそれでいいんだ。それでこそ主人公! マリーとの対話はオスロからのZoomでカメラをオフにして行われていたが、彼女の個性は距離と時差を越え、画面に亀裂を走らせていた。

小気味よく饒舌で、皮肉な自虐屋、そして本人曰く「境界線がすごく苦手」というマリーは、これまでリスナーたちの不安や慕情に訴えかけ、インディーロックの世界に自分の居場所を築いてきた。彼女のgirl in redとしてのペルソナ——ビリー・アイリッシュの自覚的な怒りと、2000年代初頭のカレッジ・ロックのヘルシーな瑞々しさがミックスされたような——は、メンタルヘルスと叶わぬ恋に等しく向き合っている。このコンビネーションによってマリーは、TikTok世代、そしてTikTokの使い方を理解できない年齢層の両方からの支持を得ることになる。彼女は30代の筆者に向かって「TikTokをやっていると流行に敏感でいられるよ——自分の情報を中国に売ることだってできるしね」と冗談めかして言った。



マリーはオスロ郊外の小さな街で育ち、8歳の頃から曲を作っていたという(オリジナル曲をシャワー中に歌っているのを姉がiPhoneで録音していた)。作曲に目覚めたのは14歳でギターを手にしてからで、堅信の祝金でMacBookを買った2014年頃に本格的に音楽制作をスタート。デヴィッド・ボウイやスミスのような定番ナンバーに魅せられて、マリーはコンピューターとギターを手にした子供たちがいずれ行うこと、つまりオンラインに曲を投稿し始めた。そして2018年、「i wanna be your girlfriend」ーー友達以上の関係を築くためのファジーな頌歌ーをYouTubeにアップロードすると、当時10代だった彼女は一気に注目を集めるようになる。

「すごく疑り深い人間なんだ。お父さんが警官だからかも」と、マリーは直後に舞い込み始めたオファーについて語っている。「2018年の最初の数カ月は、すごく濃密で、本当にエキサイティングだった。お母さんは私が仕事関係のミーティングをするのを嫌がっていたけどね。高校卒業も間近だったから」

結果的に高校は卒業したものの、オスロに引っ越して、同年にカレッジは中退。そして「i wanna be your girlfriend」に加え、意外な溌剌さを感じる「summer depression」を収録したEP『chapter 1』を、続く2019年にはアップビートで抜きんでたトラック「bad idea!」と、楽しげで不気味な「dead girl in the pool.」を収めた『chapter 2』をリリースした。

脳内の不協和音と向き合った「Serotonin」

4月30日に発売となる『if i could make it go quiet』は、彼女の初のフルレングス・アルバムとなる。アルバム内の演奏はほとんど彼女ひとりで行ったものだ。

「ベースと、ギター、ピアノを少しずつ弾いて、歌ってるんだ」と、マリーは言う。「そうそう、家にはチェロもあって。チェロを買ったんだけど、躁状態だったからかな。結局チェロを触ったのなんて1度だけ。ベッドに放り投げたこともある。だからチェロに関しては、触ってベッドに放ったことがあるだけ。今年はサックスも買った。絶対サックス好きになるでしょ!なんて思ってたけど、結局1回しか触ってない。なんか今めちゃくちゃ早口になってる! 今日はコーヒーを飲みすぎたみたい」


Photo by Jonathan Kise 

2019年から2020年にかけて制作されたこのアルバムは、マリー自身のセクシュアリティに対する想いや、メンタルヘルスへの苦悩を改めて掘り下げたものとなっている。「このアルバムの中身のほとんどはただの雑音、たくさんの精神的なノイズなんだ」と、彼女はタイトルについて語っている。「”精神的なノイズ”ってものが存在するかどうかはわからないけど、時々、自分はそれをたくさん抱えているように感じることがある。みんなはどうかわからないけど、少なくとも自分はそう」

フィネアスがプロデュースを手掛けたアルバムの1曲目「Serotonin」は、リスナーをマリーの脳内の不協和音の中へと思い切り放り込む。「自分のメンタルヘルスについてこれまで他人に語ったことはなかったけど、セラピストに嫌われているんじゃないかって不安につきまとわれていたんだ」と、彼女は言う。「それで、セラピストの質問に答えるのをやめてしまった。自分なんかと話をしたいわけがないと思ったから。精神は時に、自分でも理解し難いようなおかしな方に働くんだ」



特性ともいえるそのストレートな物言いで、12歳のときに父親が交通事故に遭ったことをきっかけに、自分の脳の複雑さについて考え込むようになったとマリーは明かした。「簡単に言えば、あの事故のおかげで壊れてしまった」と、彼女は言う。

「YouTubeで気味の悪い動画をたくさん見ていた。人々の病気だとか、おかしな動画を見続けるうちに、自分の手首を切ってしまおうって馬鹿げた衝動に駆られるようになった。キッチンに近くのが怖くなった。自分が本当にイカれた、孤独な人間だって思考のスパイラルに囚われてしまってた。これが『Serotonin』という曲で本当に表現したかったこと——自分が実際に”感じた”奇妙な感覚すべての蓄積。自分と同じような ”問題” を多くの人が抱えていることを知って、自分のことも前より気楽に打ち明けられるようになった」

心の壁を壊すこと、愛し愛されるために

彼女はこのコンセプトをアルバム全体で表現しており、自分の死期を悟ることをテーマにした「Body and Mind」や、彼女の家の名前をとった「Apartment 402」では、それが特に顕著に表れている。「自分は長い間、この本当に小さな場所で過ごしてきた。このことが人生に何をもたらすんだろう?って」

そして彼女は続ける。「どこか別の場所へ行くということは、人によってはかなりハードルが高くて——特にベッドから出ることさえ面倒だと感じる人にとってはね。だからただ床に転がって、太陽の光に照らされた埃を眺めるだけ。行き詰まってしまう。なんか変な感じ。こうしてずっとあなたと話をしているのも」と言うと、彼女は突然話を止める。

「なんなの? 自分でも意味不明。私たちまだ30分しか話していないのに、もうマブダチって感じ」



誰かの不本意なセックスフレンドでいることを歌った、きらびやかで憂鬱な「midnight love」にはじまり、説明不要のロックソング「You Stupid Bitch」に至るまで、このアルバムには愛についての考察も少なからず含まれている。そして「Ill Call You Mine」という曲についてマリーは、「誰かを信頼し、心を開いて、自分の壁を壊してもらって、相手にも同じようにさせること。それは愛し愛されるためで、決してあなたを傷つけることではないということ」と、話している。「この曲が自分のトレードマークとなって、何十年と歳をとっても聴き続けられる曲になればいい。パティ・スミスみたいにね」と、彼女は願う。

「今ちょうど、その曲のサビの部分で拳を突き上げてるところ」と言った彼女は再び、話をぶった切る。「ねえ、ちょっと待って! 今どんな風にしてるか見せたい」と言うや否や、黒かったスクリーンはグレーのパーカーをかぶり、ニヤりと微笑むマリーの姿で大写しになった。そうしてはじめてスクリーンに映し出された彼女の姿は、全く悪びれず堂々としたものであった。

From Rolling Stone US.



girl in red
『if i could make it quiet』
発売日:2021年4月30日(金)
配信:https://asteri.lnk.to/iicmigq

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